へこんだミニカーのお話 20010318
サンイシドロ・ファベラ区のこどもたちへ
私の口から、ＥＺＬＮの言葉を話しません。
そうです。「云々の言葉を話しません」というのをちゃんと聞いていましたね。昨日、われわれがいた部屋の壁を見つめながら、私はあれこれ考えていました。それは、一度に分析、考察、感謝、招待などになる言葉を皆さんに言うべきなのか、それとも全員が参加できて、喜び、歌や踊りなどがあるお遊びがいいのかということです。
しかし、私が思いついたのは、「ちっちゃな男の子、女の子」と呼び掛けているラジオ番組と似たようなものでした。つまり、とっさに思いついたのは、フォックス氏のイメージ演出の相談役たちが私たちのすることを真似するようにと彼に進言しているのと同じように、３つのシグナルを実行する用意ができているとか、平和をコマーシャルと取り替えようと二度とはしないとか、そんなたぐいのことを宣言しながら、登場すできないだろうかということでした。
そんなことを考えていると、ふっと灯りが消えました。中途半端な暗やみが私の周りを支配していました。「中途半端な」と言ったのは、ほぼ同時に、ドアの支柱の下からミニチュアのクリスマスツリーのようなものが登場したからです。それはせかせかと動いていました。私はカレンダーを確認しながら、「今は３月だ。３月にクリスマスツリーがあるはずはない」とつぶやきました。
私は狼狽しましたが、何とか自制しました。というのも、私たちサパティスタはとても勇敢とされているからです。私が恐がっているなんて、よくは思われません。だから、皆さん、私が暗やみを恐がっているなどと言い触らさないでください。私たちこどもにとって暗やみは恐いものです。だから、私たちすべてのこどもが光を手にいれられるように、私たちサパティスタは戦っているのです。だけど、それはまた別のお話です。
私の部屋の扉の下から小さなクリスマスツリーのようなものが現われ、私の方に近づいてきた。こんなふうに皆さんに言いましたよね。その物体が近くにきたので、それがクリスマスツリーでないことに気がつきました。それは多彩色の豆電球飾りで、へこんだミニカー、またはペシャンコのボールのような形になって、何かに引きずられていました。
「おまえの爺さん、へこんだミニカー。おまえの婆さん、ペシャンコのボール」
その物体がへこんだミニカー、あるいはペシャンコのボールに似ていたため、私はついこんなふうに叫んでしまいました。お婆さんがとても好きだったので、私は、それが「何であろう！」とも、ふさわしい灯りをつけることにしました。
灯りをつけた私はとてもびっくりしました！その物体が「ラカンドン密林のドン・ドゥリート」と自称する気難しがり屋のカブトムシであることを発見したのです。彼の本名はナブコドノソルです。しかし、私たちのような友達が彼のことを「ドゥリート」と呼ぶことは認められています。
私は挨拶しました。
「どうも、ドゥリート。こんな所でお会いできるなんて思ってもいませんでした。だけど、なぜクリスマスの豆電球飾りを引きずっているのですか？ぃまはもう３月ですよ」
「そんなことは知っている。おまえがサパティスタというのが本当なら、ちゃんと知っているはずだ。私たちサパティスタは、３月や７月であろうと……毎月一回であろうと、こどもたちが好きな時にクリスマスを楽しめるように戦っているのだ」
「はい、わかりました。どうしてクリスマスの豆電球飾りを運んでいるのですか？」
「わしは偽装してきたのだ」
「で、何のふりをしているのですか？」
「パトカーだ」
「パトカーですって。」
「そうだ。私はサパティスタ代表団の安全を守るという任務についている。私が偉大な存在、無比の存在、至高の存在、『完全にデジタル化され、特許を得た、バッテリー付きのラカンドン密林のドン・ドゥリート！』ということに誰も気づかれないように、私はパトカーのふりをしているのだ」
「デジタル化され、特許を得た、バッテリー付きのですって？」と私は尋ねた。
「そのとおり。今、私は企業の優秀な周波数にのって歩んでいるのだ」とドゥリートは答え、さらに続けた。
「ペシャンコのニンジン鼻の奴よ、答えなさい。今、何をしているのだ？」
「私たちが滞在する居住区のこどもたちに対して、私たちを受け入れてくれたことを感謝するメッセージ、ありるいは挨拶といったところです」
「よろしい、どきなさい。それは頑丈なドゥリート様の仕事である。おまえにひとつお話をしてやろう。おまえがそれを読めば、こどもも、大人も喜ぶだろう」
「ですが、ドゥリート」と私は抗議した。
「ですが、など無用！ここに書いてある」
へこんだミニカーのお話
かつて、ゼンマイのないゼンマイ付きのミニカーがあった。つまり、ミニカーにはゼンマイはついていたが、誰もゼンマイを巻かなかったのだ。誰もゼンマイを巻こうとしなかったのは、そのミニカーがとても古ぼけていたからである。完全にへこんでいて、ひとつのタイヤが外れていたため、動いていた時、同じ箇所をグルグルと回るだけだった。
こどもたちはミニカーのことをまったく気にしていなかった。というのも、変身仮面やポケモンやソディアティック騎士などのおもちゃで遊んでいたからである。
だから、ゼンマイ付きのミニカーのゼンマイを巻こうとするこどもはいなかった。ところが、ある時、この大都市で停電が起きた。電力産業の民営化を命令した男と金持ちたちが他の国に電力を持ち出したからである。そのため、変身仮面［仮面ライダー？］やポケモンやソディアティック騎士［北斗の拳？］はまったく動かなくなってしまった。
その時、へこんだミニカーは言った。
「私にはゼンマイがある。だけど、ゼンマイを巻いてくれる人がいない」
それを聞いていたひとりのこどもがミニカーのゼンマイを巻いた。すると、ミニカーはグルグルと回転しだした。
「それで、次はどうするの？」とこどもは尋ねた。
「そうじゃない。上に足をつけるのだ」とミニカーは言った
言われたとおり足を付けるとこどもは尋ねた。
「次はどうするの？」
「向こうにあるモーターに繋いでくれ」
こどもは言われたようにした。
「ゼンマイを巻いてくれ。そうすれば、灯りがつくはずだ」とミニカーは言った。
こどもは言われたようにした。すると、再び灯りがつくようになった。ゼンマイ付きのへこんだミニカーをもっているすべての家庭において、同じ作業が行われた。ミニカーのない家では、灯りのないままだった。最後に、ミニカーは言った。
「こうすれば、やるべきことはできる。世界が再び光を手にすることができるように、いろんな物の上に足を付ければいいのだ。タン、タン」
教訓−電力産業は民営化しないほうがいい。なぜって？全員がゼンマイ付きのへこんだミニカーをもっているわけではないからね。
サンイシドロ・ファベラ区より
ラカンドン密林のドン・ドゥリート（バッテリー付き）
メヒコ、2001年３月
「ドゥリートてば！」と私は抗議した。
「なんだい」
「そんなお話では、誰も喜ばないよ！」
「どうして？とてもすばらしく中身の濃いお話だぞ。バッテリーも必要ないし、壊れもしない。さて、私は出掛けることにする。この辺りをフェルナンデス・デ・セバージョス［ＰＡＮの上院議員団代表、超保守派で髭が濃い］がうろついているからな。ここに髭剃り用の剃刀をもってきた」
つまり、以上がお話である。サンイシドロ・ファベラ区のこどもの皆さん。気に入ってくれるといいのですが。そして、なぜ、私の口からＥＺＬＮの声が語られない理由もわかったでしょう。今回は、「ラカンドン密林のドン・ドゥリート」という名のカブトムシの声が語られたのです。彼の仕事は、貧しい人々を助け、権力をもつ連中を挫くことだそうです。
では、お元気で。この辺りでドゥリートを見かけたら、黙って取っていった煙草を返すように言っておいてください。
くしゃみをする副司令
出典−www.ezln.org/marcha/20010318
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