2003年7月に明らかにされたEZLNの新しい方針

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（１）EZLNの新しい方針は以下のようにまとめられる。

１. EZLNはメキシコやベネズエラの主権防衛やイラクの人民など全世界の人民の正当な戦いに連帯する。
２. EZLNは、サンアンドレス合意の実行を反故にした政治権力との接触を停止する。合意の実践として叛乱地区での抵抗を継続する。
３. EZLNはプエブラ・パナマ計画(PPP)を叛乱地区で受け入れない。PPPの対案としてラ・レアリダー・ティフアナ計画を提起する。
　モレリア・北極計画−北米のための計画。
　ラ・ガルーチャ・フエゴ島計画−南米のための計画。
　オベンティック・モスクワ計画−ヨーロッパとアフリカのための計画。
　ロベルトバリオス・ニューデリー計画−アジアと太平洋のための計画。
４. EZLNはカンクンで開催されるWTO閣僚会議に反対するために赴く。
５. EZLNは攻撃を準備する準軍事組織にこれ以上の免責はないことを警告する。
６. EZLNは８月９日に短波放送「叛乱ラジオ」(5.8メガヘルツ、49M)を開始する。
７. 30のサパティスタ叛乱自治地区(MAREZ)は副司令官マルコスを代弁者とする。
８. 各アグアスカリエンテスとMAREZ が抱えてきた問題、ならびに市民社会との関係性の自己批判に基づいて、MAREZは5つのアグアスカリエンテスを葬送することを決定した。それに代わる５つの巻貝を創設し,そこに「善き統治評議会」の家をおく。
　「善き統治評議会」は、地区にある自治協議会の代表１−２名で構成される。先住民地下革命委員会CCRI-CGが「人々の意思に従って統治する」原則に基づき任務が遂行されているかを監視する。

（２）「善き統治評議会」の目的は以下の通りである。

a: 自治地区と共同体の発展の不均衡を調節する。
b:　自治地区同士、自治地区と既存の行政地区との間で生じる紛争を調停する。
c:　人権侵害、抗議や異議など、自治協議会に対する告発に対応し、真相究明を行ない、自治協議会に改善を促し、実行を監視する。
d:　サパティスタ叛乱自治区の共同体の事業や課題の実行を見守り、共同体の計画支援を推進する。
e:　共同体の合意によりサパティスタ叛乱自治区で機能している法律の実行を監視する。
f:　生産計画推進、平和キャンプ設営、研究のために共同体を訪れる市民社会の世話と案内をする。
g:　CCRI-CGとの合意に基づき、自治地区の同志が共同体外の活動やエベントに参加することを推進し承認する。派遣するメンバーの選出や準備も行なう。
h:　自治地区で「人々の意思に従って統治する」かを見守るために「善き統治評議会」は８月９日に設立される。５つの巻貝はMAREZ全体の地域的行政を担うことになる。
　しかし、MAREZの政府は、司法権の行使、共同体の保健衛生、教育、住宅、土地、労働、食料、商業活動、情報と教育、地域輸送の部門の権限を排他的に有する。

（３）創設される５つの巻貝と「善き統治評議会」

1) ラ・レアリダーの巻貝、国境隣接地区、住民はトホラバル、ツェルタル、マム。
　名称は「我々の夢の海の巻貝の母」（S-NAN XOCH BAJ PAMAN JA TEZ WAYCHIMEL KU'UNTIC）
　善き統治評議会＝「希望に向かって」
　範囲はマルケス・デ・コミージャス、モンテス・アスレス地区、タパチュラに至る国境隣接地区の全行政地区。
　MAREZは４つ：エミリアーノ・サパタ将軍、サンペドロ・デ・ミチョアカン、マヤ民族の自由、土地と自由。

2) モレリアの巻貝、ツォツ・チョフ地区、住民はツェルタル、ツォツィル、トホラバル。
　名称は「我々の言葉の旋風」(MUC'UL PUY ZUTU'IK JU'UN JC'OPTIC）
　善き統治評議会＝希望の虹の心( Yot'an te xojobil yu'un te smaliyel)
　範囲は、オコシンゴ、アルタミラノ、チャナル、オシュチュック、ウイシュタン、チロン、テオピスカ、アマテナンゴ・デル・バジェ
　MAREZは７つ：11月17日、1月1日、エルネスト・チェ・ゲバラ、オルガ・イサベル、ルシオ・カバーニャス、ミゲル・イダルゴ、ビセンテ・ゲレロ。

　3) ラ・ガルーチャの巻貝、ツェルタル密林地区、住民はツェルタル。
　名称は「新しい夜明けに向かって」( TE PUY TAS MALIYEL YAS PAS YACH'IL SACAL QUINAL）
　善き統治評議会 ＝未来の道(Te s'belal lixambael).
　範囲はオコシンゴ。
　MAREZは４つ ：フランシスコ・ゴメス、サンマヌエル、フランシスコ・ビジャ、リカルド・フローレス・マゴン。

4)　ロベルト・バリオスの巻貝、チアパス北部地区、住民はチョル、ソケ、ツェルタル
　名称は「皆のために語る巻貝」(ツェルタル語でTE PUY YAX SCO'OPJ YU'UN PISILTIC、チョル語で PUY MUI TI T'AN CHA 'AN TI LAK PEJTEL).
　善き統治評議会＝生産する新しい種(ツェルタル語で Yach'il ts'unibel te yax bat'p'oluc、チョル語で Tsi Jiba Pakabal Micajel Polel）。
　範囲はパレンケからアマタンにいたるチアパス北部の行政地区。
　MAREZは７つ：ビセンテ・ゲレロ、労働、山、叛乱するサンホセ、平和、ベニート・フアレス、フランシスコ・ビジャ。

5) オベンティックの巻貝、チアパス高地、住民はツォツィル、ツェルタル。
　名称は人類のための抵抗と叛乱(TA TZIKEL VOCOLIL XCHIUC JTOYBAILTIC SVENTA SLEKILAL SJUNUL BALUMIL)
　善き統治評議会＝世界の前にたつサパティスタの中心の心(Ta olol yoon zapatista tas tuk'il sat yelob sjunul balumil)。
　範囲はチアパス高地で、チアパ・デ・コルソ、トゥストラ・グティエレス、ベリオサバル、オコソクアウトラ、シンタルパに及ぶ。
　MAREZは７つ：サンアンドレス・サカムチェン・デ・ロス・ポブレス、サンフアン・デ・ラ・リベルター、サンペドロ・ポロォ、サンタ　　カタリーナ、マグダレーナ・デ・ラ・パス、２月16日、サンフアン・アポストル・カンクック。

　注−最初のコミュニケでは30のMAREZが５つの善き統治評議会に参加していることになっているが、実際には27しかない。1994年12月に宣言された叛乱自治地区も30だが、今回のものと共通するのは22である。憲法上の行政地区と同じ名称の自治地区は、以前はいくつもあったが、今回まったくない。

（４）　善き統治評議会が最初に行なった措置

１：特定の個人、共同体、自治地区への市民社会からの寄付や支援は今後いっさい認めない。支援の一番必要な共同体の状況を評価したうえで、寄付や支援の届く対象を善き統治評議会が決定する。善き統治評議会は、計画の予算の一割を「同志的賦課金」としてすべての計画に課する。計画のために経済的支援を受けた共同体、自治地区、協同組織は善き統治評議会に資金の１割を供託し、評議会はそれを援助が来ない共同体に振り分ける。その目的は抵抗する共同体の経済発展の不均衡を是正するためである。当然、余った不要なもの押し付け、施し、計画の押し付けは拒否する。

２：善き統治評議会に登録された人物、共同体、生産流通の協同組合や組織のみをサパティスタとして認知する。いくつかの有機コーヒー生産共同組合にみられるような非サパティスタ、反サパティスタが、サパティスタを僭称することをさけるためである。
　　　サパティスタの協同組合の利益、あるいは配当割戻し金は、商品を流通できなかったり、支援を受けていない同志を支援するため、善き統治評議会に供託される。

３：病気治療、計画実施、移動のための援助資金を要請するための特別任務で派遣された、あるいはメキシコ市内のEZLNの秘密基地で訓練するなどといって、市民社会を欺く似非サパティスタが存在する。まず騙されるのは、知識人、芸術家、教員、地方自治体の職員などであり、次いで若い学生が嘘の犠牲者となる。EZLN はメキシコ市内に基地を持っていないし、訓練も行なっていない。この似非サパティスタは受け取ったお金を個人的目的で使用している。EZLNはこれらの詐欺行為の調査を行なっている。EZLN総司令部との接触が難しい場合、善き統治評議会に当該人物に関して問い合わせることができる。善き統治評議会はそうした人物の証明書を発行する。

（５）オベンティックの巻貝における巻貝創設の式典（8月9日）

　演説は控えめに、角逐のサパティスタのバンドなどによる歌や音楽をふんだんに行なう。
　この場で、国内外の市民社会は、計画、平和キャンプ、訪問、寄付などについて、誰に問い合わせるべきかを知ることになる。人権活動家は告発をまわすべきかを知ることになる。軍隊や警察は誰を攻撃するべきかを知ることになる。好きなことを言ってきたマスコミは誰を攻撃し、誰を無視すべきかを知ることになる。誠実なマスコミは誰に会見を申し込むべきかを知ることになる。連邦政府や特別全権委員は交渉相手を失うことになる。権力は誰に対して恐怖を持つべきかを知ることになる。
　　　　

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　和平交渉に信頼がおけず、選挙が下の人々を見つめその意思に従って統治しようとする統治者にとり意味のないものである以上、自らの方法を実践することが残された選択肢となる。我々が人権を持つことを保障するのは、法律や良心ではない。大地を遺伝子組み換え作物や農薬から無縁の食料、水、生物多様性、健康、教育、もっとも基本的な正義を防衛するための塹壕とすることである。新自由主義や自由貿易協定を人間化することではなく、積極的で建設的な抵抗を行なうことである。政治家たちに影響力を及ぼそうとするだけでは不十分で、それを現実のものにしようと自ら行動することである。

　EZLNの提起する新しいモデルはチアパス先住民の大地を押し潰そうとする巨大資本の利害をかき乱すものである。それゆえ、MAREZの成長を潰すために、さらに軍事化が進行し、準軍事組織の暴力が顕在化することが予測できる。

　EZLNは地域、大陸、世界の社会的問題についても、はっきりと耳を傾ける。EZLNの政治的分析や主張が全世界の何千もの動員を呼び起こす起爆剤となっていたのに、EZLNがこうした問題に沈黙してきたことが混乱を引き起こしてきた。サパティスタの意見に「従わない」ことを畏れるあまり、組織、市民、連帯組織の一部には、PPP、中米自由貿易協定、世界貿易機構、あるいは他国の先住民紛争や社会紛争に対して抗議行動に参加しないものがいた。批判精神の欠如は深刻なものとなっている。EZLNの誤りを批判することを恐れるあまり、沈黙を選択し、幻滅が増大してきた。だが、今や、MAREZの評価や発展、社会との関係をめぐって、EZLN自体が自己批判を取り込むようになった。共同体に組織的な力、構造的な力をもたらし、先住民共同体の伝統となっている民主的なプロセスを深化させる。
　このプロセスは巻貝のイメージに似ている。

　副司令官の指摘するように、先住民は彼らの大義を支持する人々にも怒りを感じている。彼らは人々の意思に従っていない。大いに話してほしいのに、彼らは黙り込む。沈黙してほしいのに、お喋りをする。前に出て導いてほしいのに、後に引き下がる。後からついてきてほしいのに、そばで足を引っ張る。自分たちについて語ってほしいのに、無関係のことを話しまくる。いずれにせよ彼らの言動は、人々の心象を害するものとなっている。サパティスタの特殊性は問題を創りだし、誰がそれを解決するかを観察することである。この巻貝創設の式典では、問題が噴出することになることしか望めないだろう。何が議論されるかは予測できる。サパティスタは物が存在しないときに、それを夢見るのである。

　補注１：巻貝のイメージ

　「巻貝は共同体に入るため、そして共同体が外に出るための門のようなものである。我々の内側を見るため、そして我々が外側を見るための窓のようなものである。我々の言葉を遠くまで伝え、遠くにある声を聞くための角笛のようなものである。しかし、何よりも、世界に存在する数多くの世界が正常に機能するよう夜を徹して見守るべきことを我々に記憶させるものである」

　補注２：シンデレラ症候群

　アグアスカリエンテス葬送を決定した理由のひとつに、一部の市民社会に存在し続けた「シンデレラ症候群」があげられている。このことについて、1994年年の書簡でマルコスは次のように指摘している。

　「我々は共同体にやってくる市民社会を責めるつもりはない。…我々が痛みを感じているのは物がないことではない。…数週間前、私のもとに、サイズ６半のピンク色の輸入品のハイヒールが片方だけ届いた。１月１日以降、メキシコ社会にとって我々はシンデレラのようなものになっていることを思い出すために、私はその片足のハイヒールをいつもリュックに入れていた。これを送ってきた善良な人物は、我々のように貧しい人なら、何でも、慈善や施しでも受け取ると考えたのであろう。善良な人々に不要ですとどのように告げたらよいのだろう。我々の存在がメキシコの恥であるなどと見られ続けたくない。メキシコの他の人々に悪影響を及ぼさないようにきれいに着飾る必要があるのだという。そのように見られることを我々は望まない」