「先住民族の２０００年巡礼行進」に参加したチアパスの先住民女性は語る

訳出したふたつのレポートは、Triple Jornada（2001年1月8日）に発表されたものである。コロンブスのアメリカ侵略 508年目にあたる2000年10月12日の翌日、「先住民族の2000年巡礼行進」が、首都メヒコのグアダルーペ大聖堂に向けて出発した。レポートはこの巡礼に参加したふたつのチアパスの先住民の組織、ラス・アベーハスとシニッチの女性参加者が首都で行ったインタビューに基づくものである。

ラス・アベーハス（スペイン語で「蜂」）は、チアパス高地のツォツィル系先住民の住むチェナロォ地区で組織されているカトリック系の先住民組織である。1997年12月22日に起きたアクテアル虐殺事件（45名が殺害される）の犠牲者はこの社会組織に属していた。

一方、シニッチ（チョル語で「蟻」）は、北部地域のチョル、ツェルタルといった先住民族によって構成される社会組織である。彼らは、パレンケ市長選挙の不正などに抗議して、1992年３月にパレンケから首都までの1100kmを51日かけて行進したことがある。

今回は、両組織のメンバー約 300名が、サンアンドレス合意の実行、対話の要求、非軍事化、避難民の帰村などの要求を掲げ、チアパス州のアクテアルから首都のグアダルーペ大聖堂までの1374kmを59日かけて行進した。

（１） アクテアルの女性は、正義、避難生活の終了、女性の自決権を要求する

ウルスラ・バイセル

自分たちがしていないのに、死者が出ているこの戦争が始まって以来、土地で水やりできるトウモロコシの穂、実をつける粒はきわめて限られていた。その戦争は、共同体で暮らしている彼女たちの兄弟、配偶者、数多くの若者たちを分断し、こちらと向こう側に引き離した。生き残って戦っている者、そして死んだために沈黙する者が誕生した。生者であれ、死者であれ、あの1997年12月22日、準軍事組織の到着とともにガラスのように壊れてしまった平和を求める祈りは同じである。共同体を完全にバラバラにするには、45名のツォツィルの死者（ほとんどが女性）でもう十分すぎる。このように考えた結果、すべての女性は、今ではひとつになっている。彼女たち全員がアクテアルの女性である。

市民社会のラス・アベーハスに属する人たちは、シニッチ（蟻）の人たちと一緒になって、「殉死者の眠る聖地アクテアル」からグアダルーペの聖母の聖地まで歩いてやってきた。それは先住民族の記念巡礼に参加し、メヒコの市民社会と（連邦や州の）新しい統治者たちに対して、祈りだけでなく、要求を突き付けるためだった。彼らの要求は、アクテアルの犠牲者たちやインディオ民族にとっての正義の実行、サンアンドレス合意の実行、そして住んでいた共同体に帰村できるような和平を実現することだった。
「私たちが望んでいるのは、男性だけでなく私たち女性もが戦えることを皆さんに理解してほしいことです。私たちが曝されているあらゆる暴力を根絶したいのです。私たち女性がもっとも暴力に苦しんでいます。正義が行われ、私たちは先住民女性としての権利が認められることを望みます。新大統領がセディージョ大統領のように私たち避難民のことをまったく考慮しない人物でなければいいのですが」とロサリンダ・ペレスは一生懸命にスペイン語で話した。
こうした叫びは無償のものではない。避難民キャンプで暮らす女性たちは、共同体の要である。その一方、女性であるというために、矛盾した存在となっている。彼女たちのおかれている二重の周縁化によって、彼女たちの声が聞き入れられることはほとんどない。　彼女たちは避難民キャンプがある共同体において推進力となっている。チェナロォだけでなく、ティラ、サバニージャ、トゥンバラー、ラス・マルガリータス、ベヌスティアーノ・カランサなどの避難民キャンプの住人のほとんどは、女性、こども、年配者である。彼女たちは自作の刺繍製品を売り、必要物資を手に入れることが多い。しかし、いつもという訳ではないが、共同体以外の場所で物資を購入することは難しくなっている。

「あなたたちは自分で決めた数のこどもだけ生めますか？」
ロサリンダは横目でアントニオを見つめたが、彼が口を出す前に次のように答えた。
「政府はほかの女性たちに避妊措置を受けるよう強制しています。だが、私たちラス・アベーハスの規則では、私たちの先祖が生きていたように私たちも生きるべきなのです。私たちはこどもを生むことをやめません。政府が私たちに押しつけることなど実行できません」
アクテアルの女性は、男女が対等な扱いを受ける状態とはほど遠いといえよう。だが、「習わしと慣習」が意味する重み、女性特有の受胎の権利以外を認めようとしないシステムに抵抗しながら、女性独自の言葉とアイデンティティを構築するため、彼女たちは努力している。しかも、当の伝統的システムは、男性をなくした家族の物資調達者として女性を利用せざるをえなくなっている。
「自分たちが先住民女性として考慮されてこなかったこと、私たちが尊敬されなかったことについて、私たちは考えてきました。私たちは独自の言葉や知識を持っていたにもかかわず、政治を知っている男性の意見に従うようにしてきました。まるでキリスト教徒でないかのように私たちは無視され、いつもバラバラに分断され、周縁化されてきました。しかし、いま私たちは自分の戦いを展開しています」
アクテアルのキャンプに暮らしているサンペドロ・チェナロォ地区の避難民であるロサリンダはこのように説明した。
「私たち女性はいつもほかの女性たちと力を合わせて組織化を進めてきました。私たちを手助けする人がいなかったからです。私たちは共同体のなかで見つめ、働き、世話をしなければなりません。私たちは黙ったままでいることはできませんでした。私たちはいろんなことを知り、話し合わねばなりません。それが女性たちの権利であり、社会としての私たちの生活である。それを理解するためには、実践しなければなりません」とロサリンダは告げた。

アクテアルの女性たちは宿泊施設として割り当てられた学校の礼拝堂に隣接する中庭で行われたインタビューの場に集まった。そして、準軍事組織集団の迫害のなかで生活することに付きまとう潜在的な危険について語ってくれた。大多数の女性はスペイン語の読み書きができず、母語しか話せない。そこで通訳する人が必要となり、時々、彼女たちは発言を中断せざるをえなくなる。
「私たちは仕事もできません。なぜなら、元住んでいた土地では準軍事組織が活動を続け、私たちが働いている場所にやってきて脅かすからです。自分の所有しているものに立ち入ることはできません。軍隊も私たちが畑に出掛けるのを妨害します」とロサ・ゴメスは語った。聞いていたほかの女性たちも彼女の説明の通りだと言った。
３名のツォツィル女性はお互いに縦糸と色リボンで髪を三つ編みにしている。女性たちの溶け合った姿は、髪で結び付けられた３つの頭の異形の女神の偶像にそっくりである。通訳のアントニオ・グティエレスの口を通じ、いちばん前にいる女性が語りだした。
「国際赤十字は私たちのことを少ししか援助しませんでした。支援物資は私たちに届かず、私たちの食料を補うためいろんなものを探さねばなりません」
毎日、アクテアルの女性は午前５時に起床し、あたりの地面を掘り返す。朝早くから準備に取り掛かるトルティージャに入れる具になるものを探すためである。その後、一日の大半は、商品にするブラウスやウィピルに刺繍をする。キャンプから出ることはほとんどない。女性たちはキャンプから出れない。このようにロサは説明した。
彼女の家族についての質問が出たとき、彼女の顔は苦悩で歪んだ。
「ロシータは生き残りなのです−このようにアントニオは説明した−。お父さんも兄弟も生きていません。アクテアルの虐殺で全員が死んでしまいました」
ロサは飾り気のない口調で説明し、アントニオが次のように通訳した。
「家族のうち９名が亡くなったそうです。殺害された彼女の姉は妊娠７ヵ月でした。年端も行かない３人のこどもが残されました。ロサと彼女の母がほかの女性たちと協力しながら孤児たちの面倒を見ています」
ツォツィル語でひとつの文章を言い終わらないうちから、ロサの目から涙が溢れだし、編みかけの三つ編みの髪の毛を伝って落ちた。
「こどもたちはお母さんのことをしきりに尋ねるそうです」とアントニオが通訳した。　やがて、ロサはひとりでで三つ編みをしながら、はっきりとした口調で話しだした。
「そうした準軍事組織は元知事（通訳のアントニオはフリオ・セサル・ルイス・フェロであると補足した）や当局者たちの手によって組織されつづけています。避難民となった際、私たちは家を捨てねばなりませんでした。連中は私たちが持っていたものをすべて略奪しました。私たちは連中が私たちから略奪するのを見過ごすつもりはありません。それは私たちのもの、私たちの財産なのです。だから、ただちに私たちへの賠償要求しなければなりません。州知事（ロベルト・アルボレス・ギジェン知事代行であると通訳が補足した）の任期は終わりましたが、彼は私たちへの賠償金９千ペソを着服したままです」
再び、ロサの重い沈黙が始まった。
「ロシータが言うように、政府はアクテアル虐殺で心を痛めてはいない」と、ペトローナ・バスケスが発言した。そして、彼女がどのようにキャンプにやってきたかを語った。
「準軍事組織のせいで私たちが避難民となったあの日、連中は武器を購入する資金調達の名目で経済的協力をするよう私たちに強制したのです。私たちを脅しました。それを契機に、私たちはアクテアルの避難民キャンプに脱出することにしたのです。私たちは兄弟を殺すことには賛成できません。私たちは新しい連邦政府や州政府が正義を行使してくれるよう望みます。二度と再び、殺戮や避難が起きてはいけません。ですから、神がチアパスに平和をもたらすよう願って、私たちは、今日、ここまで巡礼してきたのです」
ラス・アベーハス−サンクリストバル司教区と緊密な関係にあるカトリック組織−のほかの女性たちは彼女の言葉に頷いた。返事する前の彼女たちの長い沈黙は、新政府に対する一定の留保があることを物語っている。「すべて兵士がいなくなるまで」、彼女たちは穏やかな気持ちになれないだろう。

新司教フェリペ・アリスメンディに関して、彼女たちは定まった評価ができていない。
「新しい司教のアリスメンディがどのように私たちを支援してくださるか、私たちはまだわかりません。ドン・サムエルが懐かしくてたまりません−ペトローナが説明した−。彼のことはよく覚えています。彼は私たちのいるところを訪ねてくださり、私たちの土や泥のある道に足を降ろされました。私たちと一緒に食事をなさいました。私たちの生活、貧しさをよくご存じです。私たちをずいぶん助けてくださいました」

　出典−Triple Jornada,2001年1月8日

（２） 暴力のない女性の権利が尊重される生活を求め、ヨンベフの女性は戦う

ロサ・ロハス

マリア・メンデス・ロペスはヨンベフの女性たちのコーディネーターである。シニッチとラス・アベーハスのメンバー約 250名で構成されるグループは、チアパス州のアクテアから連邦地区のグアダルーペ大聖堂までの巡礼行進を行った。その巡礼の行程は１ヵ月半に及び、12月12日にテペヤックに到着するというものだった。巡礼行進中、マリアはチアパスの先住民女性の声を代表して語ってきた。

独立記念塔での会合で、彼女は次のような提起を行った。先住民女性はいまなお自由を享受しておらず、家庭内部での暴力をもたらす男性のアルコール依存症という深刻な問題にさらされている。公的な生活への参加に関してはいくつもの制限があり、（多くのこどもを生まないようにという）公的機関や、（こどもを生めという）男性の側からの女性の母性に対する圧力にさらされている。
「私たちの主要な要求は、先住民女性の権利が尊重されることです。そして、水平的な関係を基盤に調和のとれた生活ができることです。私たち女性を対等な存在として認知されることです。なぜなら、私たちは男性と同じ権利をもっているからです」
その後、巡礼に女性全員が行進することができなかったので、それぞれの共同体を代表して、約60名の女性が行進した。このようにマリアは説明した。政治やあらゆることに女性が参加することはきわめて重要であるとして、彼女は次のように付け加えた。
「巡礼行進のグループのなかで、私たちが女性として生きている状況の実態を私たちはつぶさに見てきました。サンアンドレス合意が実行されることや、軍隊が兵舎に帰ることを望んでいることについて、私たちは話し合いました。パレンケの近くにあるホル・トゥリハには軍の兵舎があり、駐留した兵士は女性を暴行し、妊娠させ、こどもを残しています。私たちは女性として価値がないかのような扱いをされています」
「ラカンドンではあらゆる場所で暴行に対する告発が行われてきました。たとえばパレスティナには兵隊と治安警察が駐留しています。彼らによって、30名以上の女性が妊娠させられました。女性たちが私に語ってくれたことによると、それ以外の女性も彼らによって騙されています。彼らは、彼女たちと結婚するつもりであると言ったり、お金を渡したりします。必要な場合、女性たちは兵士たちと一緒に立ち去ります。私たちは政府に対して、法律を定めるように要求しています。なぜなら、私たち女性が、軍隊が私たちにしたことを訴えているのですが、政府は私たちの意見を取り上げようとしません」

オコシンゴの近郊にあるウァクイテペックで、200〜300名の女性が結集したことがあった。その時のことを彼女は説明した。
「この村では、女性たちは組織化によって力を貯えていました。だから、兵士たちが村にきたとき、村に侵入するのを阻止できたのです」

女性たちがこどもを何人もつか決定できるかについて質問された際、マリア・メンデスは、政府のプロモーターが避妊具を持参していることを説明した。その時、会見の席にいた男性のなかまのひとりが次のように付け加えた。「政府は産児計画の押しつけによって私たちを根絶やしにしようとしています。まだ若い女性がいますが、政府は土地がもうないから、こどもは持つべきではないと言っています」
同僚の言葉を引き継いで、「女性たちは私に語ってくれました。男性たちは、女性が病気であっても、こどもを生むように強制することがあります。生む力がないのに、こどもを生むように要求されています」とマリアは言った。
そのとき、「プログッレサ（貧困地区における教育衛生支援計画）では、毎月、女性たちに点検することが要求されています」と同僚が口をはさんだ。それについて「検診に行かなければ、お金は支給されません。（避妊）注射を受けなければ、補助金はでないのです」とマリアは補足した。
「プログレッサの資金を受けた女性は病気になるのです」と同僚は付け加えた。
マリアは１年前に診療センターで次のような事件があったことを紹介した。
「妊娠２ヵ月の女性がビタミン剤が欲しくて診療所にいったのですが、ビタミン剤ではなく、強力な虫下しを投与し、中絶させたのです。これはヘトハの村で起きた事件です」

また、次のように指摘しました。「女性たちは読み書きができません。少女の大多数は学校に行っていません。なぜなら、少女は結婚するのだから、勉強する必要がないと、男たちは言っています。年下の兄弟の世話をすればいいと言うのです。私たちが望んでいるのは、女の子も男の子もは全員が勉強することです」

　出典−Triple Jornada,2001年1月8日