最古老たちが話している。セイバの木の高い樹冠のおかげで、世界は忘却の深淵の上で維持されている。最初の神々、いちばん偉大な神々は、世界を母なる木の上に置いた。最初の神々は、色と言葉、歌で世界を創った。世界が誕生させ終わったとき、世界をどこに置けばいいのか。神々は何も知らなかった。彼らは歌や踊りに出かけたかった。というのも、これらの神々、世界を誕生させた神々、いちばん最初の神々は、音楽や踊りがとても好きだった。夜がこちらから向こうへ横切っていく光でできた長いマリンバは、もう準備されていた。いちばん最初の神々は、世界を置く場所を発見できなかった。
　合意を導き出すため、神々は集会をもった。ずいぶん時間がかかったが、誰もそのことに気づかなかった。世界は誕生したばかりで、時間はまだ時間として始まっていなかった。最初の神々は合意を導き出し、母なるセイバの木を呼び出した。セイバの木のてっぺんに世界を載せるためだった。セイバの木は一言も言わなかった。たくさんある腕で世界を抱え、いちばん高い樹冠の上に載せた。そして、世界が驚かないように、セイバの木はじっと静かにした。

　皆さんに話したことが起きたのはずいぶん昔のことだ。男と女はそのことを忘れてしまった。そして、学校で世界の場所を説明できないことを恐れるあまり、黒い星、「ビッグ・バン」、太陽系、銀河系、宇宙、さらにはどの学校でも採用されている地理の本に満載されている馬鹿げたお話が発明された。

　誰もが忘れた。だが、全員ではない。

　最初の神々はものをよく知っていた。世界がどのようにして誕生し、どこに置かれていたか。しかし、誰もがそのことを忘れた。そのことを神々ははっきりと知っていた。だから、神々は、世界がどのように創られたかという歴史をすべて書き記した。世界はどの場所にあるかをはっきりさせるため、地図も作成した。いちばん偉大な神々、世界を誕生させた神々、いちばん最初の神々は、自分の学校の覚書帳に何もかも書き記した。
　まず、神々は覚書帳を保管する場所を探そうとした。覚書帳には、世界がどのように創造されたかというお話、世界がある場所の地図が記されていた。
　神々はずいぶん論争した。覚書帳はどこにでも保管できる代物ではなかった。合意を引き出すために、神々はまた会合を開いた。
　神々はトウモロコシの男と女、真の人間を呼び出した。そして、彼らに世界がどのように創造されたかというお話を話し、その世界がある場所について説明した。彼らが忘れても思い出せるように、神々は紙に覚書をしたためた。そして、その紙をアコーデオンのように何度も折り曲げ、セイバの木の樹皮にある傷跡に保管した。
　最初の神々は踊りと歌に出かけた。マリンバ、ギター、タップの響きが消えてから、かなりの時間が経過した。しかし、母なるセイバの木はしっかりと立ち、世界が墜落しないように、本来の場所にあるようにするため、世界を支えていた。
　その時以来、世界は今ある場所にある。最悪の死の夜、もっとも恐ろしい夜、つまり忘却という夜から離れたところで、セイバの木は世界を支えている。
　世界は母なるセイバの木の上でじっとしている。しかし、歴史のなかで何度も、上から吹きつける風は、世界を絶望の暗い闇に墜落させようと、世界を押しやった。
　世界が壊滅する瀬戸際まで追い詰められたことも少なくない。権力の風はあらゆる方向から世界に襲いかかる。戦争、大惨事、危機、独裁者、新自由主義の方式、教員組合指導者、腐敗した政府、政府高官の暗殺、大統領候補の偽装犯罪、制度的革命党、北大西洋条約機構、民営テレビ放送などが襲いかかる。何千もの悪夢は、あらゆる方向から、恐怖を吹きつけ、世界を母なるセイバの木の高い樹冠から墜落させようとする。
　しかし、世界は抵抗してきた。まだ墜落していない。世界を構成しているすべての世界の真の男と女は、母なるセイバの木にくっつき、幹、枝、葉、根となった。世界が墜落せず、抵抗し、新たに成長し、そして新しいものになるためである。
　上と下の戦い、権力者と持たざる者の戦いは熾烈である。この衝突の理由や原因について、数多くのことが書かれた。実際、誰もが同じ理由をあげている。つまり、権力者はセイバの木が支えている世界を崩壊させようとする。下の者たちは世界と記憶を堅持しようとする。なぜなら、記憶こそ、明日が成長しはじめる場所である。
　権力者は人間性を打ち壊そうと戦う。
　持たざる者は人間性のために戦い、夢見る。
　これは真のお話である。小学校の教科書に出ていないとしたら、上の者たちがまだ書いていないからだろう。それに対して、下の者たちはすでに歴史を書いている。
　公式の研究計画の一部にはなっていない。しかし、世界の誕生のお話、世界がどこにあるかを説明する地図は、母なるセイバの木にある傷跡に保管されている。

　共同体の最長老たちはサパティスタに秘密を託した。記憶が失われないようにするため、いちばん最初の神々、世界を誕生させた神々が残した書込帳がどこにあるのかを山の中でサパティスタに語って聞かせた。
　だから、個人としての顔、名前、過去を持たずに誕生して以来、サパティスタは大地が教える歴史を学んできた生徒だった。記憶を記した古い覚書を参照しながら、世界がどのように誕生したかを教え、世界がどこにあるかを示すため、サパティスタは一九九四年の夜明けに教師になったのである。
　だから、サパティスタは生徒であり教師である。尊厳が生きている何千もの略号の下にサパティスタであることが隠されている。それゆえ、教師はサパティスタである。
　ラ・レアリダーのアグアスカリエンテスでの一角にセイバの木が鎮座している。男女が目まぐるしく行き来するのを見守り、励まし、保護している。
　この地では、誰一人歩かない日もある。だが、翌朝、あらゆる色、大きさ、そして話し方をする男や女が姿を現わす。彼らは笑い、心配し、踊り、歌い、話す。とりわけ、彼らは話し合い、いつもではないが合意する。そのために、彼らはいつも出会っている。
　ラ・レアリダーの孤独な夜明け前、いくつかの雲は湿り気を絞りだし泣きはじめた。上や下で雨が強く降っているとき、影のなかにひとつの影を見ることができよう。つねに顔を持たない影は、母なるセイバの木に近づき、歴史の書かれている湿った折り目に一枚の小さな紙を探す。小さな紙を見つけ、震えながらそれを開け、読み、もとの場所に返す。
　その小さな紙には何かが書かれている。それは、担いでいる者を自由にするという巨大な重荷にほかならない。それは、仕事、使命、課題、何かすべきこと、歩くべき道、植えつけ、育てるべき木、夜を撤して見るべき夢である。
　おそらく、その小さな紙は、すべての世界を含み、拡張する世界のことを話している。つまり、その世界においては、色、文化、大きさ、言語、性、歴史の違いは、排除し、迫害し、分類するために役立つことはない。世界の多様性は、現在われわれの首を絞めている灰色の世界を完全に打ち砕くために役立つ。
　そんなことは誰も知らないって？
　誰かが、その小さな紙を持っている。それが目の錯覚なのか、メヒコ南東部の山中にたくさんある視覚的な幻想のたぐいなのか。私にはわからない。しかし、この影は微笑んでいる。輝くように微笑んでいる。そのことを誰もが約束するからである。

　出典−La Jornada,1999/8/3