天の川のお話

　雨が山を洗い流して裸にする前、山の上ではほこりだらけの光の長い道が見えていた。こちらから向こう側までという手振りをしながら、老アントニオは、その光の道は向こう側から始まり、こちら側に到達していると言った。その長い道は「天の川」と呼ばれたり、「サンティアゴの道」と命名されたりしている。それは無数の星でできているという。なぜかはわからないけれど、その無数の星は小さいものがいっしょになり、自分で穴をあけている天空に裂け目と小さな道を作っている。しかし、そうではないとも言われる。われわれの長老たちのなかの最長老のお話では、あの天空に見えるのは傷ついた動物である。
　老アントニオはひと呼吸おいた。「傷ついた動物ですって」という質問を待っているようだったが、私は尋ねなかった。

　ずいぶん昔のことだ。いちばん最初の神々はすでに世界を創造し終わっていた。神々はゴロゴロとして過ごしていた。男や女は大地を耕作したり、放棄したりしながら暮らしていた。そんな時代だった。
　しかし、ある日、ある村に男を食べる巨大な蛇が出現した。その大蛇は、男性だけを食べ、女性を食べなかった。大蛇は、村の男全員を食べ尽くすと、別の村に行き、そこでも同じことをした。村の人々は、自分たちの身に降りかかった驚くべき出来について早急に連絡しあった。この大蛇に対する恐怖が人々の口からつぎつぎと語られた。
　その大蛇はとても太くて長いので、村全体を取り巻くことができた。壁のように囲まれると、人々は出入りできなくなる。その後、男全員を差し出さないなら、誰も外には出さないと大蛇は宣告するのである。降参する者もいたが、大蛇と戦う者もいた。しかし、蛇の力は強大で、いつも勝利をおさめていた。巨大な蛇が自分たちの村を襲撃し、男全員を食べ尽くす日がいつなのかと、村の人々は恐怖を抱いて暮らすことになった。こうして、蛇は村々の男全員を呑み込んでいった。
　ひとりの男が大蛇から逃れることに成功した。男はすでに大蛇に攻撃されたことのある共同体に避難した。その共同体には女しかいなかった。男は大蛇のことを話した。大蛇がこの大地にもたらした被害は甚大であり、大蛇を倒すため戦わねばならないと主張した。女たちは口々に言った。
　「私たちは女なのに、どうして戦えるというの？」
　「男なしで、どうやって大蛇と戦うというの？」
　「大蛇は男たちを食べ尽くし、村に男はいなくなった。だから蛇はもうここに来ない。どうやって蛇を攻撃するの？」
　女たちはとても落胆し、悲しくなり立ち去った。しかし、ひとりだけ残っていた女はその男に近づき、質問した。
　「どうすれば大蛇と戦えると、考えているのですか？」
　「どうすればいいか、わからない。だが、方法を考えないと」と男は答えた。
　こうして、男と女はいっしょに考えを巡らし、計画を練りあげた。そして、その計画を伝えるため、残りの女たちを呼びにいった。女たち全員がその計画に合意した。
　そこで、恥ずかしがることもなく、男は村の中央で計画を説明しはじめた。その様子を遠方から大蛇が見ていた。大蛇はとても目がよく、遠くからでも見ることができた。やがて村までやってきた大蛇は、その長い体で村全体をぐるりと取り囲んだ。そして、この辺りを歩いていた男を引き渡せと、女たちに言った。引き渡さないなら、誰も出入りできないようにすると大蛇は脅した。女たちは次のように言った。
　「いいですよ。男を引き渡します。だけど、合意を得るため、私たちは会合を開かねばなりません」
　「かまわない」と蛇は答えた。
　そこで、女たちは男を囲むように輪になった。女の数が多かったので、輪はしだいに大きく広がった。やがて、村を取り巻いている大蛇の身体が作る輪と同じ大きさになった。その時、「これでいい。私は降伏することにする」と言って、男は大蛇の頭の方に歩いていった。大蛇は楽しそうに男を食べはじめた。
　その時、女たち全員が鋭い刃のついた棒を取り出し、大蛇の体中を突き刺しはじめた。女の数はとても多く、大蛇の体のいたるところに女たちがいた。呑み込んだ男で口を塞がれていたため、大蛇は攻撃から防衛できなかった。弱い者たちが、そのような形で身体のあらゆる箇所を攻撃する。そんなことなど、大蛇はまったく考えていなかった。
　「許してください。殺さないでください」と大蛇は言った。
　「ダメだ。おまえを殺す。おまえは数多くの悪事を働いた。私たちの男を全部食べたではないか」と女たちは咎めた。
　「ではこうしましょう。私を殺さないと言ってくだされば、皆さんの男をお返しします。皆さんの男たちはまだ私の胃袋にいます」と大蛇は提案した。
　女たちは考えた。大蛇を殺さないのはいい。しかし、巨大な蛇がこの土地で暮らしつづけるのはよくない。だから、この土地から大蛇を追放すべきである。
　「私はどこに行けばよいのですか。何を食べればよいのですか。その取り決めができていません」と大蛇は言った。
　村の女たちはこの厄介な問題に直面した。その時、最初の女は、この村にきた男がどう考えているか、尋ねるべきだと主張した。そして、大蛇に言った。
　「さきほど食べた男を吐き出しなさい。私たちに何ができるかについて考えをもっているか。それを彼に確かめることにします」
　蛇は半ば死に半ば生きている男を吐き出した。男はどうにか話せた。
　「何ができるのか、最初の神々に尋ねるべきです。私は半ば死に半ば生きているので、最初の神々を探しにいけます」
　こうして出かけた男は最初の神々を発見した。彼らはセイバの木の下で寝ていた。彼は神々を起こすと、懸案になっていることを説明した。神々は集合し、考えを巡らせ、よい合意を引き出すことにした。神々は大蛇と勝ち誇っている女たちを会いにいくことにした。女たちの意見を聞いて、神々は宣告した。
　「悪いのは大蛇だ。大蛇は罰されねばならない。呑み込んだ男たちを返しなさい。男たちを死なせてはならない」
　大蛇はすべての村々の男たち全員を吐き出した。そして、神々は言った。
　「大蛇はここを立ち去り、もっとも高い山で暮らすのだ。ひとつの山に入るのだが、世界でいちばん高い二つの山を使いなさい。ひとつの山に尻尾、別の山に頭をおくのだ。太陽の光を食べなさい。戦う女たちが大蛇に作った数千の傷跡が閉じないようにしろ」
　こうして神々は行ってしまった。その蛇、大蛇は悲しみにくれ、高い山に登った。大蛇は、頭をひとつの山、尻尾を別の山に載せ、その長い体を天空に横たえた。それ以来、昼間は太陽の光を食べる。夜になると、光を身体の傷跡にある穴から撒くようになった。
　大蛇は青白いので、昼には見えない。夜しか、大蛇の身体から落下する光は見られない。翌日、太陽が食料となる新たな光を発するまで、大蛇の身体は空っぽである。夜、はるか天空で輝く長い線は傷ついた動物である。

　私が理解できたのは、天の川は、昼に食物を食べ、夜になると出血する長い光の蛇であるということである。

　このサンフアンの夜の雨もやっとやんだ。天空は明るい褐色になった。こちらから向こうへ、こちらの水平線から向こうの水平線へといたる、何千もの傷を持った太い形の天空からぶら下がっている光の蛇が見えるようになった。銀色の房はふんわりとこのセイバの木のてっぺんに降りている。セイバの木の下では、別の雨の雫がさらに下の方に向かって落下している。雨をいとわない顔のない鏡から、輝きが跳ね返り、さらに遠方まで到達し、この片隅にまで届いている。その影の後に見えるのは……

　出典−La Jornada,1999/6/26