苦悩から希望への長い道のり (1995･9)
副司令官マルコス
一九九四年一月チアパス州オコシンゴの戦闘で倒れた、ツェルタルの貴公子にして、ＣＣＲＩ－ＣＧ・ＥＺＬＮ創始者である同志イクッへ捧げる（彼はどこにいようとも）。
「彼がやってきたとき、われわれは暮らしていた。
貧しき者たちのすむ城の奥底で。
そこには、われわれと同じ境遇の者、
共犯者、友人たちが数多くいた。
そこから、価値ある帆が立ちあげられたのである。
われわれはその帆が揺るぐことのないようにした。
いつか、われわれは理由を知ることになる。
それはわれわれが勝利するとき。
長い鎖に繋がれた多くの愛する人たちが、
牢獄から出てきた。
ほんの少しの不正、少しの恥辱だけで、
それだけで十分苦々しいのだ。
ひとつの世界を創るために、すべてを飲む必要などない。
必要なのは幸せであり、それ以外はいらない。
幸せになるには、物事をはっきりと見つめ、
戦うだけでよい。
われわれは一時たりとも待機することはない。
頭をあげよう。
大地を強奪しよう。」
－パウル・エリュアー－
メヒコ ：
夢、悪夢、目覚めのはざまで
第一章：二四名の半魚人が歌っている新自由主義の歌、黄金という岩礁、意気消沈という砂州への座礁、荒れた海で海賊（ＥＺＬＮ）を待ち受ける危険についてお話しよう。
祖国は語る。
Ⅰ 祖国は自らの苦悩を語る
一片の土地しか、私に与えられなかった。
呻いている土地、
傷跡だらけの土地、
塞がらない傷だらけの土地、
打ちのめされ倒された土地。
呪咀しか、私に与えられなかった。
それは尽きることがない。
苦渋だらけの倒壊した家のようなものである。
歴史のなんたる重みよ！
私は裏切りと強奪に曝され、
次々と屈伏を繰り返し、
悲惨さは積み重なっていく。
帝国の鷲は私の内臓をつばみ、
権勢家どもは分捕りあっている。
私の海や山を、
私の川や荒野を、
私の盆地や渓谷を。
これらが私が抱える苦痛である。
あまりに大きく、尽きることはない。
そう、傷ついた私の土地の苦痛、
疲弊した私の大地の苦痛、
裏切られた私のこどもの苦痛、
敗北した私の戦いの苦痛・・・。
この国には、高層階または地階を通って到着できる。地階のメヒコには、ぬかるみのなかを徒歩で、泣きながら到着することになる。一九九三年、オコシンゴ地区のサン・キンティン村の近くで、あるグアテマラ人と話しあったことがある。彼は不可能としか思えない長い旅を始めたばかりだった。メヒコの土地を経由してアメリカ合州国まで行く旅である。目的地に辿り着くため、お金や健康、生活や尊厳まで犠牲にしなければならない。
家族を引きつれ、貧困や死という悪夢を乗り越えながら、彼はチアパスから北バハ・カリフォルニア州まで歩き通さねばならないはずだった。
われわれは彼に質問した。なぜ、危険を冒してまで合州国に行くのか。なぜ、行程の途中で横切るメヒコのどこかの州に滞在して働く気はないのか。馬鹿にしたような笑いを浮かべながら、彼は答えた。
「そんなことをするほど、俺はアホじゃない。俺たちがグアテマラ［悪いグアテマラ］にいるとしたら、あんたらはグアテペオル［よりひどいグアテマラ］にいるんだから」
そして、メヒコの北の国境まで到着したものの国境警備隊によって追い返された人たちがしていたという話をいくつも語ってくれた。観光用プロモーションのイメージとかなり隔たっているメヒコ人、政治的暗殺、腐敗した官僚、物乞い、北米の物価と中米の賃金、白色警備隊、貧困と絶望のなかで暮らす人々について、われわれは話し合った。
その話はわれわれにはお馴染みのものであった。それはこの国の地階に住み着いている悪夢にほかならず、その悪夢がわれわれを一九九四年の一月に目覚めさせたのである。
一九九四年：高層階のメヒコには・・・
飛行機で行ける。連邦地区、モンテレイ、グアダラハラあるいはアカプルコにある飛行場は、上にも下にも行かないエレベータへの入り口である。そのエレベーターは、国内のもっとも富裕な二四名の人間たちのいる世界、新自由主義を運営している政府機関の事務所、国旗がもっとも普及している企業経営者のクラブ、保養センターといった近代的なメヒコのロビーのなかを水平に走っている。保養センターの本当の役割は、自分の足の下にあるものを見つめたくない階級を映しだす鏡になることである。彼らの足の下には、地階のメヒコ、自らの足で歩む泥まみれのメヒコへと下る迷路にみちた長い螺旋階段がある。 この国の地階に暮らす人々の血や汚辱の上で、強大な権限を有する二四名の人間は、近代化を標榜した六年に及ぶサリナス政権の期間に貯めこんだ四四一億ドルを勘定することに忙殺されている。
高層階のメヒコは下を見つめる時間などない。複雑なマクロ経済の勘定に忙しく、口契約やお世辞とともに、インフレ指数、国外投資の利率や割合、輸出入に関する利権、財産リスト、経済収支などをやりとりする。そこでは祖国や尊厳はなんの価値もない。長期の保証付の公的対外債務は、一九七〇年には三一億九六〇〇万ドルだったものが、一九八九年には七二六億五七〇〇万ドルになった。一九七〇年の二七億七〇〇〇万ドルだった保証付きでない民間の債務は、一九八九年には三九億九九〇〇万ドルにまで増えた。一九八九年には短期の公的対外債務は一〇二億九五〇〇万ドルであった。一九九〇年代の初期には債務額は九五六億四二〇〇万ドルになってしまった。
この国は支払う債務の額は年毎に増加しているはずなのに、逆に債務額も増えつづけている。一九七〇年には皆無であった国際通貨基金からの借款は、一九八九年には五〇億九一〇〇万ドルにまで達した。工業や商業部門での経済的成長はメヒコの農村部から多くのものを奪いとった。一九六五年から一九八〇年の間の農業部門の成長率は年平均三パーセントにまで達していた。しかし、一九八〇年から一九八九年の期間の年平均成長率は一パーセントにとどまった。
外国との貿易に関しては、輸入の統計数値は複雑な事態を物語っている。一九七四年の穀物輸入額は二八八万一〇〇〇トンであったが、一九八四年には七〇五万四〇〇〇トンにまで増えた。輸入総額に占める食料品の割合は、一九六五年には五パーセントだったが、一九八九年になると一六パーセントまで上昇した。それと同じ期間に、輸入総額に占める機械類や車両類の割合は減少した（一九六五年には五〇パーセントであったが、一九八九年には三四パーセント）。一方、輸出に関しては次のような数値がある。一九六五年には輸出総額の二二パーセントを占めていた燃料や鉱物資源の割合が、一九八九年には四一パーセントまで増えた。国外に売られる機械類や車両類が占める割合は、一九六五年には一パーセントであったものが、一九八九年には二四パーセントにまで増えた。基本的消費物資の割合は、一九六五年には六二パーセントあったが、一九八九年には一四パーセントにまで減少した（国際復興開発銀行・世界銀行の一九九一年七月発表のデータ）。
カルロス・サリナス・デ・ゴルタリ氏は高層階のメヒコでは大統領である・・・ただし投資家の審議会の総裁である。メヒコの新しい政策のなかで、近代化という掛け声のもとで、官僚は一種のマンション販売人、共和国の大統領はメヒコ株式会社という巨大企業の販売責任者に変貌してしまっている。国家政党に属する政治家には、うまい商売が待っている。父権的な庇護のもと、メヒコ人政治家の新しい世代、元大統領ミゲル・アレマン・バルデスの世代、いわゆる「ミスター・アミーゴ」たちが大手を振って歩き回っている。 新しく選出されたエルネスト・セディージョは、アメリカン・ドリーム（金持ちや政治家になる貧しい少年）という詭弁や、もう四八年も前からあるというのに近代的と称されている経済計画なるものを繰り返している。流動資産、信用資金、市場の不足という死神が舞い戻り、その鎌で中小企業家の首をはねるだろう。
自由市場という「ジャングルの掟」によって、独占の進行と雇用の減少という現象が繰り返されるだろう。
新自由主義経済政策では「成長する」とは「売る」ことを意味している。政策を実施するには市場のテクニックを行使しなければならない。
高層階のメヒコの「住民」は、外国の機関によって、遅かれ早かれ「年男」に指名されるだろう。指名されるためには、・・・以下の指令に従うべきである。
「年男」に指名されるための指令
(１)テクノクラート官僚、悔悛した反対派、名義貸しの企業家、労働組合ボス、家主、農園主、コンピュータを操る錬金術師、「輝かしい」知識人、テレビ、ラジオ、ならびに御用政党には、細心の注意を払いながら仕事を世話しよう。彼らをひとつのフラスコに入れ、「近代」というラベルを付ける。
(２)農業労働者、土地をもたない農民、失業者、工業労働者、ポストのない教師、順応しない主婦、住宅やサービスを要求する者、少数の誠実な新聞、学生、同性愛者、体制反対派を選びだそう。彼らを別のフラスコに入れ、「反メヒコ」というラベルを付ける。 (３)ひとりの先住民を選びだそう。民芸作品を切り離し、先住民の写真を撮る。民芸作品と写真を別のフラスコに入れ、「伝統」というラベルを付ける。
(４)そして、先住民は別のフラスコに入れ、「無視してよい」というラベルを付ける。この最後の作戦のあとに、殺菌消毒することを忘れてはならない。
(５)よろしい、これで「メヒコ、一九九四年から二〇〇〇年、世紀末の大バーゲンセール」という看板をかかげた店が開店できる。
(６)写真に映るときは微笑みなさい。あのような悪夢によって目のまわりにできた隈は化粧して隠しなさい。注意：手元には、ひとりの警官、ひとりの兵士、そして外国への航空券を所持しておきなさい。いつ必要になるかもしれません。
高層階のメヒコは外国には関心をもたない。外国に関心をもつには、民族性が必要となる。ますます狭くなっているこの高層階において、真面目に話されるのを耳にすることがある国といえば、現金の国でしかない。この国には祖国などなく、あるのは損益計算の指標だけである。歴史的事件は証券取引所で起き、高層階での現在の英雄といえば、売り上げの多い人である。別の（真の）歴史のある理由から、この高層階は、拡張するのではなく、急速に収縮している。この階にとどまれる人はますます減少している。ある時は丁重に、ある時は乱暴に、不適格者は・・・階段を降りざるをえなくなる。大きな国際空港へと通じている高層階のメヒコのエレベーターは、昇りも降りもしない。ここを出るには、下降するしかない。墜ちつづけて、到着する場所は・・・
中層階のメヒコ・・・
そこへは自動車で行ける。そこは都会である。そのイメージたるや連邦地区のカーボンコピーでしかなく、国内のいろんな場所において繰り返し登場する。その具体的なイメージをみれば、極端な豊かさと貧困が隣り合って存在するという矛盾を否定することなどできないし、中層階のメヒコはひどい悪臭が漂っている。集団的精神が失われるとともに、その中ではなにかが腐りだしている。中層階のメヒコは、外国に対する関心をたしかにもっている。高層階のメヒコに昇るための道はこの国ではない国を通っていると、なにかが彼らに教えている。メヒコにおいて「成功する」には、外国へ行かねばならない。身体そのものを外国に運ぶ必要はない。歴史や野心の面で行けばよい。成功の同義語としてのこの亡命願望は、国境を物理的に越境することとなんら関係ない。国境を越えながらも、留まる者もいる。国境内に留まりながら、国境を越えている者もいる。連邦内には、周縁化指数がきわめて低度の州は、連邦地区、ヌエボ・レオン、北バハ・カリフォルニアの三つしかない。周縁化指数が低度の州は、コアウイラ、南バハ・カリフォルニア、アグアスカリエンテス、チワワ、ソノラ、ハリスコ、コリマ、タマウリパス、メヒコ、モレロスの一〇州である。周縁化指数が中度なのは、キンタナ・ロー、シナロア、ナタリー、トラスカラの四州である。中層階のメヒコは、かなり劣悪なかたちで生き延びている。自分たちは生きていると思っているだけである。高層階のメヒコがもつ欠点をすべてもっている。歴史を見つめようとせず、厚顔無恥で、日和見主義的で、輸入製品で埋め合わせることのできる心の隙間は無きに等しい。経済的不安定、安全性の欠如、混乱、徐々に喪失していく希望、どこでも自動車の窓から触れることのできる貧困は、低層階のメヒコの欠点もすべて兼ね備えている。遅かれ早かれ、中層階のメヒコは自動車から降りなければならい。お金が手もとにあるならタクシーに乗り、乗り合いタクシーや地下鉄に乗り、バス・ターミナルに向かい、さらに下に向かって行かねばならない。そして到着するのは・・・
低層階のメヒコ・・・
低層階のメヒコには瞬時にして到着できる。絶えることのない紛争を抱えながら、中層階のメヒコと一緒に住んでいる。周縁化指数が中度、低度、きわめて低度というメヒコの一七の州においても、住民の半数は狭い住宅に重なりあうように（一部屋に二人以上）暮らしているし、「中層階」の州で生活しているメヒコ人の五〇パーセントが、最低賃金の二倍以下の収入しか手にしておらず、きわめて貧困な状態におかれている（トラスカラ州では住民の四分の三が貧困状態である）。
アグアスカリエンテス、チワワ、ハリスコ、コリマ、タマウリパス、モレロス、キンタナ・ロー、シナロア、トラスカラでは、一五才以上の人口の三分の一が小学校を修了していないし、ナヤリー州ではその比率は四〇パーセントを越す。トラスカラ州では三分の一の住民が排水設備をもたない。キンタナ・ローとシナロアでは、住民の四分の一が土床の上で生活している。ドゥランゴ、ケレタロ、グアナフアト、ミチョアカン、ユカタン、カンペチェ、タバスコ、サカテカス、サンルイス・ポトシは、強度の周縁化指数を示す。一五才以上の住民の半数近くは小学校を卒業しておらず、三分の一は排水設備をもたず、三分の二近くは狭い住宅に重なるようにして暮らし、六〇パーセント以上は最低賃金の二倍未満の収入しかない。
低層階のメヒコは、内的な区分線や境界があるにもかかわらず、都市や農村の空間を共有したり、取り合いしたりすることはない。農場、大農園、大農企業は、エヒードや農民共同体に自分たちが所有する農村の空間を押しつける。都市の低所得者居住地区、その名義や立地、備えているサービス、住民の話し方、衣服、娯楽、教育などの要素すべてが、メヒコの諸都市を支配している無秩序を制約し、分類し、秩序づけ、落ち着かせようとしている。収入、社会的地位、政治的関心を序列化する必要はない。どの都市のどの地区に住んでいるかを言うだけで十分だ。都市の内部にも、何千もの都市が、争い、生き延び、闘争しながら存在する。農村部で分類の指標となるのは、輸送手段となっている車両、衣服、銀行の経営者の関心度である。メヒコの農村における地位は、公権力や金融機関の待合室で人が待たされる時間で決められる。低層階のメヒコでは、ポルフィリオ期の大農園主の館が、メヒコの農村に近代を浸透させている銀行の事務所によって賄われている。
低層階のメヒコは闘争に関心をもっている。勇敢で連帯の心をもつ。若者のグループ、近隣居住集団、遊び仲間、同じ人種、ダチ公である。行進や集会、土地占拠や道路封鎖を行なう。「奴らなど信じるものか！」、「人の言いなりにならないぞ！」、「かまわないさ！」である。低層階のメヒコは、教師、左官、配管工、工場労働者、運転手、サラリーマン、地下鉄・バス・乗り合いタクシーで通学する学生、道路清掃人、地方言葉を話すトッラク運転手、主婦、小店舗営業者、行商人、農地主義者、零細・小規模小売り人、鉱山労働者、低所得都市住民、農民、エヒード農、農業労働者、港湾荷揚げ労働者、漁師、船乗り、古着商人、肉屋、工芸人、そして低層階のメヒコなら、どのバス、どの街角、どの一角、どの場所にでもいる大勢の人々からなる。低層階のメヒコは、刑務所、略奪、差し押え、襲撃、首きり、強制立退き、拉致誘拐、拷問、失踪、蛮行、死に曝されている。低層階のメヒコはなにももっていない。・・・しかし、そのことに気付いていない。低層階のメヒコは人口過剰という問題を抱えている。悲惨と絶望に関するかぎり、低層階のメヒコは百万長者である。低層階のメヒコでは、都市と農村、滑走と墜落、闘争と敗北とは、隣あわせになっている。低層階のメヒコは十分すぎるほど底辺にある。その下にはなにもないとさえ思われる。あまりにも低すぎるのため、この小さな入り口はまったく目に入らない。その入口から通じるのは・・・
地階のメヒコ・・・
地階のメヒコには、裸足、ワラッチェやゴム長靴、そして徒歩でたどりつく。そこにたどりつくには、歴史を下るとともに、周縁化指数を上げていかねばならない。地階のメヒコは最初から存在していた。メヒコがまだメヒコでなかった時代、すべてが始まった時代から、現在の地階のメヒコはすでに存在していたし、生きていた。地階のメヒコは「先住民」である。五〇二年前、コロンブスは到達した土地がインドであると考えていた。それ以降、この大地に住む人々は「インディオ」と呼ばれるようになった。地階のメヒコは次のような人々からなる。マサワ、アムスゴ、トラパネコ、ナウァトラカ、コラ、ウィチョール、ヤキ、マヨ、タラウマラ、ミステコ、サポテコ、マヤ、チョンタル、セリ、トゥリキ、クミアイ、クカパ、パイパイ、コチミ、キリワ、テキストラテコ、パメ、チチメカ、オトミ、マサテコ、マトラツィンコ、オクイルテコ、ポポロカ、イシュカテコ、チョチョ－ポポロカ、クイカテコ、チャティーノ、チャイナンテコ、ウァーベ、パパゴ、ピマ、テペウァーノ、グアリヒオ、ワステコ、チュフ、ハカルテコ、ミヘ、ソケ、トトナコ、キカプ、プレペチャ、オダーム、ツォツィル、ツェルタル、トホラバル、チョル、マム。
地階のメヒコとは先住民である。・・・ところが国のほかの人たちにとっては、地階のメヒコは、自らのことを語ることもないし、生産も売買もしない存在である。すなわち、彼らは存在していないのである・・・。自由貿易協定の条文を検討すれば、この政府にとって、先住民などは存在していないことがわかるだろう。一九九二年一〇月七日（まさしく、「アメリカ発見」五〇〇周年「記念」の五日前）の自由貿易協定条文の付属文書一〇〇〇・ａ－一項を読んでください。サリナス政権は「連邦政府機関」の一覧に国立先住民庁を入れるのを「忘れ」ていることに気づくだろう。われわれが山中に入って長い時間が経っているので、国立先住民庁はすでに民営化されているのかもしれない。しかし、「社会復帰のための援助協会」「農畜産の商業化にむけた公益事業支援」「アンドレス・ブスタマンテ・グリア博士人間コミュニケーション研究所」などのよく知られている民間機関などが、「政府機関」として記載されているのだから、驚いてしてしまう。それに引き替え、カナダでは、「先住民問題・北部開発局」にほかならないインディアン問題・北部開発局が政府機関として挙げられている。
地階のメヒコには伝統と貧困が山積されている。周縁化指数は最強度で、栄養状態はいちばん劣悪である。三二州のうち六州は周縁化指数は最強度である。しかも、その六州では先住民の比率がきわめて高い。プエブラ、ベラクルス、イダルゴ、ゲレロ、オアハカ、チアパスの六州である。
メヒコにおける階層化は、行政地区のなかでもみられる。メヒコ全体で二、四〇三の行政地区がある。そのうち、周縁化指数が強度、最強度を示すのは一、一五三地区、中度および低度を示すのは一、一一八地区、そして最低度を示すのはわずかに一三二地区だけである。先住民人口の比率が高い州としては次のとおりである。先住民人口比率が高率、最高率を示す地区の数は、チアパス州では一一一地区のうち九四地区、ゲレロ州では七五地区のうち五九地区、オアハカ州では五七〇地区のうち四三一地区、プエブラ州では二一七地区のうち一四一地区、ケレタロ州では一八地区のうち一〇地区、サンルイス・ポトシ州では五六地区のうち三三地区、ベラクルス州では二〇七地区のうち一三〇地区、ユカタン州では一〇六地区のうち七〇地区となっている。
地階のメヒコは、ぬかるみと血にまみれ、生きつづけ、そして死んでいく。隠れているが根底には厳然と存在し、この地階のメヒコを苛んでいる蔑みを起爆剤として、地階のメヒコは自らを組織化し、体制全体を一掃できるだろう。彼らの任務はその体制から自らを解放することになる。この地階のメヒコにとって、民主主義、自由、正義は存在しなかった。それゆえ、自らを組織化し、爆発することで、照らしだすことになる・・・。
一九九四年一月・・・
国全体がこの地階の存在を思い出した。真実と武器、屈辱と尊厳で武装した何千もの先住民が、近代という甘い夢から国を目覚めさした。「もう、たくさんだ！」との雄叫びが発せられた。夢はもうたくさんだ。悪夢はもうたくさんだ。刃と福音がこの地を支配して以来、この地階の叫び声は、全銀河系を巻き込んだ技術の進歩すべてを動員した殲滅戦争に抵抗することを余儀なくされた。宇宙衛星、電話通信機器、赤外線監視装置が、地階の動きを監視し、反逆者の位置を捕捉し、爆弾を投下し死者を作りだす場所を軍事地図に記入する。数千人ものオリーブ・グリーンの覆面をした特殊部隊が、新しい花戦争を仕掛けようと準備している。権力者に奉仕し、苦痛と貧困の不当な配分の共犯者であることを誇りとする気持ちを先住民の血で洗い清めようとする。
サパティスタの先住民は血をもって自らの罪を購うだろう。どのような罪なのか？施しもので満足しない罪、メヒコ全体のための民主主義、自由、正義を執拗に要求するという罪、「すべてをみんなのために、われわれはなにもいらない」という罪である。
メヒコの先住民の農民が「国家」概念を理解する可能性を否定し、（先住民と国の他の人たちと分離している）彼らの過去だけを見つめるよう強制し、（先住民を国家と一体化させ、先住民として生きつづける唯一の可能性となる）未来を見つめることを妨害する連中は、社会階級に区分があるのではなく、（社会階級のまやかしの形態でしかない）市民のカテゴリーに区分があると、繰り返し主張する。それは、第一級市民（支配階級）、第二級市民（反対政党）、第三級市民（その他の市民）というものである。先住民は「形成途上の市民」というさらに下位のカテゴリーに属すそうである。それは、メヒコという国家の地階、あるいは高層階で役に立つものが残っているかを探したり、建物の平衡や安定を揺らがす欠陥を調整するため、時々人が顔を覗かす屋根裏部屋のようなものである。
地階のメヒコは、高層階のメヒコが組織している大安売りの時代には、いちばん危険な存在である。地階のメヒコには、失うべきものなどなにひとつなく、得るものしかない。地階のメヒコは、屈伏することも、身を売ることもない。ただ抵抗する。
一九九四年八月、地階のメヒコからひとつの声が発せられた。それは戦争をしようという声ではない。歴史の針を五〇二年前まで戻そうとする声でもない。前衛であることを要求したり、貧困を覆い隠そうともしない。千年の昔からの言葉が、「すべてをみんなのために、われわれはなにもいらない」と語る。顔も名前もない者たちの声は、民族民主会議のなかで共通のものとなる。彼らの主張を受取る重要な人たちがいる。低層階のメヒコに呼びかけ、中層階のメヒコに話しかける。「流された血を無駄にするな。死を無駄にするな」と山々は告げる。その言葉によって異なる道をひとつにしよう。反逆は・・・女性たちと手を取り合って実現されるだろう。
女性たち：二重の夢、二重の悪夢、二重の目覚め
メヒコがいくつにも分裂していることは、男性にとってかなり明白である。とすれば、そのことは女性にとって別の結果をもたらし、それに対する服従や反抗を産み出すことになる。高層階のメヒコの女性は、こまやかな装飾品、実業界の執務室の飾り、そして家族の幸福の「有能な」管理者（すなわち、マクドナルドで夕食するための外出をやり繰りすること）としての立場を執拗に求めている。中層階のメヒコの女性は、娘－恋人－妻もしくは愛人－母親という昔からのライフ・サイクルに縛られている。低層階ならびに地階のメヒコの女性は、男性が支配し決定権を握っている小宇宙で、二重の悪夢に苛まれる。
低層階ならびに地階にいる女性にとっては、尊敬を除いて、すべてのものが二倍となっている。女性に関しては、非識字、貧困な生活条件、低賃金、周縁化の度合いは、いずれも男性以上に高いものとなっている。体制はこのような悪夢に気付かぬふりをしたり、搾取一般を可能ならしめる性差による搾取を表に出さない一般的指標で覆い隠そうとする。 しかし、何ものかがこのような二重の屈伏に適応することを拒否しはじめる。二重の悪夢は、目覚めを二重のものにする。
目覚めた低層階ならびに地階の女性は、現在、そして実現可能なものとしてある女性の未来を脅かす過去と戦っている。
人間としての自覚は、女性としての自覚を通じて生まれる。人間であることの自己確認は、女性であることと戦うこととの自己確認である。もはや女性たちは代弁者を必要とはしない。女性たちの言葉は、自前のエンジン、・・この矛盾だらけの空間で・・・反乱する女性たちのもつ二重のエンジンを備え、反乱の二重の回路を追い求めている。
観光振興のための矛盾だらけの空間
メヒコ ：
夢と悪夢の両極端に位置するベストならびにワースト24
メヒコの金満家の上位24名(米ドル資産額)
①カルロス・スリム・エルー：六六億ドル
②エミリオ・アスカラガ・ミルモ［テレビサ社主］：五四億ドル
③マルセロ・イ・ロレンソ・サンブラノ：三一億ドル
④アレホ・ペラルタ：二五億ドル
⑤アルフォンソ・ロモ・ガルサ：二二億ドル
⑥ヘロニモ・アランゴ：二二億ドル
⑦アルベルト・バイジェロス：一九億ドル
⑧パブロ・アランブルサバラ：一六億ドル
⑨ゴンサレス・ノバ一族：一五億ドル
⑩モリーナ一族：一四億ドル
⑪アドリアン・サダ・ゴンサレス：一三億ドル
⑫アンヘル・ロサダ・ゴメス：一三億ドル
⑬セルヴィチェ・センドラ一族：一二億ドル
⑭ベルナルド・ガルサ・サダ：一二億ドル
⑮ロベルト・エルナンデス：一二億ドル
⑯リカルド・サリナス・プリエゴ：一二億ドル
⑰エウヘニオ・ガルサ・ラグエラ：一一億ドル
⑱ロベルト・ゴンサレス・バレラ：一一億ドル
⑲ホルヘ・ラレア・オルテガ：一一億ドル
⑳モイセス・イ・アントニオ・コシオ・アリニョ：一〇億ドル
21マルティネス・グイトロン一族：一〇億ドル
22フランコ・マシアス一族：一〇億ドル
23ダビッド・オリアナ・ペニャロサ：一〇億ドル
24アルフレド・アルプ・エルー：一〇億ドル
以上二四名の資産額は合計4,410億米ドルに達する。彼らの資産はメヒコ全体のペースの100倍のスピードで増大していった（出典：『プロセソ』誌九二三号、一九九四年七月一一日刊）。
もう一方の極 ：
メヒコで最貧の行政地区の上位24地区
オアハカ州に一二、ベラクルス州に四、ゲレロ州に二、チアパス州に三、プエブラ州に三地区ある。これらがもう一方の極にある、メヒコで最貧の行政地区の上位二四である。さらに100位まで入れると、オアハカ州に44、ベラクルス州に15、プエブラ州に15、ゲレロ州に13、チアパス州に11、イダルゴ州に1、ナヤリー州に1となる。
これら100の最貧行政地区に共通する三つの要素は、きわめて高い周縁化指数、貧困、住民の大多数が先住民ということである。
①テウイパンゴ、ベラクルス州 ： 12,520人
②メトラトノック、ゲレロ州 ： 24,338人
③コイコヤン・デ・ラス・フローレス、オアハカ州
： 4,914人
④ミシュトラ・デ・アルタミラーノ、ベラクルス州
： 7,109人
⑤サンシモン・サウアトラン、オアハカ州
： 21,206人
⑥サンティアゴ・アモルテペック、オアハカ州
： 7,540人
⑦サンフアン・カンクック、チアパス州
： 21,206人
⑧カモクアウトラ、プエブラ州 ： 1,914人
⑨サンタルシア・ミアウアウトラン、オアハカ州
： 2,481人
⑩ミトンティック、チアパス州 ： 5,783人
⑪トラコアチストラウアカ、ゲレロ州
： 13,186人
⑫シタラ、チアパス州 ： 6,640人
⑬サンロレンソ・テシュメルカン、オアハカ州
： 4,124人
⑭サンティアゴ・トラソヤルテペック、オアハカ州
： 4,504人
⑮エロショチトラン、プエブラ州 ：
8,599人
⑯ウエイトラルパン、プエブラ州 ：
4,757人
⑰サンマルティン・ペラス、オアハカ州
： 6,170人
⑱サンアントニオ・シニカウア、オアハカ州
：1,216人
⑲サンタクルス・センソンテペック、オアハカ州
： 11,576人
⑳サンハシント・トラコテペック、オアハカ州
： 1,561人
21サンアンドレス・パシュトラン、オアハカ州
： 3,299人
22サンティアゴ・イシュタユトラ、オアハカ州
： 8,256人
23テシュカルテペック、ベラクルス州 ：
7,797人
24イラマトラン、ベラクルス州 ： 12,620人
人口は総計 183,810人。
最貧の二四行政地区は平均すると、一五才以上の人口の六七パーセントが非識字で、九〇パーセントは小学校未終了で、住民の八七パーセントは排水設備や便所をもたず、八七パーセントは電気がなく、八四パーセントは上水道管がなく、八六パーセントは狭いところに折り重なって生活し、九五パーセントは土の床で、九一パーセントは最低給与二日分の所得しかなく、一〇〇パーセントがきわめて高い周縁化指数を示している。唯一の財産といえば・・・住民の数だけである(出典：国立地理情報統計庁、一九九〇年センサス)。 彼らと、そして別の人たちが一緒になって、・・・このメヒコの高層階、低層階、地階を構成しているのである。
メヒコの高層階、低層階、地階
第二章 船と船乗りたちの意志を揺さぶる暴風、強風、うねり、そして、今にも起きそ うな難破、そして敵の艦隊のなかで語られている選挙にまつわる信じがたい話（誰も 信用していない）などについてお話ししよう。
Ⅱ 祖国は自らの恐怖を語る。
海と大地の労働者は私のこども。
工場の機械や農村での労働に彼らは呑み込まれる。
貧困のなかで生まれ、そのまま死んでいく。
金持ちの旦那衆は彼らの血をすする。
でっぷりと太り満足している。
なぜなら、英雄たちは教室の湿った文字のなかに葬り去られてしまった。
毎朝、私は目覚めるのが恐い。
その朝、男も女もいなくなり、ついに敗北しているかもしれないからだ。
誰も頭を起こさず、誰も私を再び動かそうとしない。
そして、私の人民や歴史までもが、私を博物館の片隅に遺棄しないかと恐れている。
一九九四年八月の選挙、選挙結果に関する三つの解釈
第一の解釈（公報や選挙資料）：
メヒコ人の過半数が、近代化を旗印としたの運営（つまり金銭の祖国に二四の名士がいること）に満足し、幸福と思い、国の歴史（つまり、ＰＲＩの六五年の歴史）に誇りを感じ、楽観的に未来（つまりＰＲＩの賢明な指導のもとで二〇〇〇年を迎えることに夢中になっている）を見つめている。このように、この国の高層階は解釈している。この解釈の連帯保証人は、思いもよらない内務省そのもの、ＰＲＩや民間の選挙監視グループ、米国政府、国際通貨基金などである。つまり、この国を実際に所有する者たちによる連帯保証である。いかなる異義申し立て、疑問、抗議も、投票の過程の「清潔さ」を汚すものであり、（投票しなかった者やＰＲＩに反対する投票を行なった者の意志も含め）メヒコ市民の意志など無視しようと目論むものである。この愛国主義的なメッセージの一番の理解者は、ラジオ、テレビなどのマスコミである。新たに利権を獲得し、既存の利権を失わないよう、言葉、イメージ、音声を商売道具とする企業はＰＲＩのまわり（すなわち、メヒコのまわりである。なぜなら、愛国主義者は、ＰＲＩの勝利は合法的であるという、誰も認めないことを認知しなければならない）に結集する。今世紀が始まったときと同じように、今世紀が独裁で終わることをわれわれに知らせる。連邦政府軍や警官は、それが大きな喜びであると思っていない人々を監視している。ＰＲＩやサリナス、二四名の名士が唱える新自由主義の長所を信用せず、疑念をもっているのは、クアウテモク・カルデナス、ＰＲＤ、ＰＡＮの根っからの支持者、民族民主会議、ＥＺＬＮ、そして・・・ＰＲＩ「一族の福祉」のための投票を拒否した三千万人の市民である。
第二の解釈（ごく限られた誠実なメディアでときおりみられる）
この前の選挙の過程をどのように解釈するかについて、メヒコの低層階は意見が一致していない。もっとも（精神ならびに理論面で）脆弱な人たちは、敗北と解釈し、自分たちのなかまを横目でそっと見ながら、敗北の責任者を探そうとする。対話から閉めだされた人たち（勝利者側の顧問へ立候補し、いまは敗北者を批判し、分類できないものを分類するため、「武装した改良主義者」「武装解除した革命」などといったレッテルを一片の恥じらいもなく貼ってまわっている）は、戦略、戦術、諸勢力の調停、政治状況、諸勢力の線引や同盟関係、態度表明や対立候補の批判・中傷などに失敗があったと解釈する。つまり、失敗したのは自分たちの助言に従わなかったためだという。もっともきまぐれな連中は幻滅を導きだす。失敗したのはメヒコの人民を信頼したためだということになる。もっとも挫折した人は、闘争など無意味であると解釈する。彼らは、自分たちのように卓越した身請け人によって身請けされることを拒否している人民に対して絶望している。後世のためにと、都会の建物の壁に「間抜けの人民め！」という宣告を書き付ける。
メヒコの低層階の大部分は、選挙の結果に関する次のような解釈を受け入れている。
セディージョ
17,336,325票 （48.77％）
フェルナンデス・セバージョス 9,222,899票
（25.94％）
カルデナス
5,901,557票 （16.60％）
ソト 975,356票
（2.74％）
その他 1,113,364票
（3.13％）
すなわち、マスコミや政府が、なんと一九九四年五月以来！しつこく繰り返してきたものとまったく同じ結果である。
しかし、低層階のほかの人たちは、こんな安易な解釈に甘んじ、真実の究明を放棄することはしない。疑問点を解明しようとする姿勢は明白であり、闘争の意味を理解するために理解し、闘争を説明するために説明し、闘争できるよう知りたいという真摯な熱意が明らかに存在している。この人たちは、八月二一日の選挙結果だけを解釈するのではなく、少なくとも一九八八年以降のあらゆるデータを含めて解釈しようとする。選挙運動、選挙資金の手配、マスコミ（つまり、世論）利用の機会、動員体制の構造、選挙登録未記載、死んだはずの投票者、ジェットコスター式投票、タマール式投票、靴を履いたタコスサービス付きの投票所［ＰＲＩ系御用組織に報酬付きで動員された人の投票終了とともに投票所がすぐ消えて無くなる］、ほんの数時間で満杯になり、本来より二ー三倍もの票数を産み出す投票箱、そして脅迫、脅し、無知、弾圧などのなかに不正を読み取る。メヒコにいるこのような人たちは、宣伝面でのクーデターによる一時的な失神から目覚めると、さまざまな不正行為、極小・小規模の不正、中規模の不正、大規模な不正、超特大級の選挙不正を追求しはじめた。
やがて、彼らの疑問は勝利は合法的でないという確信へと変わっていく。ここで、もう一度、先の結果を見てみよう。
セディージョ
17,336,325票 （48.77％）
フェルナンデス・セバージョス 9,222,899票
（25.94％）
カルデナス
5,901,557票 （16.60％）
ソト 975,356票
（2.74％）
その他 1,113,364票
（3.13％）
彼らの解釈では、ＰＲＩヘの投票は、さまざまな規模、趣向や色合を帯びた一連の不正の積み重ねの結果ということになる。合法的な選挙ではないので、清潔な選挙をもう一度やり直す必要がある。出発から汚れていた選挙の過程では、清廉潔白な勝利者はいない。徐々にではあるが、この解釈に基づき、市民抵抗運動を呼び起こし、組織し、前進することが始まった。その第一歩は、ばらばらの情報を手に入れ、記録を照合し、人々に問い合せることであった。八月二一日の投票における不正行為は噴出しだした。選挙記録の数値の改竄、得票総数のごまかし、投票箱にある投票用紙の枚数以上の票、白紙の選挙記録、署名のない選挙記録、反対政党の代表や監視人が不在の投票所、秘密投票の権利の侵害、選挙運動期間中のＰＲＩを有利にするための圧力、投票箱における余分な投票用紙、複数の身分証明書で何度も投票した人、死人の投票、投票所への軍隊駐留、投票日当日のＰＲＩの選挙運動、脅迫、反対派支持票を無効票にすること、選挙人名簿からの抹消、ＰＲＩ票をチェックするためのリスト、投票の集計中の停電、その他にも数多くの不正行為が露見しつづけている。これらの不正行為は同じ結論を指し示している。今回の選挙はメヒコ史上もっとも汚れた選挙である。そのことを指摘し、告発し、知らせ、必要な行動をとることが第一歩である。それは民主主義への移行をめざす戦いという長い道程において、必要不可欠な一歩でもある。
民族民主会議、ＰＲＤおよびＰＡＮの誠実な部分、市民社会、独立系の誠実なオブザーバー、首尾一貫している知識人、われわれが人民と呼んでいる人々の一部が、この運動に合流している。不正選挙というフィルターがあるにしても、数値のなかに潜んでいるもうひとつ別の現実があることを分析によって見抜くことができる。
ところで、以前棄権していた人は、誰に投票したのだろう。
1991年得票 1994年得票 増加票
ＰＡＮ 4,103,393 9,222,899 4,792,763
ＰＲＤ 1,999,235 5,901,557 3,695,651
ＰＲＩ 14,224,989 17,336,325
2,293,281
「新しい」票の大部分は野党に投じられた。一九九一年と一九九四年を比較すると、野党への投票は三倍に増えている。「恐れによる投票」はＰＲＩに流れたわけではない。むかしの棄権票は、ＰＲＩに反対する投票となった。
国内の最貧困州でも、変化に対する恐怖はなかったし、「全国連帯計画」や「農村部直接援助計画」で買収されることもなかった。
農村部のＰＲＩ得票は（一九九一年の上院選挙と比較すると）次のように減っている。
チアパス州－二一万七千強、プエブラ州 －三万四千強、ベラクルス州－一万三千強、 ゲレロ州 － 二万七千強、オアハカ州 －一万三千強、カンペチェ州－ 千強、 ユカタン州－ 二万七千強、サカテカス州－二万一千強
第三の解釈（これからします）
地階のメヒコでは文字を読む習慣はない。そこでは、字を読めない人たちが別の解釈を模索しようとする。自らを見つめ直し、先祖伝来の規則、昔の人たちのイメージ、多くの昔の人たちの発する音と話し合い、地下の水脈を通じて交流する。変革は地下で築かれ、語られ、繰り返される。懐疑主義により腕をこまねいて眺めることはしない。忍耐強く希望という柔かい刃先を研ぎすます。地階のメヒコは、誰も解読していないが、別の数値が物語っていることを直観的に見抜いてしまう。次のような結論を示す数値がある。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
一九九四年 有権者総数 45,824,057 （100.00％）
投票総数
35,550,285 （ 77.57％）
有効投票数
34,549,501
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
候 補 者 票 数 得 票 率
対投票総数 対有権者総数
セディージョ 17,336,325 48.77％
37.83％
棄権 10,273,772 22.42％
無効 1,000,782 2.18％
棄権＋無効 11,274,554 24.61％
フェルナンデス 9,222,899 25.94％ 20.12％
カルデナス 5,901,557 16.60％ 12.87％
ソト 975,356
2.74％ 2.13％
その他 1,113,364 3.13％
2.43％
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ＰＲＩ不支持 28,487,730 62.17％
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
地階のメヒコでは、真実は直観的に見抜かれる。ジャンボ級の不正選挙であったにもかかわらず、全有権者の三分の二はＰＲＩに反対している。この国の大多数は民主的な変化を希望し、国家政党体制が終止符を打つことを望んでいる。この直感は知性を備えた低層階のメヒコが行なった解釈の結論と一致している。抵抗と闘争を展開する市民運動が必要である。一、七〇〇万人が国家政党に投票したということがうそで、国家政党は当の一、七〇〇万人にすら支持されていない。そのことを地階のメヒコは知っている。地階のメヒコは、国の最深部にある連通管を流れているひとつの真実を、何年も前から知っている。国家政党体制を支え、世論に対する保証を行なっている仕組みに基づいて、国家政党体制を葬り去ろうとすることは不可能である。選挙の運営が国家政党によって行なわれ続けるかぎり、いかなる闘争の企ても、挫折、政治的な現状維持、または厚かましい責任逃れに終わるだろう。変革に向けた移行政府は民主主義のために必要である。そのために、国家政党体制に反対する何百万ものメヒコ人すべてを結集する大規模な反対戦線の結成を呼び掛けることが、希望とともに見えてくる。このような呼び掛けは・・・次のようなところから出されてきた。
いくつかの余談
最初の余談：「マキオ」のＰＡＮと「ディエゴ親分」のＰＡＮ
ＰＡＮは左派政党ではない。しかし、ＰＡＮの展開した民主化闘争の伝統は否定できない。ＰＡＮには誠実できわめて闘争的な闘士がいる。彼らは豊かな創造性をもって政府権力やその専横行為に抗議してきた。何年もの間、ＰＡＮは体制に反対する唯一の合法的勢力という重責を担ってきた。ＰＡＮは、マヌエル・クロウティエル［一九八八年の大統領候補で、愛称マキオ、翌年交通事故死］のもとで、体制に反対する勢力として独立性と誠実さを示してきた。しかし、ディエゴ・フェルナンデス・デ・セバージョのもとで、ＰＡＮは、美味しい仕事と引き替えに現状維持、高位官職と引き替えに反対派としての尊厳の売渡しを行ない、かなりひどいイメージを示してしまった。「ディエゴ親分」の行動によって、ＰＡＮの反対派としての役割が失われたのは、ロブレドをチアパス州知事への強行就任を保証したジャック・デモステネスの追従的な行動によって、ＰＲＤの闘争が効力を失なったのと同じようなものであると言えよう。
ＰＡＮには、フォックス（サパティスタの誠意を疑うという見当違いはあるにせよ）やリバスのような闘争的で首尾一貫した市民がいる。彼らのほかにも、ＰＡＮには民主主義に対する使命感になんら疑いを挟むことのできない市民がいる。ベルナルド・バティス、ゴンサレス・シュムル、パブロ・エミリオ・マデロもそうした例である。民主主義を求める運動は、錯綜した政治地図のなかの左派に限定されるのではなく、より広範な部分を含むものである。民主主義を求める戦いに関しては、中道、右派、左派という配置はさほど明白ではない。誰が民主的な変革を支持し、誰が非民主的な現状維持を支持しているかを分類するほうが、より適切と思われる。この広範な反対戦線の人材は豊かである。彼らの役割は、具体化するなら、民主主義への移行において決定的なものとなるだろう。
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