ドゥリートが私に言ったのは、虫眼鏡と照明をもって、指示を待てということだった。
何が起きたのか、皆さんは知りたくもないだろうし、私も皆さんにお知らせできそうもない。しかし、あらゆる状況は、権威ある銀河系間テレビ・サパティスタ・システム（略号SZTI）がクーデタにあったことを示唆している。というのも、「われわれのスポンサーたちのご厚意ある支援」によって実現される以上、このシステムもほかのテレビ放送局と競争することが強調されている（アナウンサーがそう言っているように思われた）。

「お前、ふざけるな」と言って、ドゥリートが口を挟んだ。
「まず、クーデタのはずがない。クーデタには、国家が存在しておらねばならない。次に、新自由主義の用語では『株の過半数取得』といったほうが適切だろう。第3に、尊敬すべきテレビ視聴者といっしょに私を非難するよりも、お前の番組のお粗末なランクを上げようと、私が一連の研究に参加していることを感謝すべきである」
こう言いながら、ドゥリートは有名なテレビ・チャンネルの有名なアナウンサーのポーズをした。それは、何が良いもので、何が悪いものか（つまり、その企業にとって何が良くて、何が悪いことか）を視聴者に示すときに行なうお決まりのポーズである。

コミックの時間が始まる数分間を利用し、私はドゥリートに抗議した。
「すみません。私の敬愛する新しいテレビ・スターのカブト虫さま。銀河系間テレビ・サパティスタ・システムのランクは雲の上にまで達しています。さらに、先ほど私に報告があったのですが、多くのX印のついたあなたのポスターのプレゼントというキャンペーンには、今のところ、ひとつも申し込みがありません」
ドゥリートは怯むどころか、反論してきた。
「当然だ。郵便は夢のように早く届かないからな。私の有り余る崇拝者はこのポスターを見たら卒倒するにちがいないと、私は確信している」
「そうですね。あなたの崇拝者はもう死んでしまったと思いますよ。それだけのことです」と言い返した。
「いいから、いいから。お前の厭味はニュースの時間にとっておくのだ。お前、虫眼鏡を持ってきたか？」と、ドゥリートは尋ねた。「ハイ」と返事をしながら、私はズボンのポケットから小さな虫眼鏡を取り出した。それは契約書の小さな文字を読むのにとても役立つ。さらに、私は次の質問も先取りし、「照明灯（SZTI執行部の注釈−照明灯はアザラシと何の関係もなく、手にもつランプのようなもの）も持参しました」と答えた。
「よろしい」とドゥリートは言うと、次のように続けた。
「お前がすべきことを注意してよく聞くのだ。私が『ライト、カメラ、アクション』と言ったら、照明灯をもって、二・三回転し、照明の光を私の高貴な姿に当てるのだ。そして、私はおもむろに『皆さん、ごきげんよう』と言う。私が挨拶をしているのは、（
アメリカかぶれのアルカイネ〔メキシコ労働者連合のボス〕がいつも言っているように）レポーター仲間ではない。尊敬すべき人に、『こんにちは、今晩は、おはよう』と挨拶をするのだ。そこで、お前は虫眼鏡を動かしながら、つまり仲間うちでクローズアップと呼んでいる手法で、照明を私の横姿に当てるのだ。そして、90度回転し、正面からも私に照明を当てるのだ。そこで、私は話しはじめる。…誰も私の邪魔をしないように！」
「コマーシャルはどうします？」と私は尋ねた。
「別の時間帯にまわせ」と、ドゥリートは言い返した。その口調は、メキシコの新聞が友好的に敬意を払うべき人物、つまりフィクサーのフェルナンド・デ・セバージョス〔PAN上院議員で弁護士〕の口調を思わせるものだった。
メーキャップ担当（私のこと）の最終仕上げを受けながら、ドゥリートは尋ねた。
「ところで、この番組は何時に放送されるのだ？」
「24時に全世界の家庭に流されます」と私が答えたとき、フロアー・マネージャー（つまりドゥリート）は、放送開始まで20秒と合図した。全銀河系に書面で放送される唯一のテレビ・カメラの前で神経質になっている様子を打ち消すかのように、「素晴らしい」とドゥリートは言った。まだ放送中ではないので、「５、４、３、２、１、ライト、カメラ、アクション 」という声が聞こえた。

ドゥリートが画面に登場した。「皆さん、ごきげんよう」（照明灯は滑稽に回転し、光線はドゥリートに当てられ、虫眼鏡で彼の横姿、ついで正面に焦点を当てた。次は…）

「尊敬する視聴者の皆さん。SZTIとはまったく無関係の理由で、先ほどのわれわれの電波と政治屋連中の電波が不可解にも混線しました。皆さんも覚えているはずだが、われわれの科学番組のひとつ『夢の速度』が、別のフォーラム、つまり政治屋連中が電子媒体、そして選挙キャンペーンの値段などに注文をつけていた番組で流されていた」
テレビ視聴者（不協和音はライバルである『教養ある』アナウンサーへのささやかな賛辞である）にとっては明白なことだが、メキシコの政治屋連中は、不協和音を暴露したといって、通信メディアを批判している。
一方、われわれがメディアを批判するのは、政治屋連中しか登場させず、連中を分析する材料を提示しようとしないことである。この両者の批判の質は大きく異なっている。
政治屋連中が通信メディアを批判するのは、トップ記事がコミカルな漫画番組になっているのに我慢できないということである。さらに、選挙キャンペーンのスポット広告を流すことで料金を徴収するのではなく、発言や行動で、テレビ局にお金を支払わなければならないということである（政治屋連中はそのことは了解している）。
「お笑いの家」という番組では、メキシコの政治屋連中がすべきことは、すべて斜めにゆがんで見える。この「お笑いの家」は、下院や上院、あるいは最高裁判所、政党本部、州政府の建物、ロス・ピノスの大統領官邸、さらにブカレリの内務省におかれることがある。
政治屋連中の宣言や行動はすべて「ラッシュ・アワー」並だが、サブリナは登場しない。

たとえば、あなたはアルトゥロ・モンティエール（商業センターで事務をやっていない時のメキシコ州知事）の姿を見ることがあるだろう。彼は、テオティワカンのウォール・マート支店〔世界遺産のピラミッドに隣接するサンマルティン・テオティワカンで住民の反対運動にもかかわらず開店〕で、熱心に「火付け役のマッチ」の役割を果たしている。
マルタ夫人に替わる本当の大統領候補者（つまり、カウボーイのフォックス氏にとって都合の良い人物）であるモンティエール氏は、５百年が無駄に過ぎていないことを例証しているのである。以前、先住民の神殿が建っていた場所に教会を建て、今度は商業センターを建てようとしている。
自分たちができることはPRIにそっくりだという確信を再確認しながらも、PRD（注意−右翼のふりをする左翼政党、それともその反対）も後塵を拝するつもりはない。メキシコのラ・ホルナーダ紙の報道では（2004年10月8日付け）、テオティワカンのPRD派町長ギジェルモ・ロドリゲス・セスペデスは、ウォール・マートの支店建設を後押しし、多国籍企業が建築認可を申請する前から、町議会を説得していたのである。
一方、サンティアゴ・クレール（注意−数多くある仕事の合間に内務大臣の仕事をしている）は、時代遅れの媚を売りながら、カトリック教会上層部にレースのハンカチを掲げ、歴史を後戻りさせるのを手伝ってほしいと要請している。教会のお偉方連中は、ブカレリにある内務省では、媚ながら顔を紅潮させ溜息をついていたというが、「熱くなって」、慎みを忘れ、「スカート！」「スカート！」と叫んでいたことが後になって判明した。
カメラを奪い、PRD（それが一時的言明であれ、彼をそう選択しているのであれ）が自分を「偉大なる人たち」に尽くす大統領候補として採用するように画策しながら、フアン・ラモン・デ・ラ・フエンテ氏は、1997年12月のアクテアル虐殺の共犯者であること〔虐殺事件の当時は大統領府長官〕を我々が忘れるように仕向け、アメリカ大陸のインディオ民族の「広報官」であると自分で宣言するしまつである（彼が掲げている数多くの功績のひとつにUNAM総長室を大学都市内のメキシコ68スタジアムの貴賓席に移転したことが挙げられていることに注意）。
その当時、大統領府長官（同時にセディージョ夫人の精神分析担当官）は、「主要報道機関」のテレビ・カメラやマイクを引き連れてチアパスに赴き、襲撃で負傷した少女セナイダと一緒のポーズをとったのである。その現場で、デ・ラ・フエンテは襲撃された人たち全員を支援するなど、あれこれ宣言したのである。
それから７年が経過したが、現UNAM総長にして大統領候補ならびにアメリカ大陸の「インディオ民族の広報官」を自称する人物が共謀したなかで虐殺された45名の先住民、男、こども、女のための正義は、何ひとつとして実行されていないままである。
メキシコの先住民族を犠牲にした滑稽さを真似しながら、ショチトル・ガルベスが率いる専門家(ならびに小切手乱発の)が牛耳るインディヘニスモの主要な受益者たちは、いわゆる「先住民族の十年」は、自分たちに国外への旅行の機会しか提供してくれなかったと嘆いている。 ANIPA指導者のように、自分たちが（フォックス政権に『民俗的』色彩を賦与するという消耗する仕事を提供する）官庁の従業員でしかなかったことに疑念を抱くことすらなく、今では、それまでの衣裳を引き裂き、…新しいパック旅行を待っている。

一歩も遅れをとるまいと、尊敬すべき人の良質のユーモア（ならびにいわゆる記憶喪失）に付け込んで、クアウテモック・カルデナスは、カナダにおいて、「サンアンドレス合意を履行する」ことを要求すると宣言する（ラ・ホルナーダ紙2004年10月１日付）しまつである（これと似た厚かましさで、大統領候補になろうと準備している）。彼の行動、そして現ミチョアカン知事で彼の息子がとった行動に関して、我々はけっして忘れないということを彼はまったく忘れてしまっている。当時上院議員だった息子は、サンアンドレス合意を裏切る先住民法改悪に賛成票を投じたのである。

政治屋連中の（自発的ではないという？）共犯関係の際限ない事例の告発なら、我々はいくらでも続けることができよう。しかし、名誉ある人たちのために、この10月、いくつかの放送メディア（ラジオとテレビ）や新聞メデイアも、遅れをとるまいと躍起になっていることを暴露しているのである。
PRIとPANの近親相姦婚、そしてカルロス・アウマダの無尽蔵（と思われる）のコレクションから見つかった新しいビデオによって推進された憲法122条改正は、この馬鹿げたスキャンダルを画策したのが誰かを知ろうとして、政治屋連中といくつかの放送メディアとのあいだで激しい競争を呼び起こすことになった。
要するに、憲法122条改正は、権利剥奪を憲法で保障された合法的行為として認定するものである。数百万のメキシコ人、大多数が貧困層に属するメキシコ市住民は、連邦地区政府責任者の消耗を目的とした悪ふざけの帳尻を支払わなければなくなるのである。

こうして、マスメディア、政治屋や企業家が中心となって、強奪を正当化するために、「反チランゴ〔メキシコ市民のこと〕」キャンペーンが開始されることになった。この明白なオウン・ゴール（当時クルス・アスルのゴール・キーパーの「スーパーマン」・ミゲル・マリンの記念すべきオウン・ゴールさえ霞んでしまう）によって、パンドラの箱は開けられてしまった。｢連邦地区は地方によって支えられている｣、「チランゴは自分の爪で掻くときがきた（チランゴのアナウンサーのテクストどおり）」、「中央のものを担うことも悪くはない（中央のアナウンサーのテクストどおり）」などという発言が次々と飛び出した。
「祖国を築こう。チランゴなど殺せ！」という昔のキャンペーンの渦中にいるために、政治家連中やマスメディアは、自分たちの大多数がいる都市、自分の企業や大邸宅、高級車を所有している都市、こどもたちが暮らしている都市、自分たちの事務所がある都市がメキシコ市であるということを完全に忘れてしまったようである。
メキシコ市を抜きにした自分たち、つまり権力者について、とりわけ、あるコラムニストが思い起こさせたように大多数が地方の出身者で構成される連邦地区の住民を抜きにしたこの祖国とは、いったいどのようなものなのか。そのことをあの連中はじっくり熟考する気など一片も持ち合わせていない。
だが、その後に起きたことは、完璧な出来ばえである。「チランゴ」に対する敵愾心を煽りながら、政治屋連中やメディアは「薄汚いもの」や「醜いもの」に対する敵意をかきたてだしたのである（この種の存在は国中にいる。我々の親愛なるテレビ視聴者の皆さん、公式には、我々こそが多数派である）。
憲法122条改正と「反転攻勢」に対して、PRDはピンピネーラ・デュエット（パディルナとベハラーノ）を先頭に送り込み、下院の演壇を「占拠」した。
清廉潔白が売り物の（1994年3月のルイス・ドナルド・コロシオ殺害に関与していたとされるが）ベルトロネスはスキャンダルの渦中に投げ込まれた。ペリキン二世、そして（アクテアルの虐殺においてデ・ラ・フエンテと同志・共犯関係にある）エミリオ・チュアイフェットも同じ轍を踏むことになった。
言葉では言い表せないぐらいリトル・ブラザーであるカワギ（環境緑の党の下院議員、そして現在の政治における放送メディアの役割をもっともよく理解している政治家とされる）に至っては、荒れた国会を独占し、臆面もなく、「こんな馬鹿げた見世物を下院議員が演じるなんて、まったく不名誉だ」と宣言するしまつである (彼が言及しているのはPRD下院議員で、テレビサが中継するリアリティ・ショウ『ビッグ・ブラザーVIP（第何シリーズかは不明）』に自分が参加していることではない。そのことによく注意すること)。

いくつかのメディアは持っているもの(あまり多くなく、彼らも気づかない)すべてをもってやって来た。最初にやってきたのはテレビ・アステカである。PRDの「ギャングまがいの行為」をスキャンダルとして取り上げた。しかし、武装ガードマンを動員し、CNI−チャンネル40の施設を占拠［2002年に起きた事件］した際におかした誤りを犯さないよう、万全の注意を払っていた。
だが、これらの演壇の「襲撃者たち」は、薄汚いというだけでなく、（ニネル・コンデ、ニウルカやラ・カンプサーノと比較できないほど）醜悪な男女であるということが判明した。だから、観客はあまり熱狂しなかった。
次は、「犬にしか乗れないカウボーイ〔フォックス大統領〕」を救出するために出動し、太った人物やそれほど痩せていない人物に…いくつかの録画テープを提供することだった。
「泥がついている。立ち止まれ！」という叫び声とともに、いくつかのメディアは陰謀があったことを暴露した。しかし、何たる幻滅！ ロペス・オブラドールはこの種の演目に関する特許を取得している。それゆえ、観客はうわべだけの欠伸をした。
留守番電話の混雑音は、祝賀ムードいっぱいの写真の雰囲気を損なうことはない。フランシスコ・バリオス・テラサ（PAN）の笑い、へルマン・マルティネス（PAN）の拍手、フランシスコとフアン・デ・ディオス・カストロ（PAN）の抱擁 (注目−PAN党員は国旗の四番目の色を発見)、PRIのチュアイフェットやベルトロネスの微笑みが映っている。

もう誰も何も言わない。だが、その後、PRIが消費税率引き上げに賛成票を投じた時には、我々の誰もが記念すべき「ロケ・セニャル」〔1997年のメキシコ市長選、2000年のPAN内大統領予備選候補として出馬するが、敗北〕のことを思い出した（彼の動作がずいぶんマッチョなのはよく知られていたが、それは「オカマ連中」と一緒に歩かないというフィクサーのフェルナンデス・デ・セバージョス氏のお気に入りだったらしい）。それから数年後、PRIは、まずメキシコ市、ついで大統領の選挙に負けることになった。
その後、カウボーイ気取りの男〔フォックス大統領のこと〕が鞭（さらに小道具のマチェーテも）を震わしている姿を写したビデオ、ピンピネーラ・デュエットの一瞬の栄光（軸棒だから仕方ない）、ロサリオ・ロブレス〔クアウテモック・カルデナス辞任後、メキシコ市長代行に就任、元PRD代表、カルロス・アウマダによるメキシコ市当局PRD党員への献金スキャンダルで失脚〕の「物わかりの良い」テレビサへの「出頭」、チワワでのフォックスを右往左往させる事件などが次々と起きた。

そこで、私はテレビのスイッチを切った。笑えるどころか、腹が立ったからである。
本、新聞や雑誌を読むように、読まなければならないテレビを見ていたからである。
おまけに、あの連中は苦悩することはない。皆さんは、さらなるスキャンダルの出現を目の当たりにするだろう（少なくとも、アレハンドロとラサロに関するビデオが流されるのが待たれる）。皆さんご承知の通り、現在は衝撃を受けている側が、明日になると、衝撃を与える側になる場合も、その逆の場合もあるからである。
画面の上方に流れる国の重要問題に関するテロップで目立つのは、「理念や議論、ビデオや録音の不足」という文である。
タン、タン。

ドゥリートの姿は徐々に消えた（実際には、蜘蛛の糸を這い上がり姿を消す。しかし、テレビ放送は続く）。ドゥリートに代わって、次の新しい字幕が現れる。

「以上で、われわれのコミック番組は終了します。この後もわれわれの局を見てください。われわれの『レカバリー・チャンネル』（『ディスカバリー』ではなく『レカバリー』であることに注意）にはとてもすばらしい番組があります。サスペンス・シリーズのほかにも数多くのびっくりする番組があります。銀河系間テレビ・サパティスタ・システムにチャンネルを合わせてください。（読めるとしたらですが）唯一の読むテレビです。チャンネルを変えないでください。また、お会いしましょう」

では、お元気で。一瞬、フェイド・アウト（それを希望）。

メヒコ南東部の山中にて　　
叛乱副司令官マルコス メヒコ、2004年10月。20周年／10周年

追伸：女性隊長に感謝 。

出典−雑誌『レベルディア』25号, 2004年11月