モンテス・アスレス生物保護地区に隣接するツェルタル・ラカンドン密林地区に位置するリカルド・フローレス・マゴン反乱自治地区は、EZLN管轄領域にある29の自治地区のひとつである。この地区では、数十の共同体で数千人ものサパティスタの男女が、1998年以来、自治地区の構築に携わって活動している。

こうしたことは共同体においては何も目新しいものではないと、サパティスタは説明する。「悪しき政府の諸機関はいままで我々先住民に役立つことをしたことはない。我々のことなど何も気にかけてこなかった。これは、自治当局を持つ以前から、我々自身の手で担ってきたものである。我々の活動は自治的である。我々の自治は我々の歴史、我々固有の慣習、権威、司法制度、そして我々の栽培する作物に由来するものである。政府の定めた法律は我々を投獄するためにしか役立ってこなかった。しかし、我々は常に我々固有の司法のシステムを保持してきた」と、リカルド・フローレス・マゴン自治協議会のフリオが指摘した。

「自治とは、独力で歩くようのものである。もともと我々は歩くことはできる。我々は過ちを犯すことがある。しかし、それは我々の側の過ちでのことで、われわれに押し付ける連中の過ちのことではない。サパティスタの集落における自治は抵抗の中で培われてきた」
「抵抗しながら自治を構築することは、反乱する人民は、政府の推進する計画からは1ペソも受け取らないことを意味する。すでに何度も説明してきたが、我々固有の労働と資源、そして集団作業と連帯組織の支援によって、自治を築くことを意味する」。
フローレス・マゴンの当局者は次のように指摘している。「抵抗によって、我々の仕事がさらに成長するようにし、政府の許可や施しがなくとも、我々は自分たちの作業を前進できるよう努力している」

リカルド・フローレス・マゴンは、2003年8月以降、ツェルタル語でTe s'belal lixambael　つまり未来の道という善き統治評議会を構成する4つの行政地区のひとつである。ほかに、フランシスコ・ゴメス、サン・マヌエル、フランシスコ・ビジャという行政地区があり、ガルーチャにある『新しい夜明けに向けた抵抗』という巻貝に属している。
ツォツィル、チョル、ラカンドンの人もいるが、基本的にはツェルタルの人々が居住しているフローレス・マゴンは、反乱領域の中でもっと面積の広い行政地区のひとつである。モンテス・アスレス保護地区への入口となる地域を含んでいるため、行政地区内には「環境問題」を口実にした強制退去の脅しに曝されている共同体が存在している。しかし、この脅迫の背後に潜む本当の理由は、天然資源の豊富な領域を取り囲んでいる多国籍企業の利害に由来していることはいうまでもない。

この行政地区の活動は、サパティスタ領域にあるほかの地区と同じように、暴風や時化に対抗しながら実施されてきた。オコタル、タニペルラス、サンヘロニモ・トゥリハにある軍駐屯地、シンタラパにある監視所、カルバリオ・エヒードにあるモンテ・リバノ十字路の軍キャンプ、ペニャ・リモナールにある治安警察の駐在所に対しては、行政地区にある100もの共同体のどこかで、彼らが迫害や挑発をしているという告発が寄せられている。さらには、準軍事組織も活動している。当該地区では、制度的革命党に属する独立農民開発民衆組織（OPDIC）と呼ばれる集団がある。

脅迫や告発しかないということではない。とりわけ目立つのは、リカルド・フローレス・マゴンの数千人もの男女が主体的に日々展開している活動である。これまで達成された進展は、1997年から始まった保健衛生の部門での活動である。それは自治行政地区の設立より前のことで、外部からの経済支援を受けることなく、人々の持ち合わせの資源だけで開始した。「保健衛生の問題はすべての地域で最優先の課題となっている。だから、共同体が最初に協働する活動分野である」と、人々は断言する。現在では、いくつもの組織の援助も得ることができ、自治保健衛生システムの構築を継続し、人々のなかから男女合わせて80名の保健衛生推進委員を育成している。彼らは各共同体における応急治療や単純な疾病に対応できるようになっている。

共同体における保健衛生ネットワークの育成にも努めている。それは、推進委員の資格養成だけでなく、保健衛生の家の強化や各共同体が基本的医薬品を完備する救急箱を最低限一つ保有するようにする医療品の供給ネットワークを作り上げることを意味している。現在、46の保健衛生の家があり、各集落においてサービスを提供する65名の推進委員がいる。この地域の子供たちがありきたりな医薬品の不足という単純な理由で、治療可能な病気で死亡していたことを考えれば、大きな成果である。
サパティスタの集落において、自治的保健衛生のことを語ることは、慣わしや習慣を取り戻すことも意味していた。フローレス・マゴンでは経験豊かな25名の産婆の活動が強化された。彼女たちは伝統的知識を捨てることなく、自分の仕事の腕前を上げていった。

教育がもうひとつの基本的な活動分野である。3年前から行政地区では、どのようにすれば教育システムを構築できるかについての検討が始まり、皆で次のような結論に達した。「我々は自治地区や先住民共同体にある諸問題を解決することができるような教育を望んでいる。さらに、我々の子供のために読み書きを教えるよい教育が必要である。つまり、われわれが望んでいるのは本当の教育である」
そこで、リカルド・フローレス・マゴンに、教育推進員の養成センターが作られることになった。この推進委員は、都会からやってきた育成委員グループ、つまり市民社会、教師、医師、大学生などによって支援されている。各共同体は教育推進委員を選出し、推進委員が自己形成し、共同体に帰って共同体の学校で授業できるようにするため、どのように支援するかについて、集会の場で決定する。共同体が推進員に提供する支援としては、彼が推進委員として養成されている期間、その人の畑を管理し、フリホールを収穫し、家族の世話をすることなどがある。

サパティスタの統治領域における自治の過程は、各地域、各行政地区、さらには共同体ごとに、それぞれ異なる論理や力学によって展開していることを指摘しておくべきだろう。ラ・レアリダーで教育について語るとなれば、それは、モレリア、ロベルト・バリオス、ガルーチャのものと異なるであろう。各地域はそれぞれで自治体制を有しているし、各行政地区も同様である。それゆえ、どれもがEZLNに属し、その原則や要求を共有して入るが、サパティスタ行政地区における過程を一般化することはできない。

リカルド・フローレス・マゴンでは2001年に教育推進委員の養成が始まり、現時点で56名の推進委員は3年間に及ぶ養成の第1段階を修了した。フリオは次のように指摘している。「我々固有の自治的な教育を創りあげることは、少しばかり困難をともなう過程でした。どうしたらよいという人物は一人もおらず、一冊の本もなかった。人々の掲げる諸要求、我々のアイデンティティに基づいて、新しい教育を築いてきた。しかし、問題は次々と発生した。何もかも大変だった」自治当局は次のように説明する。「我々の挑戦は、知識とサパティスタの戦いが掲げる13の要求とを関連づけながら、我々の教育を構築することである。数学、言葉、歴史、生活、環境を住宅、労働、民主主義、正義、独立、自由、教育、そして諸要求のひとつひとつと関連づけようとしている。」

女性の集団的労働も、我々の行政地区が力を注いでいる分野である。このツェルタルが多数を占める集落の女性たちは、衣料関係の計画を実施してきた。それは、それぞれの集落に女性の集団を形成し、第2段階として製品の販売に向けた協同組合を設立することを見据えたものである。もうひとつの計画は、（男性の同志も参加して入るが）シルクスクリーン印刷のワークショップである。これは女性たちが製品の販売によって自己資金を調達している。

女性たちは保健衛生教育のコースでも目立っている。そのコースには数多くの女性推進委員が関与している。彼女たちは自分たちの活動できる空間を得るために戦っている。そして、徐々に空間を広げることに成功し、時には完全に奪ってしまうこともある。女性の教育推進委員は、推進委員養成コースを受講するため共同体を出ることについて、時には共同体の男たちからの侮蔑を浴びることもあると語っている。しかし、「我々はもう黙ったままではいませんから」と、彼女たちは警告している。
推進委員のオルテンシアは指摘する。「軍隊が侵攻してきた時、女性は先頭にたって自分の属する集落を護りました。防衛する能力だけでなく、学習する能力も備えています。状況が何も変わらないのに、口を閉じたままでいることはできません。我々はこれまでとはずいぶん異なった教育を創っています」

略 史
この行政地区は6年前、軍事的政治的迫害のなかで誕生した。1998年4月9日にタニペルラスの共同体に設立された自治協議会の最初の本部は、24時間しか存在しなかった。というのは翌日、軍と治安警察の作戦部隊が、新しい政府のさまざまな建物を占拠し、破壊してしまった。そのひとつとして、現在では有名になったタニペルラスの壁画があった。その壁画は、セルヒオ・バルデスが組織したワークショップでデザインが決まり、共同体の全員が参加して描かれたものであった。

「しかし、自治政府は機能停止に陥ることはなかった。建物を壊したが、自治協議会を破壊することはできなかった。軍部隊がタニペルラスに進行した翌日から、我々は別の本部で活動を開始した。いいかえれば、我々はあちこち移動していたので、連中は我々の活動を停止させることはできなかった」とフリオは説明した。
サパティスタの行政地区に対する政府の攻撃は、1998年、エルネスト・セディージョの指揮のもとで実行された。当時の大統領は、自治政府の本部を解体し、サパティスタを迫害・拷問・収監すれば、抵抗を打ち砕けるだろうと、皮算用していた。その目論見は大きく外れてしまった。この6年間、自治協議会は、連邦や州の当局者に迫害されながら、遊動民のように活動してきた。今では、さらに活気が溢れている。今では「活動は人々の中でも観察できるようになっている」とまで言われている。

自治当局の説明によると、「この行政地区が誕生したのは、サパティスタの共同体が、自分たち固有の自治当局を任命し、自治を中味のあるものにする必要性を理解していたからである。我々は1998年にこの自治行政地区を宣言することになるが、その前の段階で、どこを地区の役場にするかという合意を形成していた。その活動をさらに前進させるために、我々はEZLNから多大な支援を受けることができた。それ以外にも、この地域にもともと存在していたARIC独立派などの組織も、自治行政地区の創設に同調し、尊重していた」

フリオはさらに説明してくれた。「人々はタニペルラスを行政地区の役場にすることを選択し、人々が協力し合って、自治協議会の家、集会所、事務所を建設した。こうして、協議会の家にタニペルラスの壁画が描かれた。だが、それは軍隊によって破壊された」
「その当時、人々は順番で自治行政地区の施設の建設作業に従事した。我々の自治行政地区の活動が正式に始まるのを心待ちにしていた。そして、1998年4月9日に行政地区を創設し、翌日の4月10日のサパタ暗殺記念日に祭典を行なうことを事前に通告していた。4月10日は、リカルド・フローレス・マゴンの最初の自治協議会が誕生した日付である。総裁、事務局長、会計が1名づつ選出され、彼らにはそれぞれ2名の広報官がついた。それ以外、保健衛生委員会と農地委員会も作られた。司法は協議会全体で責任を担うことになった」
1998年4月11日の夜明けはなかった。4月9日に協議会施設は完成した。翌4月10日から、協議会は活動を始めたが、その場所では24時間も機能しなかった。席が温まる間もなかった。夜の10時頃、連邦軍はオコシンゴを出発した。数時間後、治安警察も到着したことを我々は耳にした。突然、11時ごろ、我々は軍隊がモンテ・リバノの十字路をとおってタニペルラスに到着したことを知った。そこに軍隊は駐留した。結局、協議会と祭典に参加していた千名以上の人々は、その場から退却することになった。

フローレス・マゴンの当局者がもっとも関心を持っている分野のひとつは、司法の分野である。フリオは次のように指摘している。「暴行、人殺し、麻薬乱用、強盗、PRI派に対するサパティスタの訴訟など、ありとあらゆる問題が山積している。我々はそれらを最善の形で解決しようと努力している。PRI派やほかの組織の人々も、協議会が司法の問題を解決していることを理解している。われわれは、司法の場においては、サパティスタに有利な判決をすることはない。なぜなら、非サパティスタに理があることも、しばしばあるからである。司法は公正である。だから、サパティスタが違反した場合、彼に特別の労働を課すという罰則、あるいは人々、または被害者家族が決定した罰則によって償うことになる。」

境界紛争、耕作地や占拠地をめぐる係争などの農地問題は、この地域において頻繁に起こる問題である。この地域においては、ARIC独立派、ARIC官製派、インデイオ民族全国調整委員会（CNPI）、制度的革命党（PRI）、少数の民主革命党（PRD）や労働党（PT）、シニッチ、独立農民開発民衆組織（OPDIC‐サパティスタは準軍事組織と見なしている）などの組織が、問題を抱えながらも、そのたびに新たな調整をしないながら、共住している。
「誰もが自治協議会で決まった裁定を尊重している。多くの組織から認知され、我々は敬意をもって見られている。だが、準軍事組織は、ときおり協議会にやってくることはあるが、協議会の裁定を尊重しようとしない」と、サパティスタの当局者は指摘している。

2000年以降、この行政地区においては、司法問題全般を扱う栄誉司法委員会が設けられ、教育協議会も誕生した。さらに、現時点では証明書作成に必要な出生登録を作成するだけの市民登録判事もいる。

2001年に新協議会は発足した。その時は、権威者の最初の交替だったが、彼らの在任期間もすぐに終了する。新しい任務と挑戦が始まる。
「開発計画を監査し、多くの問題の解決に対処しなければならない。さまざまな活動を維持し、継続させなければならない」

善き統治評議会の創設とともに、リカルド・フローレス・マゴン自治行政地区は、評議会当局者とのあいだですべての活動を調整している。サパティスタが1年前に説明したように、評議会の責務のひとつは行政地区全体の発展の均衡を保つことだからである。
「評議会との関係も、今では変化が生じている。我々だけで開発計画を作成できなくなっている。今では、我々は、我々全体が同じように成長していくように監視する評議会が策定する開発計画を待っている。たとえば、現在、フランシスコ・ビジャ行政地区では、評議会の開発計画が進行中である。つまり、その地区の開発が最優先されている。つまり、公正であるためで、開発がよりよいものになるように考慮している」と行政地区当局者は説明する。今では、「すべてがうまく組織されている」と彼らは保証する。

　出典−オハラスカ87号、2004年7月号