マリア・デ・ヘスス・パトリシオ（ＣＮＩ、ハリスコ州先住民ナワ女性）の演説

2001年３月２８日

　議場におられる仲間の皆さん。女性の問題に関して多くの反論が寄せられているので、私がお答えすることにします。

　習わしや慣習が、先住民民族や先住民共同体において先住民女性を傷つけているというテーマに関して、私たちは次のように考えています。それは先住民族だけの問題ではありません。先住民族ではなく市民社会の全体の問題です。悪い問題を先住民族のせいにしようとしています。習わしや慣習が女性を傷つけるとか、COCOPA法案が承認されると先住民女性を傷つけるようになるというのはひどい問題です。私たちは、それはまちがっていると言いたいのです。
　そうではありません。男性と女性の対等な参加が進展するでしょう。私たちが解決していかなければならない問題があることは確かです。しかし、それは先住民族だけの問題ではなく、全員の問題です。このことは私たち先住民族と市民社会、そしていま私たちが生活している状況に替わるものを提示すべきであるという気持ちを自覚しているすべて人々が一致団結する必要があることを意味していると私は思っています。
　さて、これまで女性は家庭という場から参加してきました。というのも、先住民族においては、男とか女というより、家族全体が主人公なのです。家庭という場で、女性は意志決定に参加してきました。夫が共同体の会合やエヒードの会合に出掛けるとき、考えを持ち寄って、それを会合に提出する形で、私たち女性は参加しています。しかし、男性だけでなく、女性が参加することが私たちの共同体でも増えています。しかし、先ほど言ったように、それは男性や女性の参加というより、家族全体の参加と言うべきものです。
　私たちはこの種の問題のすべてを解決していくべきであると確信しています。だから、日々、私たちはそれを実行しているのです。私たち先住民女性は何もしていないように思われています。しかし、私たちはいつまでも続く戦いの過程のなかにいると、私は確信しています。外部からみていると、そのことはよくわからないのです。
　習わしや慣習は、先住民族の生活にそぐわず撹乱していると、私たちは言われることがあります。しかし、取り上げられるのは悪い習わしや慣習です。どうして、よい習わしや慣習のことを考慮しないのでしょう。たとえば、よい習わしや慣習として、テキオや相互扶助があります。皆が集まり、野良仕事をしたり、家を建てる仕事をするために時間を割くのです。別のよい慣習としては、犯罪者を処罰するよりも、被害を保障するという形で正義を実践しようとすることもあります。
　また、満場一致によって物事を決定しようとすることもよい慣習です。私たちの共同体には投票はありません。私たちの先祖は、「共同体においては、99％＋９％でなけねばならない」と言っています。本当でしょうか？要するに、全員の同意が必要なのです。投票より満場一致がないといけないのです。これもよい習慣です。
　さらに、政治的代表者は特権でなく奉仕活動とみなされていることも、よい慣習と言えるでしょう。人々の先頭に立つ人、共同体のことに関して命令権や決定権を付与された人は責務を果たすべきで、報酬などは支払われません。代表者は奉仕活動をすべきで、共同体やエヒードのメンバーは代表者がうまく仕事をしているかを監視しています。
　長老の知恵を活用することもよい慣習です。私たちの共同体では、長老は特権的地位にあることを私たちは知っています。彼らは私たちより長い時間を生きてきたのです。私たちが正しい道を歩んでいるのを見て、私たちに同意してくれます。私たちが間違った道を進もうとするときは、私たちに注意を呼び掛けます。それこそが私たち先住民族の言葉、長年にわたって培われてきた真の言葉なのです。これもよい慣習のひとつです。
　だから、国会議員の方々は悪い慣習だけをあげつらっているように私には思われます。私たちはよい慣習ももっているのです。私たちはそれらのよい慣習を保持しつづけたいのです。もちろん、私たちは悪い慣習は撤廃したいのです。私たち先住民族の悪い慣習だけでなく、あらゆる人々が抱えている悪い習慣すべてを一掃したいのです。
　この場で、習わしや慣習のなかに悪いものがあったことということが指摘されました。なぜ、今まで存在してきた諸問題について言及されなかったのでしょうか。先住民共同体は人権の侵害者であるという告発がなされています。しかし、私たちは忘れることができません。なぜ、いつも先住民共同体とか先住民族が名指しされたり、槍玉にあげられたりするのでしょう。外部のもの、先住民族ではない者たちが引き起こしている問題がいくつもあることを私たちが見過ごすはずがありません。アグアス・ブランカス［1995年６月28日、ゲレロ州コユーカ・デ・ベニーテスでの軍による南部山岳農民組織の農民の乗ったトラック襲撃による17名殺戮］やアクテアル［1997年12月22日、チアパス州チェナロォ地区での準軍事組織によるツォツィル避難民45名の虐殺］の虐殺はその例です。
　事件の責任者は外部の人間で、彼らは責任を認めず、離れた場所で沈黙したままです。私たちの声が聞き入れられることを私たちは今こそ希望しています。私たちの声がCOCOPAの法案に盛り込まれ、ここで表明したすべての意見が組み込まれることを望みます。
　全国的な先住民運動が1994年に誕生したものでないことは私たちはよく知っています。運動の歴史は長い歴史をもっています。しかし、メヒコを震撼させた1994年の後、先住民が存在することを知らなかった人たちが、一時的ではあれ、ここメヒコに先住民族がいたということを理解するようになったのです。
　この国において古い歴史をもった主要な住民であったゆえ、先住民族はつねに自治をもって暮らしてきました。だからこそ、先住民族は死に絶えなかったのです。それゆえ、今も私たち先住民族はここに存在しているのです。現在、自治のテーマがあちこちで議論されています。それらの議論は、市民社会、すなわちすべての人々が、先住民族はこの国に別の国を創ろうとしていると考えるようにしているとしか、私たちには思われません。
　私の前にお話した同志［アデルフォ・レヒーノ・モンテス］が、そんなことはないということを皆さんに説明しました。私たちが望んでいるのは、他の人たち全員と共存していくことです。私たちは先住民全国議会がメヒコのあらゆる先住民族の出会いの場となることを希望しています。ミチョアカン州ヌリオで開催された第３回先住民全国議会には、メヒコの43の先住民族が参加したことはそのひとつの証拠といえるでしょう。他の先住民族はその議会に参加できませんでしたが、国内で開催された他の会合には参加しています。ヌリオや他の場所での会合において、私たちは、団結することが不可欠であり、社会における私たち以外の人々と共生することが必要であり、私たちが一致協力して言葉を発するべきであるということを理解しました。私たちの発した言葉については皆さんはすでに御存じと思います。私たちはこの場に私たちの代表、メヒコの先住民族の代表がいることを信じています。
　つまり、先住民族のためだけではない代表者の偉大な責務が存在しているのです。市民社会は前から存在し、私たちにつねに付き添い、回答を知ろうとしているのです。
　そこで、私たちは呼び掛けます。代表者の責務はこの場で終わるのではなく、COCOPA法案が承認されようとも、これからも継続するのです。COCOPA法案の承認によって先住民族の問題が解決に向かっていると私たちは確信しています。しかし、まだまだすべきことがあります。これは政府がメヒコの先住民族のことを考える最初の一歩といえるでしょう。これから、私たちは政府と先住民族の新しい関係を築いていきたいと思います。
　私たち先住民族は、この点に関しては上下院の議員諸氏の皆さんを信頼しています。私たちは信頼しています。なぜなら、皆さんはいくつかの先住民族の市民社会の声であり、代表であるからです。この国会訪問は無駄にならないし、反響を引き起こすだろうと、私たちは思っています。私たちは皆さん方の手に決定権を残しておきます。その決定について、私たちは態度保留をしています。この後、皆さんが私たちに言うことが、私たち先住民族の役立つもののか、害を与えるものかは、すべて皆さん方の回答しだいです。
　ありがとうございます。

　　出典−La Jornada Perfil,29/marzo/2001