皆さんに本当のことを言いたい。われわれは皆さんが立ち去ることを望んでいない。むしろ、ここラ・レアリダーにいつまでも留まってほしいのである。そうすれば、月の光がほんの睫毛ぐらいしかない夜、いつ、どのように、私の左手奥にあるセイバの木がスカートをたくし上げ、いつものよう樹冠をすっと高く上げ、この牧草地の中央でサパテアードを踊りはじめるのかに、皆さんも気づくだろう。私は首にパリアカテを粋に結わえ、二人でいっしょに旋回しはじめる。誰もがわれわれは酔っていると言うだろう。だが、酔っているのは、われわれが知り合いにならないのを気にしている月だけである。
　そして、皆さんは、いちばん暗い夜に、いちばん偉大な神々、世界を誕生させた神々、最初の神々が集まることを目撃するだろう。ここで、最初の神々は、言葉を語り、驚嘆すべきこと、ひわいなことを語り、喜びや苦しみを語る。いちばん偉大な神々、世界を誕生させた神々、最初の神々は涙と笑いを知っている。男と女に語りかける方法が見つからないと絶望することもある。言うべきことが多く残っているとこぼすこともある。最初の神々は夜を歩みながら、老アントニオを探し、彼に真の言葉を語って聞かせる。　
　すでに亡くなっているにもかかわらず、老アントニオは煙草を紙に巻き、端を折り曲げて一服する。紫煙に包まれ、いちばん偉大な神々、世界を誕生させた神々、最初の神々は彼に語って聞かせることで歴史を記録していく。それによって、トウモロコシでできた真の男と女が歴史を知る方法を探せるようにする。いつも言っているように、老アントニオがあんなに煙草を喫うのは、神々が彼に語った歴史を忘れないようにするためである。老アントニオが出歩くのはいつも夜である。夜になると、老アントニオは私を探しにくる。私と話したり、私から煙草に火をつけるマッチを借りたりするためである。
　昨晩も、老アントニオは私と出会った。私がマッチをすった。その炎の明かりで、煙草に火をつけようと近づいた彼の顔が照らされた。私は彼の目を見つめ、その瞳に映る私の姿を見た。そこに映っていたのは私だけではない。胸がしめつけられ息苦しくなっていた十年前の四月の晩と同じように、座っている私の隣には老アントニオがいた。いつもどおり煙草を喫いながら、二人は焚火と足元だけを見つめていた。周囲にはそれ以外のものは見えなかった。焚火、煙草、パイプの煙を通して、二人は見つめあった。その時だったと私は思う。老アントニオは何かを思い出し、私に話しだした……

　道と道を歩むもののお話

　以前は、以後というものがなかった。時間は静かにとどまっていた。以前は、いちばん偉大な神々、世界を誕生させた神々、最初の神々しかいなかった。神々は座ったままで、歩いて行く場所はなかった。というのも、以前は、以後がなかったからである。だから動くこともなかった。以前はこちら側で、以後はあちら側と言えなかった。神々は以前からそんなふうにしていた。だから、世界が以前にずっと留まり、以後に行けなくても、さほど悲しくなかった。しかし、やはり以後を発明すべきだと考えるようになった。
　そこで、七人の神々の一人が、別の神、つまり自分に向かって、いつまでも以前に留まらず、以後に到達する方法を発見すべきだと言った。それがいいと神々は合意した。以後を発見するのはきわめてよい考えだと言った。うれしくなって踊ろうとしたものの、神々はあまり上手には踊れなかった。というのは、同じ場所、つまり以前に留まりつづけたからである。同じ場所でしか踊れなかったので、神々はお互いにぶつかりだした。踊っている場所で、ある神はある方向へ、別の神は他の方向へと跳ねまわった。やがて、以前は少しばかり幅が広くなった。しかし、まだ小さく、七本の細い光線と一つの小さな星をともなって現われたにすぎない。
　だが、すでに以後を作り出していたのである。そのことに神々は気がついた。というのは、以前、すべての神々は一ヵ所にかたまっていた。だが、今、つまり以後では、ほんの少し離れていた。神々はおおいに満足して踊りだした。もともと、これらの神々は踊りたかったのである。マリンバを奏で、腰を振るための口実を探していた。だが、前進はできない。いまだに、以前がずいぶん近くにあり、以後がずいぶん小さいことに、神々は気づいた。神々はとても真剣な態度にもどって、状況をくわしく分析した。そして、以後を大きくし、以前があまり近くに留まらないようにするにはどうすべきか、意見をまとめるため、以前の場所で再会することに合意した。
　神々は準備会議の会合に集った。どうして、自分たちがひとつの小さな星まで描いている七つの細かい光線になったのか。そのことを神々は考えはじめた。そして、いっしょに踊りだしたら、お互いにぶつかってあちこちに跳ねてしまったことを思い出した。それは以前のことである。以後になると、神々はお互いに少し離れ、踊りだしてもぶつからず、あちこちに跳ねることはなかった。
　神々はおおいに満足し、再び踊りだした。すると、再び神々はぶつかりだした。再び神々は以後に留まり、お互いに少し離れていた。神々はまた真剣な態度にもどり、以前の場所で再会することにした。こうして、かなりの期間、神々は以前と以後を行き来した。真剣な態度と踊りを繰り返した。だが、あいかわらず、以前も以後はきわめて狭かった。このようなことでもなければ、神々の頭にいい考えは浮かばなかっただろう。神々は、それぞれの神が赴くことになる以後に、全員が同伴することに同意した。神々はさらに踊り、ひと押しした。すると、最初の七本の細い光線のひとつから、別の七本の細い光線が現われた。その後、神々は別の光線にも同じことをした。神々はそれを七回繰り返した。
　その後、神々は再び以前の場所で再会した。以後がほんの少しばかり以前から離れているのがわかった。以後は、七本の細い光線を七回分もっているが、あいかわらず小さかった。それ自体はいいけれど、まだまだ不十分である。以前と以後はお互いに十分離れるべきだと神々は判断した。そして、最初の以前の以後である以前の以後で、今一度踊りを繰り返さねばならない。このように神々は考えた。その作業はたいへん複雑だが、いまなお世界を創りださねばならないと神々は考えた。これらの神々は、もっとも偉大な神々、世界を誕生させた神々、最初の神々だったからである。
　神々は踊る仕事を担当する神を創ることにした。神々は真剣な態度にもどり再会し、以前と以後の間隔を開けるため、お互いに離れることに合意した。そして、真剣な態度と踊りを繰り返すたびに出現していた細い光線に名前をつけるべきだと、神々は言った。神々は、それらの光線を「道」、そして踊る仕事を担当する者を「道を歩むもの」と名づけた。そして、彼らに仕事がどのようなものであるかを説明した。それは容易ではなかった。以後により遠方まで行くには、そのたびに以前にもどって、踊ること、そして真剣になること、そしてもう一度再会することを習得しなければならなかった。
　その後、踊ったり、真剣になったりを何度も繰り返し、神々は疲れていた。もっとも偉大な神々、世界を誕生させた神々、最初の神々は眠るために立ち去った。道を歩む人に道を作るように命令した後、小さな星が作り出す道を進んでいる星を思い描きながら、神々は眠りについた。道と道を歩む人はこうして創られた。それらは、もっとも偉大な神々、世界を誕生させた神々、最初の神々によって、厳粛さと喜びのなかで創りだされた。

　老アントニオは黙した。自分の足元を見るのをやめ、私は視線を上げた。すでに夜は明ける準備を始め、老アントニオがいなくなっていることに私は気づいた。老アントニオがいたのは以前のことだった。現在はそれ以後である。われわれはお互いに出会い、そのたびごとに以前へ帰りながら、真剣かつ楽しく、道をより大きくすべきである……。

　しかし、それ以後も、夜は黒い扉のように閉じられつづけ、影は多かった。だから、深夜に太陽を探すことは大変な労力を必要としたのである。だが、深夜の太陽は自分のまわりに言葉や希望を集めている。

　その時、私は皆さんに言いたかったことを思い出した。どうか立ち去らないでほしい。ここにいれば見ることができる。月が太鼓のようにふくらみ、風が希望をかきたてる。地平線に次から次へと沈むことに抵抗している怠け者の星の数にくらべれば、コオロギなどは物の数ではない。ホタルは草の房飾りとなって光を放ち、夜のいちばん暗い場所でも、光は見える。その様子を皆さんは見ることができる。

　出典−La Jornada. 1996/４/11