帰ってきたドン・ドゥリート　�X

恋の病　−国際女性の日に関する書簡の一部

　では、反乱する女性たち、顔をもたない女性たち、反乱女性兵士にとってよい日でありますように。

　恋の病

　下の世界ではまた３月(marzo)がやってきた。小麦は陽光を受け、目のなかで読みとれるその最初の３文字（mar)を繰り返している。フィト・パエスの歌をバックに、私は一着の服と愛を贈り物にしようとしている。つまり、カセットから流れる「私の言うことは何もかも不要である」という歌詩を私は口ずさんでいる。私は一陣の風に乗って、熱心に鋲を打ち、ノコギリを引いているドゥリートのいる場所まで行った。彼がイワシの缶詰の船に何を積み込んでいるを知りたかったのである。私の記憶には、以前イワシの缶詰は海賊船であると言ったことが残っています。実際、私が「イワシの缶詰」と書いた時、ドゥリートは研ぎすまされた短剣のように鋭い目付きで私の方を振り返ったのです。しかし、私としては、ドゥリートはブラック・シールド(黒い盾)と名乗っていることを読者に思い出していただくために書いただけである。彼は、今は亡き赤ヒゲから極めて難しい委託を受け継いだ有名な海賊なのです。ドゥリート、失礼、私が言いたかったのは「黒い盾」ですが、彼は、私には理由がわかりませんが『おまえのヒゲを濡らせ』号と呼ばれているものの所までやってきました。ドゥリートは財宝探索に同行するよう私に提案したのです。こうしたことすべては以前の手紙で説明しておいたはずなので、これ以上とやかく言うつもりはありません。これから問題にするのは、この海の３月に、ドゥリートが何をしているのかを確かめるとともに、彼に指導と助言を仰ぐために、彼が仕事をしている所に私が赴いた時のです。
　参上したことを伝えるために、私が咳払いをした時、ドゥリートは帆を張る支柱と思われるものに最後の一撃を与えているところでした。彼はこう言った。
　「さて、これでよし。これで、おまえを艦首に据え付ければ、我々に反対であるという警告もなくなることだろう」
　私は苦笑いを浮かべ、嫌々ながら艦船を見つめました。ドゥリートは私を非難した。
　「これは艦船とは全然違う。これはガレーラ船である。16世紀にあの海域で戦争をするために建造された由緒正しき船である。このガレーラ船は、帆、あるいは『漕役刑』を宣告された人々が漕ぐ櫂によって進むのである」
　一息ついて、次のように続けた。
　「帆に関して言えば・・・。おまえを見守る視線がなぜ悲しいのか、訳を尋ねてもいいかな？」
　私は「いいえ、大したことでは」という素振りをした。
　ドゥリートは勝手に解釈をして、次のように言い放った。
　「ああ、そうか。恋わずらいだな！」
　ゆっくりとカナヅチと片手ノコを脇に置くと、ドゥリートは船から降りてきてた。そして、小さなパイプを取り出し、私の横に腰掛けた。
　「推察するところでは、我が未来の船首の水切りよ、おまえを悲しくさせ、気を滅入らせているの問題とは、ひとりの女、雌、つまりある女性の問題のことにほかならない」
　私はため息をついたが、ドゥリートは続けた。
　「いいか、我が親愛なるバスタブに乗った水兵さんよ。我々を眠らせない者がいるとすれば、それはひとりの女性、しかも、特別のひとりの女性の存在である。であれば、病は深刻だが、治療はできる」
　私は告白することにしました。
　「そう、その通りです。ひとりの女性、特別の女性なのです。彼女を海(ラ・マー ル)と呼んでいる「マリアーナ」以上に、彼女は多くの点で海なのです。運の悪い日に、私は彼女と別れたために、彼女がもう一度、その肌の湿り気で私を歓待し、私のひどい高熱を忘れさせてくれる、つまり私を赦してくれる形式や方法が見つからないのです」
　ドゥリートはゆっくりとパイプを吸い込むと、次のように宣告した。
　「おまえの欠点や過失はどうしようもない。しかし、もし私の指示に文字どおり従うと約束するなら、ひとつ助言してやってもよい」
　私は「きっと約束します」と言った。力が入り過ぎていたため、ドゥリートは驚いて飛び上がった。
　「呪いを使うのが肝要である。恋愛においては、いつでも世界はジグソーパズルのようなものである。しかし、特別のひとりの男と特別のひとりの女が出会えば、それぞれのピースは意味や形を持ち、ジグソーパズルの完成した部分は広がり、顔、腕、脚を砕いていくのだ」
　「そして胸もです」と私が抱いている不安を擦りあわせながら付け加えました。
　「よろしい。私が言いたいのは、呪いとはそれ自体で効果を発揮しているということである。おまえの場合のラ・マールは、呪いにかかる準備ができている。なぜなら、そうでなければ、何もかも無駄に終わるからである。私が言いたいのは、呪いをかけられた人物が呪いにかかっているという自覚がなければ、呪いは意味がないということである」
　「ずいぶん奇妙な呪いですね」
　ドゥリートは私の言うことを無視して続けた。
　「彼女によい思い出を運んでやるのだ。それが一つでもあれば、前進し遠くを眺めるときに役立つものである。視線を高く上げ、それを長く、深く保ち続けることができるようになる。彼女に言ってやれ。ずっと前方を見つめるのだ。明日とか、来週とか、来年ではない。さらにずっと先、はるか彼方を見つめるのだ。だが、何が見えたかを尋ねてはならない。彼女が前方を見つめるのを見るだけにしておくのだ。彼女の視線が優しく微笑んだなら、おまえは赦されることになるのだ。そして、小麦、砂浜、海、風が手にはいるだろう。そうすれば、おまえも再び航海することができるのだろう。これはまさに恋以外のなにものでもない」
　ドゥリートは、道具類を手にもちガレーラ船の整備を続けています。航海の目的地となると、私にまだ何も知らされていません。ドゥリートは沈黙を守ったままなのです。彼が私に言ったことを私が実行するためには、私は出航すべきであるということを理解させようとしているのです。
　夜明けまで私はしばらく散歩した。寝床にいるラ・マールを見つけようとした。私がベッドのことを言っていると、皆さんは考えるでしょうが、ここでは、机、地面、椅子、空気の何でも寝床になるのです。私たちの影は他者のなかで二重になり、いつもひとつではなく、一緒になったふたつなのです。そうでなければ、ひとつの寝床であるはずがありません。寝床を話題にするにはふたりが必要なのです。ラ・マールが寝ているなら、このいい加減な呪いのお話で起こすのは問題です。そこで、私は間接的に問題を切りだし、何か曲を口笛で吹きながら近づき、天候の話しをするか、あるいは・・・・愛の詩でも作詞するべきなのでしょう。

　　　出典−La Jornada,2000/3/11