どのような文脈で、サパティスモは世界に警鐘を投げかけてきたのか？サパティスタ、雑誌『コントライストリアス』、「大地大学」の３者は、大地＝地球の未来や反システム運動の現状について議論する国際コロキアムの開催を呼びかけた。2007年12月中旬、「大地大学」のキャンパス[チアパス州サンクリストバル市]で、このコロキアムは開催された。
　会場はさほどシンボリックな場所ではない。自治を日々実践しながら生活している先住民共同体のための大学である。大学は政府からの援助を受けていない。電気も引かれていない。大学内で働いている人が自前で発電している。彼らは水を自主管理している。農場では、男女の学生が有機農産物の生産訓練を受けている。学内では、電気、鍛冶、機械、民芸品生産のコースがある。共同体からやってきた人物は、習得を希望する科目と学習時間を自分で選べる。教育機関として公認されていないこの大学では、今回の国際コロキアムで開会記念講演をした社会科学者イマヌエル・ウォーラステインの名前を冠した常設セミナーが開催されている。

変わりゆく世界の中で

　ウォーラステインはアメリカ合衆国の地政学的な凋落について触れ、反システム闘争の戦略について深遠な議論を展開した。彼によると、1968年の世界規模の闘争以前は、反システム闘争の戦略としては、世界を変革するための国家権力を掌握することが中心的なテーマだった。しかし、今日では、サパティスタが展開している別のキャンペーンのような形で、反システム闘争を展開する諸勢力の連携が模索されているという。資本というグローバル権力に対抗する多種多様な対案を国際的に表現する唯一の場である世界社会フォーラムを継続する必要性があると強調した。　　　　　　　　　　
　雑誌『コントライストリアス』編集長カルロス・アギレ・ロハスは、今回のようなコロキアムが開催されることを祝福した。ウォーラステインのような「別の世界創設運動」の理論家が、世界の最先端にある反システム運動のひとつサパティスモの代弁者マルコスと同じ場に参加しているからである。反システム運動には主導的なアクターは登場せず、運動の構造も階層的ではない。組織は、下の左側から立ち上げられ、資本主義に対するきわめて多様性のある抵抗が発生していると指摘した。
　コロキアムにおいて、フェミニストのシルビア・マルコスは、女性たちの反システム運動における貢献を評価すべきとした。資本主義体制のもとで被っている数々の束縛に屈服することもなく、女性たちはつぎつぎと新しい概念や実践活動を生み出しているとした。父権主義的な考え方には、女性に関する問題は全員ではなく、女性だけが対応すればよいという考え方があると、父権主義に内包されている諸矛盾について批判した。サパティスタというゲリラ組織が、女性の対等性を自分たちの旗印としていることを歓迎した。サパティスタは、別の運動とも連携する必要性を強調し、共通の闘争課題を構築できる別の問題設定にも取り込むべきであると強調した。

今、希望とは？

　グスタボ・エステバは、イヴァン・イリイッチの著作[脱学校化やジェンダーの概念を提唱]の推進・普及者である。彼は、オアハカ人民が展開しているような民衆運動の活動家にして、理論的指導者でもある[オアハカ州にある大地大学の創設者]。彼の主張では、世界規模の資本主義経済という時代はすでに終わっている。現時点で、アメリカ帝国主義は人の考え方や心を掴んでいるかもしれないが、文化的ヘゲモニーを失い、終焉を迎えているという。新自由主義は孵化したばかりであるという。一時代の終焉に当たって混乱が生じているので、新たな反動の大波や宗教的原理主義が生まれていることに留意しなければならないとした。彼の説明では、福祉国家という不可能な様式への回帰を主張する人や、社会主義に戻ることを望んでいる者が存在している。しかし、その哲学や実践の場において経済至上主義という発想があるかぎり、この種の社会主義はもはや存在できない。エステバは社会主義を拒絶するよう勧告するとともに、古い時代に誕生した新しい社会運動は、反システム運動に転化するに際し、多くの困難に直面してきたと指摘した。
　エステバは、オアハカ人民民衆会議[2006年夏以降、教員組織を中心にオアハカ州で展開された民衆運動]の運動を分析し、サパティスモは多くの反システム運動が着想をえる源泉のひとつであると主張した。何ごとも新たに考えなおし、抗議や告発を実現可能なイニシアティブに変え、さまざまな抵抗運動を組み合わせ、解放運動に転換していくことを提案した。資本の論理を超えた社会生活の組織化の自律的なあり方を構築し、社会全体に広がる不満をうまく導くべきであると提案した。これまで左翼を自認する諸組織の合流を提起することは不可能と思われてきたが、それは、必ずしも分裂状態を受け入れ、仲間を主要な敵とみなす偏狭な考えに陥ることにはならないとした。バーガーに触れながら、「ますます絶望的になった世界で耐えがたいものを名づける行為は、希望そのものである」と述べた。彼の言葉によれば、希望とは、人が考えるとおりに物ごとが起きるという確信ではなく、実際に起きることと独立したかたちで、闘いは意味をもっていると確信することである。

キューバからの声

　キューバ人ヒルベルト・バルデス(ハバナ市のマルティン・ルーサー・キング・ジュニア博士記念センター)は、キューバ人民が活発に参加し、培ってきたキューバの抵抗の文化について語った。いろんなタイプや規模の問題を解決するため、人々がキューバで展開している論争について分析した。2007年末、日常の問題や官僚化に対応するため、２百万以上の具体的な提案が寄せられているという。｢踊り、唄える｣革命であることによって、キューバ革命はキューバ革命たりえているという。ラテンアメリカは、解放と自由をめざす反帝国主義の論理を自らのものとし、重商主義が撒き散らす邪悪な論理と対決しようとしている。この新たな状況における重要な挑戦とは、豊かな生活の代替モデルを構築できるようにすることである。

コロキアムにおける私の発表

　発表で、私が分析したのは、新自由主義と資本主義への根底的な批判を構築している社会運動についてである。私は多様な形の権力について語ることにした。もっともよく知られている権力とは、自分が望んでいることを他者に強制できる集団、あるいは人物が握っている権力である。この種の権力は、非対称的なコンセンサス形成を受容させるという抜け目のない強制力や形態に裏づけられ、つねに抑圧的である。ある者が勝ち、別の者が敗れるというゼロ・サムの権力である。これとは別に、独占するのではなく、分担しながら、増殖していく権力がある。その具体な例としては、みんなで共同しながら決定していく権力がある。サパティスタの「人々の意志に基づいて命令する」は、資本主義が慣れ親しんだものとは別種の権力である。
　社会運動研究における基本的な原則は、人々が実践することについて理解することである。我々は善悪二分論に陥ってはいけない。なぜなら、資本主義による疎外を受けて生活しているため、多くの人は、少なからず、注入され、強調され、理解されてきた支配的なイデオロギーを社会的に表現するという過ちに陥りやすいからである。いずれにせよ、抑圧的な権力と代替的な諸権力の萌芽的形態は、区別しなければならない。
　集中し、遍在する支配権力に対抗するうえで、重要な手段のひとつとして挙げられるのは、台頭する社会運動の合流である。そのことは、社会運動の展開のなかで例証されていることを私は紹介した。私が明らかにしたのは、社会運動と政党の合流ではない。政治屋連中は復旧不能の損壊状態にある。私は、政党というあり方は、産業モデルのもはや無効となった構造に対応することを明らかにした。それゆえ、サパティスタが実践しているように、政治をおこなう新しい形態を模索することは至上命令となっている。
　変革を担っている特権的なひとつのアクターを指名できず、諸力が持ち寄る多様な武器にしか頼るものがなくなった状況において、社会運動の合流は起きる。合流は複数の主体の集合体を内包することになる。それらの主体は同時に発生し、確かめ合いながら、変革にむけた共通目標を確立しようとする。離散、細分化を乗り越えた新たな大衆であり、新しいタイプの有機的で革新的な形態をともなった自然発生的な表出である。鍛えられながら、いくつもの多様な複数のものが凝集していく。多くの社会運動は、正義、自由、平等、そして生命の尊重が君臨する別の社会の可能性を認めるためには、社会運動の合流を構築することが必要とされていることを示してきた。

新しい社会主義とは？

　ベルギー人司祭フランソワ・オタール(世界社会フォーラム理事協議会の創設メンバー、別の世界創設運動の代表的活動家)は、21世紀の社会主義のあるべき姿について深い議論を展開した。まず、社会主義について語り、論争を呼ぶテーマを論じた。一部の人々は、資本主義と社会主義といった理念は貨幣の裏表であり、社会主義という概念を捨てるべきと考えている。一方、スターリニズムと結びつく重荷で、社会主義という用語を拒否する人もいる。しかし、思慮のない行動は将来の見えない混乱に繋がりかねないと指摘した。社会過程はあらかじめ定められたものではなく、具体的なアクターによって紡ぎだされる結果であることを強調した。新自由主義の時代になり、破壊活動がかつて見られないほど深刻であるとして、自然、人間の労働、資本主義が有する破壊的特性を分析した。
　歴史の教訓、社会運動やそれに関連する運動の体験を踏まえ、ポスト資本主義、つまり新しい社会主義の基軸がどのようなものであるかについて、彼は素描した。具体的には、自然資源を持続可能なかたちで使用すること、交換価値より使用価値を優先すること、代表制と参加という政治的民主主義だけではなく、社会・経済関係のあらゆる分野で普遍的な民主主義を確立することなどがあげられた。これは、権力に関する別の哲学を意味し、多文化性に基づく社会の構築を意味する。

土地なし農民運動とビア・カンペシーナは語る

　ブラジル人弁護士で、土地なし農民運動(MST)メンバーリのリカルド・ヘブリムは、サパティスモが推進してきた別のキャンペーンによく似た民衆協議という仕組みが、ブラジルではどうして存在しているかについて概説した。サパティスモはこれまで多くの運動にとって教育的な事例となってきたことを、彼は強調した。ボリビアの事例に見られるように、いくつもの過程が、単なる選挙という出来事を越え、何年も前から展開されてきた抵抗の闘争の中から発生した蜂起的な活動に繋がっていることを提起した。MSTは、かつてルーラ政権を支持していた。しかし、現在のブラジルにおける民主主義は、資本主義の支配メカニズムの集合体でしかないので、現在は代替的な構築を模索している最中であるとした。MST は幅広い統一を構築し、戦略的な思考を形成していく段階であるとした。
　食糧問題の専門家ピーター・ロセット(ビア・カンペシーナという国際組織のメンバー)は、資本による再領有化の過程は、先住民、農民、漁民のジェノサイドをもくろむ戦争にほかならないことを強調した。多国籍企業による農村の破壊、農村の民営化や農村の統制支配、そしてインディオ人民から土地、水、あらゆるタイプの資源を強奪することを正当化するため、多国籍企業が偽りの環境保護主義を活用している意図について語った。システム的な農民運動と反システム的な農民運動のあいだで形成されている連携について、現状報告をした。討論や体験の交流を通じて、システム運動を反システム的なものに転化させることができるとした。サパティスタの示した見本は、はるか彼方の地まで届き、タイでもサパティスタのカラコルのようなものが創られていると述べた。

古いもの、それとも新しいもの？

　雑誌『レベルディア』編集長セルヒオ・ロドリゲス・ラスカノは、資本主義が体験してきた主要な変化を再検討した。戦争がどのようにして多国籍企業が深く関与してきた生産ファクターとなってきたかについて紹介した。サパティスタの善き統治評議会は、増殖することで、継続できると主張した。また、古いか、新しいかではなく、現実を理解し、変革するのに役立つか、否かという視点から、諸概念について評価すべきであるとした。
　『解放の哲学。批判的世界史』という著作を出版したばかりのメキシコ在住のアルゼンチン人哲学者エンリケ・ドゥッセルは、政治は最初の哲学であったと指摘した。さまざまな思考がどこで誕生し、どこから思考として自己表明したかは、政治によって理解することができるとした。彼の説明では、サパティスタの｢人々の意思に従って命令する｣は、ウェーバーの定義する権力の対極にある。権力は自らを語るとき、権力のフェティシズムに陥ることを思い起こさせた。

転覆させる言葉、語る眼差し

　建築家でエネルギー問題の専門家ジャン・ロベールは、危機の時代における反システム活動について話した。資本主義は、危機的状況にあるものの、まだ崩壊していないことを指摘した。資本主義は惰性で生き延び、不法な存在となり、暴力を用いて権力の座についている。そして、システムが再生するメカニズムに、抵抗が飲み込まれるのをどのようにして避ければよいかという基本的な問を投げかけた。支配のシステムが抵抗を学習しないかどうかを検証し、システムの学習能力がシステムを強化しないようにする方法を調べようと、呼びかけた。それとは別に、彼が論じたのは言語の問題であった。西欧の言語体系では、我々は｢資本主義｣について語るように仕向けられ、資本主義が唯一の展望であるかのように思ってしまう。日常的言語の次元で、システムを強化する特定の世界観や思考様式が肥大化していく。しかし、非西欧の言語体系には、それを転覆させる言葉がありうるという。我々の頭の中を脱資本主義化することを彼は呼びかけた。
　英国人作家ジョン・バーガーは、我々が認知できるものは、我々がつける名前より重要であるとし、 言葉の彼方にあるものを理解することを勧めた。彼はオベンティックにある善き統治評議会を訪問したことについて語り、注目すべきこととして、次の４つをあげた。
�@　権威主義的特性をもたない権威者が存在している。
�A　目出し帽はサパティスタから人間性を奪うのではなく、彼らを可視的にしている。目による表現は、表現手段のなかでも統制されることがより少ないく、彼らの目は真剣さに満ちているからである。
�B　抵抗することは消耗をもたらすが、消耗を慰労すべきである。
�C　世界におけるサパティスタのローカルな歴史と位置づけを語るにあたって、サパティスタは、右翼、左翼を問わずあらゆる政治家連中に対立するものである。そのことは、彼らの身体、考え、魂に染み付いている。

人々の目を閉じさせる体系的な嘘と恐怖

　パブロ・ゴンサレス・カサノバ[元UNAM総長の政治学者]は、サパティスタによって、これまで世界の著名な大学でも体験できなかった特別の体験ができたことを告白した。これまでの大学では、上首尾だったとか、試験に不合格ということだけが気にかかったという。
　さらに、首尾一貫した嘘、科学的とされる嘘についても語った。その種の嘘は、権威という原則を振りかざし、ものごとを正当化するため、世界銀行が使っているものである。それを欺瞞とか、自己欺瞞と命名できるかはわからない。給料は一貫して継続されてきたシステム的な嘘であると指摘した。労働に対して「自由」に支払うとか、自由市場で商品が有している価値を支払うと弁明しながら、搾取を隠蔽しているからである。
　彼は｢禁じられた｣知識を高く評価した。それは、下の世界の人々が前進するうえできわめて重要であるという。禁止とは、まさに人々が異なったように考えないようにするためのものである。曖昧さに繋がっている心理的暴力や脅迫行為について触れ、恐怖は知ることを妨げ、認識論の問題であると述べた。
　言うことと、することについても、彼は言及した。社会主義者と宣言しながら、新自由主義政策を支持している人がいる。帝国主義はもう存在してないと言いながら、帝国主義の有効性を実証する現実のデータを挙げる人もいる。帝国主義を「殺した」という人が、帝国主義を永続的なものにしてきた。実際に終焉を迎えたのは、官僚が独占した社会主義であった。

ナオミ・クライン：大災害をもたらす資本主義

　別の世界構築運動の戦闘的な活動家でジャーナリストのナオミ・クラインは、彼女の近著『ショックのドクトリン。破壊の資本主義の台頭』で扱っている問題について説明した。世界規模の反システム運動がチアパスで誕生したものであることを彼女は再確認した。そして、現在、破壊の資本主義が台頭している段階にあるとした。さらに、北における巨大企業体の支配に反対する運動についても語り、「9月11日」以降、北における抵抗運動のいくつかは分断され、運動そのものが弱体化していることを認めた。
　破壊の資本主義のメカニズムは、新自由主義の方策を強制するため、ショック状態、例外的な状況に付け込んでいるという。公共政策が放棄され、破壊された状態に付け込み、民営化が推進される。国家は弱体化され、巨大企業はますます強大になる。こうした状況に立ち向かう強大な力になるのは、ショックへの抵抗である。自らの歴史記憶を拠り所に抵抗する人々がいる。2001年にアルゼンチン[12月の経済危機に対する抗議運動の展開でデ・ラ・ルーア政権崩壊]、2004年にマドリー[地下鉄爆発事故への政府対応に対する抗議運動の高揚で人民党政権敗北]で起きたことは、こうしたショックに対する抵抗の事例である。今日、生命そのものが危険にさらされおり、資本主義の語りに対して、反資本主義の語りをもって闘うよう訴えた。

力強い質問とひ弱な答えの時代

　南の視点で世界を見てきたポルトガル人研究者ボアベントゥラ・デ・ソーサ・サントスは、コロキアムに招待されていたが、出席できなかった。彼の近年の著作をみれば、彼が何を提起していたかを推測できる。
資本主義のもっとも反社会的形態であるグローバル化こそが新自由主義であると、彼は主張してきた。中国共産主義が、資本主義のもっとも野蛮な形態、つまり市場のスターリン主義に変貌したことを批判してきた。革命、社会主義、共産主義、さらには改良主義までもが、不幸な事件の収集家しか立ち寄らない歴史の戸棚の最上部にある引き出しに隠されたよう思われると言っていた。
　世界の大多数の人々に対する排除、抑圧、生計維持や生活持続の手段の破壊について、彼は告発していた。こうした状態に対して、抵抗の活動が発生し、情報や通信技術の進展によって、地球の離れている場所における連携や、ローカル／グローバルなネットワークを通じた闘争が可能になった。こうして、新自由主義のグローバル化に対抗する別のグローバル化が、下から構築されてきたのである。新しい運動を理解するためには、新しい社会理論や新しい分析概念が必要であると強調した。
西欧的な近代というパラダイムのヘゲモニーが、最後の危機を迎えている場に、我々の時代は立ち会っているという。この移行の時代の特性は、力強い質問と、か弱い回答の時代であることであると、彼は強調している。力強い質問とは、選択できる複数の可能性という地平を切り開いてきた根源や基盤を指している。それは、困惑を呼び起こす質問である。か弱い回答とは、その困惑を解消できない回答のことである。
　力強い質問とひ弱な回答とのあいだに大きな落差がある。困惑は不条理であり、一掃すべきものと考えるのでなく、困惑を表面に現われない複雑さの兆候に変換するべきである。困惑は諸矛盾が露呈する新たな空間となり、さまざまな可能性の競争が生まれる。その空間には、刷新が起きる場が作り出される。か弱く−か弱い回答は、人々を動かせないが、か弱く−強い回答は、危険を承知で動き出すようにという呼びかけにほかならない。
　世界を理解することは西欧的な枠組みを超えていると、ボアベントゥラは確信する。実践にあたり、その時々の必要性に応じ、理論的な寄せ合わせる作業が要請される。急進的な民主主義は、不平等な権力関係を社会生活の全分野において共同分担する権威の関係に変えるものと位置づけられる。平等と差異の認知を求める戦いである。迎合主義に陥らず、叛乱に特権を与えることである。活動家を役人に変えないようにする営為である。
　差異は、統一にあたっての障害物であることを越えて、統一の条件となる。分断化やアトム化は、差異や多様性を覆い隠す仮面である。抵抗は抽象的な場でおこなわれるものでない以上、理論をめぐる論争は具体的な集合的行動という文脈において提示されるべきである。変革を指向する集合的行動は、抑圧者たちによってもたらされた紛争が作動することによって始まる。そうした行動の成功の鍵は、闘争の展開の中で、紛争の領域や条件を変える能力があるか否かである。

マルコスは語る：理論について

　コロキアムの発表は、辛辣だが明晰な一連の発表とセットでおこなわれた。副司令官マルコスの７回の発表である。全体の発表は『中心でも、周辺でもなく』という題だった。
　「理論の地理と暦」という題の初回の発表で、彼は実践とまったく別物とされた理論の基礎について説明しようとした。この革命で踊ることができないなら、革命への参加を呼びかけないでほしいと、若い女性が言ったことをマルコスは紹介した。続いて、ある概念が、投げられた石のように理論の水面に触れ、さまざまな科学的、理論的な責務に作用し、理論を修正する一連の波動を作り出すのかについて説明した。新しい概念が石のように水面に落ち、一連の新しい波動によって、理論が変革されるまで、理論構築の責務は継続する。それは、現実という領域の岸辺に到達する理論生産の濃度に左右される。
　マルコスは、社会科学に押しつけられている潔癖症を批判した。現実が、理論の示すようにならないなら、現実のほうがよくないという命題を引き出している。現実を覆い隠し、責任逃れを保証するため、理論は利用される。不正選挙に基づいて、自らメキシコ大統領と称する人物が、自分や前任者たちの責任を隠すため、2007年末にタバスコとチアパスを襲った大惨事は月のせい[大潮で潮位があがったことをさす]であると言ったことについて、マルコスは言及した。さらに、中途半端に進歩的な知識人の理念をマルコスは辛辣かつユーモラスに批判した。彼らの理念では、権力者が享受する特権と戦ったり、衝突したりしなくても、社会関係は変革できるという。
　反システム闘争に関して、マルコスは以下の命題を提起した。
�@　戦争の概念ぬきでは、資本主義体制を理解し説明することはできない。
�A　利潤拡大のため、資本主義が用いる方法は、生産性増加、新商品の生産、新市場の拡大である。
�B 資本主義は、以前は関心がなかった領域や社会空間、たとえば先祖伝来の知識や自然資源を征服することや、再度征服することで利潤の拡大をおこなう。
�C 資本主義は自壊するという命題を拒否する。
�D 資本主義体制の破壊は、一つ、あるいは複数の運動が、資本の核心、つまり生産手段の私的所有制度と対決し、打倒することで実現する。
�E ある社会の実質的な変革とは、システム全体の変革である。
�F 巨大な変革は、上からではなく、下の左側で、知り合い、互いに認知し、別の政治のあり方を構築する集団やコレクティボの組織された意識をもった小さな運動によって始まる。

マルコスは語る：差異について

　２回目の発表は「差異の暦と地理」だった。中心部で生まれた理論は周辺部に輸出される。周辺とは、差異の地理学の障害に困っている場所である。共同体がすでに実践していることを調べ、理解することもないまま、共同体に押しつけられている都会型のフェミニスモの例をマルコスはあげている。その対極にあるものとして、平等と差異性を求めるきわめて苛酷で複雑な継続的な反システム闘争において、サパティスタや別のキャンペーンの女性たちが実践していることを紹介した。彼女たちの闘争は、父権主義的なシステムの総体を揺るがし、その差異が有する力や権力をまったく理解していない連中を震撼させることになるだろう。

マルコスは語る：破壊について

　「破壊の暦と地理」と題する３回目の発表で、マルコスは悪夢に付きまとうものについて論じた。合意するためには、搾取、略奪、抑圧、軽蔑するものに懸念を抱く必要はないと主張している人々を彼は批判した。実践と理論に関する問題について、傲慢はしばしばよくない助言者となることがあると、マルコスは指摘した。さらに、森林破壊、環境汚染、生態学的不均衡といった自然破壊、そして、災害につきものの資本の血塗られた手を隠蔽するため、不適切にも「自然」災害と呼ばれていることについて語った。
　タバスコとチアパスで数百万人もが被害を被った大災害[2007年10月末、ハリケーンによる洪水でタバスコ州域の半分近くが水没]を分析した。この悲劇は旧河道を埋設した開発モデルとは無関係であり、ほぼ天罰のようなものである。大統領を自称する人物がこのように言ったことをマルコスは思い出させた。大洪水は、電力生産という特定目的で建造されたピニャータス・ダムの放水という犯罪行為で起きたのである。政治家連中の行動とは逆に、住民、とりわけ貧しい人々が貧しい人々に対する連帯についてマルコスは強調した。この点について、巨大な通信メディアでほとんど報道されていないが、サパティスタが連絡不能の状態にある共同体に援助物資をどのように運んだかについて説明した。
　マルコスは、苦悩と尊厳が編みこまれているキューバの長い歴史について語った。彼は 民族独自の行末、つまり社会主義を構築するという途方もない挑戦などについて語った。その叛乱精神のため、キューバは、米国の権力による経済封鎖と大規模な反対キャンペーンにさらされ、多大な犠牲を払わなければならなかった。サパティスタ共同体は、実効的な援助を超えて、キューバに対する認知、尊敬、崇拝の証しとして、キューバにトウモロコシを送った[2006年４月にベラクルス経由で8トンのトウモロコシと200リットルのガソリンを輸送]。

マルコスは語る：大地について

　「大地の暦と地理」という第4回の発表で、サパティスタ蜂起以前のチアパスで農園主たちのあくどい行為について説明した。そうした農園主の一人、ロペス・オブラドールの同盟者のコンスタンティーノ・カンテル[前コミタン市長、2008年12月にチアパス州政府農業局流通部長に就任]が、｢チアパスでは、鶏でも先住民以上の価値がある｣という言い草を広めてきたことを明らかにした。マルコスは、1994年、サパティスタが連邦軍や当時の中央政府と戦闘を展開したことを思い起こさせた。当時の政権には、現在、ロペス・オブラドールの支持者である人々が少なからず存在していた。サパティスモは、迫害者、死刑執行人、暗殺者に対する告発をやめることはない。サパティスタが右翼へ反対しているひとつの選択肢を支持することは死んだサパティスタへの裏切りであると、彼は断言した。
　マルコスは女性革命法や革命的農地法についても言及した。それによって、農園主たちは領有していた大土地所有地から追放され、土地は先住民に分配された。土地がサパティスタの管理下に入ると、サパティスタ領域では、統治、保健衛生、教育、住宅整備、食料、流通、文化、通信、女性の参加などの分野で、評価できる変化がつぎつぎと起きていった。こうして、サパティスタは自らの針路を決定する能力を取り戻したのである。それはなによりも、自らの責任で過ちを犯す権利を意味するものでもある。

マルコスは語る：恐怖について

　５回目の発表「恐怖の暦と地理」で、マルコスは自由に言及した。集団で自由を構築していかなければならない。違っているが対等な存在である他者に対する恐怖に基づいて、自由を構築することはできない。運動に参加する人の数、そのメディアでのインパクトや行動のもつ衝撃力、プログラムの明確さや急進性など以上に重要なのは倫理である。上の世界における無・倫理性を指摘し、恐怖が倫理となっていたと指摘した。資本主義システムは恐怖の帝国と定義できる。
　多くの恐怖がある。ジェンダーの恐怖とは、女性の男性に対する恐怖、その逆の恐怖だけでない。女性の女性に対する恐怖、男性の男性に対する恐怖も意味している。世代、他者、人種に対する恐怖などがある。サパティスタのあいだでは、領域の序列関係がないことを再確認している。土地をめぐる闘争がジェンダーの闘争に優先するとか、ジェンダーの闘争は差異の認知や尊敬をめぐる闘争より重要だと、サパティスタは主張することはしない。サパティスタが意図しているのは、資本主義システムの破壊を意味する急進的な変革という明確な目標を掲げた幅の広い運動を展開することである。サパティスタが望むのは、サパティスタの権利が認められることである。サパティスタはありのままで存在したいのである。サパティスタは地位や役職、褒賞や名誉には関心がない。先住民、女性、労働者、同性愛者、レスビアン、若者、老人、こどもであるという恐怖、そうした恐怖が、その日のアジェンダとなることなく、毎朝、目覚めることを望んでいる。しかし、それは資本主義システムのもとでは不可能である。

マルコスは語る：記憶について

　6回目の発表で、マルコスは「記憶の暦と地理」について語った。サパティスタ蜂起は忘却に反対するためのものだったと強調した。サパティスタの視線とサパティスタに向けられる視線をはっきりと区別した。マルコスの話では、このコロキアムが顕彰しているアンドレ・オーブリがサパティスタに注いだ視線は敬意に満ちたものであった。サパティスタを見つめる人は、サパティスタ運動がどのようなもので、何を意味し、表現しているかという全体を把握できていないと指摘した。社会科学者、アナリストや芸術家の視線は、ほかの男女がサパティスタを見つめるひとつの窓のようなものである。この窓からはサパティスモの巨大な家のごく一部しか見えないことを自覚すべきであるとした。これまで見られなかったものとして、サパティスタ共同体の日々の英雄的な抵抗があった。

マルコスは語る：戦争の臭いがする。警戒せよ

　7回目の発表では、マルコスは「戦争の暦と地理」に関する考察をテーマとした。議論を始めるにあって、利潤を得るためのひとつの形態としての資本主義がもっている好戦的特性を指摘した。そのことを精査し、明確に理解するためには、ナオミ・クラインの最近の著作を読むことが適切であると勧めた。そして、コロキアム、円卓会議、講演会、記者会見といったたぐいの活動に出かけるのは、少なくとも当分の期間は、今回が最後になるだろうと、マルコスは告げた。マルコスは、EZLNは軍隊、きわめて特異だが、軍隊であることを確認した。マルコスは、以前はなかったことだが、サパティスタの共同体が攻撃を受けていたことを明らかにした。そして、こうした事態に対する国内外の社会の対応が、無意味で無力となったのも、これが最初だったとした。こうした攻撃が、破廉恥にも「自称」左翼の政府の手でおこなわれていることも、初めてである。
　自分が指摘したことはその日の新聞を読めばわかると、マルコスは指摘した。チアパス州の農園主の代表格であるコンスタンティーノ・カンテルが、フアン・サビネスのPRD州政府によって、準軍事組織の集団に資金を渡せる立場の役人に任命されたことを報じている。その新聞には、サパティスタのせいでロペス・オブラドールは選挙に敗北したというPRD総裁の告発も載っていた。PRDはマルコスを許さないと、「制度的左翼」は表明した。
　た、ソノラ州ビカムで開催されたアメリカ大陸インディオ人民集会にむけて実施した最近のツァーの最中に、サパティスタに対して予告され、準備され、実際に起きたことについても明らかにした。とても多くのことが起きたが、かなり前から、メディアは黙り込み、無視してきたことを明らかにし、強調した。だが、サパティスタは、別のキャンペーンで、平和的な営為を追求するとともに、軍、警察、準軍事組織に抵抗する準備をおこなっていた。恐怖と同じように戦争は悪臭を発生するもので、サパティスタの土地では、戦争が発する悪臭が広がりだしていると指摘した。「ここから、皆さんにお任せする」と告げ、マルコスは発言を締めくくった。

危機の意識

　コロキアムでは数多くの議論が展開された。発表者相互の議論は目立たなかったが、全世界からきた若者が大半を占めていた多様で活動的な参加グループのあいだでは、議論はとても活発だった。数多くのさまざまな立場があった。しかし、既存の枠組みでは、今起きていることを理解できないという点で、誰もが一致していた。それゆえ、何かを模索していこうという雰囲気が支配的だった。どうすれば、非排他的で、下から創られる別の世界を可能にできるかと、手探りしているのである。サパティスタを先頭にした圧倒的大多数は、キューバが解放の過程において果たした役割を大きく評価した。反資本主義の運動から何かを学ぶためには、ヨーロッパ中心主義や都会中心主義の考え方を壊す必要性があるということで、意見は一致した。下からの変革にとって有用な新しい理論や概念を模索する作業は根気強くすべきであるとされた。数多くの質問も投げかけられた。
　ある時、カルデロンのような極右の売国主義の不法な大統領の就任は、阻止できなかったのだろうかと、発言者の一人が真面目に問いかけた。PRI支配体制時代以来、サパティスモの主要な迫害者として準軍事組織を煽動し組織していた連中が、現在では、州権力を掌握するPRDに所属しており、サパティスタを迫害し続けていることが明らにされた。それゆえ、マルコスがサパティスタは自分たちの死刑執行人と同盟を結べないと言ったことは正当であるとされた。
　参加者たちは、サパティスタの共同体に差し迫っている深刻な危機的状況を知り、大きな懸念を抱いた。コロキアムの組織者や参加者は、準軍事組織集団の形成、チアパス州で軍が犯してきたアクテアル虐殺事件やあらゆる悪行にもかかわらず、サパティスタは武器の行使を停止するいう言葉を忠実に履行していることを明らかにした宣言に署名した。サパティスタは、カラコルを立ち上げ、その平和的な活動は模範的なものだった。もかかわらず、この数ヶ月間、準軍事組織集団は、土地を奪う目的で、サパティスタに嫌がらせを展開してきた。サパティスタが受けている暴力に対して、人々に暴力で自己防衛するように唆すことはできず、連邦政府と州政府にこの種の攻撃を止めるように要求した。

アンドレ・オーブリ：サパティスタ博士号授与

　アンドレ・オーブリは「大義に尽した解放の初代博士」と集会で命名された。意訳すれば、解放にむけた営為と貢献という彼の社会的関与に対して博士号を授与するという意味である。EZLN先住民地下革命委員会、オベンティックのカラコルと自治行政地区の先住民当局者たちが作成された大部の書類に署名し、この新しい名前の博士号は誕生した。歴史学者のジェローム・バシェットとホルヘ・サンティアゴは、オーブリが、彼の生涯、とりわけチアパス滞在中の業績について語った。
　1968年のパリ５月革命の後、オーブリはメキシコにやってきた。バルバドスでの人類学者たちの集会[1971年1月バルバドスの東インディア大学で開催された非アンデス南米における民族間紛争のシンポジウム]は、先住民解放を高らかに謳い、解放の人類学を弁護し、宣教師の自民族中心主義を非難した。
　オーブリは、真正の解放の精神を備え、人民との約束を貫いた人類学者である。彼は人民の闘争や知恵に敬意を払いながら学んできた。彼は深い同志愛に満ちた眼差でサパティスタに付添ってきた。サパティスモに忠実であることによって、外見のはるか彼方を見通し、けっして幻滅しない秘訣を身に付けた。2007年9月、ビカムで開催されるアメリカ大陸先住民族集会に参加するため、80歳にもかかわらず、メキシコ南東部から北西部まで自動車で行こうとした。健康診断を受けるため、医者を訪問し、許可をもらって、サンクリストバル市へ戻る途中、道路で起きた交通事故で亡くなった。先住民族集会への長い旅の始まるほんの数日前のことである。
　EZLNのダビ司令官は、一瞬声を詰まらせながら、オーブリがサパティスタから離れず、友人であり仲間であったと賞賛した。サパティスタは、敬意、栄誉、賞賛をもって、オーブリと数年間になくなった妻[アンヘリカ・インダ]の思い出を語った。多くの人々が、ツォツィル、ツェルタル、チョル、トホラバル、ソケ語で、いくつものサパティスタの集団がこの独創的な博士号をオーブリに授与した理由について説明した。彼が、チアパス、メキシコ、そして世界中の人民の闘争や知識、いくつもの文化の教訓や教えを真面目に受け入れたからである。知識人の営為を、特権とか、個人的な自己評価の形式、あるいは他者への権力行使の源泉としてでなく、抵抗し、よき生活を営み、世界を変革するために必要となる集団的な経験と考え、それらの教えを学んだのである。

アクテアルの虐殺：ひとつのシンボル

　集会はアクテアル虐殺10周年という文脈で終了した。政府やお抱え知識人は、実際に起きたこと、国家犯罪を隠蔽するため、歴史を歪曲しようとしてきた[アギール・カミンは雑誌『ネクソス』で虐殺＝共同体内部紛争説を蒸し返した]。イエズス会士リカルド・ロブレスは次のように記している。
　「政府や政府の背後にいる実質上の権力者は、沈黙、暗闇、忘却によって、自らの犯罪を覆い隠そうとも、死者は本来の任務を果たしつづける。彼らとともに闘争自体が消し去られないように、監視している。死者が掲げた抗議、提案、ユートピア、スローガンは、真実のなかで生きつづける。死者を否定すればするほど、アクテアルの炎は輝きつづける。アクテアルの恐怖は、進行中の汚い戦争を超え広がる。すべての恐怖のシンボルとなった」

サパティスモの14年

　2007年末、ラ・ガルーチャのカラコルで、第3回「サパティスタと世界の人民の集会」が開催された。この集会は女性のためだけの国際集会だった。アジア、ヨーロッパ、アメリカ大陸からのビア・カンペシーナの代表団女性が参加した。土地なし農民運動のブラジル女性や、世界の数多くの女性コレクティボの女性たちも参加した[約３千人参加]。ダリア司令官がサパティスタ女性を代表して語った。資本主義が女性におこなったことを女性は赦さないし、サパティスタ女性は土地を防衛するために組織化を展開していると発言した。世界中の女性は、死んだ女性や収監中の女性を忘れることはないとした。
　集会の最後に、サパティスモが攻撃を受けていることを明らかにした宣言が発表された。悪しき政府に買収され、連邦軍の訓練を受けた農民で構成される準軍事組織が動員され、隠された戦争が展開されている。悪しき政府は、カラコルや自治行政地区から領域的基盤を略奪しようとしているのである。
　2008年元日のEZLN蜂起14周年祝賀では、闘う共同体における女性の役割に変革の兆しが見えるなかで、記念式典がおこなわれていることが祝福された。

世界にむけた警鐘：サパティスモを防衛しよう

　12月中旬に開催されたコロキウムの後、さまざまなメディアで、参加した著名人の数名はサパティスモ防衛のための動員を呼びかけた。ウォーラステインは、メキシコ軍の駐留や継続的な脅迫にもかかわらずうまく機能している事実上の先住民自治共同体をサパティスタが設立してきたことを強調した。世界レベルでのサパティスタ支援は、一定の消耗を余儀なくされたが、12月のコロキアムでは、連携の再活性化が模索されているとした。
　ナオミ・クラインも、サパティスタの警鐘を受け、水平線上に戦争の兆候がはっきりと見えていると発言した。チアパス州の56ヶ所に常設された軍基地での活動も活発になっているとし、武器や装備の近代化、特殊部隊の配備などについても報告した。クラインは、サパティスタがかなりの面積の土地を占拠し、集団的に運営していることを忘れないように要請した。彼女はサンアンドレス合意にも触れた。先住民族の領域に対する権利は認知されたが、政府はサンアンドレス合意を骨抜きにしていることを指摘した。そのため、サパティスタは、事実としての解決策、自治行政地区の創設という事実を積み上げながら、権利を行使する方法に訴えるしかなった。それに対する回答は、サパティスタから土地を略奪する目的で、多くのサパティスタ村落に対する準軍事組織の暴力が増大したことであった。2007年9月以降、こうした一連の暴力は記録、公表されてきた。だが、サパティスタはロペス・オブラドールと同盟を結んでいない。そのため、サパティスタの呼びかけや警報は、沈黙のまま見過ごされている。アクテアルのような虐殺が新たに起きることを回避すべきであると、彼女は世界とメキシコに呼びかけた。
　ジョン・バーガーは、サパティスモが消滅すれば、誰もがその結末を悔やむことになるとして、メキシコの市民社会は脅迫に曝されているプロジェクト、サパティスモを直ちに支援すべきであると要求する。

サパティスモを壊滅するチャンスの到来。

　不正選挙で成立したPANの連邦政府、チアパス州のPRD政府、PRIやPRDの地方自治体の政府やボスは、サパティスモを壊滅させるチャンス到来と計算している。鍵となるのは、サパティスタのカラコルや自治行政地区がある領域をサパティスタから奪い取ることである。実際、多国籍企業に資源を譲渡することを目的とし、生態系保護を名目とした国際機関などによって援助された計画案がいくつもある。だが、それらの計画の背後に、サパティスタ共同体の排除を目的とする米国政府の手が伸びていることは隠せない。
　サパティスタが直面したあらゆる危険に対して、1990年代には、市民社会は大動員を展開してきた。共和国の首都では、PRD左派諸派から多くの支持者が参集していた。しかし、現在では、サパティスタがロペス・オブラドールと同盟を結ばなかったとして、サパティスモに意趣返しをしようという雰囲気が支配的である。サパティスタは罰を受けるべきだという感情が支配的である。共和国大統領府、巨額の資金、影響力のあるマスコミという三つの権力が連携したきわめて悪辣な不正のことを忘れてしまい、PRDの選挙敗北の責任はサパティスタにあるという誤った議論が展開されている。
　サパティスモが選択した選挙方針でも、不正選挙のメカニズムを根底的に覆せなかっただろう。権威あるアンケート調査機関は、2007年末の時点で大統領選挙が実施されても、住民の69％は、選挙があまり公正でないとか、まったく公正でない、率直に言えば不正だらけと考えているという調査結果を明らかにした。

サパティスモはすべての人々の財産

　人々の要求に背を向けて活動し、信用を大幅に失った諸政党は、多数の住民から無視されている。サパティスタは政治をおこなうための別の道や形態を合法的に模索している。懸命に模索するサパティスタに感謝すべきである。サパティスタを運まかせにすることは、とほうもない無分別であり、恐るべき共犯関係に組することになる。サパティスタの選択が扼殺されることを阻止するため、民主的とされるさまざまな手段で、声をあげ行動を起こすうえで、現在の情勢は必ずしも不利とはいえない。
　メキシコ政治が二極化し、この種の犯罪が見逃されたとしても、国際的な選択肢はまだ残されている。現在起きていることを理解し、サパティスタに対する攻撃を阻止するため、時機を失わずに行動することが、世界の人々やグループに要請されている[2008年２月上旬、10カ国のメンバーで構成される第６次国際人権監視団がチアパス、オアハカ州などの人権侵害問題を視察]。下の世界にいる人々にとって、サパティスモは世界の財産である。我々の財産である。

出典−雑誌『Envio』310号（2008年1月）