私がラカンドン密林に到着してからずいぶん年月が経った。
22年前だが、私は一人の賢者に会った。彼のことを我々は老アントニオと呼んでいた。あるとき、彼とお喋りをしていた私は、彼に次のように尋ねた。都会からきた私は多くのことを知らなかったからである。
「マヤ先住民−我々はマヤの先住民である−は、数多くの戦争、とてつもない征服や破壊の野望の対象になり、とても長い年月が経過したのに、どうして抵抗を継続できたのですか？」
彼は私に答えた。
「その秘密は大地にある。人を次々と破壊できるかもしれない。しかし、大地があるかぎり、木々や水、つまり大地とか自然として認識されているものは、自らの力で栄養を取りこみ、何度でもトウモロコシの男や女たちを育て、産んでいく」
だから、我々サパティスタにとって、さらには「別のキャンペーン」に参加する多くの人にとっても同じと確信するが、大地の防衛は関心の問題ではない。…なんと表現したらよいかわからないが…スノッブな趣味の問題ではなく、生き残ることと結びついた問題なのである。この文化として、インディオ諸民族として生き延びることは、自然が生き延びることと深く結びついている。その意味で、我々は皆さんが我々に言ったことをよく理解できるし、我々の側には問題をよく理解する最良の生徒がいる。

我々は、｢別のキャンペーン｣、第6宣言委員会に皆さんをお招きしたい。そうすれば、「別のキャンペーン」で、皆さんが掲げた諸要求の解決策を発見できると、皆さんにお伝えしたい。
しかし、嘘をつくことは我々にはなじまない。皆さんは解決策を見つけるより、さらに問題を抱えることになる。皆さんが我々に説明したような、大地や自然の傷、痛み、苦痛などに遭遇するだろう。おそらく、もっと恐ろしい、同じぐらい犯罪的なものだろう。だが、皆さんは、学び、知り、何かをしたいと思っている別の人々に出会うこことになるだろう。皆さんが諸要求の解決策を探しているのなら、我々サパティスタのそばにいる必要はない。皆さんがそのことを習得し、理解し、ほかの場所の傷についてもよく知り、そのことに関心をもっている皆さんのような別の人々と出会い、いっしょに戦いおうとする人々を探しているのなら、我々はここにいる。

まず、我々サパティスタたち、そして共和国の別の場所から今ここに来ている同志の皆さん、さらにはメキシコの他の場所にいる同志たちも、代替的な通信メディアやよく知られた報道機関を通じて、皆さんがこの場で発言したことに対して耳を傾け、理解している。そのことをよく考えてほしい。この空間は構築されるためにあると、我々は考えている。皆さんは、その空間、つまり自然を防衛、保存、そして管理する−すでに存在するものを保存するとともに、さらに発展させるために管理することを目指す−ための場所を構築できるだろう。これがその空間である。
こうして構築された場所は、全国レベルにおいても、ほかにないだろう。政党は、地域の事情や獲得票を考慮しながら、環境というテーマを取り上げるかもしれない。しかし、結局は、解決策を提示することはない。なぜなら、この会場で皆さんが的確に説明されたように、自然破壊、自然に対する侮蔑、軽視、乱開発といった政策は、政党の色合いとは無関係であり、どれも同じだからである。
我々は次のように考えている。皆さんが実践してきたように、つまり諸政党から独立し、我々の固有の力によって、さらに調査、科学技術などの日常活動で、ほかの人々と何かを創りだせるという道理に基づいて、ものごとを構築すべきである。しかも、皆さんが指摘されたように、我々全員がやってくる前、ホテルや道路ができる前から、すでにこの地にいた人たち、つまりこの場合は、チアパスからユカタン半島まで我々を結び付けているマヤ民族から、学びつづけねばならない。

以上がこの問題について皆さんに伝えるべきことである。これからは、別のことを話したい。この場所に、皆さんが同志ラモーナ司令官のために作った供物が持参されているからである。
老アントニオの場合と同じように、かなり昔のことである。私が彼女を知ったのは、おおよそ15・16年前である。我々の闘争の状況を説明している集落のひとつに彼女を派遣することになった。我々がどのように世界、国、我々の闘争、我々人民を考えているかについて、我々は、機会をとらえて、我々の側にいる人々に説明していた。その時、その集落までの行進を先導する役割が彼女に当たった。彼女はとても陽気で、冗談が好きだった。彼女しか道を知らないので、我々を先導する役割が当たった。
そのとき、彼女は冗談まじりに言った。
「私たちの戦いはいいものだわ。だって、女性が先頭を歩くのは、この戦いが最初だわ」
さらに、冗談めかして次のよう言った。
「もし、私たちが勝利したら、私たち女性の後を歩いているあなたたち男性も私たちに追いつけるわよ。そうすれば、私たちが築きあげたい新しい世界では、私たちはお互いに連だって歩けるわ」.
彼女は冗談めかしてこう言った。なぜなら、先に歩くのは男性で、女性はその後をついて歩くというのが、その当時の共同体の慣習だったからである。

ラカンドン密林では、私が歩くたびに転ぶことは伝説になっている。近いうちに、国のほかの地域でも伝説となるだろう。私が何度も転ぶので、彼女はつねに私のはるか前方を歩いていた。彼女はとても小柄で背が低く、歩く様子は幼児のようだった。だが、彼女にはぜんまいが巻かれ、猟犬に追いかけられているように速かった。だから、私は彼女に追いつけず、当然ながら、道に迷うことになった。
重い荷物を抱え、下を向いて歩きながら、彼女の足跡を追かける術を私は習得した。私のブーツだったが、彼女は裸足で歩いていた。彼女の足跡だけがくっきりと残っていた。彼女は自分の足跡を残して歩いていた…。そう、彼女がずいぶん前を歩いている時、私は彼女の足跡を追いながら歩くことになった。…やがて、この場所のように、地面が硬い場所に到達することになる。私は何も気にせず、彼女の足跡を見つづけていた。硬い地面のある所で、私は休息のために立ち止まった。私の呼吸は上がり、パイプが恋しくなった。つまり、私はまったく耐えられなくなったのである。
その時である。硬い場所を歩いているのに、どうしてラモーナの足跡が残っているのだろうかと、私に疑念が湧いた。地質の問題についてはよく知らないが、たぶんその種の問題だろうと思った。振り返ってみると、私はブーツを履き、体格はラモーナの倍だったにもかかわらず、私の足跡は残っていなかった。彼女は足跡を残しているのに、私の足跡が残っていない理由が、まったく分からなかった。
かなり先にいる彼女になんとか追いつくと、次のように尋ねた。
「あなたが歩いた足跡はあるのに、私の足跡は残っていないのに気づいた？」
「そんなの、最初から、そうよ」
こう答えると、彼女は再び歩きつづけた。

その当時、私は彼女の言っていることが理解できなかった。その後、たしか、別の気候のため、よく霧が発生するチアパス高地だったと思うが、 ラモーナは雲があちこちと漂っているのとじゃれ合うのがとても気にいっていた。つまり、霧が山の上に完全に横たわるようになると、我々はほんとうに雲の上を歩いている感じになったのである。
その後、私は密林地域に戻り、老アントニオに会った。そして、ラモーナの逸話について話した。二人は我々の会合でお互い知り合っていた。そうすると、老アントニオは微笑みながら、私に言った。
「我々のもっとも古い先祖たちが語っているお話をお前にしてやろう」

我々インディオである諸民族のいかなる物知りといえども、最初の日々、偉大なる男と女たちが選ばれ、彼らが偉大になっていったことについて、説明することはしなかった。なぜなら、彼らの任務は偉大だったからである。皆さんなら、巨大というだろうが、彼らは偉大という言葉を使っていたのである。この男や女たちに課せられた任務は、その後に続く人たちが、ずいぶん遠くの場所からでも、地上を覆う木々があっても、見えるように、大きな身体を駆使し、道筋を刻んでいくことだった。最初はそれが実行されていた。しかし、他の人たち、小さな人、つまり小さき人々のあいだに、そのことに対する嫉妬や腹立ちが発生したのである。やがて、それは深刻な問題となった。
そこで、世界を誕生させた最初の神々は集い、次のように発言した。
「 さて、ここで、我々は問題を作ったようだ。-現在の統治者たちと違って、最初の神々は、悪いことをしたときには、そのことを自覚していた-さて、この問題にどう対処したものだろうか？」
さらに、次のように言った。
「この男や女たちの偉大さを別の形のなかに隠さなければならないようだ」
そこで、最初の神々は、彼らを小さな存在にすることにした。 ところが、彼らは、もともとは背丈が低いどころか、とても大きな巨人だった。だが、最初の神々は、論争していたはずなのに、マリンバに合わせて踊りだした。それによって、陽気で踊り好きな神々だった最初の神々は、彼らの抱える問題の詳細などを忘れてしまった。そして、巨人たちの背の丈を変えたのである。しかし、重さは変えなかった。それ以降、巨人だったこの男や女たちは小さくなった。しかし、巨人と同じような重さをしていた。それゆえ、足跡を残していたのである。

老アントニオは語った。
マヤ先住民の様式を学ぶため、つねに学ばねばならなかった。下を見つめることを学ばねばならなかった。異なる色、異なる名前、異なる民族性をもっていたカシュランたち、異邦人ツル、征服者たち、さらには長い年月にわたって我々を抑圧してきたメキシコ人は次のように吹聴していたという。屈服や服従の徴として、我々先住民はいつもうつむいている。だが、老アントニオは次のように反論する。
「そうではない。我々がうつむいているのは、深い足跡を探しているからである。つまり、下を見つめることを学ばなければならない。お前は誰かの後をたどるのだ。その人の残した刻印を追い、後についていけ。それを見失わないようにしろ。なぜなら、上の世界ではそれを見出せないからだ」
そこで、私は老アントニオに尋ねた。
｢その後、いったい、どうなったの？｣
結局、この巨人たちが死んでしまった後は、神々は皆が考えている問題を調整しなくなった。: 巨人たちはいっしょに死んでしまったが、彼らを収容する墓がなかった。なぜなら、身体は小さかったけれど、背丈は大きかったからである。さらに、私に次のように説明した。
「だから、セイバの木があるのだ。この男と女たちは横向きには埋葬できない。立ったままで生き、そして死ぬのだ。我々が立ったままであることを止めた後、彼らははじめて休息できるのである。この人たち、この男と女たちは、死んだ時、大きな母なるセイバの木の一部になった。セイバの木は、彼らを優しく包んでいる」

その後、現在に至るまで長年にわたって、私は自分の歩みを見つづけてきた。だが、足跡はまだない。だが、ラモーナや我々を導いてくれたほかの同志たちの歩みを私はいつも思い出している。そして、大地が硬く、乾燥していても、あるいは都市に出かけたときのように地面が舗装されていても、彼らが深い足跡を残しているのを私は見つづける。その足跡を見失わないように、私はいつも執拗に下を見ている。その足跡、我々を導いた同志たち−全員がマヤ先住民である−の足跡とともに、どのようにして我々がここに到着し、どのよう国中を行脚するつもりであるかについて、私はマヤの土地で語っている。

さて、皆さんは私が下を見ていることにあまり気にしないほうがよい。それは、あまりよくない考えからである。というのも、私が下のほうを見ているのは、皆さんが履いている靴を値踏みしているからである。しかし、実際には、足跡の奥底にあるものを見ていたのである。我々が現在まで見てきたことは、深く、確実で、奥深いものである。皆さんといっしょにいること、この国に何か善いもの、現在あるものより正当で、自由で、民主的なものをいっしょに構築するため、皆さんの後からついて行くことは、我々にとってきわめて栄誉なことである。その国では、誰を最初に殺害するかをめぐって、自然と人間が抗争することはない。

以上が、皆さんに話したかったことである。皆さんがラモーナのために作成した追悼記念品の一部は、帰ったときに、彼女の家族に手渡したい。残りは、セイバの木の根元に安置したい。我々がキャンプしている場所で、いつも彼女のことを思い出すだろう。

ありがとう、男女の同志の皆さん。では、おやすみなさい。

出典−www.enlacezapatista.org.mx
キンタナロー州プラヤ・デル・カルメン、環境保護運動家やシンパとの会合―2006年１月16日