多くの面で、ミニ学校は多くの人が考える通常の学校ではなかった。先生は資格を持たず、教科書は権威のある学術的先行業績を引用せず、教室には黒板がなかった。授業は1日24時間、質疑応答の時間はいつでもあった。当然ながら、授業科目も通常のものではなかった。ミニ学校のいくつかの授業は、サパティスタの権威者が作成した読本や紹介のかたちで提示された。しかし、重要な授業の多くは、1週間のミニ学校の数日間、遠隔地の小さな共同体で、学生を受け入れるサパティスタのホスト家族や守護者(ボタン）と宿泊、食事、労働、生活、会話を分かち合うなかで学習したものだった。

サパティスタによれば、サパティスタが自治をめぐる闘争をどう組織してきたかを、サパティスタ領域の外部の人々に示すことが、ミニ学校の目的だった。ほかの人々と体験を分かち合い、各自の抵抗運動を組織するため、学んだことを利用してほしいという希望していた。しかし、学校はハウツーものでも、例示・教示でもなかった。「我々のしていることは以上です。質問は？」このように、観察がミニ学校での学習の鍵だった。
サパティスタの組織化の重要な原則は、教科書だけでなく、規律や厳しい労働、対面的な共同体関係、長期計画、集団労働計画による政府依存の軽減、敵対者との衝突回避、非友好的な近隣者を説得するための体験共有の強調などの経験から精選されている。サパティスタの自治政府の構造は、サパティスタの抵抗と民主主義の重要な側面を明らかにしている。

学校へ

8月11日早朝、十数台の乗合バンがチアパス州サンクリストバル市CIDECIに到着しだした。乗合バンは、「人々が命令し、政府はそれに従う」というサパティスタ領域から来ていた。バンにはサパティスタ共同体の男女各一人が運転手として乗っていた。10時間以上の遠隔地の共同体もあったが、ほかのバンも時間どおり到着した。
午後には、サパティスタ領域に向かうバンの乗客者も到着しだした。彼らは、サパティスタ自治統治に関するサパティスタのミニ学校の1週間イマージョン・コースに招待された生徒だった。世界各地から来た生徒は、年齢層も多様で、その到着時間はまちまちだった。
2012年12月のサパティスタの公的再登場以降、いくつもの声明が発表された。2013年初頭、サパティスタのミニ学校はEZLNによって告知された。サパティスタはミニ学校の情報を少しずつ発表した。生徒はサパティスタ家族が受け入れ、自前で食料や宿泊道具を持参する必要はなかった。生徒はEZLNの軍事組織を学びに来たわけではない。学校は、サパティスタの軍事的抵抗ではなく、自己統治、自治を学ぶためだった。サンクリストバル市到着後の参加費用は、サパティスタ提供の教科書とDVD２枚の代金100ペソで、8米ドルにも達しない。
参加する生徒に関する初期の4つの声明で、サパティスタらしい政治スタイルで、学校に参加できない人について説明している。それは、失踪した社会運動の指導者、政治囚、政党政治家、以前にサパティスタに組織化や抵抗の方法を教えに来たことがある人である。一方、参加できたのは、5大陸の約1,700人、年齢は生後11か月から90歳までにわたった。20〜30歳代が最も多く、個人や集団、学術機関、連帯組織の人々だった。
生徒はCIDECIで登録終了後、サパティスタの自治地域単位の5つのカラコルに割り当てられた。招待状のない人は出席できなかった。組織者は遅れてきた人の長い列を捌きながら、ライブ・ミュージックで多くの人々を楽しませた。Tシャツ、ポスター、ノート、映画など、典型的な革命グッズを売るグループもいた。その間、目出し帽のサパティスタは待機していた。

ラ・レアリダー

午前1時、ラ・レアリダーのカラコルIで、我々を歓迎してくれたのは、秩序よく並んだ目出し帽やバンダナで顔を隠し、整列したサパティスタだった。泥と霧雨に佇む疲れ切った生徒に対して、共同体メンバーはメキシコ国歌とサパティスタ賛歌を歌った。挨拶が終わると、一部の生徒は踊りに加わった。しかし、大多数は宿泊場所とされた空間のコンクリート床で眠りについた。

翌日から我々の授業は始まった。｢我々の声はEZLNの声である｣と、サパティスタの報告者は告知した。サパティスタの自治は、サパティスタの社会のすべてから学び取れることを明確にした。ミニ学校の期間中は、教師、ホスト家族、守護者(ボタン)の全員が、EZLNの代弁者であると宣言した。この水平性こそが、サパティスタの自治統治の基本的な部分であることが、最初の授業で強調された。

報告者は、多くの人が既に知っているサパティスタ自治政府の構造を紹介した。サパティスタが用いる「善き統治」と「悪しき政府」という用語は、その実態をよく示している。サパティスタの統治機構は典型的な政府と似た構造だが、その仕組みや運営実体はまったく違ったものである。サパティスタ自治政府が有する特徴の多くは、メキシコ政府の行動様式に関するサパティスタの説明の中で明らかにされてきた。
「我々は選挙キャンペーンをしない」と、報告者は説明した。「我々は指導者を選ぶに際、膨大なお金を浪費しない。投票前に代表者が決まっていない」全レベルの政府（共同体、行政地区、地域）の法律や計画、共同体代表、公的奉仕者(教師、保健衛生促進員など)は、政府提案の承認・否認を行う人々によって直接選ばれる。
公的サービスは、俸給が払われることはなく、自覚に基づいて実施される。誰でも「指導者」になれる。しかし、厳密な意味で、指導者は存在せず、共同体メンバーが様々な役割を果たす。それは、政府や組織は、人々の意識に反して活動できないことを明白に示している。

最初の授業では、サパティスタ運動にとって歴史が重要なことも明確にされた。彼らはサパティスタ運動を抑圧と抵抗の歴史に編みこまれたものと理解している。歴史の上に歴史が積み上げられ、忘れ去られることはない。すべての歴史は継続的に関連している。彼らの歴史認識における重要な出来事はよく知られている。
スペイン人到着前、先住民族は緊密に編成された共同体、相互関係を形作る伝統、働く大地を保有していた。
スペイン人の征服は、社会の構成を破壊し、人々は個人として搾取システムのなかで働くことになった。
1810年、ミゲル・イダルゴが農民を率い、スペイン王室からの独立を目指した。しかし、メキシコは金持ちに支配されたままだった。先住民はこの独立を不同意の最初の例とみなしている。
1910年、エミリアーノ・サパタは、「土地と自由」を求める革命で闘い、エヒード体制を樹立した。
20世紀、大土地所有者はエヒード体制の前進を食いつぶし、腐敗した政府と結託して先住民共同体を抑圧した。
1983年、EZLNがチアパス州で結成され、訓練と組織化が始まった。
1994年、EZLNの武装蜂起によって、対話と自治のための空間が誕生した。
2003年、サパティスタの自治と統治が組織化するため、善き統治評議会が形成された。
歴史的文脈で自治を語るとき、19年間でサパティスタが達成したことは、過去500年で達成したものより重要と、サパティスタは考えている。授業担当者にとっても、私が話したほかのサパティスタにとっても、その歴史は現在そのものである。彼らの考えでは、歴史はサパティスタの組織する実践に、力、意味、文脈を与えるものである。ホスト家族や守護者は、私の国の市民の抵抗運動の歴史と現状について、臆することなく尋ねた。
一人の生徒が高等教育提供の計画の有無をパネルで質問した。その答えからは、サパティスタ運動には一定の目標と組織としての優先課題があることが明らかとなった。質問に答えた代表によれば、子供には、読み書きを覚え、サパティスタ政府や集団労働で必要な経理ができ、彼らの闘争に関する真実の歴史を理解し、サパティスタを取り囲む自然世界や自然との伝統的な関係性を理解してほしいという。だから、サパティスタには大学設立計画はない。しかし、「それは問題ではなく、問題は教育システムである」と言った。

もう一つの授業は、共同体における独自メディアの重要性に関するものだった。サパティスタは、5つの自治地域ごとに二つの共同体ラジオを所有していた。授業担当者は共同体ラジオを通じ「サパティスタの声、言葉、活動」を全員に偏りなく伝えられると説明した。授業担当者は、政府がサパティスタを欺いたり、準軍事組織を派遣したりする際、サパティスタのカメラやラジオは、何が起きているかを記録し、何が起きるかを告知できると説明した。彼らの説明では、政府は独自のメディアを保有しているのだから、サパティスタ側も自分のメディアを持たなければならないという。実際、その後、ミニ学校の期間中、私の守護者は、前夜、いくつかの共同体で、メキシコ空軍機が低空飛行したことを教えてくれた。彼はそのことを共同体ラジオで知ったという。
最初の授業で明らかとなった別の鍵となる教訓は、次のことである。自由は希求するものではなく、自らのものとして担うものである。サパティスタの自己統治の形式は、本ではなく自らの社会の必要性や構造の分析に基づいている。市民的抵抗という営為には、自分のすることに自覚的で情報を十分もつことが不可欠である。

授業は2度中断された。最初の中断は、サパティスタ組織における規律の重要性が強調されたときである。それは、世界各地から来た活動家集団の代表が自らの規律の不足を露呈した時だった。サパティスタの権威者は、多くの生徒が席を立ち歩き回り、近くの店でコーヒーやクッキーを買っていることを見抜いていた。彼はマイクを手に、「君たちは注意を散漫にしてはだめだ。午後１時にポソール提供があるのを覚えておいてほしい。君たちには発表をよく理解してほしい」と発言した。ユーモアのかけらもなく、発言者はサパティスタの治安要員を動員し、居眠りをする生徒が一人もいないようにした。もう一度あった２回目の中断は、言うまでもなく、チアパスの多くの農民にとって昼のエネルギー源となるトウモロコシを炒った粉でできたポソールが配られた時だった。
サパティスタの規律に関する２番目の教訓は、その午後の遅い時間に与えられた。ミニ学校での多くの授業と同じように、観察をすることで初めて分かるものだった。生徒の名前が呼ばれ、守護者とペアを組むよう告知されている間、全員が起立して待つよう指示されていた。サパティスタが名前を読み上げても、かなりの数の生徒がそこにいないことが明らかとなった。出席していた生徒の多くも隊列を乱し、お喋りをしていた。サパティスタの名前が読み上げられると、サパティスタは即座にその場に現れた。一方、生徒の名前が読み上げられても、返答は数分後のことが多かった。サパティスタの守護者に視線を移すと、秩序のとれた静かな隊列は、それだけで暗黙の教訓としては十分だった。我々が規律正しく行動できたら、より早く動き、より多くのことを学べただろう。我々が時間を無駄に使ったため、滞在予定の共同体に移動する前に余分の夜を過ごすことになった。

カラコル本部で一晩過した利点といえば、直接関係しないが、サパティスタの音楽的伝統を堪能できたことである。結局、歌や踊りなしでは、誰も30年間以上、戦い続けられないだろう。ギターを奏でるサパティスタが、サパティスタの抵抗の歴史を語るコリードを歌ってくれた。特にその歌詞は、サパティスタ運動のメンバーが抱く苦悩の深さを強く心に訴えるかたちで明らかにしている。歌詞の一端は次のようなものである。
「彼は忌むべき政府に殺された。正義を要求しただけなのに」
「暗殺者は農民の格好をした兵士たちだった。彼が寝ている間に、妻と子供も殺した」
だが、受難だけとはかぎらない。
「今、ここに、その時がやってきた。傍観者ではいられない。人々の闘いには終わりはない。人々が勝利するのを目の当たりにするまでは」

３時間の泥道を辿って到着したロサリオ・リオ・ブランコのサパティスタ共同体で温かな歓迎を受けた後、翌日から学校のイマージョン体験の期間が始まった。その後３日間、私の守護者ホルヘ、ホスト家族のロドルフォと私は、ロドルフォの妻ロサが用意した朝食を食べるため、午前４時半に起床した。我々３人は、９時にポソールを飲み、昼まで畑で作業をした。その後、休憩し、川で水浴びし、昼飯を食べた。午後は学習に充てられた。教科書を読み、サパティスタの自己統治について話し、町の数少ない「公的」建物を訪問した。これが、ロサリオ・リオ・ブランコ共同体のミニ学校運営方法である。ほかの町の生徒は少し異なる体験をしている。読書、作業、食事、町の散歩のいずれも、サパティスタ組織に関する様々な教訓を与えてくれるものだった。

教科書

2月の声明で、ミニ学校の教科書は、「全地域のサパティスタ支持基盤組織が組織化における作業評価を行うために実施された会合の賜物」とされていた。
「5つのカラコルの抵抗の共同体から来たツォツィル、チョル、ツェルタル、トホラバル、マム、ソケ、メスティソの同志の皆さんが、お互いに質疑応答し、（地域ごとに異なる）体験を交換し、批判や自己批判をし、これまでしたことやこれからもすべきことについて評価するために集まった。一連の集会は副司令官モイセスによって調整され、記録され、転記され、覚書として編集されたものである」

教科書に繰り返し登場する教訓の一つは、組織の働きすぎのメンバーの重要性である。2003年の善き統治評議会（JBG）設立されて以降、ほとんどすべての評議会は、代表者の数を増加させ、各評議委員が統治の仕事に携わる時間は減少するようになった。JBG本部のカラコルの広報員が言うように、「家族がいるから、その仕事を全うできる」のである。どのサパティスタも、自分の畑を持ち、家計を維持している。代表が実践する統治業務以外にも、畑仕事を行わなければならない。
教科書で体験を語っているラ・ガルーチャ出身のアルテミオは、「以前、統治業務のローテーションは２、３か月も続いていた」と述べている。JBG評議委員はほかにも統治の役職を兼ねていた。「現在、JBGには24名が選ばれ、8名単位で3班に分かれ、10日単位のローテーションを組んでいた。このやり方は、手続きを継続的にするために取られた合意だった。我々は自分の順番がくるまで、統治業務を忘れずにいることができる」。それ以前には、家庭で不可欠な仕事のため、代表者の多くは統治業務のローテーションを果たせなかった。

こうした変化にもかかわらず、サパティスタの中には業務で疲れきっている人もいる。教科書で、オベンティックのカラコルの代表ロサリンダは、保健衛生促進員や教育職の７割は任務を止め、サパティスタ運動と縁を切った者もいたと、述べている。私の守護者やホスト家族とこの点について話し合い、サパティスタについていくつかの興味深いことを知った。
「人々が役目や組織から抜け出ないようにするため、どうしているのか」と、私は彼らに質問した。 彼らは奇異な感じで私を見つめていたが、私の守護者が次のように答えた。「何もしていない。この闘争では、誰もが自由である。もし、我々が彼らに留まるように言うなら、強制されたと感じるだろう。それでは、我々は悪しき政府と同じになってしまう。誰かが組織を去るとしたら、それは考え方を変えたからにほかならない。我々は活動を継続するだけである。離脱した人が活動の一端を担いたくなったら、復帰ができる」
成長が過度に強調される米国から来た私にとって、この発言は衝撃だったと告白せざるを得ない。サパティスタは、組織の力はメンバーの数量だけなく、メンバーの質や献身度に左右されることを学んできた。組織化や抵抗の作業は厳しいもので、参加したくない人がいるのは当たり前と、私のホストは言っていた。サパティスタ自治統治の7原則のひとつに、「説得することであり、打ち負かすことではない」という原則がある。

しかし、サパティスタが近隣の人々に闘争への参加を呼びかける努力をまったくしないということではない。模範例を示して導くだけでなく、「体験の共有を強調する」という多くの成功した社会運動が用いた戦略を採用している。サパティスタは非友好的な共同体のメンバーにも、個人的、あるいは多くの非サパティスタも聴いている共同体ラジオを通じて、お互いに共有する先住民としてのアイデンティティや継続する歴史的な抑圧について、つねに語りかけている。政府が共同体相互の対立の種を撒き、挑発することに耐えながら、サパティスタは仲間と考えている人々と衝突しないように努めてきた。

教科書では、外部支援を内部の自立に転換する重要性も指摘されている。言い換えれば、連帯グループからの寄付は、独自の収益を生み出す可能性のある集団労働計画を何らかの形で確立するために使われている。集団的労働計画はサパティスタ自治の背骨となっている。
一冊の教科書には、ラ・ガルーチャのアレックスの証言が記載されている。各共同体のメンバーが輪番制で集団的に管理運営する家畜の購入に、彼の地域は資金をどのように投入したかについて描写している。
アレックスの説明によると、「この計画の目標は、評議会への寄付金が旧態依然の事業に間違って使われないようにすることだった。いつの日か、固有の生計維持手段を手にできるよう、地域的集団事業を構築するアイデアが採択された。こうして、我々は、NGOによるJBGへのプロジェクト提出を待たなくてもよくなくなった」

サパティスタ組織のジェンダーの対等性について述べておかねばならない。教科書4冊の一つは、自治統治の過程での女性参加を扱っている。女性参加を奨励するため、各共同体のサパティスタや自治政府の代表者は、女性参加の重要性を議論する集会を主催している。サパティスタは対等な教育を提供するための長期戦略を持っている。成人女性には就学機会がなく、読み書き、財務会計に必要な算数ができない人も少なくないからである。
女性参加の障害は、自分の妻や娘が家庭外で仕事することを認めないサパティスタ男性から、能力がなく文字が読めないとか、料理や洗濯や伝統的に女性の役割とされてきた仕事を家族ができないのが心配と言って、自治政府の役職に就くことを拒む女性に至るまで、幅広い。結婚する際、自治政府の役職を離れる女性もいる。
しかし、世代を超え深く浸透する伝統的文化（多くをサパティスタは維持しようとした）を考えれば、この30年間、サパティスタがジェンダーの対等性に関して達成した進歩は、不完全だが印象的である。私の守護者は料理や掃除を自分で行ない、妻に参加、学習、旅行を奨励するサパティスタ同志の模範例だった (妻には奨励はあまり必要ではなかった。彼女と話しあい、彼女はマチスタと結婚する気がなかったことが分かった)

マチェーテの研ぎ方

朝一番の作業で、私はマチェーテの研ぎ方を習った。残念ながら、マチェーテを振り回す前に、マチェーテを研ぐ方法を習得することになり、私は指を薄く切ってしまうところだった。私の守護者は、出血用の薬草の葉をちぎり、包帯を持ってきた。私たちは座って話をした。この時、ロドルフォとホルヘは、私のことについて初めて質問してきた。米国のラテンアメリカにおける影響力を調べるため、旅行し文章を書いていると、私は、説明した。二人は、米国を本拠とする多国籍企業、新自由主義、遺伝子組換え作物について、意見を述べた
サパティスタは、世界で展開している社会運動をグローバルな資本主義体制の一部として、相互に関連するものと捉えている。同時に、サパティスタはそれぞれの共同体や運動は相互に独立していると理解している。米国市民に何か特別に言いたいことがあるかと質問すると、二人とも「特にない」と言った。すぐさま、誰もが自前の運動を構築すべきであると説明した。同時に、サパティスタの闘争は世界全体のためでもあると言った。サパティスタの言説によれば、彼らは「多くの世界が許容できる世界」を創るために闘っている。
翌日、トウモロコシ畑で休憩しポソーレを飲んでいた時、ロドルフォは、「ポソーレを飲もう」を、彼の母語トホラバル語でどういうか教えてくれた。「ワー・クティ・ピチ」と私は繰り返した。ロドルフォは私を見つめ、「どうして、我々はポソーレを一緒に飲むか知っているか」と聞いてきた。回答をいくつか用意しようとしたが、彼が期待する答えがどのようなものか、まったく分からなかった。
ロドルフォの答えは次のようなものだった。「我々は一緒にポソーレを飲む。なぜなら、サパティスタの闘争においては、何事であれ、我々はすべてを集団作業として実践する。組織のメンバーの誰かが、多かったり少なかったりということはない。集団で一人だけポソーレを飲むことは個人主義とみなされる」ロドルフォが行ったこの突然の意見表明によって、サパティスタの掲げる対等性に関する私の理解は別のレベルのものになった。もちろん、多くの人が、対等性や分担、共同体の協働について語っている。しかし、多くの人にとっては不必要な分担と思われるものが、ロドルフォやホルヘにとっては自然であり事実であるということである。サパティスタが価値あることを実践していると述べるとき、彼らはそのことを言おうとしているのである。

サパティスタの活動の観察で得られたもっとも強烈な教訓は、サパティスタが熱心に活動していることである。彼らはとても熱心に活動している。それこそ、サパティスタの運動、抵抗、独立の構築や継続が可能な理由である。男女とも、太陽が昇るかなり前から、家族を養うために必要な仕事に着手し、その仕事を終える。彼らは、共同体の医薬品の確保や共同体代表の移動経費の捻出のため、集団的労働計画に参加している。あるいは、保健衛生推進員、教師、評議会委員として活動するメンバーの家族の畑で労働し、食事の用意をしている。
ミニ学校を通じ、熱心に活動すること、その理由をよく理解すべきことを、市民抵抗運動のメンバーは学んだ。サパティスタの場合、独自の医療・教育・司法システムを維持しなければ、サービスをメキシコ政府に依存することになる。200年間、メキシコ政府はこの種のサービス提供を怠り、人々を支配・操作するために使った。平均的なサパティスタはそれを理解し、その問題について話した。だから、彼らは一生懸命に活動するのである。

地区の散歩

ある日の午後、私の守護者とホスト家族の父親は、町にあるサパティスタ施設の見学に連れて行ってくれた。ロサリオ・リオ・ブランコには、地元と地域の売店、学校と健康診療所があった。健康診療所では、保健衛生推進員が、サパティスタ組織には、長期間計画、技能の分担共有、忍耐が重要という事例を紹介していた。
サパティスタは、保健衛生推進員として訓練される共同体メンバーを少しずつ指名していった。当初、医療経験のある外部ボランティアがサパティスタの訓練に携わっていた。しかし、彼らが体験を積むことによって、新しい保健衛生推進員がほかのメンバーを訓練できるようになった。やがて、彼らも各共同体で一般的な保健衛生業務ができる人材を十分に養成できるようになった。
サパティスタ政府は総会を開催し、住民の健康改善に必要な47の重要な要素を定めた。数年間の訓練を受け、十分な能力を有する実践活動家が確保できているので、同時期に全サパティスタ共同体に47要素を適用しようとした。全要素を一度に実施するより、2013年度には選択した10の基本的要素を適用することにした。10の要素の中には、個人の衛生維持、食卓の利用、薪や食器の保存庫の確保などがある。
保健衛生推進員や教育推進員が体現するサパティスタの自治政府の発展における重要な原則は、自分が十分に準備されていないと感じている時でさえ、何かを始めなければならないということである。サパティスタ自治政府の代表者、教師、医師のほとんどは、自分にはほとんど経験がないにもかかわらず、自分たちの役割を担い始めた。しかし、協働、内省、定期的自己評価と批判という健全な文化を維持することによって、諸個人で構成される集団は、場所ごとの状況や要請に基づいて自分たちの技術を改善していくことができた。要するに、経験から学習することで、サパティスタは自分たちの必要性に応じたシステムを構築することができたのである。
改善を確実に定着させるための共同体集会開催や家庭訪問を通じ、保健衛生推進員は病気の劇的な減少を目の当たりにした。だが、組織的な発展には、長期間にわたる計画や広範囲に及ぶ訓練や技術分担が必要だった。

結論

守護者にさよならと言って、私は感謝の念を伝えた。彼の反応はサパティスタ組織に関する最後の教訓となった。私のためにトホラバル語をスペイン語に翻訳する難しさを知っていたので、その労苦に感謝の念を伝えた。彼は、私の仕事だからと答え、組織の全員がミニ学校運営の役割を果たしていると言った。これは多くの生徒が体験したことだった。サパティスタは、運動を集団的営為と考え、個人は各自の役割の責任を担うが、組織の成果に関して個人的所有権を有することはない。目的を達成するため、社会運動は責任や技術を分担しなければならない。従って、サパティスタは成果に関する信用も分担することになる。
サパティスタは、ミニ学校へ参加した人々が、各自の共同体や世界に戻り、新自由主義や抑圧、人々や大地の商品化に対して闘う社会運動を組織化するよう呼びかけている。しかし、ミニ学校はワークショップとして組織されたものでも、革命の青写真を提供するものでもない。私が話した生徒の多くは、ミニ学校をそのように捉えてはいない。実際、ミニ学校で教えられたことの多くを理解できたと、多くの生徒は語っている。
とりわけ、サパティスタのミニ学校が生徒に提示したのは、自治について語ることではなく、実践される空間でのイマージョン教育だった。生徒は、ネットやパンフレットで読んだ原則を行動の中で目撃することになった。生徒たちは、強力な体制に対して効果的な抵抗を構築するために必要となる厳しい仕事や規律を味わったのである。生徒たちは、サパティスタが実際に体験すれば僅かの人しか克服できない弾圧の歴史を語る眼差しにそれらを見出しながら、苦難に曝され迫害されてきた人々とじかに話し合った。
本当の訓練、ワークショップ、青写真は、サパティスタ領域の外側で築かれるべきである。生徒は教師になるべきである。生徒たちが、自治、自由、正義に到達する独自の戦略をデザインすべきである。その戦略は、自分たちの世界の障害物を克服するためである。当然、その戦略はチアパス高地とはまったく異なるものだが、同一の基本的価値観に至るものである。それゆえ、初回授業としてサパティスタのミニ学校が果たす役割は、それぞれが抑圧されている場所…出発点に生徒を戻すことである。