暦のお話

　われわれの村の最長老たちは語った。
いちばん最初の時代、時間はまったくでたらめにつまずきながら歩いていた。その様子はサンタ・クルスのお祭りの棒にそっくりだった。男と女は多くのものを失い、道に迷った。時間が滑らかに歩かなかったからである。
　時間はせっかちに急いでいたかと思うと、別の時には、足の悪い老人のように足を引きずりながら、ゆっくりと歩くこともあった。太陽が大きくなり世界を覆っていたかと思えば、別の時には、上も水、下も水、中間も水と、あらゆるものが水浸しとなることもあった。以前には、雨は、上から下だけでなく、横から降り、時には下から上に向かって降っていた。つまり、すべてがどんちゃん騒ぎだった。種を播いたり、狩猟をしたり、小屋をサカーテ製の屋根で葺いたり、細枝や泥で壁を作ることはできなかった。
　神々はこの様子をずっと見ていた。これらの神々、いちばん最初の神々、世界を誕生させた神々は、時間が好きなことをさせていた。だから、時間は散歩し、川でトゲウオを捕まえ、葦を噛んでいたかと思うと、時にはトルティーリャを作るためトウモロコシの粒をはずすのを手伝った。これらの神々、世界を誕生させた神々、いちばん最初の神々はその様子の一部始終を見ていた。
　神々は考えを巡らすことにした。しかし、急がなかった。ずいぶんゆっくりと考えた。これらの神々はあまり身軽ではなかった。だから、轟音をたてて大地を歩んでいる時間を見るのに、神々はかなりの時間を要した。ずいぶん時間がかかったが、神々は考えを巡らした。考えるだけでも相当の時間を要する神々は考えを巡らした。
　その後、神々はイシュムカネーと呼ばれる母親を呼んで言った。
　「ママ・イシュムカネー、よく聞いてほしい。大地を歩んでいるこの時間はうまく歩けない。飛び跳ねたり、駆けったり、引きずったりしている。それだけでない。前に進むかと思うと、後に進むこともある。だから、まったく種を播くことができない。おまえも見てのとおり、十分に収穫もできない。ここでは、男も女も悲しくなっている。われわれもトゲウオを探そうとずいぶん争っている。われわれが時間を横にして休ませるための葦もここにはない。だから、おまえに言いたい。ママ・イシュムカネーよ、おまえが何を考えているのかは知らない。しかし、時間がこんなふうにしか歩めないのはよくない。いつ、どこを歩むべきかということに関して、時間を導くものは、誰もいないし、何もない。ママ・イシュムカネーよ、われわれの考えは以上のとおりである。おまえに教えたこの問題について、おまえがわれわれにどう返事するのか。それはわれわれにはわからない」
　かなり長時間のため息をついた後、ママ・イシュムカネーは言った。
　「時間が、手綱のないロバのように歩きまわり、ものを破壊し、これらのよい人々全員を壊す。それはよくないことです」
　「そうだ。たしかによくない」と神々は言った。
　神々はしばらく待った。ママ・イシュムカネーはまだ話し終えておらず、始めたばかりである。神々はそれを知っていた。だから、それ以来、もう話が終わったと思われるとき、母親はわれわれに話しはじめるようになった。
　しばらくため息をついた後、ママ・イシュムカネーは言った。
　「時間が従うべきお話はあの上の天空にあるのですね。そして、次に何が、どのように、いつ、どこで起きるか。それを誰かが読み取り、時間に伝える。このように時間はなっているのですね」
　「そう、お話は天空にあり、時間はそうなっている」と神々は言った。
　ため息をついていたママ・イシュムカネーはやっと言った。
　「時間が真っすぐ歩くように、お話を読んできかせたいと思います。しかし、私の目はよくありません。天空を見ることはできません。無理です」
　「できないのか」と神々は言った。
　ママ・イシュムカネーは言った。
　「私にできると思われたのですね。時間を真っすぐにしても、ここからでは、天空を見ることも、読むこともできません。私はそんなに目がよくありません」
　「フーム」と神々は言った。
　「フーム」とママ・イシュムカネーも言った。
　こうして、「フーム」とお互いに言うだけで、時間が過ぎた。再び考えを巡らした末、神々はやっと言った。
　「いいかい、ママ・イシュムカネー。おまえが何を考えているかは知らない。しかし、われわれが天空をここに持ってくればいい。われわれはそのように判断した。天空がすぐ近くにあれば、おまえはそれを見て、読める。時間の歩む道を真っすぐにできる」
　大きくため息をつきながら、ママ・イシュムカネーは言った。
　「その場合、天空をどこに置くのですか？ダメ。ダメ、ダメですよ。私の小屋がとっても小さいのを御存じないのですね」
　「ダメ。ダメ、ダメなのか」と神々は言った。
　また、しばらくのあいだ、「フーム」、「フーム」と唸っていた。やがて、再び考えを巡らした末、神々は言った。
　「いいか、ママ・イシュムカネー。おまえが何を考えているかは知らない。しかし、われわれが天空に書かれているものを書き写し、持ってくればいいと判断した。それを書き写せば、読める。そうすれば、おまえは時間の歩む道を真っすぐにできる」
　「それなら、いいです」とママ・イシュムカネーは言った。
　神々は天空に上ると、天空が語るお話をノートに書き記した。そして、もう一度降りて来ると、帳面をもってママ・イシュムカネーに会った。そして彼女に言った。
　「いいかい、ママ・イシュムカネー。ここに天空が語るお話がある。われわれはこの帳面にお話を書き取った。しかし、それはいつまでも続かない。だから、おまえは、時間の歩む道が真っすぐになるお話がずっと続く別の場所へ書き写さねばならない」
　「はい、わかりました。そうします」と返事をした。
　そして、ママ・イシュムカネーは言った。
　「両手にそのお話を書き写します。時間のために歩む道を真っすぐにします。そうすれば、時間は真っすぐ歩み、足の悪い老人のように歩くことはないでしょう」
　そこで、時間の歩む道を真っすぐにするため、神々は天空で語られるお話をママ・イシュムカネーの手のひらと甲に書いた。だから、物事をよく知っている母親たちの手には、数多くのしわがある。そして、彼女たちはしわで暦を読む。時間が真っすぐ進み、歴史が記憶に播いたものを収穫することを忘れないよう、彼女たちは注意を払っている。

　老アントニオは黙った。
　「時間通り、水が出るわね」とドニャ・フアニータは両手を見つめて繰り返した。

　皆さんにお話したことは、十年前の五月の夜明け前の出来事である。今日、五月十日の夜明け前、われわれは、われわれとともにこの集会［一九九九年五月八〜十日の第二回市民社会とEZLNの出会いの集会］に参加している人々、そしてこの集会に参加してはいないが、われわれとともにいた人たちのグループに挨拶したい。私が言っているのは、政治犯と政治的行方不明者の母親たちのことである。この五月十日、われわれ、彼女たちの新しいこどもたちは、彼女たちを祝福したい。尊厳のある記憶をわれわれにもたらし、歴史が種を播いた明日を収穫するためのお話をわれわれに思い出させるため、ママ・イシュムカネーは彼女たちをともなって戻ってきた。
　この物事をよく知っている母親たちよ、お元気で。記憶を失わない人がいることをわれわれに保障している女性たちよ、お元気で。

　出典−La Jornada,1999/5/11