人類のため、新自由主義に反対する大陸間集会にむけたアメリカ準備集会開会式でのＥＺＬＮのメッセージ
アメリカのラ・レアリダーにて
一九九六年四月四日
ある日、一九九四年一月以来のサパティスタ蜂起を取材していた記者でビデオ記録者でもあるハビエル・エロリアガ・ベルデゲ［現在はサパティスタ民族解放戦線FZLNの代表］は、紛争の政治的、平和的解決の道を模索するためボランティアとして役立ちたいと願い出てきた。私は彼の言葉に耳を傾けた。彼は平和を愛し、戦争に反対する論拠を私に説明した。その時、彼は自分の言葉に信念をもつ人物、つまり自分の理念を貫徹させる人物であると、私は感じた。われわれには何も失うものがないから、試してもらっても構わないと、彼に答えた。一九九四年九月一六日のメヒコ独立記念日に、エルネスト・セディージョ・ポンセ・デ・レオン氏から一連の書簡の第一便が届いた。当時の内務大臣エステバン・モクテスマ・バラガンのメッセージを携え、ハビエルは行き来していた。和平の使者としての仕事は六ヵ月間ほど続いた。私が最後に彼と会ったのは、一九九五年の二月八日だった。対話への意志を窺わせる徴候をわれわれは政府側に見いだせないと、私は彼に伝えた。彼は平和のための新しい会合を追求するよう強調した。
ラカンドンの密林を出た一九九五年二月九日午前、ハビエル・エロリアガは逮捕され、「テロ行為」の嫌疑で告発された。政府はラカンドンの密林の先住民共同体に対する攻勢を開始し、国内各地で数十人のメヒコ人を逮捕した。彼らを「テロ行為」で告発し、紙の爆弾［ビラ］や時代遅れの武器といった「恐るべき」武器庫を証拠として公開した。「民族の主権」を取り戻したと政府が新聞で自画自賛している最中、ラカンドンの密林ではスイス製の飛行機が共同体の周辺に爆弾を投下し、米国製ヘリコプターが山を機銃掃射し、フランス製戦車は山に避難した先住民の家を占拠し、スペイン警察は容疑者を尋問した。米国軍事顧問は軍事的に危険な武器を含む可能性のあるひとつの装置を慎重に点検していた。この装置は米国国防省に送られ、最新鋭の軍事技術で調査された。数日後、専門家はワシントンに報告書を送り、さらにメヒコ軍、政治警察や国立宮殿のオフィスまで転送された。報告書によると、法律違反者から分捕った問題の装置はプラスチックと金属でできたおもちゃの自動車の外見をしていたという。さらに「この自動車はエリベルトのもの」というおそらく黒ペンで書かれた小さな文字があったことを報告書は述べている。
それからもう四二〇日が過ぎた。セディージョ氏はメヒコ大統領の椅子に座り、エリベルトは山中で生活し、彼の家には軍隊が居座り、ハビエル・エロリアガと十七名のメヒコ人は「テロ行為」の容疑で監獄にいる。十七人のなかの一人、ホエル・マルティネスは拷問されたために呼吸器系の問題を抱えている。彼の症状があまりにも深刻なため、彼は入院したばかりである。まるで狂暴な動物であるかのように、そして尊厳は鎖に縛りつけておくことができるかのように、今でも彼の手足には鎖が付けられている。
テロリストは誰であるかが事実によって確認された時から四二〇日経った今日、われわれは以上の言葉を捧げたいと思う。
受け取ってください。
ハビエル・エロリアガ・ベルデゲさんに、
ならびに、彼を通じ、サパティスタの嫌疑を受けているすべての収監者に。
自らの未来を築く過程で、看守どもが妄想するよりずっと多くのものが築かれている。
私の口からＥＺＬＮの考えを述べる。
アメリカの兄弟姉妹の皆さん。ラ・レアリダーにようこそ。
自分たちの共同体でこの準備集会を開催することを認め、集会の実現にむけてわれわれを支援してくれたラ・レアリダーの男性、女性、こどもや老人に特別の感謝の念を表明したい。皆さんにも、われわれと一緒にラ・レアリダーの先住民の仲間に挨拶を送るようお願いしたい。
カナダ、アメリカ合州国、メヒコ、グアテマラ、コスタリカ、ベネズエラ、プエルトリコ、エクアドル、ブラジル、ペルー、チリ、ウルグアイ、アルゼンチンの代表団の仲間の皆さん、ようこそ。フランス、ドイツ、スペインのオブザーバーの方々、ようこそ。 組織委員会のメヒコ人の仲間の皆さん、ようこそ。今日こうして結実した皆さんの努力に対して、われわれは感謝し、挨拶の言葉を送る。
この準備集会への招待状を受理し、それぞれの国からラカンドンの密林までの長旅を厭わず参加されたすべての皆さんに、われわれは感謝したい。
法律違反者を庇護し、アメリカの尊厳を守る一隅であるラカンドンの密林には、すでに皆さんの国の政府から各種の代表がやってきている。われわれを訪問したのは、爆撃機、機銃を備えたヘリコプター、戦車、スパイ衛星、軍事顧問、そしていろんな国の諜報機関に属する秘密・半公然の要員である。この訪問者全員に共通する目的は、殺戮と略奪である。世界のいろんな政府が、われわれと戦うメヒコ政府と結託してきた。近代的で洗練された戦争兵器の矛先は、知識、言葉、真実が宿る場所は心であると、恥も恐れもなく宣言しているサパティスタの木製銃、裸足、先祖伝来の思想に向けられる。近代的な死の技術に対抗するのは先祖伝来の生命である。新自由主義に対抗するのは新サパタ主義である。なぜ、われわれを恐れるのか？かくも少なく、小さき存在になぜこんな多くの死が必要なのか？われわれが挑戦してきたからであり、不都合なことにその挑戦が模範となっているからである。
一九一一年四月三日、リカルド・フローレス・マゴンとエンリケ・フローレス・マゴンというアメリカの市民は次のように書いた。「同志よ。よく考えろ。前進せよ。活動するのだ。君の助けの到着が遅くなり、時機を逸してはならない。危機を認識してほしい。その危機のもと、われわれは全世界の政府と対決しなければならない。世界の政府はメヒコの運動に社会革命の登場を見ている。それは世界の権力者が恐れる唯一のものである」
八十五年後の現在、歴史は繰り返す。以前、病気や貧困という形でわれわれを訪れていた死は、現在ではそれに加えて、迷彩服、銃弾や武器とともにやってくる。これらの徴候は死を予告する。真の意味での多国籍軍が、われわれを迫害し、われわれが示した模範を破壊しようともくろむ。世界の権力者はわれわれの存在を苛立たしく思ているが、連中の脅迫はわれわれの栄誉にほかならない。連中はサパティスタの挑戦が世界規模だと言っている。われわれはそんなことを企てたり、夢想したことはない。しかし、そのような役割を割り当てられることは力量を越えたもので、われわれはきわめて居心地が悪い。
世界システムにより、犯罪がメヒコを統治できるのである。メヒコの国家体制により、犯罪がチアパスを支配できるのである。メヒコ南東部の山中で戦いながら、われわれはメヒコのため、人類のため、新自由主義に反対する戦いを展開している。だからこそ、世界の権力者は、われわれを迫害し、投獄し、殺害し、われわれを破壊しようとする。
この予告された死を目撃してきた後、生命のために戦う人、アメリカ大陸で人間性を求めて戦っている皆さんの訪問を受けるのはわれわれにとって大変名誉なことである。
ラ・レアリダーへの旅は困難を極めるものだったと思う。ラ・レアリダーそのものも容易ではなかった。しかし、この地に来るだけの価値はある。ラ・レアリダーへの旅は、苦痛への道程であると同時に、希望への道程である。
今日、アメリカの諸民族の多様な考えが、ラ・レアリダーで出会っている。民族性、肌の色、性別、文化、言語を問われることなく、呼び掛けに応じて集まっている。われわれを呼び集めたのは戦いである。人類のため、新自由主義に反対する戦いである。
八十年前の一九一六年、新しい現実が構築できれば生命や思想は自由になれると、エミリアーノ・サパタ将軍は夢見ていた。権力者は彼の夢を破壊することを夢見ていた。
現在、さまざまな計画、複雑な軍事作戦や七七種類にも及ぶ襲撃が、メヒコや合州国の権勢を誇る将軍の書斎で練られている。エミリアーノ・サパタの暗殺されてからの年数と同じくらいの数の陰謀である。その計画のすべてがラ・レアリダーの破壊を目的としている。
どうして？ラ・レアリダーに人間らしい存在、つまり尊厳が生きていることが発覚したからである。権力は人間らしい存在が生きることに寛容ではない。
これが、われわれに敵対し、われわれを迫害し、殺し、投獄し、暴行し、屈従させる敵である。ラ・レアリダーの破壊という愚行を企てる権力である。
これが連中が企てていることである。権力を握り犯罪や財産を集中する連中は、似た連中をシャム双生児とし、人の力を使って人から奪っていく。権力を握り明日を独占している連中は、共犯者や犠牲者にならない者たち全員を排除すると通告する。権力を握っているため、権力を集積していることを忘却している連中は、恐怖を集積することになる。
連中はラ・レアリダーを破壊したい。なぜなら、現在、ラ・レアリダーに人間らしい存在がいるからだ。人間らしい存在がいるだけで、模範となりうる挑戦となるからだ。
われわれの誰もが希望という苦渋に満ちたパンで心と言葉を養っている。われわれは過去に障害ではなく教訓を見いだし、後悔ではなく理解するために過去を振り返る。われわれは未来を現在に構築されているものとして見つめる。われわれは全員と一緒になってひとつの明日を待ち望む。われわれは恐怖と恥辱、慎重さと勇気、無関心と記憶との釣り合いを保つ。われわれは実在する人間である。つまり権力に挑戦する人間である。われわれはラ・レアリダーを改変したい。もっと優れたもの、新しいもの、良いものにしたい。
これがラ・レアリダーをめぐる論争である。破壊しようとする者と構築しようとする者がいる。
前者は、忘却、破壊、死という暴力でラ・レアリダーを否定しようという愚行である。 われわれの側は、歴史、創造性、生命という力でラ・レアリダーを新たに構築しようとする愚行である。
これが、われわれが考え、決めようとしたジレンマである。ラ・レアリダーのジレンマである。人間性を求め、新自由主義に反対する上で、基本となる決定的なテーマである。ラ・レアリダーのジレンマは、それを変容させるのか、破壊するのかということである。 このジレンマを解決するため、新自由主義という鎧をまとった権力というきわめて強力な敵とわれわれは対決すべきである。彼らの犯す犯罪は国境を無視し、絶望の国際化を体現する。新自由主義は新しい世界教義を提示する。唯一取り込まれるのは、屈伏と無関心であり、排除された者、すなわち多数者に残される唯一の未来は、死と忘却である。 世界諸国の政府は愚かさや傲慢と同義語である。犯罪と免責特権が最高の法律である。強盗と腐敗が主要産業である。暗殺が正統性の拠り所となっている。嘘偽りが至高神である。共犯者とならない者には牢獄や墓が用意される。死のインターナショナル。絶えることのない戦争。それが新自由主義である。
しかし、彼らの権力を支えているのは、われわれの落ち度でもある。われわれの側に代替案が欠落しているため、彼らは悪夢を継続させるのである。
われわれは嘆息するのではなく、新しい道を提起すべきである。
不平を集めるために招待したのではない。われわれの不幸を増大するために呼び掛けたのではない。われわれの悪夢を大陸規模にするために会議を召集したのではない。
熱望を増殖していくために招待したのである。苦しみを軽減するために呼び掛けたのである。希望を大陸規模にするために会議を召集したのである。
われわれが対決している敵の怪奇で狂暴なイメージで、われわれの独自の歩みを理解するために必要な鏡が曇らないようにすべきである。歴史、民族、個人を粉々に粉砕するという世界システムが日常的に犯している犯罪に紛れ、不注意や独断がわれわれ自身のなかに忍び込まないようにすべきである。
われわれは別の商標の新しい悪夢を提供するのではない。中心や先端が無限に増殖し、ますます錯綜する政治勢力図のなかの位置が、思想面での教義の過ちや交替に責任を転嫁してはならない。
世界を変革するため、われわれはここに集っているのではない。もっと慎ましい目的のためにここで出会っている。新しい世界を創るために集まっている。
われわれは、今日、ここアメリカにいる。伝説の大陸。アメリカ大陸は世界のすべての血が集い合う大地の一片である。
大地のない人民、すむべき町のない人民、すなわちアメリカの移住者は、上(北)であれ下(南)であれ、国境を気にせず、どこの土地でもいいから、平和裡に尊厳をもって働き、生きることを夢見る。しかし、移住者はアメリカの大地で仕事にも生命にも出会わなかった。何も奪わず、すべてを与えるこの土地において彼らが出会ったのは戦争と屈従だけだった。アメリカの移住者はアメリカの部外者である。アメリカ人が外国人排除という悪夢へ突入するには、国境を越えなくても、ほんの一瞬であれ、文化、政治、人種、宗教、性的をめぐって数多くある境界のどれかを横断するだけで十分である。この境界はアメリカの空を粉々にし、集団的思考は一人以上を含むということさえを否定する。アメリカの移住者とは、何かを探しつづける何百万人もの人間で構成されており、それは偉大なる孤独な存在である。アメリカの移住者とは、永遠なる闘争を続ける存在であり伝説である。
ともかく、書籍、新聞、テレビ、ラジオがないため、ある伝説がバラードとなって生き延びている。「リンチャー」に追跡されるが、決して捕まらないグレゴリオ・コルテスの伝説は、忘却の淵に追い詰められるが、つねに脱出し、集団的な記憶となる歴史の伝説でもある。ラ・レアリダーの地に届いたこの伝説は、アメリカの大地に足を踏み入れ、固有の文化を捨てることなく新しい文化の一部になろうと試みるすべての移住者を体現する。 伝説と同じように、権力は、それまでの自分を否定し、新しいがどこか異なるものを築こうとする移住者を迫害する。それは、過去や現在を破壊するものではなく、北米の未来のなかでひとつの位置を占めることができるものである。その未来とは尊厳ある未来であり、牢獄の鉄柵や墓場の墓銘碑しか見えない未来ではない。グレゴリオ・コルテスのバラードのように、アメリカの移住者はつねに脱出し、集団的記憶を構築しつづけるだろう。それを破壊するため、アメリカ全域で権力は牙を剥いてくる。とりわけ・・・
アメリカ大陸を実験場として展開している巨大な矛盾を体現する国。世界中からの移住者の努力で建設された国、アメリカ合州国は権力と近代のシンボルとして聳えたつ。北米の大地に自分の警備隊を抱えてきた権力の傲慢によって、米国の外交政策が世界的に拒絶され、米国の高貴な人民の心も少なからず汚染されてしまう結果をもたらた。しかし、この権力の傲慢は、アメリカ合州国の人民に対して高い経費を押しつけることで初めて可能となる。いまや世界の経済体制そのものとなっている危機、すなわち新自由主義は、リオ・ブラボの北側で、ラテン系、アジア系、黒人などいわゆる少数者だけでなく、白人からも、割り高の苦痛を取り立てている。経済協力開発機構の統計によると、アメリカ合州国では経済活動従事者の五・七％が失業し、カナダでは失業率は九・五％となっている。
アメリカ合州国の人民のなかで、イギリス、アイルランド、スペイン、メヒコ、ヨーロッパ、アフリカ、アジア、ラテンアメリカ、ならびに先住民、つねにアメリカ人だった人の血が複雑に混じりあう。アメリカ合州国の人民は、連帯が必要な時は忘れられ、要求が必要な時は思い出される偉大な存在である。アメリカ合州国の人民は、自国政府の意向にかかわらず、いつ下を眺め、そこにいる犠牲者でないなかまと出会うかを知っている。
犠牲者や死刑執行人として出会うのではない。今日、われわれのなかまとして、尊厳をもってラ・レアリダーに代表を送り込んでいるアメリカ合州国の人民に挨拶を送りたい。 アメリカの仲間のの皆さん。
今日、ここラ・レアリダーの地で、記憶、歴史、われわれの過去を思い出させ、われわれの現状を呈示し、われわれの可能性を約束してくれるこの鏡を垣間見ることにしよう。 三十年前に戻ろう。一九六六年のことである。どこか特定の場所にいたことのない一人の男が、アメリカに生命を蘇らすため、記憶と希望を用意していた。その時、彼の戦場での名前はラモンだった。アメリカのラ・レアリダーの数ある片隅の一つで、その男は思い出していた。アメリカの生命のために生き、死んでいったあらゆる男性と女性が、彼の記憶のなかで再び生命を取り戻していった。彼の名前や思い出は歴史に繰り返し登場する墓掘り人によって埋葬されてしまった。ある者には、彼の名はエルネストで、姓はゲバラ・デ・セルナであった。われわれにとっては、昔も今もエル・チェである。
チェはプンタ・デ・エステ会議において権力の政策を非難した。権力は世界銀行の事務室から、アメリカ諸国が直面する深刻な貧困を解決するための方策として便所を建設することを提起したからである。それ以来、アメリカの資源が金持ちによって略奪されるのと歩調を合わせて、アメリカの貧困化は進行していった。「便所体制」も名前だけは進化していった。アメリカ諸国のある国［メヒコ］では、「連帯」という逆説的な言葉が採用された。しかし、名前だけは幻のように変わるが、「便所体制」の機能は変わらない。今も昔のように、貧しい人は便器の底に押し込まれ、便座に腰掛けるのは金持ちである。
チェの権力批判は、権力固有の弱点を保証したり、システムの弁明に終わるものではなかった。新しい名前を冠してはいるが、権力と同じ論理で権力に反論することを批判し、彼は一九六四年に次のように書いている。「このテーマを終わらせるつもりはない。ましてや、あれこれの諸矛盾に法王のようにアーメンという言葉を投げ掛けるつもりなどさらさらない。残念ながら、システムに関する科学的分析よりは、システムの弁明のほうが多くなされているように、われわれ人民の大多数の眼、そして私の眼には写っている」
世界の市民であるチェは、われわれがスパルタカスの時代から知っていながら、しばしば忘れてしまっていたことを記憶していた。不正に対する闘争のなかで、人類は、人間性を高め、人類をより優れたものにし、より人間らしく変える梯子を発見するのである。
やがて、記憶と希望を抱き、彼は別離の手紙を書いた。「ある日のこと、死んだ場合には誰に連絡すべきかを尋ねあった。死の可能性が現実のものであることが分かり、われわれ全員は打ちのめされた。しかし、(真実のものなら)革命には勝利か死かしかない。それが当然であるとわれわれは悟った。・・・世界の他の場所でも、私のようなささやかな努力が同時発生することを求めている」こう言い残して、チェは自分の道を歩んだ。
別れを告げる際、「また、後で」という代わりに、「また、すぐ会おう」とでも言うように、チェは「永遠なる勝利の時まで」と言った。
三十年後、月が決まった時期に奪いとられる光を僅かばかり取り戻し、夜の始めにはは投光器の格好をした彗星が空を掛け廻った夜が明ける頃、私はこの集会の開会の言葉として使えそうないくつかのテクストを探した。
私はパブロ・ネルーダからフリオ・コルタサール、ウォルト・ホィットマンからフアン・ルルフォへと思いを廻らした。しかし、無駄だった。ラ・イゲラの学校で夢見ているチェの姿が、何度も私の両手に位置を占めることを要求してきた。歩んだ道を語り、歩むはずの道を約束している彼の半開きの眼と皮肉ぽい微笑みがボリビアから届いたのである。 私は「夢見ている」と言ったのか？「死んだ」と言うべきだったか？一部の者にとっては、彼は死んでおり、別の者にとっては、彼は眠っているだけである。どちらが間違っているのか。
チェがアメリカの現実を変容を準備し、権力がその破壊を準備したのは、三十年前のことである。二十九年前、権力はわれわれに向かって言った。歴史はユロ渓谷で終わった。より優れた別の現実の可能性は潰されたと言った。反乱はもう終わったと言った。
終わっただって？
この数日間の新聞をさっとめくれれば、われわれはすぐ答えられる。
アメリカ大陸全域を席巻する現在の経済政策、民営化政策に対して、三月下旬だけでもさまざまな示威行動が展開されたことが報告されている。新自由主義は抵抗と反乱に直面している。歴史、それと一緒に尊厳が終わったことを認めない人は何百万といる。
三月二十八日、国際通信社ＡＦＰ、ＤＰＡ、ＥＦＥ、ＡＮＳＡは、ボリビアのラパス、コチャバンバ、サンタクルスで、賃上げ要求とボリビア油槽公庫の民営化計画反対を訴えて、何千人もがデモしたと伝えている。コチャバンバでは、ハンスト中の二五〇人を警察が逮捕した。その大部分は同じ目的を掲げて抗議をしていた老人だった。反乱する老人たちである。アメリカ、ばんざい！
同じ日、パラグアイの労働者は、三十一％の賃上げを要求してゼネストを始め、民営化に関する国民投票を呼び掛けた。経済や教育方法の強制に対して、意志決定の民主化を対置する。この日と前後して、フェルナンド・エンリッケ・カルドソ大統領の教育政策に反対するブラジルの学生五千名以上が警察によって弾圧された。
チリでは、八十万人の農民の失業に繋がるおそれのある南部共同市場(Mercosur)への加盟を急ぐことに抗議して、何千もの農業従事者が国の南部で道路封鎖を決行した。ベネズエラでは、実施が間近に迫っている緊縮経済政策に対して、すでに「片手鍋」運動が始まり、社会の不満はますます高まっている。経済の国際化、近代的な犯罪は、売り付けられる死を購入するはずの顧客からの抵抗に直面している。
何百名もの露店商が、リマ市の歴史的中心地区から彼らを排除しようとする警察と衝突した。二十名以上が負傷した。アメリカの貧しい人たちの一部は、犯罪に手を染めるのがいやで、零細な商業取引をやってきた。しかし、彼らの試みは徒労に帰している。新自由主義にとり、強奪や略奪によらない収入は「不法」なものなのである。アメリカでは、牢獄は無実の者で溢れかえり、有罪者は政府の椅子に座っている。
暴徒弾圧の警察部隊は、サンタアナ市にゴミ投棄場を建設することに反対する何千ものコスタリカ人を弾圧した。一方、コスタリカの人民に一日何千トンもの廃棄物を投棄しても、新自由主義は処罰されないだろう。
アメリカの大地の内奥からも抗議が沸き起こっている。付加価値税率の緊急引き上げの告知と同時に、マグニチュード五・七の地震がエクアドルのキト市を襲った。
これらはたった二日間の出来事でしかない。あれから三十年後のことである。反乱精神は潰えたのか。
変革され、新しく優れた現実をチェが繰り返し夢想してから、既に三十年が経った。反乱の夢。この夢は、時を越え、山を駈け巡り、そしてメヒコ南東部の山中で、同じだがが異なった形で、新たに繰り返された。チェ・ゲバラの夢がシモン・ボリバルやマヌエリータ・サエンスを同じように眠れなくした夢と断絶し連続していた。それと同じように、今日われわれを召集している夢は、チェ・ゲバラの夢と断絶し連続している。一八一六年、シモン・ボリバルとマヌエリータ・サエンスは統一アメリカの実現という熱望で眠れなかった。権力がわれわれに売りつけている歴史の教えによると、コロンビア、ベネズエラ、エクアドル、ペルー、ボリビアを解放した実り豊かな努力も、数年後、国境が作られて挫折し、ボリバルの夢は国境という壁によってばらばらになってしまったという。挫折しただって？一八二六年、ボリバルは、第一回アメリカ大陸会議、つまりパナマ会議を思いついた。一七〇年後の今日、アメリカのラ・レアリダーの地で、ボリバルの提案した夢が再び歩みはじめる。
ガラスと鏡。より優れたアメリカの実現という夢は、今日、このラ・レアリダーという夢を見るのに最適の場所に宿っている。
われわれを召集した誇大妄想の考案者たち、われわれより先にわれわれの熱望をあえて夢見ようとした狂人とは、マヌエリータ・サエンス、シモン・ボリバル、リカルド・フローレス・マゴンとエンリケ・フローレス・マゴン、エミリアーノ・サパタ、そしてエルネスト・チェ・ゲバラである。
一八〇年、八十五年、八十年、三十年後、われわれは彼らと同じだが、同じではない。 われわれは終点であり、連続であり、出発点である。
われわれはガラス製の鏡でできたガラス製の鏡である。
われわれは反乱者である。
われわれは、歴史を繰り返してはならないという歴史を繰り返そうとする間抜けな歴史であり、道を前進できるように後を見つめる視線である。
われわれは、新自由主義と対決する最大の挑戦者、もっとも美しい不条理、もっとも無礼な誇大妄想、もっとも人間的な狂気である。
われわれは、ラ・レアリダーで実践すべきこと、すなわち夢を見ている人間である。
しかし、今、私は、ラ・レアリダーの地で見るいちばん大事な夢は、何が終わり、何が続き、とりわけ何が始まるかを知ることであると考える。
ボリバルとマヌエリータ・サエンスの不眠不休の活動から一八〇年、フローレス・マゴン兄弟の予言から八十五年、エミリアーノ・サパタの夢から八十年、すべての誠実な真実のアメリカ人を眠気から覚ますというチェ・ゲバラの夢から三十年が過ぎた本日、一九九六年四月四日、アメリカのラ・レアリダーの地において、私はＥＺＬＮを代表し、人間性を追求し、新自由主義に反対する大陸間集会にむけたアメリカ準備集会の開会を公式に宣言する。南東部時間では・・・時である。
アメリカの仲間たちよ。
世界の大権力といえども夢まで破壊する武器をまだ発見していない。連中が武器を発見しないかぎり、われわれは夢を見つづける。つまり、われわれは勝利しつづけるだろう。 アメリカの仲間たちよ、ようこそ。ここラ・レアリダーの地で、われわれは夢を終え、継続し、そして始めるだろう。われわれの夢とは・・・
すべてのアメリカのための！民主主義を！自由を！正義を！
メヒコ南東部の山中より
反乱副司令官マルコス、
アメリカのラ・レアリダーにて、
一九九六年四月
出典：La Jornada, 1996年４月６日
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