「パブロ・サラサール：私の勝利は南東諸州の知事連合への打撃」 ルイス・エルナンデス・ナバーロ記者 |
| <解説> 2000年8月20日に行われたチアパス州知事選挙では、反PRI派の８党が推薦したパブロ・サラサールがPRI派候補サミ・ダビに１０ポイント以上の差をつけて勝利した。サラサールは、COCOPA創設以来のメンバーとして、サパティスタとの交渉の中心的役割を担ってきた人物として知られており、チアパス州からの政府軍撤退、サンアンドレス合意の即時履行を訴え続けてきた。彼が知事に就任することで、和平交渉再開に向けて事態の進展が期待される。 |
賭けに失敗したPRI ・ サラサール氏の勝利は、PRI内部の力関係に影響を与えました。ロベルト・マドラソ氏やメキシコ南東部諸州の知事連合の思惑を、覆すものとなりましたね。 ―当初から指摘してきたように、今回の選挙は、我々の選挙という以上の大きな意味を持つ賭けだった。PRIはここで内部抗争を解決させようとして勝負に出た。私がPRIに勝ったということは、サミ・ダビだけでなく、ロベルト・マドラソにも勝ったということだ。我々の勝利には、大きな意味がある。単にPRI候補に勝ったのではなく、南東部を手中に収めようとしていた政治家グループに勝利したのだ。我々の勝利は、地域全体の民主化運動に新たな息吹を与えた。次に反対派が勝利するのは、タバスコ州だ。 ・あなたの勝利を示した出口調査が早くからテレビで流されたことは、なにか影響がありますか？ ―君自身、８月２０日の誘惑の身近な証人だろう。夜7時から９時まで、知事連合だか誰がやったのか知らんが、システムが落ちそうになった。なんの話しをしているのだっけ？我々の勝利を示しているからといって、それを受け入れるのを我慢することについてだ。 ・８月２１日から、あなたが知事に就任する１２月８日までの空白期間が心配ですね。社会不安を引き起こすなんらかの挑発行為が予想されますが、それに立ち向かい、回避するためにどうしようとお考えですか？ ―第一に、チアパス州政府とPRI派の人々自身が、世界には自分たちだけではないこと、この国の新しい現実、つまり次の政府はPRIではないことを理解し始めているのを知るにつけ、私は勇気づけられている。混乱を引き起こしても、彼らにはなんの利益にもならない。免責の保証はなにもない。私がそれを深刻に受け止めることはわかっているはずだ。 ・議会の多数をPRI派が占め、ほとんどの行政区もPRIが統治するなかでの、州知事就任となるわけですが、彼らとの関係は？ ―全員と合意を形成することを優先しなくてはならない。彼らがそこにいるのは現実であり、一方で彼らが頭なしなのも事実だ。初めて市町村・議員で多数を占めるPRIが国家レベルの長を失う。次期大統領はPRIではないのだから。州知事も同じことだ。指揮する頭を持たずに彼らがどう振舞うのか見ものだ。我々は彼らを追い出すつもりはない。合意を優先する。すでに何人かとは話を始めている。 ・アルボレス知事の任期中、先住民の権利と文化、行政区再編、準軍事組織への恩赦といった面で一連の法改正が可決されました。多くの人たちが、これはサンアンドレス合意に反しており、緊張緩和から遠ざかっていると指摘しています。これら承認済みの件に関し、どう対処するおつもりですか？ ―サンアンドレス合意を空文化しようとする一連の動きに関しては、行政権のもとで見直し、元に戻していくことを私は公約している。そのとき、偏った行政区再編についても反対した。偏った法制化にも、一方的な武装解除というばかげた考えにも反対した。これらの動きをじっくり見直し、必要ならばあらたな法作りを行っていくつもりだ。 ・パブロ・サラサール氏には現在政党がありません。８党の推薦を受けていますが、どこにも所属はしていませんね。知事としての運営をどのようになさるおつもりですか？地方政党をお作りになるとか、あるいは既存の政党に入党なさいますか？ ―私は、移行段階の知事を目指しており、すべての移行を完了させるつもりだ。我々は、新しい憲制議会のもとでの新たな法改正の一連の動きを止めたいと考えている。移行知事を目指すならば、政党に属するわけにはいかない。私は、どこにも所属しないことをチアパス市民社会と公約している。所属することが悪いとは思わないが、それはカラーをつけることであり、私は知事としてバイヤスをかけたくない．我々が望んでいるのは、交代が現実のものとして見えるようになることであり、社会と政府の新たな関係を築くことだ。次期知事がどの政党にも属さないことは、そのために多いに役立つだろう。 ・パブロ・サラサール政権下での次なるエスピノサ・ビジャレアル（訳注：現観光大臣。メキシコ市長時代に、4億2000万ペソの公金を不正に流用したとして告発されている）は誰でしょう？ ―我々は復讐を望んでいるわけではない。だが何度も言っているように、次の政府は会計を明らかにしなくてはならない。私は誰も裁判所に送りこむ気はない。裁判所に行く者は、会計が明朗でないためにそうなるだけのことだ。立て直しの過程では、建設的な精神でことにあたらなくてはならないが、かといってチアパスの和解が、過去を忘れて新しくやり直せばいいということではない。私は魔女狩りをするつもりはない。悪い人間は自分でわかっている。彼らは会計をきちんと提出する方法を探さなくてはならないだろう。明快でないものを受け取るつもりはないからだ。もちろん免責はない。 ・パブロ・サラサールの当選はEZLNとの紛争を解決するだろうと言われていますが、サパティスタにどう対処なさるおつもりですか？ ―彼らが蜂起した原因が存在し続ける限り、彼らの正当性がなくなることはない。増して彼らは、政治的道を模索しながら、その道を自ら閉ざしたグループなのだ。我々の存在が、EZLNの存在理由をうばうことはない。それどころか、新しいチアパス政府は彼らに同意し、対話の道を取り戻すことを容易にする交渉相手を見つけるつもりだ。 ・EZLNの交渉相手は誰ですか？連邦政府？それとも地方政府？ ―何度も強調してきたし、これからもずっと言い続けるつもりだが、連邦政府だ。和平プロセスの主役がCOCOPAであるということも、私は確信している。私はチアパスでの和平プロセスを知る数少ない一人だ。どんな誘惑があるか知っている。政府がなすべきこと、するべきでないことを知っている。私自身がすべきことについて確信を持っている。私は制圧政策をとるつもりはない。これが始まって以来、紛争の規模を卑小化しようという考えが潜在的に存在している。また紛争を共同体同士もしくは内部のものとして押し込めようとする動きもそうだ。もしこれが共同体間の紛争だったら、国会で取り上げられることもなかっただろうし、連邦法の問題になったり、だれが当事者であるかということについて、連邦法で判断されることもなかっただろう。EZLNの交渉相手は連邦政府である。紛争の規模を再確認する必要がある。EZLNは全国規模の当事者だ。たしかに軍事的にはチアパスに焦点を置いているが、影響力は全国的、国際的である。私はさきに述べたやり方に与するつもりはない。 仲介者でもメッセンジャーでもなく ・もしあなたが交渉相手にならないとすれば、仲介者になるのでしょうか？ ―仲介者もメッセンジャーも望んでいない。私は和平の手配者になりたい。チアパスによい政府が生まれるだけで、和平に向かって大きく踏み出せていただろう。しかし、今までそれが生まれなかった。これまでの州政府は共同体の死刑執行役だった。共同体を襲って暴力をふるい、荒らしてバラバラにしてきた。我々の役目はそうではない。我々は、共同体との関係を模索するつもりだ。多くのサパティスタ共同体は、誰とどのようにということを自分たちで決められさえすれば、発展プロセスに参加するつもりがあるだろう。次の政府は彼らと話をする道を探す用意ができている。政府と社会との新たな関係を構築しなくてはならない。だがそれは選挙に勝ったからといってすぐにできるものではない。信頼性を作り上げる必要がある。EZLNを潰すという固定観念は私にはないし、そのつもりもない。残念なことに、PRIにはその意図があり、そのことが共同体との関係に悪い影響を与えた。 ・地方権力者たちと合意の上で政権に就かれますか？ ―何もない。政党ともない。私は、権力の割り当てに関するような約束を彼らと交わしていない。どのカシーケ（地方ボス）からも、利権を求める資金力のある企業家からもお金を受け取らなかった。どの政党も私に対し、地位を引き換えに要求するような協定に署名させることはなかった。チアパスのプロセスはそうした唯一のものだったのだ。 出典 La Jornada 2000/8/22 |