サパティスタの先住民共同体のための「福引大会」があるこの芸術作品の展覧会に来場の方々を歓迎するため、あの偉大なるラカンドン密林のドン・ドゥリート様が書簡を認められている。

この文章を読み上げる奇妙な鼻詰まりの声がお耳に達したとすれば、その忌々しい咳のせいで、私のこの魅惑的で男らしい声によって、皆さんを喜ばせられなくなるにちがいない。以下の言葉をうまく録音するよう、皆さんが「副指令マルコス」としてご存知の生意気なわが従者に命令したのだが。

わが従者がコミュニケ、書簡、追伸、あるいは類似のものを発表することを皆さんが期待していたことは、私としてもよく承知している。私としては、彼の文章がないことを大目に見ていただくよう、寛大な皆さま方にお願いしなければならない。このように言った理由は、この大いなる不名誉の犠牲者がいるからである。

わが従者は、善き統治評議会のための福引大会のため、グラフィック工房や個人を含めた数多くの芸術家たちが寄贈したグラフィック芸術作品をどれもよく知らなかったのである。だから、彼は「壊れた時計」と題するナンセンスな作品を搬送するという暴挙に出れたのである。
展示会場をざっと見渡せばすぐ分かる。ギジェルモ・パチェコ、ルベン・レイバ、ルイス・サラーテ、アレハンドラ・ビジェガス、フアン・アルカサール、ナントゥコ、フスティナ・フエンテス、ビセンテ・ロホ、アルヌルフォ・アキノ、ガブリエル・マコテラ、ナオア・ニコラス・デ・ヘスス・アギラール、ラファエル・ロペス・カストロ、エル・グリトン、フェルナンド・サンドバル・グラフィック工房、フアン・アルカサール・グラフィック工房、ホセ・ルイス・マルティン、アルシオン出版、ブランカ・ビジャルバ、ベアトゥリス・サクレ、エリサ・ラミレスが寄贈した作品群が、展示会場に、最初は緑、次は黄色、最後は赤というセクションに分けられ、交通信号のように配置されている。

わが従者に対して、私が提案したのは、「第3次元」、あるいは総天然色の「パーフォマンス」と呼ばれる技法で、グラフィック作品として、自分自身を搬送せよということだった。十分に効果が出るように、「多彩色の鼻」という作品のタイトルを示唆しておいた。

彼が私の提案を退けた理由はわからない。私に従っておれば、「壊れた時計」と称する腑抜けの題名で出品するより、はるかに成功するにちがいないと確信している。だが、わが従者の間抜けさ加減の埋め合わせに、私は、「壊れた時計」にも、よい点が少しはあることも申し添えておくべきだろう。

たとえば、真面目な人、あるいは不真面目な人が、この作品の入札券を買ったとしよう。その人が必ず勝つことは眼に見えている。競争相手が「不在」なのは明白で、彼が入札に勝つにきまっている。入札に勝つことは、たとえ獲得賞品が壊れた時計であったとしても、とても喜ばしいことにかわりがない。

それだけではない。自動車を自損事故で壊したと想定してみなさい。壊れた自動車を修理工場に持っていくと、修理工は次のように言うだろう。
「旦那さん、いいですか。あなたの自動車はまるで民営化された企業の状態だ。つまり、その人格を傷つけないかぎり、雄牛でも牝牛でも、引っ張れはしない。というのも、よく注意してごらん。その自動車のベンディックス、つまり自動車を走り続けさせているものが壊れている。おまけに部品はもう生産中止だ。だから、もう全部を総入れ替えするしかない」　　
あなたは、自殺、あるいは新車を買うために借金（これまた、自殺の別の形態ですが）するかわりに、家に帰り、壊れた時計から必要な部品を探さねばならなくなる。

ほかにもよい点がある。あなたに子供がいるなら、壊れた時計の利点はさらに増すだろう。壊れた時計には、少なくとも、自転車３台、三輪車３台を組み立てるための部品がある。車輪とチェーン、骨組みだけ用意すればよくなる。こう言ったからといって、壊れた時計を馬鹿にする必要はない。なぜなら、クリスマスと東方の三博士の日が近づいている。きっと、あなたは１月の金欠病をうまく乗り切れるだろう。
ピクニック、あるいはサパティスタの20/10周年を祝うための問題だって？ さて、壊れた時計のすべてのカバーを解体し、レンガの上に水平に並べれば、円卓テーブルの出来上がりである。
デートの約束に遅れたって？　壊れたので時計が止まったという言い訳は、もっともらしい真実みをもつでしょう。
そして、極端な場合、相当額のお金を調達する必要があるなら、古鉄業者の店でキロいくらで、壊れた時計を売ることができる。
かといって、この時計のぜんまいを巻くことを気にしなくてよくなるというのではない。

このように壊れた時計の有する実践的長所について百科事典を書くことができるかもしれない。しかし、私がそうした利点を掲げるたびに、わが従者はぶつくさ不平をこぼしてきた。
彼が言われたとおりしていれば、何も起こらなかったはずである。

わが従者に、参加を取りやめ、私に権利を譲るように、私はそれとなく言っておいた。私の絵筆の腕前は伝説となっている。だからこそ、「催しものの予告」というカテゴリーでシスティナ礼拝堂に残る作品、「ダイエット中のペンキ屋」という触れ込みであのミケランジェロの名を知らしめるような作品を残せたはずである。
さらに、モデルとしてポーズをとるなら、それを後世に伝わる彫像にしてやると、わが従者に言っておいた。槌と鑿を手にした私が、（絵画がより自然なものになるには）キュビズムをモデルに適用するのが最良であると言ったのに、わが従者はそれを疑い、作品の値段が高くなり、その後の生活がよくなると仄めかしても、それを真っ向から否定した。
静物画と同じことが起きなくても、彼の鼻を描ける画布の代金が私の予算の枠を超えようとも、私にとっては大したことではない。

さて、この展覧会と福引大会の組織者が、私を造形芸術家の参加者リストから外すという悪趣味の持ち主だったにもかかわらず、私は、芸術作品ではなく言葉を持参して、この展覧会に出席することを決めたのである。

まず、私としては、工房であれ諸個人であれ、参加している芸術家諸氏に感謝しておきたい。福引大会に自分の作品、または所蔵品のいくつかの芸術作品を寄贈された皆さんに対して感謝したい。（壊れた時計を除く）すべての作品の質に関しては、なんら疑う必要もないだろう。そうした作品が余っているから出品したのではない。彼らの気持ちのなかで正当と考えている大義を支援するうえで、作品の出品が有効と考えたからである。その大義とは、インディオ民族の掛け値なしの誠実な発展である。

これらの出品者を突き動かした大義は、サパティスタの先住民共同体を支援することである。この芸術作品の福引大会の収益は善き統治評議会に送られ、抵抗するインデイォ民族のための、保健医療、住宅、食料、教育、生産と流通に関するさまざまな計画に使われることを最初に明らかにしておくのがよいだろう。
市民のための非軍事的な目的以外、びた１文も使われない。

グラフィック芸術に関する私の無知は百科事典的と言えるだろう。だが、誠実で高貴な精神を持つすべての人々が創りだす芸術作品は、その人格と同じように、高貴なものであると考えている。

われわれが賞賛する芸術の誠実さと高貴なる精神は、それらの芸術作品が有する目的、つまり先住民共同体の正当なる発展に由来するのではない。線を描き、色を創りだす、あるいは交換に何かを要求することなく、正義と厳密性をとともに彼が保有している何かを与えようとする手に力を与えている血に由来する。

現在の世界では、すべての行為は、明に暗に、「何のために？」や「何に対抗して？」という問いかけを伴なうものとなっている。このことが、芸術、この場合、グラフィック芸術にも関係すると付け加えたら、私は未知の領域に踏み込んだことになるだろう。

権力のグローバル化が進行している世界では、中立の場は消滅し、中間点はますます希薄になっている。
現在では、「何のために？」や「何に対抗して？」が「誰のために？」や「誰に対抗して？」という問いかけに変ってしまった。

今、すべてが白か黒かになり、色は消滅し、われわれは未来を失ってしまったわけではない。いや、そうではない。

政治や芸術の世界に棲みつく灰色は、定義のない世界、ガラスの塔へと逃げ込んでいく。その塔は、世界を多くの色で塗りながら、心に色を塗り、心のなかで新しい世界を想像することがないようにするために、権力によって建設されている。

だが、そこにも多くの色が存在している。それを見つめることは容易ではない。理性がないので、命令するために力を行使する人々の先天性色盲は感染力を持っている。

多くの色を見ることが難しいので、多くの色を塗るには、いわゆる「名誉」と呼ばれる努力、「尊厳」と呼ばれるものが必要となる。

この芸術展覧会とその後の福引大会を可能にした人々は、「誰のために？」や「誰に対して？」という問いかけに躊躇わず応え、われわれに今日の行為で宣言する。
インディオ民族のため、彼らを無視する連中に対抗して。

この場にあるどの作品も、それぞれイエスとノーを持っている。社会的責任にイエス、無関心と厚顔無恥にノー。

ついでに、文化のなかに充満している「わからない」というものたちにも、やはり挨拶しておかなければならない。
つまり、この人間的でグラフィックな作業の参加者に感謝したい。
皆さん、お元気で。
無気力や無関心を熟練した色鮮やかな描線で偽装できるなら、自らの芸術で、大地の色をした人たちを見つめることを選択している人々に、脈打つ心があることを願っている。

では、お元気で。上の時計は壊れ、下の時計は、あるべきかたちで、つまりあらゆる色を伴なって、ついに歩み始めた。

メヒコ南東部の山中より　
副指令マルコス代読、ラカンドン密林のドン・ドゥリート
メキシコ、2003年11月、20/10周年

　　出典−La Jornada, 2003年11月11日