ディグナ・オチョア殺害に関するサパティスタのメッセージ

メヒコ、2001年10月

　〈解説〉

　2001年10月19日午後５時頃、メヒコ市の事務所で人権弁護士ディグナ・オチョア・イ・プラシド（1964年ベラクルス州生まれ）さんが、頭と足を打たれ殺害された。その脇には彼女の属するミゲル・アグスティン・プロ人権擁護センターの他のメンバーへの暗殺予告が残されていた。事件直後、国内の非政府組織や人権擁護運動組織、アムネスティ・インターナショナル、グリーンピース、米国の人権監視団などがこの事件の激しく非難する声明を発表した。だが、フォックス大統領は、日曜日には妻が共同主催者となっていたエルトン・ジョンのコンサートに出掛け、月曜日に米国国務省が事件を非難するコメントを発表するまで、何も意見表明をしなかった。そして、彼女の殺害は単なる一般犯罪で捜査は連邦地区政府（メヒコ市）の管轄であるとして、事件解明の責任を逃れようとしている。　ディグナ・オチョアたちに対する死の脅迫が始まったのは、彼女らが1995年２月に逮捕されてサパティスタ嫌疑者の弁護を引き受けた1995年の秋からである。1996年８月には彼女ともう一人の女性弁護士を名指しした暗殺予告が届く。1999年８月に自宅で襲撃され４時間も脅迫をされ、10月下旬には、目隠しをされた自宅に２日間拘束され、EZLN、革命的人民軍（EPR）や反乱人民革命軍（ERPI)などとの関係を尋問された。1999年11月17日に米州人権裁判所はメヒコ政府に彼女の身辺保護をするように勧告した。しかし、2000年１月にも死の脅迫状が届くなどしたため、８月に彼女は身の安全のため米国に一時避難する。2000年12月、フォック新政権が発足し、2001年３月に彼女は帰国する。５月、連邦政府は彼女の身辺保護の必要性がないことを米州人権裁判所に提訴し、８月下旬に身辺保護措置の解除が認められる。その２ヵ月後、彼女は殺害されたのである。
　彼女がおもに弁護を担当してきたのは、ゲリラ関係者という嫌疑で不当に逮捕され、拷問された人たちである。1995年２月にハリスコ州カカロマカンで逮捕・拷問されたサパティスタの嫌疑者、1998年２月にケレタロ州での抗議行動で逮捕されたサパティスタ組織独立戦線(FIOZ)のメンバー、1998年６月のゲレロ州エル・チャルコでの軍による11名虐殺事件に関連して逮捕されたERPIの関係者２名、1999年５月、ゲリラ関係者、麻薬取引というデッチあげで逮捕されたゲレロ州の森林保護運動の農民組織指導者ロドルフォ・モンティエールとテオドロ・カブレラ、そして帰国直後の2001年８月に起きたメヒコ市の銀行バナメックスの襲撃犯という人民革命武装軍(FARP)の関係者として逮捕されたUNAMの学生４名などの弁護を引き受けてきた。また、1994年１月チアパス州アンヘル・アルビノ・コルソで３名のツェルタル女性をレイプした兵士らの裁判、1998年12月に異議申し立てのデモを実行し拘束された陸軍の民衆意識化愛国的コマンドのメンバーの裁判など、軍の人権抑圧に関する裁判にも携わってきた。これらの活動に対して、ロケ・ダルトン賞、アムネスティ・インターナショナル賞、ニューヨーク弁護士会人権委員会賞などを受けている。

　〈メッセージ本文〉

　ディグナ・オチョア・イ・プラシドの親族へ
　ミゲル・アグスティン・プロ人権擁護センターのメンバーへ

　仲間の皆さん

　EZLNの老人、子供、男と女を代表して、私が皆さんに手紙を書きます。
　私たちは、ディグナ・オチョア・イ・プラシドさん殺害を先ほど聞いたところです。それは、ずいぶん昔から予告されていたにもかわらず、無責任にも見過ごされた暗殺でした。彼女の生命を汚した犯罪は、すべての誠実な人々を憤りで震撼させるに有り余るほど衝撃的なものでした。社会運動家が抹殺されるたびに、権力者どもは祝祭を開催し、華麗な晴れ着をまとい、いくばくかの金を落とし、施しによって無関心を買い取ろうとする。上の世界では、流行を宣告する人物が替わるだけで、何も変化もない。下の世界では、不正と悲惨が至る所で繰り返されている。下の世界では、苦悩と憤怒が甦っている。だが、もはや無力感が支配することはない。
　ディグナさんに対する犯罪行為が、人権擁護を自らの進むべき道であり目標としてきたすべての男女の歩みに影を落とすものとなっているのは確かである。
　しかし、あらゆる場所で、私たちは集団的な光を作り上げるだろう。その光によってこの暗い影を取り除き、時計の針が、忘却を誤魔化すための衣装である免責、無神経さや無関心が支配した過去に戻らないようにするだろう。
　私たちには、痛みを分かち合い、苦しみを和らげるのに同時に役立つ言葉を見つけることができません。内気な抱擁のごとき私たちの沈黙が歩むかぎり、彼女の歩んだ方向性ではなく、彼女の視線が、あなたたちや私たちを夜を撤して見守ってくれるでしょう。なぜなら、沈黙しながら、彼女が一緒に歩んでいることを皆さんは知っているからです。
　では、お元気で。天職と運命を自らの名前に掲げている皆さんにご多幸を

　CCRI-CG･EZLNを代表して

　メヒコ南東部の山中より
　反乱副司令官マルコス　　　　　　　　　　　　　　　　　　

　メヒコ、2001年10月

　　　出典　La Jornada,2001年10月26日