老アントニオは次のように言った。
「ここの大多数の人と同じように、この大地にいた最初の男女は先住民だった」
さらに、次のように言った。
「最初にこれらの男女が行なった仕事とは、すべての人々に分配できる組合せをつくることだった。そこに、権勢家や金持ちが登場し、皆の仕事を独占するようになった」
そこで、我々の最初の先生、年長の先生たちは、次のように言った。
「こうして、我々の大地、つまり現在、我々がメキシコと呼んでいる大地を駆け巡っている苦悩と闘争に関する歴史は始まった」
さらに、先生たちは言った。
「まず、一人が話し始めた。自分の苦悩、苛立ち、憤慨を命名するに当たって、彼は『私』と言いだした。そして、『私は苦しんでいる』、『私は苦悶している』、『私はこんな問題を抱えている』と発言した。そうすることによって、仲間として自らを認知することを習得するようになった。『私』が登場する前には、何も存在していなかった。生まれた『私』が登場する以前には、搾取も悲惨な生活もなかった。人が『私』と言う場合には、一個人として発言しているのであり、集団として発言しているのではない」
そして、老アントニオは次のように言った。
「我々が『私』と言う時、我々は自分たちの歴史を命名しているのである。それを契機に、我々はほかの言葉を習得していく。我々は、見ることや聞くことを通じて、自分たちと異なっている他者を認知できるようになり、そうした存在を『彼』や『彼女』と命名するのである。だが、ほかの存在から切り離された一個人のなかに、我々はとどまり続けるのである。聞く耳を持ち、言葉を開くことではなく、心を開くことによって、我々ははじめて、『彼』や『彼女』なかに、こうした同じ苦悩や苦痛が存在することを認知できる」
さらに、老アントニオは言った。
「『彼』や『彼女』と出会うとき、『私』は彼らの抱える苦悩が自分のものと同じことに気づくことになる。そして、構築することも成熟させることも難しい言葉、つまり『我々』という言葉を構築することになる」
老アントニオは次のように言った。
「『私』、『彼』、『彼女』、そして『お前』−十分に信頼できる時の呼び方−や、『あなた』−敬意を払っている兆候−は、『我々』に変容するのである。『彼』や『彼女』、『お前』や『あなた』を命名した『私』を命名することになった苦悩や苦痛は、歓喜に包まれて、『私』を変革させる機会を手にすることになる」
　老アントニオは次のように話した。
「いくつもの苦悩が集まるときが来るだろう。私と彼、彼女、お前とあなたが一緒になり、この苦悩、この苦痛の責任はいったい誰にあるのだろうかと尋ねだした。最初、責任を負うべきは、個人とされ、その後、家族、さらにいっしょ仕事をした集団全体ということになった。やがて、話し、耳を傾けているうちに、こうした事態の責任を負うべきは、上の世界の連中であることに気づいた。その時、『彼ら』という言葉が誕生したのである」
老アントニオは言った。
「『彼ら』や『彼女たち』と言っているとき、人は上を見つめる。上の連中は、我々の貧困と引き換えに自分の富を形成している。我々の不幸と引き換えに、自分の幸福を作りあげている。我々の現在や過去と引き換えに、自分の未来を作りあげている」
さらに、老アントニオは言った。
「だから、下の人たちについて語ることは、とても心地のよいものになるだろう」
さらに、皆にむけて次のように言った。
「我々が教えられたことは、ある段階になると、我々は『私』を放棄しなければならないということである。そして、彼や彼女という存在を確認できるようになるべきである。彼らと協力し、我々の祖国が必要としている『我々』を構築すべきである」
老アントニオは言った。
「たとえ、大いなる苦痛をともなう恐ろしいことかもしれないが、我々は我々自身から自己を切り離さねばならない。そして、我々は他者を見つめることを習得すべきである。それこそが、インディオである民族として我々が、他者とはどのような存在であるかを心で理解できることになる唯一の方法である」
そして、我々に向かって言った。老アントニオは次のように言った。
「インディオである諸民族がお互いを知り、我々として発言することを習得すべき時が到来するだろう。だが、我々を搾取し、辱め、軽蔑している連中、『彼ら』や『彼女たち』も、さらに拡張することも間違いない。だから、それだけでは十分とは言えないのである。インディオである諸民族として、我々は他者の心に耳を傾け、他者の心に出会う方法を習得しなければならない」

出典―www.enlacezapatista.ezln.org.mx、2006年２月３日、ベラクルス州オリサバ市