我々の資源や知識は他者に渡すことはできない

−チアパス先住民伝統医師産婆組織協議会、チアパス高地での生物種不法掠奪を批判−

アナ・バルデス

「チアパス高地マヤ地域における民族植物学的知識と生物多様性に関する薬学的ならびに持続可能な利用法の調査」と銘打った多国籍企業によるチアパス計画(ICBG-Maya）に関しては、マティルデ・ペレスの報告を紹介したことがある。この計画の中止を求める動きはメヒコ国外でもみられる。７月５日には、英国の環境保護運動組織が、英国にある分子自然会社の本社前で抗議行動を展開している。
この計画の中止を求めて、チアパス先住民伝統医師産婆組織協議会(COMPITCH)などの先住民グループは、メヒコの政府関係機関の介入を要請していた。その要請を受けて、計画の見直しを含めてさまざまな議論を行うための三者検討委員会が５月中旬に発足した。７月18日、環境天然資源漁業省(Semarnap)が買い取った新聞紙面に、「ICBG-Maya 、南部国境学院(Ecosur)、COMPITCH、Semarnap、国立生態学研究所（INE)による合意」と題する文書が発表された。しかし、６月中旬の検討委員会で、COMPITCHの代表委員が委員会提案を持ち帰り、２ヵ月以内に検討することを表明したことが記されているだけで、「合意」なるものは何もない。

〈本文〉

生物多様性国際協力グループによるチアパス計画（ICBG-Maya)、「チアパス高地マヤ地域における民族植物学的知識と生物多様性に関する薬学的ならびに持続可能な利用法の調査」は、Ecosurと米国ジョージア大学の申請に基づき1998年から始まった。ICBGは、国立健康機関、国立科学基金、農務省など米国の連邦諸組織によって構成されている共同組織である。ICBGは、生物多様性がきわめて豊かであるが貧しい国々において、生物調査や不法掠奪の計画を実施し、公的で営利的な調査を行っている諸機関に対して資金提供を行っている。ICBGによれば、その目的は、天然資源からの薬学的発見、生物多様性の保護、発展途上国の持続可能な経済成長を推進することである。

ICBGは、このチアパス高地の計画のため、米国政府から2500万ドルの資金の提供を受けた。先住民の知識を研究の指針として利用しながら、ICBGのチアパス計画は、マヤの伝統医療で使われてきた植物や微生物種から薬学的に重要と思われる成分を発見し、分離抽出し、検査することを提起している。

1998年１月上旬、COMPITCHとチアパス州先住民医師組織(OMIECH)を構成している11組織の一部に対して、ICBG-Maya 計画の相手国側当事者として参加してほしいという要請が行われた。その計画に関する情報がCOMPITCHに寄せられたが、COMPITCHはその申し出をただちに断った。COMPITCHは、当該共同組織による約束の不履行、ならびにICBG-Maya の活動の透明性、正統性と合法性の欠如を告発した。

「すでに始まっているこの計画に関していうなら、彼らは共同体に突然やってくると、採集用の袋、資財、鍬やマチェテなどを提供してきた。それらが共同体のごく一部の人にしか手渡らなかった。そのために、分裂が起きている」
−COMPITCH、ドン・アントニオ・ペレス・メンデス−

ICBG-Maya 計画は、多くの共同体において、生物調査関する国際的な法制度で定められている「事前の情報提供による承認」をすでに取得していると、この共同組織は声明を出している。しかし、彼らは、不当にも、共同体の一部の住民が付与したにすぎない許可を合意に格上げしているのである。彼らが主張している共同体の合意なるものは、事前の呼び掛けも行われず、総会決議もなく、共同組織が事前に作成したモデルにそって取り決められ、大多数は、当局者か委員会の特定メンバーが署名したものにすぎない。

「この計画について、彼らは十分な情報を提供しませんでした。ジョージア大学側代表でICBG-Maya の指導者、ブレント・ベルリン博士と彼の妻アン・エロイセ・ベルリンは、共同体の利益のためになるなどと詭弁を駆使しながら、人々を操作してきました。この操作によって、共同体に紛争が生じたのです。先住民の権利に対する尊重が欠落していることが、サパティスタ蜂起を引き起こした理由のひとつでした。我々は、この計画が中断され、はっきりした本当の情報が共同体に提出されることを望んでいます。我々は、共同体が提案する法律が成立することも希望しています。医師や産婆の提案しているのは、自分たちの天然資源を管理する権利を持つこと、それを我々の財産とすること、そして、それを必要としている人たちの役に立つようにすることです。科学者の多くは、個別的、あるいは金持ちのための利益を引き出そうとしてきました。なぜなら、彼らはそうした生産物を引き出すことができたからです。我々は、自分たちの意見を持ち、我々の天然資源を管理する方法を持ちたいのです」
−COMPITCH、ドン・アグリピノ・バウティスタ−

COMPITCHに対して十分な情報は提供されなかった。なぜなら、共同組織は、生物多様性の私的利用という目的、この計画をめぐる多国籍企業の利害の状況を包み隠さず開示するための客観的な情報公開のプロセスを制度化していなかった。むしろ、意図的に、特定の場所の利益に深くの関与し、圧力を掛けてまで、この協定を承認させようとしてきた。
　共同組織が予測した利潤の参加共同体に対する「公正かつ民主的」な配分は、先住民族独自の文化、慣習、組織形態に基づいて−メヒコの法律やサンアンドレス合意が予測しているように−執行されるようにはなっていなかった。協定に基づいて、共同組織が選出した人物が管理するマヤ計画と称する信託基金を創設して行われることになっていた。
COMPITCHは、遺伝子資源の利用に関する情報公開のプロセスが始まらないかぎり、この計画を中断することを要求するとともに、バイオテクノロジーの目的をもった計画をメヒコの実施することを規制する法的枠組みの構築を見据えた審議会の設置を呼び掛ける目的で、Semarnapの介入を要請した。先住民側代表団、計画実施側の代表、そしてSemarnap、ＩＮＥ、生物多様性全国委員会(Conabio)の当局者という三者による交渉テーブルが設置された。交渉テーブルは、以下の二つの戦略に基づいて、論争を乗り越えようとした。
ひとつは、管理マニュアルを作成し、ICBG-Maya 共同組織が４月に申請したバイオテクノロジー目的の標本収集の許可要請にすぐにでも対応できるようにすることだった。二番目は、交渉の過程に当事者を参加させ、この問題に関する特別の緊急合意の形成を促進させることだった。

この二つの立場に関して、我々は以下のことを指摘したい。
(１)　政府は我々のためにそのようなマニュアルを作成しようとする。しかし、我々はそれを認めることができない。独占的な特性を有する案件の管理手続きを定めること（すでに開始している）は、憲法(第13条)に違反しているからである。
(２)　我々は、求められている規範に何らかの「貢献」をする唯一の組織となるつもりはなく、なることもできない。なぜなら、その「貢献」は、すべてのインディオ組織やインディオ民族、メヒコ人、さらには全人類に関係しているものだからである。COMPITCHは、誰も付与することのできない代表権を獲得するつもりはしないし、そうした組織になることに同意はできない。それを通じて、連邦政府は、国内外の世論に逆らって国の資源を売り渡し、仮面を被った植民地主義的な投資による儲けという、憲法違反の手続きを認可しようとする。
(３)　我々に整備を呼び掛けている規範の法律上のレベルは、管理マニュアルというレベルである。それは、自動車運転手への免許証付与を定めている法令のレベルにも達していない。そのことに関して、我々は同意できない。この規範は、公的な秩序や社会的利害を有する法規のランクに該当する。それゆえ、我々は主張する。以下の理由から、遺伝子資源に関しては、他者に委譲できない戦略的な特性を認めるべきである。
(ａ)−遺伝子資源は国のものである。国の憲法はそのことをはっきりと宣言し、生物多様性に関する協定もそのことを明瞭に宣言している。
(ｂ)−憲法上、遺伝子資源は、電信機や基礎的石油化学の資源など、他者に委譲できないと宣言されているものと同じ性質や特性を享受している。遺伝子資源は、生命の鍵である生命物質を伝達する機能を持った単位である。それゆえ、その操作や利用をそれほど重要な問題ではないとるすことは許されない。

「我々の最初の父祖の時代から、我々はあらゆる知識を共同体と分かち合ってきた。最初から、我々がどのように病気を治療してきたのか、治療に役立つ植物や石、動物としてどのようなものがあるのかという知識を分かち合っている。このようにして、共同体が病気をどのように治すのかという知識を持てるよう、我々は努力しているのです」
−COMPITCH、ドン・アントニオ・ペレス・メンデス−

　　出典：Ojarasca,No.40,agosto,2000