彼女は目出し帽ではなく、新しいバンダナをしていた。三つ組みした彼女の髪には白髪も見え隠れしていた。ダビが彼女にセーターを貸した。防寒のためではなく、ウィピルを覆い隠すためだった。その刺繍で、彼女の出身共同体が推測される恐れがあったのである。
彼女のブーツと青色のスカートは泥土で汚れていた。

報道機関との最初の会見でEZLNの主張を展開するために派遣されたグループのなかで唯一の女性であり、先住民言語単一使用者だったラモーナは、胸の位置にライフルを構える兵士としての姿勢を保っていた。彼女は一言も発することなく、発言する仲間たちに視線を注いでいた。彼らは、10年間の深い沈黙の後、数百の先住民共同体のなかで、戦争か平和かを決定する投票がどのようなかたちで実施されたか、報道記者たちに説明していた。　
「我々に対して、もういいと言ったのは、そうした共同体の人々だった。そこで、我々は戦争を始めたのだ。もう我慢などしたくない。我々は空腹で死にそうだ」
彼女も頷いた。

その時、サパティスタの隊列に女性やこどもが加わる理由について質問があった。皆の視線が女性司令官ラモーナに向けられた。「いいですか。それは…」と言った後、ツォツィル語による言葉が勢いある滝のように流れだした。直ちに、誰かがその言葉を翻訳するようにという指示が、女性民兵に対して出された。すると、言葉に詰まることもなく、ラモーナは次のように話した。
「なぜなら、女性たちも極めて厳しい状況の中で生きているからです。今でも、私たち女性は、ひどい搾取を受け、激しく抑圧されています。なぜかって？それは、女性たちは、長年にわたって、500年も前から、意見を語り、集会に参加する権利をもったことがなかったのです。教育を受け、皆の前で発言し、共同体で何らかの役職につく権利も持っていません。私たち女性は、完全に抑圧され搾取されているのです」

そして、彼女が刺繍をしてきた年月のことについて話した。チアパス高地の女性たちが纏っている手の込んだ作品を完成させるには3年もかかる理由を説明した。そして、サンクリストバルに降りてきて、制作したブラウスを販売しても、芸術的作品でさえ僅かばかりの代金しか払われなかったことを語った。

彼女の日々の生活についても話してくれた。｢とても、苦しい生活です｣と、スペイン語で何度も繰り返した。その後、ツィツィル語で次のように説明した。
「トウモロコシを準備するため、朝の3時に起床します。それからは、全員が眠るまで、私たちにまったく休憩する時間はありません。食料が十分になくても、私たちはこどもや夫にトルティーリャをつくります」
笑いが起きた。彼女にはこどもも夫もいなかったのである。自分は闘争を選び、結婚を選択しなかったと、ラモーナは説明した。彼女はEZLNの指導者で最古参の女性だった。

彼女の夢についても話してくれた。
「私たちが先住民としてほんとうに尊敬されるになることです。私たちも権利を有しているのです。あらゆる差別がなくなることを望みます。つまり、私たちの権利を尊重してほしいのです。私たちは、町、州、国への参加権をもっている。私たちを支配してきた統治者の多くは、私たちを放置してきたのです。金持ち連中は、私たちを階段の下のほうに押しやってきたのです」

そして、最後に次のようなメッセージを述べた。
「女性の同志たちがどのように搾取されているか、彼女たちがまったく無視されていることを意識してください。女性としてひどい搾取を受けていることを自覚してほしいのです。それゆえ、サパティスタとして、武器をとることが決定されたのです」

その後、ラモーナはシンボル的な存在となっていった。1994年2月末、サンクリストバル市の大聖堂でのEZLNと連邦政府との話し合いが行われた時、副司令官マルコスが拡げたメキシコ国旗を持参したのはラモーナだった。カルロス･サリナス政府の代表のマヌエル・カマチョは、象徴的な記念写真の枠からはみ出さないよう国旗の隅をつまもうとしたがうまくできなかった。その序列から、ラモーナの位置は、仲介者のサムエル･ルイス司教の右隣となった。その会合の場では、ラモーナは目出し帽を着用し、サンアンドレスのきれいな赤色のウィピルをまとっていた。彼女はほとんど発言しなかった。しかし、黒色の瞳を瞬かせる彼女の沈黙は雄弁なものだった。交渉テーブルに着席した彼女の足は、床に届いていなかった。彼女の低い背のことから、ある女性記者はラモーナにジャベリート[小さなキーホルダー]という愛称をつけた。

出典−La　Jornada、2006年1月7日