きっと誰も知らないが、我々の共同体で話されているスペイン語は、いくつもの言い回しや変異、さらにはメヒコ南東部の山中で話されているマヤ諸語に起源を持つ言葉と接触した結果生じた語彙に加え、「きわめて特異な」世界の概念、つまりサパティスタの概念と関連している混合語がある。
それゆえ、これから私が皆さんにするお話のタイトルも、言うまでもなく、ずいぶん奇妙に響くだろうから、皆さんには、心を広くして、我慢していただくようにお願いしたい。というのも、サパティスタの言葉は、独自の歩みでもって、進むべき道を切り開くことになっているからである。なぜなら、「転覆subversion」というために、我々は「転回vueltacion」と言っているからである。
これから紹介するのは、私の記憶では、老アントニオが私に語ってくれたお話である。

転回というお話

老アントニオは語った。人類の歴史のある時点において、金持たちは皆を騙したのである。つまり、金製の巨大な鏡を作り、それを世界の前に立てかけたのである。鏡が置かれたのが、アメリカ大陸のインディオ人民を冷酷無比に虐待してきたある「文明」の同義語である強奪、搾取、弾圧、軽蔑の開始に、先行するのか、後だったのか、同時だったのか、今、私は思い出せない。ともかく、これから皆さんにするお話にとって、それは重要な問題ではない。

こうして、大きな金製の鏡は、鏡である以上、すべてのものを逆に映していたのである。上にあるものが下に現われ、嘘が真実らしくなり、悪が善のように見え、不正が永遠に続き、修復できない姿となって現われていた。おそらく、輝いている権力、目新しさ、思考の緩慢さ、あるいはそれらすべてのせいで、男女たちは下を見るのをやめ、視線をあげた。こうして知恵は減ってしまった。
老アントニオの話によると、どんなかたちであれ、上を見つめるように強制されてしまった男女たちは、見えている像は現実のものであると考え、どんなことがあっても、それを変えることはできないと思い込んでしまった。なぜなら、上の世界では、黄金の鏡は、模範的であったものすべてを反対に見せていただけでなく、永遠にそのような姿で、変えることはできないもののように提示していたのである。
このように、押し付けられた鏡のせいで、神々や政府が我々の大地にやってきた。彼らは、完全に偽者で不法な、命令ばかりする不正な上の世界の連中だった。
世界を創造した最初の神々は、別の側を歩んでいた。そのため、上の世界で起きていたことにはほとんど気づかなかった。だから、最初の男女の神々が戻ってきたとき、彼や彼女たちも、自分たちが最初の神々、創造神ではなく、世界はお金の神の魔術的な一吹きで歩んできたものと考えるようになっていた。
時間の始まりの方向が変わると、ほかのすべてのものごとにも、取り返しがつかない致命的なかたちで変化が起きたのである。世界に最初の歩みをもたらした自由は、奴隷状態になり、上の世界における自由では、殺しておきながら、救済しているとまで放言するようになった。以前、母であり、守護者だった大地は、敵のように処遇され、迫害され拷問され、大地に対する敬意すら完全に抹殺され、まったく大地と無縁の法律によって管理されるようになった。

しかし、神々、男の神も女の神も、いちばん最初の神々、創造者の神々は、ずいぶん前から、記憶喪失の時代が到来し、その時代には、すべてのものごとが裏返しに見られ、評価されることを知っていた。それ以来、つまり記憶喪失の時代のずいぶん前から、記録すること、忘れないようにし、記憶をつけておく作業が一部の男女に委託されたのである。
老アントニオは言った。この暑い日が産まれたのと同じようなある夜明け前、20年前の真夜中の太陽が支配していた五月の夜明け前、この記憶を残す人々、監視人たちは、ものごとを転回させること、つまり転覆することを習得したのである。
なぜなら、監視人たちの記憶は、最初のイメージでいっぱいだったからである。それらの現実としてのイメージで、監視人たちはすべてを眺め、見つめていたのである。夢を見ているのように、ものごとを見つめ、名づけていったのである。そして、ものごとをそのものとしてではなく、見えたように名づけていったのである。たとえば、「自由」という言葉を名づけた際には、任意の形態をした奴隷状態や本質的な奴隷状態に関する熱狂的な欺瞞を指すのではなく、尊厳ある行為を実践すること、自らに対する敬意、他者に対する敬意、母なる大地に対する敬意を指し示しているのである。
老アントニオは語っていた。それゆえ、監視人たちが何か言ったときに、彼らは名づけたのであり、現実であるかのように言葉にしだしたのである。さらに老アントニオは言っていた。ものごとは、あるがままのかたちで出現するのではない。かつてあったが忘れられてしまったかたちで登場するのである。監視人たちは、創造や発明するのではない。記憶を思い出し、記憶に声を与えるのである。このように老アントニオは言っていた。

それゆえ、人々は語っている。1994年１月１日、サパティスタが上の世界の時計を破壊したとき、他にも数多くのものごとを破壊しはじめたにすぎない。その中には、諦めて専制君主の前にひれ伏している祖国というイメージがあったことは言うまでもない。それだけではない。破壊されたのはものごとだけではない。上の世界の鏡に映っていたものごとのイメージも破壊されたのである。
このことは老アントニオが言ったことではない。しかし、彼の許可、できればあなた方の許可のもとで、私が言っておきかったことである。転覆は基本的な正義を実行する行為にほかならない。ものごとを転回し、ものごとを引っくり返し、確立していた秩序を引っくり返し、暦や地理を転覆させるに当たって、サパティスタの先住民は、注視すべきは下の世界であることを我々に告げているだけである。下の世界は、記憶がもっとも素晴らしい輝きを保っている場所であり、そこでは権力の永続性など、母なる大地の長い息づかい中でのほんの一瞬の悪い呼気でしかない。
つまり、老アントニオによれば、「転回」はサパティスタの切なる願いであり責務である。そして、大まかに言えば、ある様式にあるものを引っくり返し、別の様式にすること、つまりそれを転覆することである。
我々の国における別の地理、すなわち下のメヒコを巡っている我々の巡歴のある段階で、自由はセックスと同じように中毒になる傾向があると、私は言ったことがある。一度試すと、もう一度したくなり、さら何度もしたくなる。なぜなら、アロス・コン・レチェに…さらに息を吹きつけるように、それは元々、かなり熱が出るものである。
おそらくそうである。しかし、それと同時に、自由は感染する力があるということも付け加えておくべきだっただろう。なぜなら、この下の世界で、我々が別の叛乱する男女たちとお互いに同志になっていく過程で、我々は、旗印として自由を掲げる人が増加するごとに、風も勢いを増すということ、つまり体制の｢転回｣とは、体制の転覆にほかならないことを感じとり、知ってしまったのである。
世界が最初の位置の戻ることである。つまり平らで、上も下もない、搾取者や非搾取者がなく、強奪者も奪われる人もおらず、弾圧者も弾圧される人もなく、軽蔑する人も軽蔑される人もいない状態に戻ることである。それは資本主義のない世界、つまり、所有者やパトロンのいない世界である。

我々サパティスタがすべき責務をやり遂げたとき、つまり、我々が｢転回｣を成し遂げたとき、世界はずいぶん異なったものになるだろう。太陽は、吃驚したように目覚め、東の空から昇るため、ヤキ、セリ、マヨ、ピマ、オッダムの土地から歩みを進めるだろう。メヒコ南東部の山中にある影の腕の中で、いちばんすてきな赤い服装をまとい、安息するためである。そこには、我々死者たちが、新たに生きるために、新たに死ぬ時間を今一度、待っている。

では、お元気で。私の影を傷つけている光りが私に伝染しているように、「転回」が伝染するように。

メヒコ北西部から、
叛乱副司令官マルコス　メヒコ、2007年5月

＜出典＞−2007年6月1日、ソノラ大学での第12回イスパノ・アメリカ作家集会の｢六月の時｣での副司令官マルコスの発言