世界のジグソーパズルの七つのピース

ジグソーパズルのような新自由主義、国を断片化し、破壊する無意味な世界の統一

(1997･6･20)

　「戦争は国家にとって生死に係わる重要な問題である。戦争は生と死の領域であり、生き残りか、死滅へといたる道である。戦争を根底的に研究することは不可欠である」
　　−孫子『兵法』−

　現代の国際化、つまり世界システムとしての新自由主義は、新手の領土獲得戦争として理解されるべきである。
　第三次世界大戦、つまり「冷戦」の終了は、世界が二極支配構造を乗り越え、勝利者のヘゲモニーのもとで安定していることを意味するものではない。その戦争の終了時、敗北者（社会主義陣営）がいたことは疑う余地もない。しかし、勝利者はいったい誰だったのかを断言するのは難しい。西欧？アメリカ合州国？日本？それとも全員なのか？問題の核心は、「悪の帝国」（レーガンやサッチャーの言い草）の敗北は、新しい支配者のいない新しい市場の幕開けを意味していたということである。つまり、その幕開けは、新しい市場を占有し、新しい市場を獲得する戦いが開始したことを意味した。
　それだけではない。「冷戦」終了とともに、国際関係に新しい枠組みが導入された。その枠組みにおいて、新しい市場や領土をめぐる新しい戦いのなかから、新しい世界大戦、つまり第四次世界大戦が生み出されたのである。どの戦争でもあったように、国民国家を再定義することが余儀なくされた。それどころか、国民国家の再定義を越え、世界秩序はアメリカ、アフリカ、オセアニアの征服という古い時代に回帰してしまった。この奇妙な現代性は後向きに進み、この二十世紀の終末は、一部のＳＦ小説が描きだす穏やかで合理的な未来ではなく、それ以前の野蛮な数世紀のほうによく似ている。冷戦後の世界では、広大な領土、資源、とりわけ上質の労働力は新しい所有者の登場を待っていた。
　世界の所有者の座は一つだが、その座を目指すものは複数である。所有者の座を獲得するため、新たな戦争が仕掛けられている。しかも、今度の戦争は、「善の帝国」と自称した連中のあいだで繰り広げられる。
　第三次世界大戦は、資本主義と社会主義（それぞれ米国とソ連が指導権を握っていた）のあいだの戦争であり、次々と舞台を移しながら、さまざまな強度で行なわれていた。一方、今度の第四次世界大戦は、強大な金融センターのあいだの戦争で、あらゆる場所を舞台として、先鋭的かつ一定の強度で繰り広げられている。
　第二次世界大戦の終了から一九九二年までの間、世界全体で起きた戦争は一四九件である。その結果、死者の数は二三〇〇万人に達し、この第三次世界大戦の強度は相当なものであったことは疑う余地もない。
　国際的な諜報戦という地下墓地から戦略的防衛計画（カウボーイ気取りのロナルド・リーガンによる「銀河系戦争」）と名付けられた惑星空間、キューバのヒロン湾の砂浜からベトナムのメコン河デルタ、止まることのない核兵器による軍拡競争から痛ましいラテンアメリカ諸国における野蛮なクーデター、ＮＡＴＯ軍による嫌悪すべき作戦からチェ・ゲバラの殺害に関与したボリビア駐在のＣＩＡ諜報員などと、不適切な名称である「冷戦」はかなりの高温に達した。その結果、戦争の場所は絶えず変わり、核戦争の危機は絶えず上昇と下降を繰りかえしてきたが（むしろ、まさにそれゆえ）、世界システムとしての社会主義陣営は高温によりついに溶融され、社会的な代替物としても消滅してしまった。
　第三次世界大戦は、（あらゆる場所で、あらゆる形態で展開される）「全面戦争」は勝利者である資本主義にとって有利であるとことを証明した。しかし、戦後の舞台装置は、事実上、世界規模の作戦が展開する新しい舞台という枠組みを与えられていた。（東欧とソ連における政治、経済、社会の基盤の崩壊がもたらした）広大な「無主の土地」、拡張する巨大勢力（米国、西欧、日本）、世界的な経済危機と情報部門における技術革命が舞台装置である。「産業革命が筋肉を機械に置き換えることを可能にしたように、現在の情報通信革命は脳（脳の機能でますます重要になる一握りの機能を除いて）をコンピュータに置き換えることを目指している。このような（製造・サービス部門を問わず）生産手段の「総体的なコンピュータ化」は、遠距離通信に関する新しい研究の爆発的進展や電脳空間世界の増殖によってさらに加速化されている」（イグナシオ・ラモネー、「無秩序の惑星」、『混沌の地政学』特集、ル・モンド・ディプロマティーク、一九九七年四月号）
　資本の至高の王である金融資本は、新しい世界、そして古い世界に居座っているものの上で、独自の戦争戦略を推進しだした。コンピュータによって、世界全体を自分の事務所に取込み、自由裁量で動かすという技術革命を武器にして、金融市場は地球全体に独自の法律と掟を押しつけた。新しい戦争の「国際化」とは、金融市場の論理が国際化にほかならない。国民国家（とその政府）は、経済の統括者から、市場における自由交換という金融権力の原理によって、管理、より正確には遠隔管理される存在になった。それだけではなく、市場の論理は、世界の社会的分野の全域で遠隔地通信の発展を誘発した「多孔性」に付け込み、社会活動のあらゆる側面に浸透し、それを自分の領域に取込んでしまった。ついに、完全に全面的な世界大戦が始まったのである！
　この戦争における最初の敗北者のひとりは、国内市場である。防弾加工された部屋で発射された銃弾のように、新自由主義が始めた戦争は、あちこち跳ね返ったあげく、銃弾を発射した者を傷つける。国際的な金融経済という新時代からの十字砲火を浴びて、現代の資本主義国家の権力の基本的基盤のひとつである国内市場は清算されてしまった。国際資本主義は自分の犠牲者から何かを奪い取り、民族資本を弱体化させ、公的権力を栄養失調になるまで痩せ細らせる。その打撃はきわめて強烈で決定的であり、国民国家は市民や政府の権益を侵害する国際市場の動きにに対抗するために必要となる力をもっていない。
　「新しい世界秩序」という、「冷戦」終了から引き継いだと思われる入念に飾り付けられたショーウインドーは、新自由主義の爆発によって粉々にされてしまった。世界資本主義は、一かけらの慈悲もなく、世界資本主義の未来と歴史的な方向性を指し示した民族資本主義を犠牲にする。企業や国家は、プロレタリア革命という暴風ではなく、金融というハリケーンの大時化によって、あっという間に崩壊してしまった。こども（新自由主義）が親（民族資本主義）を飲み込み、ついでに資本主義イデオロギーの欺瞞的な議論のすべてを破壊してしまった。新しい世界秩序には、民主主義、自由、平等、友愛などない。
　「冷戦」終了の結果、出来上がった世界の舞台装置のなかでは、新しい戦場だけが識別され、そこを支配するのは、すべての戦場と同じように、混沌である。
　「冷戦」の末期に、資本主義は、中性子爆弾という新しい戦慄の武器を作り出した。この武器の「長所」は、生命だけを破壊し、構造物は破壊しないということである。都市全体（つまり、その住民）を破壊できるが、都市を再建する（そのための経費を支出しなくてもよい）必要はない。兵器産業は自画自賛し、原子爆弾の「非合理性」は、中性子爆弾の新しい「合理性」に取って代られた。しかし、ひとつの新しい「驚異的な」兵器が第四次世界大戦の誕生とともに発見されるだろう。それは金融爆弾である。
　なぜなら、新自由主義の新しい爆弾は、広島や長崎に投下された原子爆弾と違って、中心都市（この場合は国）を破壊するとともに、そこに居住する人々に対して、死、テロ、貧困を押しつける。また、中性子爆弾とも違って、「選択的に」破壊する。さらに、新自由主義は、攻撃するものを再組織し、再整理するとともに、それを経済の国際化というジグソーパズルのなかの一ピースとして作り直す。新自由主義の破壊的な帰結として、煙の立ち昇る数多くの廃墟とか、活力を失った数万もの生命だけが誕生するわけではない。新しい超特大の市場を有する巨大な商業中心都市のいくつかに隣接するスラム地区、そして新しい世界規模の労働市場に再編された労働力も誕生する。
　新自由主義が創りだしたメガロポリスのひとつである欧州連合は、現在の第四次世界大戦の成果のひとつである。

　描き、色を塗り、切り取り、その他のピースと一緒に世界のジグソーパズルを組み立てるための七つのピース。
　第一のピースは世界社会の両極に富と貧困が二重に集積されていることである。次のピースは世界全域からの全面的な搾取である。第三のピースは人類の彷徨える人々が曝されている悪夢である。第四のピースは犯罪と権力の吐き気を催させる関係である。第五のピースは国家による暴力である。第六のピースは巨大政治のミステリーである。第七のピースは新自由主義に反対する人類の抵抗という多様な形態をした袋である。

　第一ピース ： 富の集中と貧困の分配−第一図はお金のマークで描かれている。

　九十年代初頭には・・・「三万七千ほどの多国籍企業が、十七万の系列企業とともに、国際経済をその触手のなかに囲い込んでいた。しかし、権力の中心は上位の二百企業というさらに限定された範囲にある。八十年代初頭以降、他企業を「救済」するという名目の合併や買収によって、上位企業は絶えず拡張してきた。こうして、多国籍資本が世界の総生産額に占める比率は、六十年代半ばの一七％から、一九八二年には二四％、一九九五年には三十％と増大した。上位の二百企業は複合企業である。その世界規模の活動は、大規模農業開発、工場生産、金融サービス、貿易など、第一次・第二次・第三次産業のすべてを分け隔てなく覆っている。地理的にみると、上位の二百社は十ヵ国に分布している。つまり、日本−六十二、米国−五十三、ドイツ−二十三、フランス−十九、英国−十一、スイス−八、韓国−六、イタリア−五、オランダ−四」（フレデリック・クレマン、前掲論文）

　世界の「上位二百企業」

　　出典：フェデリック・クレマン、前掲論文　

　第二ピース ： 搾取の国際化−第二図は三角形が描かれている。

　一九六〇年代や一九七〇年代には、貧困とみなされた人口（世界銀行の基準では、基本的要求の解決に必要とされる一日一ドルの収入がない人）はほぼ二億人だった。しかし、九十年代の初頭にはすでに二十億人に達していた。おまけに・・・「地球のもっとも主要な二百の企業の総計は、世界の経済活動の四分の一以上に達している。しかし、この上位二百の企業が雇用している給与生活者は一八八〇万人でしかない。つまり、地球の労働人口のわずか〇・七五％に及んでいない」（イグナシオ・ラモネー、ル・モ・ディプロマティーク、一九九七年一月号）
　貧しい人間が増加し、
　世界の経済活動人口は、一九六〇年の一三億七六〇〇万人から、一九九〇年には二三億七四〇〇万人に増加している。労働、つまり富を生産する能力のある人間は増えている。　しかし、「新しい世界秩序」

　世界の経済活動の就労人口はこの二〇年間で本質的な変化をきたしている。農業・漁業部門の就労人口比率は、一九七〇年の二二％が、一九九〇年には一二％に減っている。製造業部門では、一九七〇年の二五％が、一九九〇年には二二％となっている。しかし、第三次産業（商業、運輸、銀行、サービス）では、一九七〇年の四二％が、一九九〇年には五六％に増加している。低開発諸国に関しては、第三次産業人口は、一九七〇年の四〇％が、一九九〇年の五七％に増加している。その一方、農業・漁業の就労人口は、一九七〇年の三〇％が、一九九〇年には一五％に低下している。（フアニータ・デル・ピラール・オチョア・チ、「現代資本主義の国際労働力市場」『経済学』、ＵＮＡＭ、一九九七年）　このことが意味するのは、

　新自由主義の「近代性」は、ユートピア的な「合理性」よりは、世界システムとしての資本主義の荒々しい誕生によく似ている。

　新自由主義の獣性は、食料の基準まで同質化しながら、世界の社会的な分野全体に浸透している。「世界的にみれば、各地域の食料消費に特異性があることははっきりと観察できる。（各地域の内部で）だからといって、さまざまな地区の形質的・文化差異の上にまで押しつけられている同質化の過程が見えなくなるわけではない」（ナシュリイ・オカンポ・フィゲロア、ゴンサロ・フローレス・モンドラゴン、「生存手段の世界市場、一九六〇〜九〇年」『経済学』、ＵＮＡＭ、一九九四年）
　この獣性は人類に重荷を押しつけている。世界全体でみられる数百万人もの労働者の失業や不安定な生活は、緩和する気配すら見せない深刻な現実となっている。ＯＥＣＤ加盟国の失業率は、一九六六年の三・八％が、一九九〇年には六・三％になっている。ヨーロッパに限定しても、一九六〇年の二・二％が、一九九〇年の六・四％になっている。
　市場の法律を世界全体に押しつけることによって、国際化した市場が出現し、中小の企業は育成されず、破壊されてきた。地方や地域の市場が消滅すれば、中小の生産者はひとつの保護もなくなり、巨大な多国籍企業と競争する可能性を完全に失ってしまう。
　その結果、数多くの企業が倒産し、当然ながら、数百万の労働者が失業する。

　第三ピース　：　移民、彷徨える悪夢−第三図は円が描かれている。

　第四ピース ： 金融の世界化と腐敗や犯罪の国際化−第四図は長方形が描かれている。

　第五ピース ： 不当な権力が行使する正当な暴力−第五図は五角形が描かれている。

　第六ピース ： 巨大な政治と小人−第六図は殴り書きが描かれている。

　第七ピース ： 抵抗の袋−第七図には袋の形が描かれている。

　「まず始めに、抵抗を政治的反対派と混同しないよう、君にお願いしたい。反対派は権力ではなく、特定の政府に反対するのである。それが完全に達成された形態は野党という形態である。しかし、その定義からして（いまこそ）、抵抗は特定の政党となることはありえない。抵抗は、統治するためではなく・・・抵抗するために行なわれている」
　　−トマス・セゴビア 『寓話』 メヒコ、一九九六年。

　新自由主義のジグソーパズルにまだ多くのピースがあることは疑う余地もない。たとえば、通信メディア、文化、環境汚染、世界規模の疫病などである。われわれはこの論文でそれらのピースのほんの七つの容貌を例示しようとしたにすぎない。
　この七つのピースでも十分だろう。それを描き、色を塗り、切り取った後、あなたはそれらのピースを組み立てることが不可能であると気がついた。そして、それこそまさに国際化が再編成しようとした世界の問題である。各ピースはピッタリとは填らない。
　以上の理由、そして論文で論じなかった他のいくつもの理由から、新しい世界を構築することが必要となってくる。その世界は、多くの世界、あらゆる世界が入る世界である。

　　メヒコ南東部の山中より
　　反乱副司令官マルコス
　　ＥＺＬＮ、
　　メヒコ、一九九七年六月

　追伸 ： 愛が巣を作る夢について話そう。

　私の傍らには湖が横たわっている。ずっと前から、苦悩、躊躇、そして少なからぬ夢を共有してきたが、今は密林の暑い夜を私と一緒に寝ている。夢のなかで、私は彼女の騒ぎ立つ水流を見ていた。私の傍らに、いつもどおり、ほんのりと暖かく瑞々しい湖の姿があるのを見出だして、私は再び感心する。息苦しさのため私はベッドから抜け出し、・・・何年も前にしたように、老アントニオを現在に連れ出そうと、私はペンを手にした。
　川の下流の探索に同行してくれるように、私は老アントニオに頼んだ。われわれは食料としてほんの小量のポソーレしかもっていかなかった。何時間ものあいだ気ままな流れを下っているうちに、空腹と暑さがしだいに募ってきた。午後はずっとイノシシの群れの後を辿ることになった。夕方にやっとイノシシの群れに追いついた。しかし、一匹の巨大な雄（野生の豚）が群れから離れ、われわれに襲いかかった。私はありったけの軍事知識を引き合いに出して、自分の銃を放り出し、一番近くの木によじ登った。老アントニオはイノシシの攻撃にまったくの無防備であった。しかし、逃げることなく、ツルが繁茂する薮に身を隠した。巨大なイノシシは正面から全力で攻撃してきたが、ツルやトゲに絡めとられてしまった。イノシシが薮から脱出する前に、老アントニオは手持ちの古いチンバ［アーモンド等の粉をシロップで固めた携帯食料］を取り出し、頭に投げつけた。それによって、その日の夕食の問題は解決した。
　私が自分の近代的な自動小銃（口径五・五六ミリメートルのＭ一六銃、発射速度セレクター付き、実効射程距離四六十メートル、照準スコープに脚付き、九十発の「弾倉」カートリッジ装備）の手入れを終わった頃には、もう明け方近くなっていた。実際に起きたことを何もかも省いて、私は野戦日記に次のことにだけメモした。「われわれはイノシシと出くわした。アントニオが一匹仕留める。海抜三五〇メートル。雨は降らず」
　肉が煮えるのを待っているあいだ、私に割当てられる肉はキャンプ地で準備されているお祭りに供されるだろうと老アントニオに話した。彼は火をかきたてながら、「お祭りだって？」と尋ねた。「そうだよ。何月かなんてはどうでもいいよ。いつでも何か祝うことがある」と、私は返答した。さらに、私の推測したことは歴史的な暦とサパティスタの祝賀行事に関するすばらしい推論であると、付け加えた。黙ったまま、老アントニオは聞いていた。しかし、彼に興味がないことが判明したので、私は眠るために横になった。
　夢のなかで、私は、老アントニオが私のノートを取出し、何か書いているのを見た。翌朝になり、朝食の後、われわれは肉を分配し、それぞれ帰途に就いた。自分のキャンプに戻り、私は司令官に報告し、実際に起きたことを知ってもらうため、彼に野帳を見せた。司令官はノートのある頁を私に見せながら、「これはおまえの字じゃないな」と言った。前日、私がメモした文章の後に、老アントニオは大きな文字で次のように書いていた。
　「理性と力の両方を手にできないなら、おまえは理性の方を選ぶのだ。力は敵にくれてやれ。力は数多くの戦闘で勝利を収めるだろう。しかし、闘争全体で勝利するのは理性である。権力者は力から理性を取り出せないが、われわれは理性から力を獲得できる」
　そして最下段にとても小さな文字が書いてあった。「お祭りを楽しもう」
　理由など言うまでもなく、私の空腹はどこかに消えていた。いつもどおり、お祭りはとても陽気なものだった。幸いなことに、「赤い髪飾りのお祭り」は・・・サパティスタの「ヒットパレード」のチャートにはまだまだ載りそうもなかった。

　　　出典：Le Monde Diplomatique, No.1, nueva epoca,1997/6/20