＜解説＞ 副司令官マルコスのコミュニケ『ビデオを読む』（1―8部）

＜解説＞
2004年8月15日付の「プス、プス、プス!」で始まる短いコミュニケがLa Jornada に掲載された8月19日の翌日から、『ビデオを読む』という8部からなる一連のコミュニケが発表された。
今年2月に、1994年1月の戦闘におけるEZLNの死者の名簿を発表して以来、ほぼ6ヶ月間、マルコスはいっさいコミュニケを発表していなかった。国際先住民族の日である8月8日に行なわれたカラコルの誕生、つまり五つの善き統治評議会（JBG）と自治協議会の発足の一周年記念行事にも、マルコスは姿を見せていなかった。
　「ビデオを読む」という表題は、今春、発覚した首都のPRD幹部たちが企業家アウマダの資金提供を受領していう場面を撮影したビデオがマスコミで発表されたことから始まった騒動、いわゆるビデオ・スキャンダルと関連していることは明白である。

コミュニケの構成は以下のとおりである。

１―ひとつの小島
2月以降の政治状況についての議論（首都のPRD幹部によるアウマダ資金受領を撮影したビデオ・スキャンダル、現メキシコ市長ロペス・オブラドールの越権行為告発や治安悪化問題による追い落としキャンペーンなどに関するコメント）

２―二つの不履行
女性参加の達成度の低さ、政治軍事組織であるEZLNと善き統治評議会との関係性の曖昧さ

３―三つの肩
重い荷物を担うには双肩とともに、国内外の市民社会という三番目の肩が必要。老アントニオの「三番目の肩」の話。
この1年間の五つの善き統治評議会の収支報告。

４―四つの欺瞞
知識人や政治家、政府やマスコミなどが展開した議論・主張にみられる嘘を指摘。
・ JBGは、行政地区当局、州政府の権限を尊重し連携しており、当局が告発に対応しない場合、JBGの司法裁判権を行使。
・JBG管轄領域での共同体間の紛争、あるいは他組織との紛争、一般犯罪は減少。JBGは、処罰より問題解決を目指す。

５―JBGの五つの決定
次項に翻訳。

６―六つの前進
健康、教育、食料、土地、住宅、善き統治の五つの部門における改善状況。
・健康：
地区単位の共同体保健衛生基本構造確立
保健衛生推進委員、衛生キャンペーン、予防医療、小規模診療所・地域診療所、薬局、医師・専門家
・ 教育：
各共同体に学校建設（50ヶ所新設、300ヶ所の増設）、
教育推進委員の養成
中等教育センターの新設
・ ポロォなどの避難民の問題への対応として250万ペソ投入
・ ガルーチャではエコロジー型農業の推進委員の育成、靴製造、精米、農具修理のワーク・ショップ
・ レアリダーでは適正テクノロジー、家庭医療、エネルギー節減、などの教育
・ 住宅改良（ブロック建築）、物品流通の倉庫建設、共同体売店、民衆食堂の建設。

７―サパティスタ領域の七日間
・ 月曜日―金曜日は五つのカラコレスにおける日常業務の紹介（ロベルト・バリオスに日本の連帯組織の仲間が壁画を描きたいとにやってくるという箇所がある）、
・ 土・日曜はマルコスとロランドやモイとのやり取り。

８―ビデオにドゥリート乱入

＜翻訳＞

『ビデオを読む』第五部 ： 善き統治評議会（JBG）発足後1年間の五つの決定

JBG発足の１年間、数年前に採択された内部合意の一部が条文化され、新しい決定事項になった。森林の保護、麻薬取引、不法入国者の取引、地域内の車両移動、そして行政地区首長や州議会の選挙に関する決定である。

（１）森林保護に関して

JBGにおいて効力をもつ法令の一部を転記する。JBGの各地区ごとに法令の条文は異なるが、本質は同じである。

樹木管理法、あるいは自然管理法

JBG「希望の虹の心」［モレリアのカラコルを本拠とするツォツ・チョフJBG］との合意に基づき、この法律は、反乱自治行政地区の領域において、すべての人に対等に効力を有している。この法律は森林資源を保護するためのものである。森林資源は水、森、酸素などをさす。なぜなら、森林資源はわれわれの生命であり、野生動物の保護を意味するからである。それゆえ、われわれ全員が、自治行政地区の全領域にあるわれわれの森を管理することはきわめて重要であることを理解しなければならない。

われわれJBGは、各行政地区がこの法律を実施するうえで手助けになる苗木育成所を造ることを提案する。
（１） 樹木は、売りさばく目的ではなく、家庭内利用に限って伐採されるべきである。
（２） われわれは、森林資源を管理し保護する義務をもっている。同時に、自治当局の 認可のもと、家庭内使用に限って樹木を利用する権利を有する。
（３） 1本伐採するごとに、伐採者は2本の苗木を植え管理する義務を有する。
（４） 各自治地区は、それぞれの行政地区において内規に従って処罰することになる。
（５） 許可なく樹木伐採を行なったものは、罰として、20本の苗木を植えなければならない。
（６） 認可は土地・領域委員会が担当することになる。

各行政地区において植林を実施する空間がある場合には、植林を実施するという合意がある。植林する木は、共同体の内部で必要となる樹種でなければならない。木を植える候補地として選定する空間は、川岸など、家族の遠足などに適した場所とすべきである。

「11月17日」自治行政地区には４つの植林センターがあり、2千株のセドロの苗が植えられている。その一方、PRI派の人間は、われわれが中止を求めてきたけれども、10年間にわたって伐採許可を獲得しつづけている。われわれの理解するところでは、われわれのこの要請が、彼らにとっては、挑発と映っているようである。

（２）麻薬の栽培、取引、流通、使用に関して

この法令は戦争開始以前のものだが、JBGは麻薬取引の禁止を正式に条文化してきた。以下に、その一例を示す。

「サパティスタ領域のJBGは麻薬の栽培、取引、使用を全面的に禁止する措置をとっている。この禁止を侵した者はサパティスタ法令に基づき追放されることになる。こうした麻薬の材料となる植物を作付けするようなサパティスタ支持基盤組織は組織から排除され、当該人物はその人物の属する共同体空から排除されるだろう。同様の措置は、麻薬を消費した者にも適応される」

「麻薬作物の作付け耕地が発見された場合、植物はすべて焼却・破壊する。麻薬作物の作付けを行なっていた人物は、作物を焼却するために要したガソリンの野費用など、破壊措置に要した費用を負担することになり、組織から追放される。麻薬を消費した人物は10日間の労働と半年間の組織からの追放という処罰を受けることになる。JBGとの合意に基づいて、その管轄地区にある各行政地区は、毎年、探査を実施し、こうした不法行為を行なう人物がいないような安全な状態を確保すべきである」

（３）JBG管轄地区における車両の移動に関して

JBGの内部において、地区を移動する車両は登録しなければならない。この措置は、人間、麻薬、武器、材木の違法取引を避けるためである。この規制によって、JBGは犯罪行為に使われている車両を停止させ、調査できる。もし、罪を犯している場合、その人物がサパティスタなら、われわれの法律に基づき処罰することになる。サパティスタでない場合、政府側の公的当局者に引き渡す。
サパティスタの車両を登録することで 、輸送経路を整理することが可能になる。それによって、人々は、1日を通して輸送サービスを受けられるようになるし、いろんな輸送業者組織の間の紛争を回避することができる。
サパティスタの領域が盗難車やチョコレート車［米国からの不法中古輸入車］の楽園になることを避けるため、JBGの車両登録証は、公式の車両登録書類をもつ人物だけに与えられる。つまり、JBGの車両登録を取得するには、ナンバー・プレートと車両運行許可証が必要となる。車両の運転者は運転免許証をもたねばならない。

（４）不法入国者の取引に関して

数ヶ月前、 JBG、自治協議会、そしてすべてのサパティスタ共同体に以下の通達が回された。

近頃、ポジェロと呼ばれる連中の案内で合州国に向かう不法入国者が急増している。ポジェロは人身売買に携わり、彼らを働くために合州国に連れて行くと約束し、多額のお金を徴収する。大半の場合、ポジェロはメキシコやアメリカ諸国の男女を騙し、彼らを車両に隠れたまま遺棄し、砂漠に放置するのである。そして、この男女は（子どもの場合もある）予期しない死を迎えることになる。

ポジェロはメキシコ連邦政府当局と利害が一致していることは周知のとおりである。つまり、それは商売の一部である。仕事のために合州国に行く道を探してきた外国の男女の圧倒的多数は、貧しく慎ましい人々である。彼らの権利や尊厳はポジェロ、メキシコや合州国の当局者によって侵害されている。

それゆえ、サパティスタ領域で、国内外の人間の取引は重大犯罪と宣告することに決定した。このことをすべての当局者に知らせ、この原則が遵守されるよう監視の強化を促した。また、人身売買に参加し、ポジェロの連中を支援し保護するEZLNの構成員は処罰されるようにした。深刻な場合は、われわれの組織から追放する。

CCRIやJBGの監視委員会は、サパティスタ、支持基盤組織、責任者、自治委員会あるいは自治当局が人身売買という罪を犯し、支援し、保護することのないように監視する。なぜなら、それは人類に対する犯罪にほかならないからである。

サパティスタ領域で発見され、拘束された人身売買に従事する人物、ポジェロは全員、徴収したお金を被害者に返却しなければならない。警告を与えた後、再び罪を起こした場合、権限を有する当局に被疑者を引渡し、メキシコの法律に基づいて処罰を受ける。

非合法に輸送された人々は国籍に関係なく、全員が解放され、（医療サービス、宿泊、食事の一時的な提供など）可能な限りで支援を受けられる。そして二度と騙されないよう彼らに助言を与える。

すべての人間は、国籍を問わず、サパティスタ領域を自由に行き来する権利を有する。しかし、JBG、自治行政地区、 先住民共同体の定める法律に従わなければならない。

JBGとサパティスタ叛乱自治行政地区は、サパティスタ支持基盤組織の同志　ならびにサパティスタ領域に居住する他の組織の構成員にもこの勧告について報告する。この犯罪に従事するサパティスタは、同志として認知されないことを知っておかねばならない。

その結果は？　いくつか事例を挙げよう。

モレリアのJBGに関しては、次のような事例が報告できる。
「不法入国者の問題に関しては、エルネスト・チェ行政地区においては、地区内で一人のポジェロを拘束し、2日間収監し、再犯の場合、懲罰は厳しくなると警告した。不法入国者には宿泊場所を提供し、道中は危険であると告げて、解放した。また、ある同志が彼らにポソールを高い値段で売ったので、間違いを犯したこの同志に懲罰を課した」

ガルーチャのJBGに関しては以下のとおりである。
「不法入国者を騙したポジェロたちは拘束され、お金を返済させる。サパティスタ領域では、不法入国者に食料、水、宿を売ることはいっさい禁止されている。彼らはわれわれのように貧しいので、彼らに水、食料、宿を売りつけるのではなく、提供することが義務である。ポジェロは、再度拘束されれば、悪しき政府の当局者に身柄を渡すことになる。」

ラ・レアリダーのJBGに関しては次のとおりである。
「中米やラテンアメリカの不法入国者に対して、JBGがどのような存在かを直接語ることにしている。なぜJBGがEZLNの闘争の成果なのか説明する。EZLN文民当局者、そして支持基盤組織であることを説明する。人々の意志に基づいて統治することの七つの原理や自治について説明する。自治当局がどのようなもので、新自由主義やプエブラ・パナマ計画に反対して戦っていることを説明する。　　
彼らには、次のような助言を行なっている。自分の土地を捨てないようにしよう。小さくても自分の土地を耕作するほうが安全である。自分の国で民主主義、自由、正義のために戦う方がよい。アメリカに向かう道で多くの人が亡くなっており、アメリカに抱いている夢は確実なものでない。われわれも彼らと同じ存在であり、われわれとの間に問題はないので、自由に移動できる。彼らの移動の経費として多額の金銭を奪い取ることは認められない。それによって不法入国者取引を行なう企業は金持ちになっている。　
彼らには食料、清涼飲料水、菓子などを与えた。すると、不法入国者は信頼し、彼らの生活を話してくれる。何人かは国でラジオ・インスルヘンテを聴いたと言っている。彼らは感謝の意を表明する。
ポジェロの身元を確認し、彼が携帯していたお金を中米の不法入国者全員に均等に分配する。ポジェロには、次に同じ行為を犯す現場を取り押さえれば、処罰すると警告した。
別のケースでは、徒歩で移動していた中米人グループがJBGに訴えてきたので、ポジェロを拘束したことがある。ポジェロはグアテマラ国籍で、ホンジュラス、グアテマラ、エルサルバドルの人を連れていた。彼は、27名の中米国籍の人から一人当たり1500ペソ（約1万6千円）を徴収したと言った。彼の持ち物検査をすると31,905ペソ、700ケツアル、31ドルがあった。それらを取り上げ、不法入国者に均等に分配した。メキシコ人の移住労働者の斡旋者に6ヶ月収監という措置が宣告され、現在、彼は収監中である」

（５） 2004年10月3日のチアパス州地方選挙に関して

今年7月、チアパス州選挙管理委員会の代表団が各JBGに赴き、州選挙管理委員会の作業の実施を認可するための合意を締結しようとした。以下は派遣委員に対する回答である。

メキシコ・チアパス州選挙管理委員会　事務局長宛
メキシコ・チアパス州、トゥストラ・グティエレス

紳士淑女の皆さん
皆さんに以下の諸点をお知らせします。

１．2004年7月14日付けの書簡を受け取りました。その書簡はサパティスタの土地における州選挙管理委員会の作業の便宜をはかってほしいと、このJBGの支援を要請するものでした。

２．ご存知のように、選挙は人民の利害にかなう正しい道であると、われわれは考えていません。しかし、選挙がメキシコ人民の問題を解決するための道であると今なお信じる人がいることをわれわれはよく知っています。諸政党の評判の悪さはとてつもないものです。なぜなら、連中は、大多数の人たちではなく、自分たちの利害しか見ません。しかし、上にいる人たちにも何か誠実なものがあるはずだと考える人が存在することも確かです。

３．JBGとしてのわれわれの仕事は、サパティスタ、非サパティスタ、さらに反サパティスタを問うことなく、サパティスタ領域にいる人の多様な考え方や行動様式が全面的に尊重されているかを監視することである。われわれはすべての人を力ずくでサパティスタにする気はなく、誰もが自分のなりたいようになればよいと考える。異なっている考え方や行動様式を尊重しあうべきである。

４．それゆえ、われわれは皆さんに明言したい。このJBGの管轄区域の以下に掲げる自治行政地区を構成している共同体において皆さん方の仕事を行なうことには、何の問題もない。皆さんにお願いしたいのは、われわれは投票しようとする人々の意志を尊重するので、皆さん方も、投票したくない人の意志を尊重し、したくないことを強制するようなことはしないでほしい。

５．われわれのJBGの管轄する領域において、皆さん方が作業を行なうことは保証されている。共同体の意志をつねに尊重するなら、皆さん方が何の支障もないものとわれわれは考えている。2004年10月3日の選挙に先立つ数日間、チアパス州選挙管理委員会はわれわれJBGの管轄区域にあるサパティスタの共同体から妨害を受けることなく作業できるだろう。

６．われわれは皆さんに言明しておきたいのは、皆さん方の書簡でわれわれの管轄区域にあるとされている共同体の一覧のなかには、われわれのJBGではなく、別のJBGに属するものが含まれている。それゆえ、彼らの許可を得るためには、当該のJBGの仲間たちにも書簡を渡すことを勧めたい。彼らもわれわれと同じように丁寧で敬意ある形で対応するものと確信している。

７． 皆さんもご存知のように、両者の側に相互に尊重しあう気持ちがあれば、お互いを理解しあえる。われわれサパティスタは何も押付けるつもりはない。われわれのことを尊重してほしいし、異なる人たちのあいだでよい合意ができればと望んでいる。

皆さんのご配慮ある書簡に感謝し、皆さんに挨拶を送ります。

敬具

関係するJBGメンバーの署名

　出典―La Jornada　2004年8月22日

＜翻訳＞

『ビデオを読む』第三部 ： 三番目の肩 （老アントニオのお話）

夜の肩に月が現れた。しかし、それは一瞬のあいだだった。カーテンを開くように雲行きが怪しくなった。夜の身体は光の痕跡を照らし出した。歯が肩に残す跡のように、欲望の飛行では、下降なのか、上昇なのかは分からない。

20年前、メヒコ南東部の山中に入るため、最初の丘を苦労して登った後、私は道の曲がり角に座り込んだ。時間は？正確には覚えていない。しかし、コウロギの鳴く声が素晴らしいので寝ることにしようと夜が言い、誰も太陽に起きるように言っていない時間帯だった。つまり、夜明け前だった。
私は呼吸と胸の動悸を静めながら、もっと楽な職業を選択するほうがよかったかなと考えていた。ともかく、私の到着までは、これらの山々は私がいなかったのでうまくいっていた。少なくとも私が倒れ込むことはなかった。
その時、私はパイプに火をつけなかったと言っておくべきであろう。それどころか、まったく身動きできなかった。それは軍事的規律のせいではなく、私の当時は美しかった身体の節々が痛かったからである。その時に、現在まで継続している習慣を始めることになった。つまり、問題に首を突っ込むという私の癖に対する悪口を言いはじめた。

そうしている最中、つまり不平、不満、愚痴という気晴らしをしている時、玉蜀黍の袋を肩にした男性が丘の上の方から歩いてくるのを見つけた。荷物が重いのか、その男は腰を曲げて歩いていた。私は前進を遅らせるため、丘の半ばぐらいで荷物を下ろした。私にとっては、リュックではなく、人生が重かったからである。結局、その場に私がどれくらい座っていたか覚えていない。しばらくして、その男性が丘の麓で荷物なしで歩いているのを見かけた。しかし、その男性は相変わらず腰を曲げて歩きつづけていた。
「なんてこった！」と私は考え込んだ（それは自分の身体を痛めつけなくてもできる唯一の動作だった）。「このままだと、時とともに私はダメになる。私の男前ぶりも廃れ、私のセックスシンボルとしての未来も、選挙と同じもの、つまりインチキになってしまう」
実際、数か月間、疑問符のように私は歩きつづけた。リュックの重さではなく、枝や蔓に鼻を引っ掛けないようにするためだった。

それから、ほぼ1年後、私は老アントニオに出会った。
ある夜明け前のこと、トスターダとピノーレを受取るため、私は彼の小屋に行った。当時、われわれは人々の前に公然と姿を見せず、一部の先住民だけがわれわれのことを知っていた。老アントニオが設営地までついて行くと申し出たので、荷物を二つの袋に分け、ひとつを彼のメカパルに乗せた。メカパルがなかったので、私は袋をリュックに入れた。ランプをつけ、森林が始まる牧草地の端まで、われわれは少しばかり歩いた。小川の前で立ち止まり、夜が明けるのを待った。

私が何を話したのかよく覚えていない。しかし、老アントニオは、先住民が、荷物を担いでいないのにいつも腰を曲げて歩いている理由を説明してくれた。先住民は、他者の財産もその双肩に担いでいるからである。私は理由を尋ねた。最初の神々、世界を誕生させた神々は、玉蜀黍の男と女を集団で歩くようにしたと、老アントニオは私に語った。集団で歩くことは、他者のこと、つまり仲間のことを考えることを意味すると、彼は言った。
『だから、先住民は腰を曲げて歩く。その双肩には、自分の心だけでなく、全員の心が載っている』

そんなに重いものなら、二つの肩では足らないと私は考えた。時間が経過し、いろんなことが起きた。戦う準備を怠っていたわれわれはこの先住民たちにいちばん最初に敗北した。彼らもわれわれも腰を曲げて歩いてきた。われわれが担いだのは傲慢という重さだったが、（われわれはそれに気づかなかったが）彼らはわれわれを担いでいた。こうして、われわれは彼らに、彼らはわれわれになった。この重みは両方の肩では支えきれないことが分かっていたので、われわれは、腰を曲げて、いっしょに歩きだした。こうして1994年1月1日、われわれは武装蜂起した。われわれが歩くこと、つまり存在であることを助けてくれる三番目の肩を探すためだった。

メキシコという国の起源と同じように、サパティスタの先住民共同体における現代の歴史も、基本的伝承をもっている。それは、この地に居住するものは、今では三つの肩を持っているというものである。ふつうの人々が通常もっている二つの肩に加え、サパティスタは三番目の肩を付け加えてきた。それは国内外の市民社会である。

この「めずらしい」ビデオの後半部で、サパティスタの共同体が獲得した前進について話すことにする。その時、皆さん方はどのくらい大きなものだったか理解できるだろう。そんなに重いとはわれわれも夢にも思っていなかった。

　出典―La Jornada,2004年8月22日

＜翻訳＞

『ビデオを読む』第八部 ： ドゥリート乱入

最後の文字が終わると、ビデオ画面は青くなった（それが厚紙であると知っていたが、ビデオが続いていることは分かる）。何かを期待して座っている観衆はほんの少しだけだった（最後の後にまだ何かが出てくるビデオがあることを理解していた）。すると、そこで、（私を含め）誰も予測していなかったが、画面（つまり厚紙）にカブト虫が登場し、以下の台詞を喋りだした。

「さあ前進だ！前進するのだ！拍手なんかは不要だ。女性たちは溜息をやめなさい。男性のお歴々は嫉妬を押さえなさい。こどもたちは、スパイダーマンのポスターに殺虫剤を吹き付けないようにしなさい。私こと、偉大なるラカンドン密林のドン・ドゥリート様が登場するのは、この…ビデオ？のランキングを上げるためだけだから、ほんの短時間だけだ」

実際、この第八部は、七部構成だけを信じていた人たちの予測を傷つけるため、ふざけて挿入したものである。なぜなら、最初の神々は、ブツ、ブツ。今回が八部構成とすると、次回は六部構成？かもしれない。

銀河系間テレビ・サパティスタ・システムのディレクター委員会（つまりその類のもの）を代表し、われわれは皆さん方の注意をそらせ、煩わせたことをお詫びしたい。この法律違反者たちの「情熱的な」番組で、ゴールテープのカット、銀メダル、「大学都市のスタジアムでの試合」（カッコつき）の圧倒的な試合展開、そして最後に述べるが大事な政府の年次報告（このテレノベラの結末は分かっているので皆さん方の関心を引けるかどうかは分からない）を再び放映することにする。

われわれのチャンネルを選びつづける奇特な人がいるなら、生中継の！ゴム長靴を履いた連中のオリーーーーンピック！の場に参加するチャンスがある。そう、「より低く、より遅く、より弱く」という標語を掲げ、サパティスタは長年にわたって敗北する練習を積んできた理由を誇示することになる。皆さんは自分の良識に基づいてコミュニケーションを保てば、どこであろうとそうしたイベントを見ることができる。最初に契約したものは、われわれの選り選りの番組以外に、X指定（規制適用です）にならないポーズをしている私の自筆サイン入りのポスター（５メートル四方の手頃な大きさ）を受けとれる。

チャンネルを変えないで。われわれは戻ってくる 。
（もう、続きはなし。でも、もっと後にあるかも）

メヒコ南東部の山中より
副司令は、タマーレスのせいで、小走りでトイレに急行。二番目に着くように、余り急いでいかないように注意していた（最初に、われわれに何らかの「呼びかけ」があるかを確かめるために）。

　　出典―La Jornada, 2004年8月28日