皆さんが「ハリケーン」とか「サイクロン」と呼んでいる湿気と閃光をもった巨大な風が襲来している最中だった。老アントニオは慣れたやり方でトウモロコシの葉でまいた煙草に火をつけた。そして、両手を小さくまるめて炎を囲むとともに、彼の口を熱くする言葉も囲み込んだ。そうして、これから皆さんが聞くことになるお話を話しはじめた。

　ハリケーンと誕生に合意した言葉のお話

　われわれの最長老たちが話してくれた。
先祖の偉大な先祖たちは、世界は言葉から生まれたと言った。しかし、その言葉は、自分に向かって、つまり内にむかって話すだけの独り言ではなかった。
　偉大なる先祖は言っている。
ひとりである二人が夜の闇のなかで出会ったという。そして、お互いに相手に向かって話し掛け、お互い瞑想したという。それは言葉なしに話すための方法の一つである。
もっとも古い先祖が言うには、二人はテペウとグクマツと呼ばれている。
さらに、二人であるひとりは七つの人格をもつという人もいる。
つまり、創造の母と形成の父であるツァコルとビトルである。
育てる母と世話する父であるアロムとカオロムである。
朝の母と夜の父であるフンフナプー・ブッチとフンフナプー・ウティウである。
祖母の母と祖父の父であるスキ・ニマ・ツゥとスキ・ニマ・アックである。
戦い勝利する母とよき統治する父であるテペウとグクマツである。
母なる海と父なる天の心であるウ・クシュ・パロとウ・クシュ・カシュである。
母なる大地と父なる天であるアフ・ラシャ・ラクとアフ・ラシャ・ツェルである。
いちばん最初の神々、世界を誕生させた神々は、二つでひとつ、それが七回だった。
　この二人でひとりの神は、七回にわたって合意し、言葉や考えを持ち寄った。そして、世界を誕生させることに合意し、それを試みた。
　もっとも偉大なる先祖は言った。ひとりが七回の二人は、お互いにフラカンと呼び合うようになった。それは「天空の心」の別の名前である
　もっとも昔の人たちは、世界を誕生させることは簡単ではなく、いろんなものが必要であると言った。言葉は世界を作る道具となり、材料ともなる。そして、言葉が誕生するのは、フラカンのときである。言葉によって合意が生まれ、合意によって世界は目覚める。
　だから、もっとも昔の人たち、われわれの先祖のもっとも古い先祖は言った。天空の心は、カクルハー・フラカン、またはフラカンと言われるものによってて作られた。光を発する湿気を含んだ風のなかで、フラカンの新しい世界を誕生させる計画が練られている。

　こんなことを老アントニオが言ったのは、われわれが、われわれの大地と天空を濡らしている苦悩を携えながら、サイクロンやハリケーンの時を歩んでいく方法を習得し、実行できるようにするためだった。それとともに、今、カクルハー・フラカンが贈っている光のもと、われわれが皆さんと話し合い、言葉を記憶し、きわめて単純なこと、つまり別の世界、よりよい世界、もっとよい世界を誕生させようと試みるためでもあった。その世界では、われわれ全員が他者になる。そして、そうしたすべての他者のための空間、他者を尊敬しようとする心、他者の声を聞こうとする耳、他者の声が存在している。
　だから、まさにハリケーン［中米やメヒコに多大な被害をもたらしたミッチ］が襲来しているとき、この集会が開催され、皆さんがここに到着し、われわれもここに到着した。こうして、われわれは出会うのである。

　出典−La Jornada,1998/11/21