この山中に住む最長老たちは語っている。昼が存在する以前から、この世界で多くの男と女が暮らしていた。その人々の数はとても多く、すべては夜と水だった。天空は寝ているようだった。もとからそうだった。偉大な神々、世界を誕生させた神々、いちばん最初の神々は寝ていた。この最初の神々は長いあいだ働いた。当然、新しい世界を創ることによって、神々はとても疲れていた。だから、もっとも偉大な神々は寝ていた。天空は寝ている神々に付き添った。夜と水の寝床で、いちばん最初の神々は夢を見ていた。
　すでに山は出来上がった。山は神々が水から引き出した最初の大地である。いくつかの山は平らになり、ほかの山はひび割れていった。こうして山や谷、断崖ができた。最初の大地は山だった。だから、われわれの最年長の老人たちは言っている。山のなかで、いちばん最初のお話、もっとも遠くにあるお話が生きている。
　水と夜ばかりであることに飽きてしまい、男と女は激しく抗議し、どなり散らしはじめた。ずいぶん大勢の男と女が大喧嘩をした。世界を歩き回ったのは最初の男と女だった。彼らの肌と言葉を彩る色もたくさんだった。あまりにも騒音が激しく、いちばん最初の神々、もっとも偉大な神々は目を覚ました。そして、世界を生きている男と女がどうしてそんなに叫んでいたのか、神々は質問した。すべての男と女が、同時に、喋り、叫び、取り乱したように言葉を発していった。そして、誰がいちばん強力に喋ったかをめぐって、彼らは口論を始めた。こうして、ずいぶん時間がかかった。
　最初の神々、偉大にして世界を誕生させた神々は事情がよくわからなかった。男と女が何を望んでいたのか知ることができなかった。話し合いなどなく、雄叫びと口喧嘩しかなかったからである。最初の神々は眠れなくなった。そこで、トウモロコシで創られた男と女、真の男と女を呼び出し、起きたことを説明してほしいと言った。トウモロコシの男と女は言葉の心を持っていた。男と女を抱くために言葉が歩くには、叫んだり口論していたりしては駄目である。彼らはそのことをよく知っていた。なぜなら、言葉の花が誕生したとき、もっとも偉大な神々、世界を誕生させた神々、いちばん最初の神々はこのトウモロコシの男と女の心に花を植えつけた。真実こそ、言葉が誕生し、成長するための肥沃な大地である。しかし、それは別のお話である。
　トウモロコシの男女は最初の神々と話し合いに出かけることになった。
　「ここに参上しました」と彼らは言った。すると、神々は質問した。
　「どうして、この男と女は激しく叫び、いさかいをしているのだ？おまえたちがたてる騒音がひどく、寝られないのがわからないのか？いったい何が欲しいのだ？」
　「光が欲しいのです」と真の男と女はいちばん最初の神々に言った。
　「光だと」と最初の神々は聞き返した。
　「光です」と真の男と女は繰り返した。神々はお互いに顔を見合わせた。神々が汗で濡れているのがはっきり見えた。きっと、光の本質が何かに触れたからだろう。だが、神々は何も言わなかった。
　「しばらく待つのだ」と、もっとも偉大な神々は真の男と女に頼んだ。そして、彼らは会議を開催するために立ち去った。そして、ずいぶん時間がたった。遅れたのは、偉大な合意を導き出すのには時間がかかったからである。光は光であり、その量は少なくなかったからである。
　やがて、神々は戻ってきた。そして、真の男と女に言った。
　「光はもとから存在している。だが、ここにはない」
　「光はどこにあるのですか？」とトウモロコシの男と女は尋ねた。
　「あっちの方だ」と言って、神々は世界のある場所を定める七つの点のひとつを指し示した。世界を画定している七つの点とは、前と後、こちら（右）側とあちら（左）側、上と下、そして、中心である。中心は七番目の点であり、最初の点でもある。
　神々はそれらのひとつを指しながら、言葉を続けた。
　「光はとても重く、持ってこられなかった。光はあっちに残っている。最初の神々であるわれわれといえども、光を担いで持ってこられなかった。光はあっちに残っている」
　最初の神々は恥じ入り、黙り込んでしまった。もっとも偉大な神々、世界を誕生させた神々でありながら、光を運んでこられなかったからである。光は男と女が世界を構成する複数の世界を歩むために必要なものだった。神々でいちばん恥じ入ったのは、フラカンだった。彼はカクルハー・フラカンとも名乗った。それは「片足の稲妻」、または「雷」という意味である。とてつもなく強大だったが、光を担いで持ってこられなかった。彼には片足しかなかったからである。
　トウモロコシの男と女、真の男と女はずっと考えつづけた。しかし、ほかの男と女が持ち込んだ叫び声があまりにも大きかった。そこで、彼らは山に登り、言葉を探すため、黙ることにした。静かにしていた彼らは言葉を見いだした。言葉は彼らに向けて話しはじめると、次のように言った。
　「必要なことは、光を担げるように何かすることである。光はとても重いが、それを世界のこちら側まで持ってきて、世界の向こう側に留まらないようにすべきである」
　真の男と女は言った。
　「そうか、もう光はあるのだ！必要なのは光を担ってここまで運んでくるために、何かすることである」
　「そうだったのか」とトウモロコシの男と女は繰り返した。
　そこで、光を担ぎ、はるか彼方からこちら側まで持ってくるには、どうしたらよいか、彼らは考えはじめた。トウモロコシの男と女は、何を使ったらできるかを考えた。土が最適であることがわかった。しかし、土はもろく崩れ、一瞬しか、固まっていなかった。そこで、土に水をかけると、ちょっとのあいだ固まっていた。しかし、乾燥すると、また崩れた。そこで、大量の土をかき集め、小量の水を注ぎ、それを火に近づけた。すると、しばらくのあいだ、それは堅く、頑丈になった。しかし、すぐに火の熱で壊れてしまった。そこで、火に掛けるあいだ、それに空気を吹きつけることを思いついた。こうすると、水と火と風に助けられて、土もかなりのあいだ固まっていることがわかった。このようなことがあって以来、土器は物を担いだり、容れたりする役には立っている。真の男と女はとても満足した。はるか彼方にある光を担ぐ容器を作る材料が手に入ったからである。
　引き続いて、彼らはこちら側の光を運ぶためのものをどのような形にしようかと考えはじめた。そこで、この世界にあって歩き回っているあらゆるもののことに思いをめぐらした。いちばんいい形をしているのは人間だった。そこで、光をすべての人の世界に運んでくるため、光を担ぐものを人間の形にしようと考えた。そこで、そのものにひとつの頭、二本の腕と二本の脚を取りつけた。トウモロコシの男と女はとても満足した。はるか彼方から光を担いで持ってくる台車が実質と形を持ったからである。
　しかし、そのものはとても暗かったので、道に迷うことになるのは確実だった。もとから、すべてが夜と水だったためである。真の男と女はとても悲しい気持ちになった。そこにやってきたのが天空の心であるウラカンである。雷、雷鳴、暴風は天空の心と呼ばれていた。フラカンは一本脚で歩き、とても強力で光り輝いていた。そして、天空の心、フラカンと呼ばれるものは、自分の一本しかない輝く足につけるため、暗いものの表面を研磨した。天空の心は、その表面をずいぶん研き、削り落とした。ついにその暗いものは輝きだした。しかし、そのものは、ひとつの頭、二本の腕、日本の脚という形ではなくなった。あまりにも研きすぎたので、五つの尖った先端だけになった。ひとつの先端は頭のあった所、二つは腕のあった所、二つは脚のあった所である。この五つの尖った先端のあるものはいつも何かしら輝いていた。それを見て、真の男と女は大いに満足した。その輝きがあるため、はるか彼方にあるとても重い光を担いで持ってくるために出かけても、道に迷うことがないからである。
　こうして、準備万端、整ったように思われた。しかし、そのものは動かなかった。たしかに輝き、五つの先端があるため、とても力強くきれいに見えた。しかし、少しも歩かなかった。真の男と女はそれを一生懸命になって押した。しかし、そこに止まり、びくともしなかった。
　「今度は、どうしてだろう？」とトウモロコシの男と女は自問した。
　「よく調べよう」と言いながら、いい考えが浮かばないかと頭を掻いた。それ以来、わからなくなった場合、頭に考えがへばりつき、眠っていないかを確かめるため、男と女は頭を掻くようになった。だが、いくら頭を掻いても、いい考えは見つからなかった。
　そこで、トウモロコシの男と女は共同体の長老たちに尋ねに行った。村の最長老は次のように言った。
　「このものが歩かないのは心がないからだ。心を持つ者だけが歩くのだ」
　真の男と女はとても幸せだった。自分たちの作ったものがなぜ歩かないかという理由がわかったからである。そこで、彼らは言った。
　「われわれが作ったものに心を取りつけよう。そうすれば歩くようになる。そして、はるか彼方にあるとても重い光を持ってこられる」
　だが、このものの心がどのように何でできているか、彼らは知らなかった。そこで、彼らはそれぞれが胸に持っている心を取り出した。それらすべてをひとつにまとめ、とても大きな心を作った。彼らは自分たちの作ったものの五つの先端の中央に大きな心を据え付けた。すると、そのものは歩きはじめた。トウモロコシの男と女はとても幸せだった。自分たちの心は取り外されたが、そのものを動けるようにできたからである。
　しかし、そのものは、あちこち動き回り、行ったり来たり、回転したり、ぶつかったりした。彼らはそのものを押しやり、とても重くはるか彼方にある光を取りにいくために歩いていくべき方向を指し示した。そのものは、進路をとることはなく、きっぱりと道を選ぶこともなかった。真の男と女はずいぶん長く頭を掻いていたが、少し絶望的になった。そして、もう一度、村の最長老たちに質問するため、彼らは出かけた。
　「われわれが心を取りつけたので、そのものはもう動いています。だが、あちこち出歩き、われわれが望んでいるよい道をとろうとはしません。いったい、何をしたらいいのでしょう？」とトウモロコシの男と女は質問した。
　最長老たちは次のように答えた。
　「心を持っているものは動く。しかし、考えを持つものだけが、動きに方向、歩みに目的地を与えることができる」
　また、トウモロコシの男と女は大いに満足して言った。
　「われわれが作ったものが方向と目的地を持つため、どのようにすればいいのか。われわれは知っています。そうです。われわれがそのものに感情を与えた場所について考えるようにさせればいいのです」
　こう言うと、彼らはそのものの胸からよい言葉、真の言葉を取りだした。そして、言葉とともに、動き回っているそのものにキスをした。すぐに、そのものは静かになった。やがて話しはじめ、質問した。
　「私はどこに行くべきですか？何をすべきですか？」
　真の男と女は拍手した。ついに、彼らは光りを担ぐものを誕生させたからである。その光はあまりにも重すぎた。すべての世界の男と女の全員を照らしだすために連れてくるには、光はあまりにも遠くにあったからである。とても大きく、強力なそのものが出来上がった。それは七つの要素で構成されていた。土、水、火、風、雷、心、言葉である。それ以来、新しくてよい世界を誕生させ、創る要素は七つということになった。トウモロコシの男と女は拍手し、そのものに向かって、通って行くべき場所、すべき事柄を伝えた。そして、そのものに役立つかもしれないメカパルも与えた。というのは、トウモロコシの男と女は光がとても重いことをよく知っていたからである。もっとも偉大な神々、世界を誕生させた神々、いちばん最初の神々もそれを担げなかった。
　物事はこのように進んだので、かなり時間をとってしまった。山に腰掛けると、かなりの時間、真の男と女はあちら側、向こう方を見つめていた。そこには夜があり、何ひとつ動くけはいはなかった。トウモロコシの男と女は失望することもなく、静かにしていた。なぜなら、彼らは光がひとりでに到着することをよく知っていた。そのために、トウモロコシの男と女は、光を担ぎ、運ぶことになる者に心と言葉を与えたのである。光がはるか彼方にあり、とても重いことなど、たいした問題ではなかった。
　いくばくかの時間が経過し、遠くから、そのものがゆっくりとやって来ているのが見えだした。一歩一歩、天空を歩みながら、光はこちら側までやって来た。光が到着し、しばらくすると、光の到着した後には、太陽と昼が存在していた。世界の男と女は楽しくなった。光を使って知るべきことを探しながら、彼らは自分の道を歩んでいった。もともと、それぞれが何かを探している。しかも、全員が何かを探している。

　以上が、皆さんにお話したかったお話である。光がこの世界にどのようにして到達したかというお話である。おそらく、これがメヒコ南東部の山中に住んでいる人々の単なるお話、または伝承である。このように皆さんはお考えでしょう。たぶんそうかもしれない。
　しかし、皆さんがわれわれの大地を抱きしめる夜を一晩中見まもっているなら、夜明け前の東の空にある星を見ることができるだろう。ある人はその星を「明けの明星」とか「暁星」と言っている。科学者や詩人は「金星」と呼んできた。
　われわれの最古老は「イコキー」と呼んだ。それは、「その肩で太陽を運ぶ星」、あるいは「太陽を背負って運ぶ星」という意味である。われわれは「明け方の星」と名づけている。なぜなら、その星は夜が終わり、朝がくることを告げているからである。トウモロコシの男と女、真の男と女が創ったこの星は、気持ちと考えを携えて歩き、いつも通り、夜明け前にやってくる。

　私が皆さんにこのお話をしたのは、皆さんを楽しませるためではない。この集会と関連しているすべてのことを見渡すのに必要な時間を皆さんから奪うためでもない。そうではない。私が皆さんにお話したのは、遠くからやって来ているこのお話が、探すことに役立つ光が持ってくる様子を考え、感じていることをわれわれに思い出させるからです。われわれは、心と頭を使って、架け橋になるべきである。その架け橋によって、あらゆる世界の男と女が夜から昼に向かって歩けるようにすべきである。

　　出典−La Jornada,1999/11/5