ゲレロの山の心臓部から（先住民全国会議）宣言

　われわれメヒコの先住民族，先住民組織は，1994年12月16日，18日にかけてトラパに集合した。この地は，雨の人々，山の心臓部の人々，ジャガーの人々が，千年にわたって暮らす領域にある。われわれは言葉を語りあい，意見に耳を傾け，心をひとつにし，宣言にまとめることに合意した。こうして，先住民全国会議の方針と要求をまとめた文書「グレロの山の心臓部から宣言」が打ち出された。概要は以下のとおりである。

（１）　われわれはチアパスの仲間たちの闘争に心を採り動かされている。搾取と抑圧の軛から抜け出ようとする彼らの努力に敬意を表したい。われわれはＥＺＬＮの13項目［当初は，住宅，土地，仕事，食料，健康，教育，独立，自由，民主主義，正義，平和の11項目，1994年10月から文化，情報が加わる］の要求はわれわれの要求そのものであると認識している。自分たちの主張に耳を傾けてもらう唯一の方法として武装という道を選択することを決定した理由もよくわかる。ゲレロの山の心臓部から，あなたたちにメッセージを送りたい。あなたたちは孤立してはいない。
　あなたたちがおかれている生活条件はあなたたちに限られたものではない。チアパスの先住民族の状況は，この国のすべての先住民族が日々体験している状況と同一である。われわれは，この 502年間，チアパスのインディオが日常的に被ってきた貧困，非民主主義，不覚容，人種差別，差別をはじめとする多様な侵害を全面的に分かちあっている。
　現在，チアパスはメヒコのすべてのインディオの心を捕えている。戦争を食い止めようと精力的に努力し，植民地主義的な関係を清算する新しい関係をチアパスの人々のなかに作り出そうとしているからである。われわれは「先住民議会（parlamentos indigenas）」の構成を「事実としての自治」に関する宣言として解釈している。
　われわれは，チアパス州の移行政府［アマード・アベンダーニョを首班とする反乱州政府］の全面的な認知，自治権を認める新しい憲法の制定，チアパス州の新しい社会協定のための法的基盤を定める制憲議会の設置を要求しているチアパスの仲間たちを支持する。さらに，われわれはエドゥアルド・ロブレド・リンコンを頭目とする欺瞞的政府が権力の座につくことを弾劾する。祖国の先住民居住域で軍事化が進行していることを非難する。先住民による抵抗活動は力によってけっして解決でさないことを繰り返し主張したい。

（２）　われわれ先住民会議の参加者は，自治は現在まで否定されてきたが，われわれの基本的権利のひとつであるという結論に到達した。地下に隠れたかたちで実践されていたとはいえ，自治はわれわれ民族のなかでつねに堅持されてきた。しかし，われわれはもはや秘密裡に実践するつもりはない。われわれの要求は自治を憲法で認知することである。この権利は先住民の権利に関する特別の章として憲法に明記されねばならない。つまり，われわれは現行の憲法第４条の内容は不十分であると考えている。
　ここゲレロの山の心臓部から，すべての仲間に呼びかけたい。先住民自治を求め，全国規模の大運動を展開しよう。この運動は継続的に展開され，先住民族の自治権が有する意味が全面的に理解されるようにしなければならない。この地において，自治が分離ではないことを繰り返して強調しておさたい。分離とは逆に，自治を獲得することによって，先住民族は真実のメヒコ人となる機会を初めて獲得できる。われわれメヒコのインディオ民族は全面的にメヒコに自らを統合したいと願望している。しかし，それは同化や統合主義を意味するものではない。先住民自治を法的に認知することは，先住民族と国家の関係，さらにインディオとメスティソの関係に民主的な基盤を据える唯一の道である。

（３）　しかし，先住民の自治権を憲法で認知することは，それ以外の根本的な変革をも含んだきわめて広範なプロセスの一部である。その変革には，メヒコ人相互の新しい協定の構築，新しい連邦主義に基づく新国家の建設，新しい領土の領域再編が含まれている。
　われわれ先住民族は自らの手で発展を推進する主体となることを要求する。インディヘニスモの全面的清算とともに，自らの生命と意思決定を自己管理する先住民族の権利を取り戻すことを要求する。その権利は，1991年９月５日以降わが国の憲章となった国際労働機関第 169号協定によって定められている。その意味で，新政府［セディージョ政権］の発足に当たって，会議の参加者一同は，先住民族が抱えるもっとも深刻な問題がいつも貧困であるのは，反民主主義の所産であることを確認したい。その貧困は「開発計画」や，全国連帯計画などの援助計画によって，解決されることはない。われわれ先住民族が，権利としてわれわれに所属している資源を管轄する方法を決定する権利を手に入れる時，初めて先住民地域の貧困は解決するだろう。

（４）　先住民会議参加者は，われわれの諸権利の承認は，社会の他のセクターから孤立した闘争ではなく，国の民主化というより全体的なプロセスのなかで生み出されるという結論に到達した。われわれは，先住民族やメヒコ人が要求している変革を実現する方法として，現時点で唯一残されている道，つまり民族民主会議に参加することを承認した。
　われわれ先住民会議参加者は，一緒になって土地や領域を取り戻し，貧困，経済的搾取やわれわれを抑圧する反民主主義と戦うために，農民の仲間と緊密な協力関係を結び，団結することになる。先住民とメスティソの団結こそ，メヒコに求められている諸変革の基本条件である。しかし，われわれは，その団結が，お互いが違っていることを尊重すること，そして対等な権利の保証を基盤とすべきであることを強調したい。

（５）　われわれ先住民会議参加者一同は，女性代表団による意義深く重要な参加があったことに挨拶と感謝の意を表したい。先住民の闘争において，女性の参加はすでに定着しつつある。かなり多くの女性が参加しているとはいえ，まだ不十分である。われわれは，われわれの伝統や習慣を含め，女性の諸権利を全面的に保証するために不可欠な変革や改善を実践することになるだろう。

（６）　われわれ先住民族は，自分たちの辿って来た道程がずいぶん長かったことを承知している。先住民の新たな営為で特に際立っているのは，世界の各地において先住民運動が台頭し，強化されてきたことである。その過程で，われわれは国際法や国際的な法措置が果している役割の重要性を理解してきた。それゆえ，われわれは先住民の闘争が国際的な場でも重要な意味をもつようにすべきである。
　それらの国際的法措置といえども，わがメヒコ政府のような反民主的な政府に対してはまだまだ不十分である。われわれはそのことをよく承知している。それゆえ，われわれは，喜びとともに多大の擬念を抱きながら，国連が採択した「国際先住民の10年」がこの前［1994年12月１日］から始まったことを眺めているのである。多くの疑念を抱いているのは，国連が国際先住民年と宣言した1993年の経験を身に染みて覚えているからである。取り決めた約束を履行するために，メヒコ政府は何もしなかったのである。

（７）　インデイオの仲間たちよ。沈黙に終止符を打つ時がきた。ゲレロの山の心臓部は新しい生命の誕生を告げている。大地の人々，雨の人々，真実の言葉をもつ男女，ジャガーの人々，この大地に生まれたすべての男女は，新しい社会の新しい誕生を待ち望んでいる。
　われわれは，すべての男女に対して呼び掛け，召集したい。皆さん，結集しよう。誰も尻込みしてはならない。今回の会議にわれわれと同席できなかった仲間の先住民族，先住民組織に対して，われわれは呼びかける。われわれはメヒコで必要としている未来を共同して建設するために結集しよう。われわれは，この会議を契機に始まった空間は，すべての仲間の先住民族，先住民組織に対して開かれていることを伝えたい。その空間においては，宗教，政党，イデオロギーによって，先住民の団結が妨げられることはない。
　インディオの闘争はけっして後退することのない道である。もはや，誰もそれを押し止められはしない。
　以上がわれわれの言葉であり，われわれの気持ちである。
　自治のなかで自由と尊厳を勝ち取ろう。

　出典　Ojarasca 40-41 (1995):58-59