いつかは忘れたが、あるとき老アントニオと出会った。そのとき、私はラジカセで音楽を聴いていた。私の背後に老アントニオがいるのに、私は気づいた。そこで、そのまあｍでは不適切と判断し、私は少しばかり音量を下げることにした。老アントニオが話しだすのがわかっていたからである。そして、おもむろに、私はドブラドールの煙草―煙草の巻紙がないので、我々はとうもろこしの葉で巻いたものをこう呼んでいた―に火をつけた。老アントニオは私から煙草を奪いとると、自分がつくっていた巻き煙草に火をつけた。そして、これから私が皆さんに話すよい夢と悪い夢のお話しをしてくれた。

老アントニオは語った。
「世界には悪い人がいる。とても悪いので、その悪いことは外に拡張し、妖怪のように出歩きだしていた。よい人が悪い夢、つまり悪夢を見るようになるのは、自分の夢を見ているからではない。自分と関係ない夢を夢見ているのである。だから、悪夢を見ても、なにも怖がる必要はない」
このように老アントニオは指摘した。
「我々が理解すべきは、そのような悪夢は我々の夢ではないということである。その意味で、我々がその当時いた世界は、まさに悪夢そのものだった」
さらに、老アントニオは言った。
「そうした悪い夢、つまり我々が抱えている悪夢は、自分たちとは無縁の夢で、自分の夢を外に放り出したままにしている他者の夢である。寝ている時、我々はそのことに気づかず、その夢を捕まえ、自分の夢のなかに取り込んでしまう」
一方、「よい夢もあるのだ」と、老アントニオは語った。
「いくつかの夢はよい夢である。しかし、我々はその夢を現実のものに変えだすまで、その夢のことを覚えていない」
老アントニオは言った。
「たとえば、我々は何度も自由を夢見てきたことがあると、我々が自由を夢見るとき、我々は他者を夢見て、その人に語りかけていた。我々が語る言葉や耳を傾けること自体を恐れる必要はなかった。我々の夢のなかでは、我々は何の問題も抱えることなく、異なった存在のすぐそばにいることができる。我々はお互いを知り、それを通じて、対立や衝突を生じさせることなく、本来のあるべきものになれるのである。夢の中で、命令する者も従属する者も存在しなくなる」
そして、老アントニオは言った。
「このよい夢は自由と呼ばれている。そうした夢を獲得したことに気づくことも、気づかないこともある。闘争の中で自由を獲得したときだけ、我々はよい夢を記憶する」
さらに老アントニオは語った。
「正義という別の夢がある。ある人は正義のことを夢見ていた。それは、世界が対等で、平らになることである。食卓に光が注ぎ、言葉が生きる糧がある世界である。人々は笑い、歌い、踊ることになる。世界が、上も下もない、本来のあるべき姿になっているからである。この夢は連続しているので、我々、つまり慎み深く、気取りのない人は、ついそのことを忘れてしまう。だから、正義が実現することを目の当たりにするまで、それを思い出すことはなかった」
さらに、老アントニは言った。
「我々はよき存在になろうと夢見ることもある。よりよき人間、個々の場合に応じて、よりよき男や女でありたいと、我々は夢見る。その夢の中で、ある人は、自分が完全ではないが、数分前、前日、前年より、よくなっていると感じていた。より完成したものになったと感じていた。なぜなら、他者の声に耳を傾ける力が大きくなったからである。他者に贈る言葉がよきものだったからである。自分が孤立していないことがわかったからである。夢の中では見つづけられたが、自分の外側に実際にあったこの大地という同じ場所で、同じ問題をめぐって、自分のために戦ってきた他者がいたことを知っていたからである」
さらに、老アントニオは言っている。
「我々がよりよき存在となっているこの夢では、存在していた色や音楽はより豊かなものだった。夢はしばしば音楽となった。我々がよりよい存在になる夢においては、我々の頭や夢から抜け出し、我々が目覚めているかを監視してまわっているのは、音楽である」
老アントニオは立ち去る前、私に次のように言った。
「よき存在になりたいという夢は、多くの場合、お前が聴いている音楽と同じようなものである」
こう言うと、老アントニはいなくなった。

私が話していることを理解し、考えている人たちは、私がその時に聴いていた音楽がソン・ハローチョであることを知っている。ソン［ベラクルス州中部の民衆音楽］とウアパンゴ［ベラクルス州北部などワステカ地方の民衆音楽］こそ、私がはじめて音楽というものや音楽家たちをのぞき見ることができるようにしてくれた二枚の扉だった。その後、本格的に扉を開いてくれたのは、ロックである。

おやすみなさい、同志の皆さん。ありがとう。

副代表ゼロ、ベラクルス州ハルティパン、2006年1月30日