第5回CNI議会１期集会：地核の激震を！
CNI創設20周年集会（オベンティック）を挟んで、チアパス州サンクリストバル市の統合的養成先住民センター・大地大学（CIDECI-UniTierra）で開催されたCNI 第５回議会（2016/10/9〜14）には、国内32先住民族から約500名の代議員が参加した。従来のような迫害や苦痛を告発する段階から、「上の政治」の心臓部に打撃を与える反撃に出ないと、CNIは霧散消滅する恐れがあることを、EZLN代議員は指摘した。
それを避けるためには、国の統治に意欲のあるCNI代議員によって構成されるコレクティボを組織する必要性が訴えられた。ガレアーノ副司令官によると、10月のCNI内部討論の過程でEZLNによって示されたのは、CNIがMORENAを支援するか、別の政党に加盟するか、新政党を構成するかという3つの選択肢であった。しかし、CNIはEZLNの提案を退け、CIGを創設することが採択されたのである。当初、サパティスタ管轄地域で組織されていた「善き統治評議会」に倣った先住民統治評議会（Junta de Gobierno Indigenaという名称だったが、オアハカ州女性代議員の提案でCIGとなったとされる。
さらにCIG女性広報官を大統領選挙の独立候補として擁立する方針も提起された。提案は少なからぬ驚きや怒りで迎えられ、大半の出席者は沈黙を守ったが、同意が得られたわけではない。長い沈黙の後、「提案はこれまでやって来たことと矛盾する点があるが、先住民族が見える存在となるうえで、CNIを再構築する手立てかもしれない」という発言を受け、各地区に提案を持ち帰り、協議することになった。12月12日までに結果を集約し、2016年末の２期集会で、提案を再検討することになった。

提案に対する多様な反響
CNIとEZLNの提案が報道された後、メキシコ国内では様々な反応が見られた。無視や無関心を除けば、�@ 2001年以降の基本方針「選挙を通じた政治実践をしない」を全面的に転換したとして批判するもの、�A 選挙を通じた政治参加の方針転換を歓迎するもの（民主革命党PRDや独立派候補、チアパス司教など）、�B 2006年の「別のキャンペーン」と同じように、反ロペス・オブラドール陣営の形成に向けたマヌーバーで、左派勢力の分断になると危惧を表明するもの、という3種類に分類できる。とりわけ、PRDに替わる新組織として2014年に結成された国民再生運動（MORENA）から、2018年の大統領選挙に出馬予定のロペス・オブラドールは、EZLNの投票ボイコットによる票数の減少が、2006年と2012年の過去2回の大統領選挙の敗因として、EZLNの路線転換を激しく批判していた。
選挙を通じた政治への参加表明に関して様々な誤解が見られることは、ガレアーノ副司令（元マルコス副司令）やモイセス副司令官によって指摘されている。CNIとEZLNの共同提案は、CIG女性広報官である先住民女性候補の大統領選挙において当選させることが目的ではなく、メキシコと世界の農村・都市の貧しい人々に闘争を継続し、組織化を推し進めることと述べている。EZLN構成員は投票の権利を行使するが、EZLN自体が政党にはならない。EZLNメンバーがCIG広報官に選出されることはなく、大統領候補にはならないことを明言している。

第5回CNI議会２期集会：震央からの知らせ
EZLNが呼びかけた「人類のためのコンシエンシアス」の集会に挟まれる形で、第5回CNI議会２期集会は2016年12月30日〜2017年1月1日に開催された。集会には、国内25州の43先住民族から代議員532名など約千名が参加したとされる。CNI関係者だけで開催された集会では、430名の代議員がCIG創設の提案に対する支持を表明し、80名の代議員からは協議続行中であるという報告があった。一方、20名の代議員からは、迫害や弾圧などで協議が実施できていないと報告された。こうして2期集会の討論の過程で、CNIとEZLNの共同提案は承認されることになった。CIGの組織化や構造に関する議論も行われ、CNI傘下の地区から男女1名ずつのCIG議員（concejal）を選出することになった。
2017年1月1日、2期集会の全体集会は、EZLN蜂起23周年記念を兼ね、オベンティックで開かれた。オベンティックの集会には、年末年始にEZLNの呼び掛けで開催されていた「人類のためのコンシエンシア」の参加者を含め約3千名が参加した（そんりさ160号：角報告参照）。全体集会においては、集会後に各地でCIG議員を選出する作業を行ない、選出されたCIG議員が参集する5月27・28日のCIG創設集会の場で、CIG女性広報担当官を選出することが報告された。

CIGの役割
CIGの役割や位置づけに関して、Webページ（http://www.congresonacionalindigena.org/）に概要が記してある。CIGは、CNI傘下の先住民組織・運動体が1996年10月の創設以来展開してきた抵抗と反乱のなかから生まれた自治の集団的体験に根差すものとされる。EZLNと同じように下から左からの反資本主義の運動を展開してきたCNIは、権力の掌握を目指すことはない。先住民族や市民社会に対して、資本主義システムによる破壊を止めるために組織化を呼びかけるもので、政治政党と競争することを目指すものではないという。
CIGは、CNIの準備段階で組織された全国先住民フォーラム時代から確立されていたCNIの7つの行動原則に従って活動するという。その原則は、�@自分に利益誘導するのでなく、皆に奉仕する。�A誰かの利権の代弁者ではなく、皆を代表する。�B破壊するのではなく、建設する。�C命令するのではなく、順守する。�D強制するのではなく、提案する。�E論破するのではなく、説得する。�F上昇志向ではなく、基盤に根を伸ばす、というものである。　
このように、水平性、集団的な現状分析と意思決定を踏まえて、CIGは、従来の政治とは異なる「別の政治」を模索することになる。CIGが力点を置くのは、2018年の大統領選挙キャンペーンではなく、女性先住民の広報担当者の活動を推進することである。
広報担当官として先住民の女性が指定された理由は、女性ということだけで、差別され、屈服を余儀なくされ、暴力を振るわれてきた存在であるからとされる。すなわち、資本主義と家父長制による暴力を自らの身体に記憶する先住民女性こそが、CIG広報官として最もふさわしいという。広報官となる先住民女性は、母語話者であることが不可欠である。それは彼女が自らの文化の智慧の保持者であり、家族や民族を世話する存在、生命と母なる大地の番人であるからとされる。

CIG創設にむけて
2017年3月末に公表されたCIG創設集会の呼び掛けによると、国内26州の91地区と多くの先住民移住者が居住するメキシコ大都市圏とグアダラハラ大都市圏の2地区、計93地区から、男女1名ずつのCIG議員を選出するという。CNIの活動歴を有し、帰属する先住民族の歴史・文化に精通し、共同体に認知された精神的支柱であることが、CIG議員の必須条件とされる。しかし、チアパス州海岸部地区とカンペチェ州カンデラリア地区がメスティソ地区となっているように、必ずしも先住民言語の話者である必要はない。
先住民人口が1万人を超えながらCIG議員地区が指定されていない先住民族としては、オアハカ州チャティーノ、プエブラ州ポポルカ、サンルイスポトシ州パメ、チアパス州のグアテマラ避難民カンホバルを確認できる。人口千人以下でありながらCIG議員地区を有しているのが、バハカリフォルニア州クカパとクミアイ、ソノラ州セリ、チアパス州ラカンドンである。しかし、先住民族が居住するサカテカス、トラスカラ州では、CIG議員地区が設定されていない。
先住民族が多数居住している州には多くのCIG議員選出地区が設定されている。チアパス州のツェルタル（高地、北部山地、国境部）やツォツイル（高地、中央部、海岸部）、オアハカ州のビニサー（北部山地、南部山地、中央盆地、地峡部）やニャヌ・サヴィ（高地、中部、低地、海岸）のように、同一先住民族でも複数地区が設定されている例もある。

CIG創設集会
2017年5月27・28日、CIG創設集会がCIDECI-UniTierraで開催された。参集した1,500名余りの代議員によって、地区から選出されたCIG議員の承認と広報官の指名が行われた。広報官に指名されたのは、ハリスコ州トゥスパン出身の先住民族ナワの女性で伝統医療に携わってきたマリア・デ・ヘスス・パトリシオ・マルティネス（愛称マリチュイ、1963年生まれ）だった。
当初の地区割りではCIG議員186名が就任するはずだったが、創設集会で就任したのは71名である。ゲレロ州やミチョアカン州からはCIG議員は選出されず、チアパス州でもツエルタルのCIG議員は選出されているが、ツィツィルのCIG議員は未選出となっている。すでにCIG議員に就任された関係者に問い合わせたところ、未選出地区でも徐々にCIG議員選出が行われる予定であるという。チアパス高地のツォツィルのCIG議員地区では、7月15日にアクテアルに20弱の社会組織が結集し、2名の議員の選出が行われた。女性議員は高地北部の市民組織ラスアベーハスに属するアクテアル虐殺を生き延びたグアダルーペ・バスケス・ルナ、男性議員は高地南部のセミージャ・ディグナに属するホセ・ヒメネス・カステジャーノスだった。

今後の課題
今後、CIGが着手すべき活動のひとつは、女性広報官マリチュイを2018年大統領選挙の独立系候補として正式に登録する作業がある。非登録政党が候補者を擁立するには、17州以上で選挙登録者総数の1％に当たる約85万の署名が必要とされる。２期集会の直後から、CNI関係者の一部は、8月以降からの地区での署名活動準備の必要性を強調していた。
しかし、CIG創設の目的は、大統領選挙のキャンペーンを展開することではなく、メキシコと世界の農村・都市の貧しい人々が、闘争を継続し組織化を推し進めるようにすることである。2005年7月のラカンドン密林第6宣言発表以降に展開されたEZLNの「別のキャンペーン」でも、2006年大統領選挙キャンペーンとは無関係に、「別の政治」を構築することが模索され、全国規模での先住民族の組織化が追及されていた（ソンリサ100号小林記事参照）。CNIの伝説的指導者フアン・チャベスは、マルコス副司令とともに国内各地を行脚し、「別のキャンペーン」賛同の先住民族・組織・共同体は163に達していた。しかし、2006年5月にメキシコ州サンペドロ・アトラプルコで開催された第4回CNI議会から10年以上も、CNI議会は招集されることはなかった。
今回のCIG創設が、「別のキャンペーン」の轍を踏むことなく、先住民族や市民社会による全国規模での「共同体的・自治的な政治空間」の構築に繋がることを期待したい。

CNI創設20周年・第5回CNI議会で挨拶するベラクルス州ポポルカの先住民女性

CNI第5回議会2期集会全体集会、CNI女性5名とEZLN副司令官

CIG創設集会演壇のCIG議員、中央広報官マリチュイ、左サラ・ロペス（カンペチェ州マヤ）、右ベッティ・クルス（オアハカ州地峡ビニサー）

7月15日、チアパス高地ツォツィルのCIG議員宣誓式、ホセとグアダルーペ

レコムの季刊誌「ソンリサ」161号（2017年）掲載文書に加筆修正