皆様とともに始まる番組は…最初の別の風

第一部−チアパス、キンタナロー、ユカタン、カンペチェ

「自分の言葉がより高く飛び、より遠くまで届くようにするため、我々は言葉に空気を吹き込みたい」−別のメキシコ、別のキャンペーン、別の南東部、別のキンタナロー州、別のカンクンにおけるあるマヤ先住民の言葉。

目出し帽にかこつけ、独自の道を進む「別のキャンペーン」は、指定された年に突入した最初の段階から、上の世界から予測されていた対応を呼び起こすことになった。サンクリストバル市で「別のキャンペーン」に結集した諸勢力が2006年の元旦に行なったデモ行進の一行は、隊列が進むにつれて街灯が消えていく様子を目撃することになった。それと並行して、マスメディアにおいて、徐々にマイク、カメラ、録音機、メモ帖が取り出されなくなった。「別のキャンペーン」が最初に獲得したものは、無関心以上に、上の世界の沈黙は、彼らが恐怖、とほうもない恐怖を抱いていることを反映していることが分かったことである。「別のキャンペーン」に結集する人々の共同の歩みは、経済・社会システム（システムに寄生し依存する政治屋連中）への挑戦だけでなく、まったく別の道、倒れないように歴史に抵抗し、生き延び、焦がれながら、現在まで受身の態勢でやってきた人々のリズムや方向性に変更をもたらした。今では、「別のキャンペーン」は攻勢に出ている。こうして、まだまだ小さな音が下のメキシコに発生している。その音は呟き、叫び、最後は大きな運動となるため、誕生したのである。その歩みとともに、「別のキャンペーン」は、上の連中に対する｢もう、たくさんだ。もう、いい。これからは、我々があなたたちを捕まえに行く｣、というメッセージを手にしている。体制の脊椎を寒気が走っている。上の声を聞く代わりに、下の人々は自らの声を聞くことを選択しだしたからである。

チアパス−上の世界では次々変わるシーン。下の世界では、まだ不完全なひとつの心、そして歩み、道、方向、目標を探しながら、日々増大している憤り。

チアパスにおける「別のキャンペーン」の滞在地は、次々と移動した。しかし、憤りの声は絶えることがなかった。最初の日から、｢別のキャンペーン｣は、EZLN以上の存在であることをはっきりと示した。
サンクリストバル、パレンケ、チアパ・デ・コルソ、トゥストラ・デ・グティレス、エル・アマーテ監獄、トナラ、ホアキン・アマロ、サンイシドロ、ヌエボ・ビジャ・フローレス・エヒード。
先住民、とりわけ先住民、つまり自らの苦悩や叛乱精神を携えている彼／彼女たち。人権防衛、ジェンダーをめぐる闘い、生産計画、教育、文化、環境保護、代替的通信、理論分析や議論の活動に従事している非政府組織、集団やコレクティボ、家族、諸個人。大多数が女性や若者だった。その場に集まった彼／彼女たちは、1994年以前にもいたのである。
しかし、何かが変わっていた。彼らの声は、サパティスタ運動への連帯支援や共感を呼び起こすとともに、自らの歴史、抵抗、闘争について語っている。第6ラカンドン密林宣言公表とともに、「この私は」という語りは、別の歴史についても語り始め、自らの声で他者のことを述べだした。サパティスタでも反サパティスタでもない先住民組織やインディオ諸民族は、未解決の諸問題とは1994年に武装蜂起した人々だけの問題ではなく、メキシコという国の根源そのものと関係していることをはっきりと示している。

サンクリストバル市郊外に集住する新教徒の先住民〔ラ・オルミガが知られている〕の再登場は、別のホベル〔サンクリストバル市の別称〕がメスティソ都市であるという幻影に終止符を打つものだった。パレンケではひとつの前兆が現れた。実際には、メキシコ南東部で「別のキャンペーン」が展開するに従って成長している運動、つまり電気料金高騰や電気事業民営化への抵抗にほかならない。電力産業を民営化しようとする政府の攻撃に対する最初の声は、褐色の人たちによって上げられ、先住民言語で語られている。
チアパ・デ・コルソとトゥストラ・デ・グティエレスでは、独自の音を携えた新しい声、つまり市場露天商、教師、学生、低所得者居住地区住民、非先住民の農民たちが登場した。最初の段階で南東部と北部を結びつける緊張の糸は表面化している。チアパス出身のダビ・メサは、チワワ州フアレス市に実行犯がいるはずの女性殺害をめぐる当局の無能力を隠蔽する生贄の羊として利用されている。この若者（26歳）は、いとこの女性ネイラ・アスセナ・セルバンテス（19歳）を殺害したとして告発されている。拷問で、自白調書への署名を強制された。犯人、つまり実際の殺人犯たち（連中の実態を暴露するビデオや録音は公表されていない）は自由に闊歩し、メキシコ北部の苦痛のリストには、さらなる死者の名前が書き加えている。
若い学生たちは真実を指摘している。教育は劣悪で、民営化が画策され、卒業しても職はないという。チアパスにおける不正義は、先住民、農民、教師、報道記者の顔と名前をもっている。しかし、尊厳を持って叛乱する精神に溢れている。収監された同志を抱える全国教育労働者組合（SNTE）第7支部、農業労働者全国連合（UNTA）は、大規模な動員も展開している。トナラ、ホアキン・アマロ、サンイシドロ、ウイシュトラでも、電気料金高騰に対する市民の抵抗運動が組織されていた。だが、ここでは、自分たちだけの孤立した戦いではないことがわかっている。
チアパス州の海岸部全域においては、当局と企業が一体となった事業で自然の破壊が展開されていることが明白である。今や、労働は支払うべき人々にとっては贅沢となり、貧困は犯罪となっている。政治屋連中、つまり、腐敗のなかで、改名し、修正し、拡大してきたPRIにほかならないPRDに対する批判は高まっている。この地域では、水道水は不足し、学校には黒板もなく、「教育に関する卓越した業績」を自慢するフォックスのメッセージは、厚かましい侮蔑の響きでしかない。高齢者たちは受取ったリサイクル不能の製品の取り扱いに関して抗議している。海岸地域とともに、山岳地域でも、回復からはほど遠い大きな傷を負っている。山岳地域を乗り越えて、ヌエボ・ビジャ・フローレス・エヒードに到着し、「別のキャンペーン」でもっとも戦闘的な集会がエミリアーノ・サパタ農民組織 ( OCEZ)と独立先住民民衆組織全国統一（UNOPII）の主催によって行なわれた。

その道中、心への衝撃によって、闘いの中で我々が愛して止まなかった人への追悼の気持ちから、沈黙をよぎなくされた。ラモーナ司令官は、全国で展開する「別のキャンペーン」にサパティスタが提示すべき提案として多彩色の刺繍を残し、いなくなった。メキシコ南東部の山中のサパティスタ同志は、着ている衣服の切れ端を引きちぎり、左肩につけた悲しみにみちた切れ端で、我々が失った取り返しのつかない存在の名前を呼んでいる。

「別のキャンペーン」の歩みが前進するにつれ、州政府は「チアパス州はまったく平穏」というデマを繰り広げだした。だが、その演出は、「さるぐつわ法」〔名誉毀損罪を強化し、報道の自由を制限する州刑法改正〕に屈した者にだけ通用するものだった。高速道路で復旧作業中の重機が写真入りで報道される。暗部では、暴雨風〔2005年10月のハリケーン・スタン〕の被災者に対する財源や支援物資が「行方不明」になるスキャンダルが露見した。チアパス州政府は、不動産部門の相談とイメージ演出の顧問の仕事を「デニムの王」（少年愛と未成年ポルノの帝王）たる人物〔プエブラ州などでマキラ繊維産業を展開するレバノン出身のカメル・ナシフ〕に与える一方で、 異議申し立てをした教員〔2005年秋に賃上げ要求でデモ行進をした10名近くの教員を拘束〕や報道記者を迫害し投獄した。あろうことか、自分とフォックス大統領を賞賛するための巨大な宣伝塔まで建設するしまつである。「別のキャンペーン」の歩みは、…彼らの宣伝経費の増大をよぎなくしたようである。

ずいぶん遅くなった。上の世界が目や耳を塞いでいても、それは大した問題ではない。下の世界では、目を見開き、耳を傾けている。今、風が巻き起こっている。下の左側から、その風が向かっている先は…

キンタナロー−上の世界はホテル王国。下の世界ではチャン・サンタクルスが再び語る。

チェトゥマル、カリージョ・プエルト、プラジャ・デル・カルメン、カンクン。観光客の目的地、巨大なホテル企業や大規模自然災害の場所として頻繁に登場する地名である。
しかし、下の歴史は、大企業べったりの政府によって、こうした事態が加速されていることを語っている。広大な土地や水面の民営化は、いろんな法律を巧妙に駆使して、エヒードや共同体の土地の略奪、さらには自然破壊を呼び起こしている。農民の声は、PROCEDE〔憲法27条改正で売買可能になったエヒード土地の区画や所有権を明確化させる手続き〕を突破口にして、土地の略奪や海岸の私有化が行なわれていることを告発している。北米政府が北部国境に壁を設置している時代、マハウエルでは、プライベート・ビーチへの侵入を防ぐという名目で別の壁が外国企業によって設置されている。もはや、農村部では、この同じ空の市下にある政府の無関心に嘆き苦しむことはない。今では農村を征服、あるいは破壊するために設定された特権化された分野を有している。高金利の信用クレジット、生産したものの低下価格、PROCEDEによるエヒードや共同体の土地の小規模私有地への変換などである。その結果は、債務負担、差し押さえ、あるいは売買契約である。かつて農耕地のあった場所には、現在、あるいは将来には、商業センターや観光センター、住宅地区、あるいは空港などができてしまう。
ずぶ濡れなのに、まだ雨が降り注いでいる。ハリケーン・ウィルマが襲来した時、貧しい人々ではなく、巨大ホテル経営者を救済することが、フォックス政権の最優先策となっていたのではなかったのか？「別のキャンペーン」に対して上の世界の連中が抱いていた恐怖から、ニコラス・ブラボのマヤ先住民が集会に参加しないようにする目的で毛布を配ったのだろう。その一方で、材木は、政府の認可を取得した巨大企業によって略奪され、密林は法的庇護のもとで破壊されている。

しかし、自然や歴史は自分たちの守護者を持っている。個人、あるいは組織として、自然や歴史遺産の保護運動は、キンタナロー全域において、自らの要塞を強固なものとしている。男女が集まり、分析し、議論し、「黙って何もしない」ことを止めるという合意をしている。そして、二方面での戦いを開始した。ひとつは自然や歴史を法律を駆使して防衛する闘いである。もうひとつは、下の左側の人々に保護意識を構築する闘いである。こうしたさまざまな営為から、別の芸術や文化面での課題が発生し、フォックス政権の文化政策の悪趣味と戦いながら、下の世界にある別の聞く耳や別の視線を探している。

メキシコ南東部という片隅のなかの一隅において、こうして、マヤ民族防衛連合やイスラ・ムヘーレス・コレクティボといった先住民の声が登場している。もっとも小さきものたちの褐色の声は、「別のキャンペーン」の第一段階の目的をもっともうまく要約したものとなっている。それは、「より高く飛び、より遠くに届くように、言葉に空気をあたえよう」というものである。カラバナに同行している最初の段階では躊躇いがちだった代替的なメディアの歩みも、ここまでくると、独自のリズムと「聞く耳が存在し、成長するには、他者の声が不可欠である」という確固とした態度をもつようになった。そこで、別のカメラ、マイクを向ける方向を再調整し、それに携わる男女とともに、農民、漁民、石工、民芸品製作者、露天商、先住民、土地なし農民、低所得者居住域住民、学生、教師、労働者、研究者、男や女、若者、とりわけ女性と若者の声を高く飛ばしだした。

しかし、こうした声、囁き、呟き、叫びだけでなく、「別のキャンペーン」は、沈黙にも耳を傾けている。ここキンタナロー州のマヤの土地では、チャン・サンタクルス〔19世紀半ばのカスタ戦争でメッセージを発し続けたとされるセイバの木に刻まれた十字架〕が、チアパスの山中のメッセージを伝えている。こだまは響き、次のように繰り返す。
「母なる大地のすべての守護者たちよ、目覚めるのだ。監視人たちよ、目覚めるのだ。苦悩の夜から目覚めるのだ。ついに時がやってきた」
こうして風は新しい力を獲得し、推進力と燃料となる他者の声とともに到着するのは…

ユカタン−上の世界では政治計画のアシェンダ。下の世界では他者を覚醒するマヤの尊厳。

一方の側、つまり上の世界では、征服の時代以来、なさけ容赦なく獲得してきた特権を失うまいとする権力者たちの抵抗がある。その反対側、下の世界には、先祖から連綿と続く抵抗が、さらに多彩な色を増やしている。
PANの支配するユカタンのポストモダンのアシェンダには、トゥーリズムと石油、マキラドーラ工場が加わっている。その上に、政府のプロパガンダという脆弱な足場が載っている。地域の経済権力は16世紀と同じ支配体制を夢想しているが、このユカタンは21世紀の手法で、ユカタンの土地（と人々）を搾取している。
これがPANの政治プロジェクトである。それは産業を管轄するエンコメンデロのメンタリティにほかならない。ほかにもまだある。これは｢変化を目指す政府｣と自称するものにほかならない。土地の略奪、歴史遺産の民営化、工場での搾取、自然の破壊、移民といった実際の成果は、PANの脆弱な舞台装置を壊してしまった。ユカタンの農村部では、次のような真実のほうがはっきりと看取できる。メキシコの農村の破壊は、政府の未熟さの産物ではなく、政府が目指している主要な目標にほかならない。簡単かつあからさまに言えば、戦争、つまり再征服の戦争によって構成されている戦略的計画にほかならない。しかし、この戦争は一方的なものではなく、下の世界では抵抗の声がこだましている。

こうして、守護者たちが登場する。彼らはこの土地の最初の住人たちに対する忘却が自らの名前のなかに銘記されていないことをはっきりとさせている。チチェン・イツァーのマヤ民芸品生産者たちは、彼らの先祖たちが建造した石像の記念碑からの追い出しに抵抗している。「放浪するエビ」協同組合に結集するプエルト・プログレソの漁民たちは、操業許可のための支払が必要で、操業すれば法律で犯罪者とされ、罰金を支払わなければならず、おまけに監視官が水揚げを奪っていることを告発している。オシュクム・エヒードのメンバーは、空港建設のための土地を彼らから略奪しようとする策動があることを指摘している。 若者グループは、別の文化を生み出し推進しているとして迫害を受けている。

マヤの言葉、色彩、流儀によって、怒りと憤りは、自らの発現場所を探し、それぞれ分断されているが、この｢もうたくさんだ！｣を繰り返している人々と出会っている。そこには、低所得者居住域住民、学生、職人、研究者たちとともに、同性愛者たちも現れている。彼らが結成するオアシス・デ・サンフアン・デ・ディオスや彼らのエイズに対する三つの闘い、つまりウイルスとの戦い、同性愛者を差別し分離している社会との戦い、問題に無理解な政府との闘いがある。性的な多様性の尊重を求める闘いへ加わっている。

誰もが発言し、繰り返し、強調している。我々は、「もう、いらない」、「もう、たくさんだ」ということをやめない。そして、今では、下の世界で発される声に、苦悩だけでなく、喜びも聞くことができる。自分たちが孤立していないことに気づきだした人たちの声、自らの声に耳を傾け、他者の声に耳を傾け、同志たちに出会っている人々の声である。
しかし、叛乱する半島の風は、ここに留まることはない。次に向かうのは…。

カンペチェ−上の世界では政府主導の破壊。下の世界では様々な色合いの叛乱。

ベカルで、最初の声が響き渡り、そこから、全国のいたるところで人民の運動を立ち上げるという偉大な警鐘を鳴らし始めた。腐敗した指導者連中、政府、大土地所有者たちに告発されたエヒード農民たちの出会いの集会が組織された。今では、自分の土地で働くのに、彼らはお金を支払わなければならない。つまり、貧しいため支払わなければならない。. カンペチェ港でも、声は発せられ続けた。その声を聞くための集会は、基本的には若者たちによって組織されている。不正義は２という数字を共通してもっている。大富豪の20家族、上流の200家族、貧困な2万家族である。経済を牛耳るものが政治も牛耳っている。権力をもった一族が、三政党、PRI、PAN 、PRDの候補者をすべて抱えている。広大な面積の土地や海岸を所有し、農民や漁民は、観光センターの従業員となるか、アメリカ合州国に出稼ぎに行かざるをえない。
地域の金持ち連中が仲立ちとなって、メキシコ石油公社は自然の破壊の大元凶となっている。カンペチェではひとつの真実が明らかとなっている。自然は、まさに、自然を保護する責務を負っている当局者の手によって破壊されている。カンペチェの海岸を荒廃させた海賊船や私掠船の徒党たちは、今では公職や企業家の肩書きをもち、さまざまな社会の場に進出している。その一方で、18万もの住民は、極貧状態で何とか生き延びている。苦悩は、シュプヒル（カラクルム地区）やカンデラリアまで到達している。メキシコの農村問題に関する旧態依然としたPRIの政策（時には、労働党PT、コンベルヘンシア、PANやPRDの旗が掲げられる）がここでも繰り返される。それは、農民の指導者の買収、組織の分断や別の組織との対立、弾圧、迫害、投獄、暗殺などである。合州国への出稼ぎが開かれた道として唯一残っている。この状況は、チクレ採集ブームの時代の状況〔20世紀前半ユカタン半島各地でチューインガム原料のチクレ樹液採集が盛んになった〕と大差ない。この先住民の大地における不正義は、カルロス・サリナス・デ・ゴルタリによって、カラクムル（双子の建築物）と名づけられた〔サリナス政権下で発掘が進んだカラクムル遺跡は2002年にユネスコ世界遺産に指定〕。それは、この地に集積した歴史的資源を含めこの大地が新しい金の支配者の所有物であることを宣言し、資本を再征服しようという野望があることを気づかせるものだった。
そして、この闘いでは、嘘がきわめて重要な位置を占めている。社会的支援という政府の計画は、完全な形で届くことはない。資金が特定の場所で留まっているにもかかわらず、政府計画の進展は大々的に宣伝される。現代の略奪は、お馴染みの方法で推進されている。銀行の信用貸し、増加する利子、すべての労働は銀行に飲み込まれ、債務は思い通りに増大し、PROCEDE は法的障害を取り除き、土地を差し押さえる。何年も働いたとしても、結局は、土地を失い、無一物となってしまう。…そして憤りだけが残る。

しかし、下のカンペチェには、現地だけでなく、共和国の大半の州からやってきた人たちによっても担われている叛乱がある。それゆえ、州全域で展開される叛乱は多くの色彩を帯びている。不正義が増大するにつれ、賢明で組織化された叛乱も増大することになる。

別のカンペチェでは、職人、農民、環境保護グループ、文化活動や理論分析の集団、養蜂業者、共同組合活動家などを結集している。その大多数が先住民である。キリスト教基礎共同体や社会にコミットしているキリスト教組織から多くの人たちが参加している。その誰もが、嫌気、怒りや憤り、叛乱という点で共通している。しかし、それに留まることなく、それぞれの組織を立ち上げ、闘う中で学んでいる。それを手掛かりに、敵と同志、日和見主義者や一時的な通行人を見定めている。

別のカンペチェでは、風が響きわたり、「もう、いいかげんにしろ！」と繰り返す。その反響はとても力強く、下の左側で、別の夜明けを待ちながら、夜を徹している他国に届くほどである。そして、タバスコ、ベラクルス、オアハカ、プエブラでも、自らの歩みを続けることができる。

ハーフタイム

｢別のキャンペーン｣は、一歩ずつ前進するたびに、ひとつの選択肢、つまり別のもの、絶望に代わる別の選択肢に変化しはじめた。上の世界では、いろんな騒音（さらには、スポット広告でしかないのに、議論や論争を装っているお金も）が行き交っている。しかし、下の世界における別の声は、自らを集団の中で位置づけだした。こだまは終わることなく響き続けている。別のキャンペーンは、戦いと思考を結びつけている。｢それが私だ｣という存在が、徐々に「それは我々だ」へと変容している。

いくつもの最初の風がもつ共通点として、次のものが挙げられる。
・ 企業家たちと全政党の政治屋連中の結託
・ 土地の略奪
・ 歴史的遺産の私物化
・ 環境の犯罪的な破壊
・ 社会で戦っている人に対する弾圧、迫害、投獄
・ 生活費の高騰、特に電気料金
・ アメリカ合州国への出稼ぎ移民
・ あらゆるレベルでの教育の危機と失業の危機
・ 政治屋に対する嫌気と既存の議会政党への批判

そして、下にいる我々を結びつける架け橋が延びている。最初の橋、我々自身を求める戦いは、すべての政治犯の釈放、社会活動家への逮捕命令をすべて取り消すことである。
しかし、それだけではない。いくつもの提案が提起されている。金持ちが多く払い、貧しい人たちは少なく支払うか、免除されるという基準に基づき正当な料金体系についての合意が成立するまで、連邦電力委員会への電気料金支払停止。農民による PROCEDEの全面拒否。環境破壊をもたらす政府の政策を全国的規模で阻止すること。民営化に曝されている歴史遺産を全国規模で防衛すること。「留まって、闘おう！」という叫びに要約できる、将来の出稼ぎ労働者にむけた新しい選択肢を準備すること。労働者にとっての別のメーデーを組織すること。さらに別のいろんな現実や諸要求についても、別のいくつもの兆候が現れているが、それについてはさらに後で説明することにしたい。

ビデオクリック−上の週と下の週（略）

非公認の混信

チアパス、キンタナロー、ユカタン、カンペチェ、タバスコ、ベラクルス、オアハカ、プエブラ。この8州と通信、つまり別の通信というひとつの挑戦。
全国巡歴の最初の3分の1が終わった段階で出せる結論は次のとおりである。「すべてのメキシコはテルセルの支配下にある」という言い方は嘘である。スリム〔カルロス・スリム、メキシコ電話など数多くの多国籍企業の所有者〕は、人々を搾取者という罪以外にも、嘘つきの罪で投獄されねばならない。
挑戦のひとつは、別の通信のために戦っているすべての人たち相互の通信を獲得することである。技術は、｢別のキャンペーン｣の中ではっきり見えるネットワーク網を構築するための下の道を模索しなければならない。そこに、現在の、そしてこれからの課題がある。
代替的な通信メディアは、時代に応じて、｢別の｣という言葉を今あるチャンネルにつけ、維持することに甘んじてはならない。我々の考えでは、下の左側で成長しているこの｢別の存在｣を理解しあうためのメデイアや方法を持っていない別の人々を探さなけばならない。
少しずつではあるが、代替的な通信メデイアは次のことを理解している。EZLNの第6宣言委員会は単なる裏方で、｢別のキャンペーン｣の第1段階における原則的なことを何らかの形で手助けしていている支援部隊（第1段階ではデカ鼻でできの悪いユーモアの人物）でしかない。その原則とは、下の言葉を大きく成長させ、その言葉に耳を傾ける共同の耳を作りあげることである。しかし、より遠くの仲間たちも組み込んでいく知識や技術がまだまだ不足している。

（広範な批判のための）仮の結論

そろそろ夜明けが終わる。太陽の光が隙間から差し込みだし、我々は自分たちがまとっている暗い影に戻らなければならない。私の両手には、欲望の肌と彼女の髪の毛が巻き起こした感触がいまも残っている。唇には溜息がまだ残っている。視線とそれを包み込む雲が、自分たちに必要な光が不足していることを気づかせる。そうだ！それは、妄想の罠にほかならない。うたた寝の夢の中で、彼女の太腿は頬のあたりでうめき声をあげ、ベルトで締め付けられている。立ったままでの高まっていた欲望の喘ぎも終り、通り雨のあと、湿り気の中へ同時に転がりこんでいった。結局、自分自身に関して抱える負債ほど大きなものはありえない。そうだ！この雨に濡れてしまおう。その雨の中で渇きを癒し、彼女の切なる思いを高めてやりたい。
次のような確信とともに、夜が明ける。私の両手と唇で撮った写真に勝るものはない。喘ぎや呻き声の誕生という音声やビデオほどよいものもない。一体になった皮膚という演奏や絵画ほどよいものはない。我々の身体によるインタビューほどよいものはない。
別の通信？別の情報？別の芸術？別の文化？別のキャンペーン？こうした無意味なことを信じている馬鹿者とはいったい誰だ？
彼らが昼の扉を叩いている。影はブーツやさまざまな願望を結びつけている。我々は、歩き、耳を傾けつづけねばならない…。

別のトラスカラにて、
副司令マルコス、メキシコ、2006年2月

追伸−今年の2月15日、第6宣言と別のキャンペーンは、1036に達する政治、先住民、社会、非政府、支持グループや集団の参加を得ている。すべて下の左側の人たちである。彼らの声に代わるものはなく、国中を確固たる歩みで巡歴する彼らの歩みほど確実なものはない。我々はここにいる。我々は別の存在である。叛乱する尊厳、祖国において、今までは忘れられていた心である。

出典−La Jornada, 2006年2月20・21日